安井行生のロードバイク徹底評論 第3回 RIDLEY FENIX vol.4
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フレーム価格10万円台ながら、ロット・ベリソルのメンバーを乗せて過酷なパリ~ルーベを走るフェニックス。プロトンの中で最も安価なフレームとして有名なリドレーのミドルグレードモデルである。この不死鳥は40~50万円クラスを蹴散らすハイエンドキラーなのか、それとも値段相応の凡車なのか。歴代のリドレーミドルグレードを試乗してきた安井がシゴき倒す。
「安くて上質」なんて存在しない
ツールを走っているフレームのなかでおそらく最も安価である、という事実には確かに注目すべきだが、自転車ファンは「プロが使っている=高性能」という等式を簡単に信じるほど純真無垢ではないだろう。選手にとってメーカーはスポンサー様。どうかと聞かれれば「最高です」と言うに決まっているからだ。当然ながら、このフェニックスに羽のような軽快感も濃厚なトラクションも極上の快適性もない。ハイエンドフレームには、ハイエンドにしかない世界がある。そうじゃなければ、一体誰が自転車のフレームに50万も60万も出すというのか。
よく「これならハイエンドはいらない」などと書かれた文章に出くわすが、ミドルグレードはあくまでもミドル。20万円以下のフレームに過度な期待をしてはいけない。多少の良し悪しはあれど、「安くて上質なもの」などこの世に存在しないのだ。ただ、フェニックスの場合、ハイエンドとの差はないとは言えないが、かなり小さいと表現できるレベルにある。ロードフレームとして、性能面の欠点はほとんどない。筆者は過去、何台ものリドレーミドルグレードの試乗を行ってきたが、そのたびに「リドレーはミドルグレードが美味しい」と言ってきた。今回もその印象は変わらない。
とはいえ性能はしっかり価格以上
フェニックスの走りのベースとなっているのは、岩のような安定感、安心感、重厚感。ダモクレス譲りの力強さと表現してもいいかもしれない。さすがにあの異常なまでのパワフルさは多少薄まってはいるが、パワー系や体重のあるライダーにこそ向く剛性感を武器に、フェニックスは、どんなシチュエーションでもトルクフルに加速し、どっしりと腰を据えて走る。
ただ、振動の吸収力・減衰力は高いとは言えず、大きな凹凸を越えると大き目の振動が襲う。中弾性カーボンで剛性を確保するためにチューブがやや厚めになっているためだろう。しかしそれが大きな欠点と感じられないのは、ギャップを弾き飛ばしながら突進してくれるスタビリティがあるからだ。
盤石のスタビリティと引き換えに失う性能もある。極上のしなやかさや一体感である。よって、バイクと溶け合う快感を愉しみたいという向きには適さないだろう。このフェニックスの最大の美点は、肉厚のカーボンフレームらしい剛性感、安心感、安定感なのだ。ガンガン踏みまくるタイプのライダーに合うフレームである。ヘッド~フォークもしっかりしており、下りやタイトターンでも安心感がある。フレームもフォークも基本性能が高く、ある程度はバイク任せにしていられる。頼りがいのあるフレームである。
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