キャニオン・エアロード スピードを夢見るライダーに捧げる進化した「世界最速」バイク

目次

エアロードのプレスキャンプ

photo:@simongehr

マーケットの中で最速を謳うロードバイクは少なくないが、キャニオンのエアロードはそれが大言壮語ではない数少ない一台だろう。最速の定義は数あれど、ロードレース世界チャンピオンのタイトル獲得バイクであるということは世界最速と称するにふさわしい。

それはマチュー・ファンデルプールの活躍によるものはご存知のとおりだが、彼の歴史的なパフォーマンス、すなわち3度のロンド・ファン・フランデレン、2度のパリ〜ルーベ、ミラノ〜サンレモといったモニュメントやツールにおけるステージ優勝とマイヨジョーヌ獲得のすべてがエアロードによって実現したものだ。

それに加えて2023年ツールでのヤスペル・フィリプセンのステージ4勝&マイヨヴェール獲得(2024年はステージ1勝)、2022年ツール・ド・フランス・ファムのアネミエク・ファンフルーテンによる総合優勝など、ツールだけに絞ってもその活躍には枚挙に暇がない。

国内でも強豪ヒルクライマーがこぞって使用するなど、オールラウンドに走れるエアロロードの代名詞(名前が少しややこしいが)として認知されている。筆者も昨夏エアロードCF SLXを一月ほど乗り込んだが、取り回しのしやすい、それでいてエアロの恩恵を存分に感じられる一台として好印象を抱いた。

世界の頂点に君臨するこのエアロードが、モデルチェンジを果たした。スペイン・カルペで開催されたプレスキャンプに出席し、その新たなフィーチャーと開発者インタビューを行ってきた。そしてたっぷり乗り込んだライドを終えてのバイクのインプレッションをお届けする。

エアロード

プロチーム合宿の定番の地でテスト

「おい見たか? 今のエリ・イゼルビットだぞ」

峠道をハイテンポで集団にくらいついて上っていたため、よく見えなかったが対向車線をものすごいスピードで下っていったベルギーチャンピオンジャージのライダーは、シクロクロスのトップ選手イゼルビットだった。

スペインのカルペは、冬季にプロチームがこぞって合宿を行う地として知られているが、6月のこの時期にもライド環境を求めてプロ選手たちが走る、そんな土地柄だった。そしてこの地で新型エアロードのプレスキャンプを行うのだから、キャニオンがこのバイクで伝えたいメッセージは明白だ。「とにかく乗り込んで、その性能を体感せよ」

そして20名ほど世界各国から集められた、足に自信のありそうなテック系ジャーナリストたちによる快速ライドが始まった。

エアロードのプレスキャンプ

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革命よりも進化を

ライドに先立って、新型エアロードのプレゼンテーションが行われた。その焦点は、すでにプロトンで最速のバイクをどう新型としてアップデートするかにある。

リードエンジニアのルーカス・ビーア氏が口にした「革命よりも進化を」というモットー。テストと実用に磨き上げられたデザインに洗練を加えることが今回の新型においての主眼だという。特に今回はプロチームとの緊密な連携からもたらされたフィードバックを反映したという。

ルーカス・ビーア氏

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今回発表された第4世代(新型)と第3世代のデザイン面での主な違いは次の通り。
①テーパー形状を採用しやや大ぶりになったトップチューブ
②フロントフォークをより薄く
③長く薄くなったダウンチューブ
④シートポスト、シートチューブ上方、シートステーのスリム化
⑤短くなったチェーンステー

このうちバイクの前半分に当たる①②③は第3世代から空力の向上に寄与し、1〜2Wをセーブするという。④⑤は主にバイクの快適性や反応性の向上のための変更点となる。

ヘッドチューブ フォーク シートポスト シートステー

それにしても1〜2Wである! そして変更点として挙げたこれらの変化も、新旧2台を突き合わせて見ないとなかなか判別が少ないくらいに小さな変更にとどまっている。このことは、第3世代のエアロードがほぼ完成域に達していることを示している。このことは開発陣も自覚しているようで、ワットセービングはもはやメイントピックスではなかった。

また、バイクの空力向上により、基本に据えるホイールのリムハイトは50mmを想定。これまで60mm超のホイールを前提としていたが、より取り回しのしやすいバイクへと仕上げられているという。

タイヤのクリアランス ヘッドチューブ BB

最小限の作業でフレア角を変更できるザ・ペースバー

今回の新型発表で力点が置かれたのは、プロチーム・選手からのフィードバックだ。その最たるものが新しいコックピット「ザ・ペースバー」(品番名CP0048-01)。新型エアロード専用設計としてデザインされ、最大の特徴は通常のクラシックドロップに加え、オプションでエアロドロップが追加できること。

ザ・ペースバー ザ・ペースバー

これは昨今のプロ選手たちがこぞってセッティングするレバー内向きのポジションを可能にする幅狭・フレア形状のハンドルだ。ドロップ部分もかなりシャローで、ブラケットポジションでもかなりコンパクトなエアロポジションが取れる。

フレアなしのクラシックドロップからエアロドロップへの変更はバーテープをカットし、ドロップ部を差し替えるだけ。手際の良いメカニックなら15分ほどで完了する作業だ。もちろん、ワイヤーやケーブル類をカットする必要はない。これはプロチームの現場の作業性や、ライダーのニーズに答えた結果だという。

ザ・ペースバー

実際にこのプレスキャンプが開催されていた期間に行われていたクリテリウム・デュ・ドーフィネでは、モビスターのイバン・ガルシアが第1ステージをこのエアロドロップで出走した。逃げを狙う日にこのセットアップをする選手が、今後も増えていくだろう。なお、エアロドロップにするとリーチが1cm伸びるという。

現在開催中のツール・ド・フランスでもアルペシン・ドゥクーニンクのシルヴァン・ディリエが唯一エアロドロップで走っていた。プロトンの先頭を牽引する時間の長いルーラーには、その恩恵は計り知れない。

さらにこのCP0048-01には新型グレイルで採用されたGEAR GROOVEを搭載し、サイクルコンピューターやエアロバー、スマートフォンなどが効率よくマウントできる仕組みになっている。このあたりは一般ユーザーの使用を想定したキャニオンの姿勢が垣間見える。TTレースやトライアスロン、ロングライドを楽しむライダーにとっては選択肢が増えるはずだ。

ザ・ペースバー

※エアロドロップは別売り3万2900円、新型エアロード専用

その他の変更点 些細だが、着実に

新型に伴うその他の変更も見ていこう。ひとつひとつは些細だが、現場の声を反映したものになっている。

ドライブトレイン側のスルー受けは完全にフレーム(ないしフォーク)にとって閉じられ、空力を向上。

後輪

ヘッドのベアリング受けをチタン製に変更しより耐久性とシール性能を向上。

フォーク末端に地面に置いた時の傷から守るプロテクションを追加。

スルーアクスルを含む、バイクに関わるすべてのネジをトルクスのT25に変更。ネジはドイツの歴史ある企業が製作し精度にこだわり。

スルーアクスルに取り付けられるレバーがT25レンチになり、ライド時にも他の箇所の増し締めや調整に使用できる。

スルーアクスルレバー

サドルのクランプ方式を改善。100mmの調整幅あり。

取外し可能なフロンドディレーラーハンガー。

フロントディレーラー

販売ラインナップ

トップモデルとなるエアロードCFR Di2はデュラ―エースDi2組でホイールにDTスイスARC 1100ダイカット db 50mmを採用し、7.07kgに仕上げられている。価格は142万9000円。スラムレッドで組まれるエアロードCFR AXSはホイールにジップ・454NSWを採用。7.15kg。価格は149万9000円。

CFレンジはスラムフォースで組まれるエアロードCF SLX 8 AXSが99万9000円。重量は7.86kg。アルテグラDi2で組まれるエアロードCF SLX 8 Di2は92万9000円で7.45kg。105Di2仕様のエアロードCF SLX 7 DI2は7.91kg、68万9000円。スラムライバルAXS組のエアロードCF SLX 7 AXSが8.06kgで59万9000円となっている。重量はすべてMサイズ。

エアロード

photo:@simongehr

インプレッション

プレスキャンプでは2日間にわたってたっぷりとライドの時間がとられた。試乗車はエアロードCFR Di2。初日は約60kmで800mUPのコース。ハンドルバーをクラシックドロップでライドした。

20人ほどの小集団は時速40kmでしばらく巡航していくが、この速度域では集団内にいるとほとんど足を使わない。昨今のエアロバイクに顕著な、集団の中にいて感じられるエアロ感が強い。バイクが軽量なこともあり、4%くらいの上りまでは集団にいる限り流れるように上れる感覚がある。

エアロードのプレスキャンプ

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スプリントのかかりはいい。特に先代モデルよりも反応性が増しているように感じられた。短くなったシートステーが効いているのかもしれない。ただし筆者は軽量級でパワーに乏しいので、スプリンタータイプのライダーが10-20秒もがいた時にどう変わっているかは未知数。

個人的には上りの軽快さが好印象。短い上りでトルクをかけて走る際のフィーリングが良かった。このバイクを生かすためにもう少しパワーをつけたくなる。

エアロードのプレスキャンプ

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ロケーションの良さもあり、よい手応えを得た初日を終えて2日目。今度はエアロドロップに換装してのライドだ。ルートは100kmで1800mUPと、前日よりも上りが多め。

エアロードのプレスキャンプ

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エアロバーは37cm幅に設定。1cmリーチが遠くなることもあって、乗ったときに違和感を覚える。しかし平坦路で巡航に入るとその恩恵は大きい。「適切なポジションが出せれば最大14W削減できる」という触れ込みだが、確かに最適化された乗り方ができれば大幅に空力は向上しそうだ。

エアロードのプレスキャンプ

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しかしそのためには、ライダーの側でもちゃんとポジションが作れる筋力やペダリングが必要になる。正直なところ、普段エアロポジションの設定をしていない筆者には恩恵よりも難儀が勝った。上半身が先にネを上げてしまう始末だった。だが乗りこなせれば強い武器になることは感じられた。

レースを走る人や、ハイテンポでのグループライドをメインにする人、あるいは富士ヒルを走るようなクライマーには恩恵は計り知れないだろう。ハンドルが狭い分コントロールがピーキーになるが、これが現在のプロトンのトレンドであることは実感した。

上りは各人のペースで走るが、決して流すようなスピードではなく、常に踏みながら最初の峠を通過。5kmほどのこの登坂は、あのヴィンゲゴーがKOMを持っている峠で、確かにきつすぎない斜面は選手の練習にも向いていそうだ。

エアロードのプレスキャンプ

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それにしても、当然だがエアロドロップは下りが速い。峠の下りだから距離も長いのだが、多くのライダーがエアロドロップを装着したこともあって前日よりも下りのペースが速い。慣れないハンドルにやや気を遣ったが、改めて50mmハイトのホイールを標準化したことによるバイクの取り回しの良さも感じる。

フロント25C、リヤ28Cのチューブレスというタイヤセッティングで、路面の振動などは十分にいなしてくれる。100km程度のライドであれば不快感はない。

エアロードのプレスキャンプ

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2日間を通じて乗ってみて、エアロードが持っている乗りやすさはスポイルされないどころか、より良くなっていると感じられた。個人的には前後28Cあるいは今年のツールのトレンドだった30Cを履いてロングライドにも使ってみたい。乗り心地、スピード、スタイリング。どのバイクにも言われることだろうが、エアロードほどこの言葉がぴったりくるバイクはないだろう。「これ一台でいい」。もうエアロロードバイクという呼称も、時代遅れなのかもしれない。それをエアロードという名前のバイクがやってのけるのだとしたら、どこか痛快でもある。

ツールを走る選手のインプレッション

ツール・ド・フランスの現場で、アルペシン・ドゥクーニンクの選手から新しいエアロードについての話を聞けたので紹介しよう。

アクセル・ローランス「かなり足を温存できるバイク。欲しい速度まで加速していくのにほとんど力を使わない。新型でバイクの前方の剛性が上がって、ダンシング時の安定感が増した」

ツール・ド・フランス2024第2ステージで逃げに乗ったアクセル・ローランス

ツール・ド・フランス第2ステージで早速逃げに乗ったアクセル・ローランス

ロッベ・ヒス「昨年からこのバイクに乗り換えたんだけど、フィアットからフェラーリに乗り換えたと感じたよ! 新型ではバイクのフロントの剛性が上がったと感じる。とにかく下りでの安定感がいい」

開発者インタビュー

新型エアロード開発を主導したリードエンジニアのルーカス・ビーア氏にインタビューを行った。

ルーカス・ビーア氏

―すでに完成されたバイクという印象のあるエアロードを刷新するにあたり、どんなことを重要視したのでしょうか。

ルーカス「すでにレースで証明されているもの、すでに勝利を収めているものをどう変えるのか? 興味深い質問です。私のアプローチは、『変えるための変更はしない』です。変えること自体を目的にしてはいけません。すでに良いものをより良くするというのは大きな挑戦です。ここでいう『より良い』とはスマートなソリューションを提供するということです。今回で言えば新しいコックピットのエコシステムがそれに当たります。様々なライダーやレースコンディションに対応できるソリューションです。最終的にそれはカスタマーとなる一般ライダーにもメリットがあるはずです。他にもバイクに使われるネジはすべてドイツ製のT25に統一しました。メカニックにとってこれは大変有用です。4mmか5mmか6mmかで工具に悩む時間がなくなるのですから。そんなスマートな改善策を、バイクのあちこちに反映したのが今回のエアロードですので、革命よりも“進化”だと思っていただければ。そして今回このバイクで成し遂げたことにはとても達成感を覚えています。」

―ネジへのこだわりは昨日のプレゼンテーションでも熱く語られていました。

「私のオタク的な気質が出てしまいましたね(笑)。ライダーとしてバイクに乗る時、誰もが調整やメンテナンスをすると思います。ホイールを装着したり、シートポストの高さを調整したり……。ネジは単純な部品だと思われるかもしれませんが、実はとても細かいところまでこだわって調整のできるパーツでもあります。摩擦係数が安定していてかつ耐久性に優れたネジを作るためには、驚くほど高度なエンジニアリングが必要なのです。そこで今回、180年の歴史を誇るドイツのネジ会社と提携しました。ドイツを走っているほとんどの車に彼らの製品が使われている、そんなネジのエキスパートです。彼らのネジは強靭で、耐腐食性に優れています。小さなことですが、こうした小さなものが大きな違いを生むのです。私はこうしたことに情熱を注いでいます。プロのメカニックがバイクとの接点として最初にこのネジに触れるわけですから、完璧なネジでないといけないのです。」

―今回の新型エアロードは、こうした「小さな変化の集合」という印象を抱きました。

「はい、見た目上はバイクに大きな変化はありません。コックピット以外に大きな変更はないと感じられるかもしれません。しかし新旧2台のバイクを並べてみると、トップチューブが大きくなっていたり、シートチューブやシートポストの奥行きが短くなっていることがわかります。軽量化が進み、エアロダイナミクスが向上している中で、ドロップアウトを覆い込むという小さな変更を加えてより良い製品になっているのです」

ルーカス・ビーア氏

―これ以上変更の余地はないとも思われますが、UCIのレギュレーションによってまたさらなる変化は予想されます。

「このバイクの将来を考えるうえで、避けては通れない話題だと思います。バイクは当然のことながら、UCIの規則に従わないといけません。規則に何か変更が加えられたときのことも、すでに考えています。また、次世代のエアロードについてもアイデアがあります。けれどもこれだけの評価を得ているバイクの新しい次世代モデルを世に送り出すことは大きな挑戦になります。もちろん、こうした挑戦が我々を成長させもするのですが」

―最近のUCIレギュレーションの変更は今回の新型エアロードに反映されていますか。

「ほとんど反映していません。例えばもっとヘッドチューブを細くすることはできましたが、あえてその方法はとりませんでした。このバイクよりも空力的に優れたバイクは存在しますが、それがワールドツアーを走っていないことには理由があるのです。私たちが誇りに思うのは空力的に優れたバイクでありながら7kgの、ワールドツアーで戦えるバイクを作れることです。これこそがレースバイクであり、レースの現場の選択です。UCIは極端なフレームづくりを認可しましたが、我々はその道をあえて取らないことにしたのです。」

エアロード

photo:@simongehr

―プロのフィードバックを反映した今回のモデルですが、いちエンジニアそしていちサイクリストとして、どんなライダーに乗って欲しいでしょうか。

「今回50mmまでリムハイトを下げ、横風にも強くなりますし、なんといっても扱いやすくなりました。空力に優れたバイクであることのメリットとして、ライド時のエネルギーを節約できます。これはより長く、より遠くまで乗れるということを意味します。ヘッドチューブの剛性がペダリングのパワーを受け止めて推進力に可能な限り効率よく変換されます。しかしこれらのことは、前モデルからの遺産です。つまり、すでに体感してもらっていたフィーチャーです。今回の新型ではそこに微調整を加えただけなのです。ただしその微調整がバイクを洗練させました。このフレームは外側から見ても内側から見ても同じくらい滑らかな仕上げが施されています。製造工程が高いレベルにあり、ネジ一本とっても質の高いエンジニアリングの賜物です。多くの知見、エアロダイナミクスの専門知識が風洞実験を経て形になったのがこのバイクです。優れたエンジニアリングを体感したい人、運動で自分を向上したい人に適した一台です。十分な快適性、速さ、エアロダイナミクスを備え、プロ選手が認めているということは何よりもの価値です。エンジニアリングの結晶として、すべての人に勧められるバイクを生み出せたことを誇りに思います」

エアロードのプレスキャンプ

photo:@z_w_photography

 

【東京・渋谷】キャニオン新型ロードバイク – ジャパンプレミア 7/26開催

8月から試乗会の予約もスタートする予定。