マウンテンバイクでスタンディング〜プロが教える練習方法【MTBはじめよう! Vol.22】
目次
MTB(マウンテンバイク)のトレイルライド&グラビティライド(下り系の走り方)の基本が学べるシリーズの22回目。今回は定番技「スタンディング」の練習方法について紹介しよう。
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どこでも練習できてライドにも役立つ基本技
スタンディングとは、まぁこの記事を読む人はほとんどご存知だろうが、自転車のペダルの上でバランスをとり、静止する技術だ。いろいろなやり方があるが、今回は一番オーソドックスな方法を紹介したい。
今回はプロMTBライダーでインストラクターの板垣奏男(いたがき かなお)さんに教えてもらう。そもそもスタンディングって、できると何かの役に立つのだろうか?
「はい、役に立ちます。2輪のものを立たせるというのは大切な基礎能力で、自転車の上でバランスを取る感覚を養うのに有効です。特に役に立つのは下り坂で発進するシーンです。ペダルをキャッチするのにあたふたしてふらふら〜っとスタートするよりも、一度両足をペダルに乗せてバランスを取ったうえでスタートできる方が安全ですし、心にも余裕が生まれます。
また、大げさに言って畳一畳分の広さがあればどこでも練習できるので、気軽にMTBで遊ぶという意味でも面白い行為と言えます。あと、これができると自慢できるというか、かっこつけられます(笑)。
とにかく、手軽にできて非常に良い練習にもなるので、ぜひチャレンジしてほしいと思います」と板垣さん。
そうか、なるほど。では、詳しいことを教えてもらおう!
重要なのは“少し後ろに下がること”。練習場所にも気を遣おう
「まず本編に入る前に、練習する場所に気を遣うことが大事なので、その説明をします。
基本的には平地でいいのですが、できれば緩い上り坂で練習すると習得が速くなります。というのも、スタンディングは立って止まっているように見えるのですが、実際は少しだけ後ろに下がる→少し前に進むという動作を細かく繰り返しているんです。これによってペダルをこいでいるのと同じ状態を作り出しているわけです。
特にこの“後ろに下がる”のが重要で、緩い上り坂だと後ろに下がる動作を意識しやすくなるのです。ただ、坂が急すぎると逆に難しくなるので、繰り返しますがキモは“緩い上り坂”です。そういう場所を探してみてください」。
【STEP1】ラチェットをかけて踏み出す感覚を身につける
「スタンディングでよくありがちな失敗例は、ラチェットがかかっていない状態でやろうとしてバランスを崩すことです。まずはこうならないように感覚を磨く練習をします。
ラチェットというのは後輪の内部の仕組みです。ペダルを踏んでクランクを前に回すとチェーンが引っ張られ、そのチェーンがスプロケット(後ろ側のギヤ)を回し、それによってハブ内部のラチェット構造に引っかかることで後輪が回ります。ペダルを踏むとカン!と引っかかる感覚がありますよね。それがラチェットがかかっている状態です。
ラチェットがかかっていないと、ラチェットがかかるまでペダルを前に踏んでもスルっと抜けてしまう瞬間があります。最初からラチェットがかかっていない状態でスタンディングをやろうとすると、スルっとペダルが動いてバランスを崩してしまうというわけです。
そこで、上の写真の流れの練習をします。人によって常に前側に置く足と後ろ側に置く足は違いますが(これを“スタンス”と言う)、前足側に来るクランクを地面に対して水平にして、かつカン!とラチェットがかかった状態にします。そのうえで前ブレーキだけかけて、前足側だけペダルをぐっと踏んで立ち上がります。すると、一瞬止まります。
バランスを崩しそうになる前に、スタンスの後ろ足側を地面に着きます。これを何回か繰り返して、ラチェットがしっかりとかかった状態で前側の足で踏み出す感覚をまずは身につけてください」。
【STEP2】ブレーキをかけて一瞬止まる
「次に、実際に自転車に乗った状態で、ラチェットがしっかりとかかった状態で前足でペダルを踏み込みつつ、前ブレーキをかけて一瞬止まることができるように練習します」。
①まずはサドルに座った状態で
「いきなり立った状態だと難しいので、まずはサドルに座った状態で練習します。
サドルに座ったままゆっくりと進み、前ブレーキをかけつつスタンスの前足側を踏み込み、一瞬止まった状態を作ります。このとき、ハンドルはスタンスの前足側へ斜め45度くらいに切るとバランスをとりやすいです。
一瞬止まり、バランスを崩しそうになったらちょっとブレーキを放し、そしてまた前ブレーキをかけつつ前足側で踏み込み、一瞬止まります。これを何回も繰り返ししてちょこちょこと止まりながら進めるようにする練習をしてください」。
②慣れたらペダルの上に立った状態で
「サドルに座った状態でできるようになってきたら、次はペダルの上に立った状態で、①と同じことができるようにします。ポイントは、しっかりとチェーンがラチェットにかかっている状態をつかむことです」。
【STEP3】壁に当ててから下がれるようにする
「スタンスの前足側でラチェットがかかった状態で踏み込み、前ブレーキを使って一瞬止まる動作ができるようになったら、次はスタンディングのキモである後ろに下がる動作ができるように訓練します。
身近にある壁になるものを見つけてください。次に、少し離れた位置からペダルの上に立って進入しつつ、前ブレーキもかけながらその壁に前輪のタイヤを押し当て、スタンスの前足側のペダルを踏み込みます。すると、一瞬止まった状態になります。
その後、重心を後ろにずらします。腰を後ろに引くような感覚です。腰を後ろに引き切ってから前ブレーキを離すと、自転車が後ろに移動します。そのあと、一旦足をついてしまって構いません。ここまでの動作が確実にできるようになるまで練習します。
【STEP4】壁を使わずに後ろに下がって前に戻れるようにする
「ここまでできるようになったら、壁を使わないで前ブレーキだけを使い、後ろに下がる→また前に踏み込んで一瞬止まる→後ろに下がる、という動作ができるようにします。
まずニュートラルポジションで前に進み、ハンドルをスタンスの前足側へ斜め45°に切りつつ前ブレーキをかけ、スタンスの前足側を踏み込んで一瞬止まった状態を作ります。そのあと、重心を後ろにずらしてから前ブレーキを離すと、自転車が後ろへ下がります。その後、一度足をついてしまって構いません。
慣れてきたら、後ろに下がってからスタンスの前足側でペダルを踏み込み、また前に進んで前ブレーキを使って一瞬止まります。あとはひたすら練習あるのみ。この一連の動作を繰り返せるようになると、前に進む→後ろに下がる→前に進むという動きを繰り返すことでスタンディングが完成します。
この時のポイントは、やはりスタンスの前足側でペダルを踏み込んだときにしっかりとラチェットがかかった状態を作ることです。ラチェットがかかっていないとペダルがスコッと動いてしまい、うまくいきません。
なお、スタンディングをするとき、目線はどこか1点を見つめるというよりは、タイヤとハンドルをぼんやりと見ておくと、バランスを保ちやすいです。
コツコツと練習してみてください」。
みなさんも、安全に練習できるスペースを見つけてやってみよう。