ウィンスペースの正体を知るべく、中国本社に行ってきた
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昨今台頭する中国系ブランド。その筆頭に上げられるのがウィンスペース。その歴史を紐解けば、ブランド名は日本にルーツをもつ自転車ブランドだ。2008年に創業した。新興メーカーということで、正直まだ品質について半信半疑の人もいるのではないだろうか。先に書いてしまうと、ウィンスペースは「いいものを作り、世界のサイクリストに届けたい」という理念を持っている。それは今回、筆者が中国本社で社長蔡正昌氏と話をして、工場を見て回ったなかから感じたところだ。
少し煩わしい入国手続きを無事に済ませて中国、厦門高崎国際空港から入国。福建省厦門は、中国茶の産地であると同時に、中国国内でもスポーツバイク産業関連企業が集まる都市で、スポーツバイク産業の中心地として知られる台湾と海を挟んで向かい合う位置にある。
ウインスペースはその中でも開発力が高く、ホイールまで自社でそろえている。また、フランス籍の女子UCIプロコンチネンタルチーム「ウィンスペース・ウィメンズ・サイクリングチーム」に機材供給を行い、チームはパリ〜ルーベファム(4月に開催された女子版パリ〜ルーベ)や、ラ・ブエルラ・フェメニーナ(5月に開催された女子版ブエルタ・ア・エスパーニャ)に出場している。
多くの製造工場、OEM工場が集積するこの厦門において、頭一つ抜け出した品質、性能、情熱を持っていると自負していると語る。すでに中国国内のロードバイク市場では、
ウィンスペースの開発体制とは
厦門にある本社施設は二つ。一つは営業などの事務を担うオフィス。もう一つは、フレームやホイール、コックピットの開発を行うR&D部署および、ホイールの組み立てラインと倉庫を兼ねたオフィス。今回メインで取材を行ったのは、後者の方だ(写真上)。
外観は大型倉庫。その1フロアがウィンスペースのオフィスだ。フレーム及び、ホイールの強度試験を行うための、試験機がそろう他、新製品を開発するために、試作品をすぐに製作できる体制が整っている。素材となるカーボンを保管する冷凍庫、カーボンシートから必要な形に切り出すカッター、それを金型に入れて製品にする成型機が並ぶ。小規模だがサンプルを作るには十分なほどにそろっている。
ハンドルやフォークといったコックピット周りは、安全性に直結するため、自転車パーツの中でも特に高い技術とノウハウが必要とされる。それを社内で設計製造できるだけのノウハウを持っている。
X線検査機での品質管理
本社敷地内には、フレームが丸ごと入るX線検査機があり、サンプルはもちろん、量産品にも抜き取り検査を行っている。
これらの施設を自社内に持つことにより、一からオリジナルの製品を設計、製造できる。それには高い技術力を持っていることが前提なのは言うまでもない。同社は、中国で30以上の特許を取得し、IT系企業に交じって中国国内でハイテク企業として承認を得ているほどだ。
ホイール、完成車の組み立て
R&Dラインの隣の部屋には、ルンのホイールと、完成車の組み立てラインがある。大規模メーカーと比較すると、その数は多くはないが、専門職のスタッフが1工程ごとに担当している。
ホイールの開発は、サンプルを組み上げた後、強度、耐熱、耐衝撃、塩害、連続回転などの試験を経て製品化される。温度に関しては、船便で運ばれても大丈夫なように、50℃を超えてもスポークのテンションが緩まないかなど品質が変わらないかをチェックしている。
試験を経た製品版のホイールは、同じ工場内の組み立てラインで製造される。不具合が出てもすぐに検証できる体制だ。平均して1日で100ペアが生産されている。
この取材で開発、設計から生産までを一気に見た。ウィンスペースは、試作は社内で行い、量産はOEM工場で行っている。結局のところOEM工場は、カーボン製品を製造する工程や技術を持っていても、「走行性能の良し悪し」に対するノウハウがあるわけではない。そこに関する情熱は、メーカー側の姿勢が問われる。より良いものを作ろうという気持ちがない限り、いくらいい素材を手に入れて、技術がある工場と組んだところで、そこで生産される製品が「走るバイク」になる、ということにはならないのだ。
実際のところ、走りはどうなのか?
ウィンスペース最軽量モデル「SLC3」
ヒルクライムを楽しむ人が気軽に手に入れられる1台ということで開発されたバイク。ラインナップのなかで、個人的には印象が一番よかった。エアロロードとは、また違った「走る」フレーム。踏み込んだ時に絶妙にしなり、戻りを感じられて、それがバイクを走らせる喜びにつながっている。もちろん重量の軽さというのはアドバンテージ なのだが、何よりも「楽しい」という感覚が前面に出てくる。
初めてのロードバイクとして手に入れるならば、エアロロードの方が硬くて、走って、見た目もかっこいいという 所有欲まで満たしてくれる。だが、ちょっとロードバイクのことを知っている人ならSLC 3は非常に魅力的な走行性能を持っているように感じられるのではないだろうか。
改良されたエアロロード「T1550 Gen2」
同社のエアロロードT1550が第2世代へと生まれ変わった。前作に試乗したときに弱点だと感じていたフロントフォークは大幅に改善しており、ハード ブレーキングでも、安定した挙動を見せる。フレームのジオメトリも大きく変更されている。ヘッドチューブが長くなって、選手のようにハンドル高を深く下げないようなライダーにとっても、エアロロードのシルエットを崩さずに楽しめるモデルに生まれ変わった。ひと踏み目から、パワーが”かかる”感覚が鮮明に感じられて、短時間の試乗だと、SLC3よりも印象がいいかもしれない。
走りの主導権はT1550が握っている感じで、もっと速く!と、バイクからのプレッシャー(いい意味で)を楽しめるライダーなら、こちらがおすすめ。
ポリシーはあるか?
「実はどこどこ(メーカー名)と同じ工場で製造しています」というアピールを、中華系の製品で聞くことがあるかもしれない。繰り返しになるが、工場が同じだけでは走行性能や、品質は同じにならない。結局は、設計者がどれだけ熱意や哲学を持ってバイクを設計しているかが、バイクの走行性能を決定的に左右する。
工場はあくまでも言われた通りに製品を製造するだけなのだ。自転車のなんたるか、各パーツのなんたるかを、本当の意味で 分かっている(分かっていなければならない)のはメーカーの設計者であって工場ではない。
今回、ウインスペースを取材して思ったのは、よく走るロードバイクを作りたいという強い熱意が、蔡氏にあるということ。単に大きなスポーツバイクメーカーになりたいのではなく、よく走るロードバイクを作るメーカーとして信頼を得たい。この熱意こそが、良いバイクを作る上では一番大切で、それがある上で良い工場、良い素材を手に入れられることが大切になってくるのだ。
今後の製品に注目しておきたいメーカーである。