フジ・ジャリ 1.5 「砂利」から名付けられたアドベンチャーロード アサノ試乗します!その27
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日本にルーツを持つアメリカンブランド・フジのジャリシリーズは、日本語の「砂利」にちなんで名付けられたアドベンチャーロード。
アルミフレームにメカニカルディスク、フロントシングルのコンポーネントを搭載したセカンドグレードのジャリ1.5は、文字通り砂利道でもガンガン乗れるタフさが魅力の1台だ。
グラベルロード以上の高い運動性能と、拡張性の両立のためゼロベースで開発
2017 年に登場したジャリシリーズは、フジではアドベンチャーロードと位置づけられる。フジによれば、「アドベンチャーロードとは、グラベルロードより高い運動性能と拡張性が求められるカテゴリーで、バイクパッキングなどロングツーリングからアグレッシブな未舗装路の走行もカバーする」という。しかしながら、「今までそれにふさわしい走行性能と実用性を兼ね備えたバイクは存在しなかった」というのがフジの見解だ。
製品化に際しては、ゼロベースで6種類のプロトタイプを試作し、テストを繰り返したという。特に重視したのは、優れた振動吸収性と高速走行時の安定性。フルカーボンフォークを搭載して、細身で緩やかにベンドしたシートステーを採用することで振動吸収性を高め、BBハイトを低くしてホイールベースを長くすることで高速走行安定性も確保。さらに長距離走行に重点を置いたジオメトリーを採用し、長時間の走行も難なくこなせるバイクに仕立てている。
また、ロングライドを想定して、フレームやフォークに最大5つのボトルケージを付けたり、パニアバッグ装着用のラックを装着したりできるようになっているほか、トップチューブにはボルトオンタイプのストレージを装着できるなど、拡張性の高さも魅力。さらにBBはメンテナンス性の高さや修理のしやすさを考慮し、BSA規格を採用している。旅先でのトラブルにも対処しやすいよう考慮されているのだ。
2018年モデルでは3つのグレードを展開し、コンポーネントの違いはあるものの、アルミフレームでフラットマウント式のディスクブレーキや700Cサイズのホイールを標準装備している点は共通だ。このうち、今回試乗するジャリ1.5 は、1×(フロントシングル)のスラム・アペックス1.1 を搭載し、メカニカルディスクブレーキを搭載。悪路での走破性の高さと手ごろな価格を両立した同シリーズのセカンドグレードという位置づけだ。
上位モデルのジャリ1.1はメインコンポーネントがスラム・フォースの1×仕様で油圧式ディスクブレーキとなり、チューブレスレディホイールを装備。エントリーモデルのジャリ1.7は、メインコンポーネントがシマノ・ソラのフロントダブル仕様にメカニカルディスクブレーキを搭載する。
グラベルからロングツーリングまでカバー。屈強さと速さを兼ね備える
ロングライド向けのエンデュランスロード、空力性能を強化したエアロロードなど、ロードバイクは多様化が進んでいる。最近では未舗装路も走れてツーリングにも対応するグラベルロードも登場している。
今回紹介するフジのジャリシリーズも大まかなカテゴリーで言えばグラベルロードにカテゴライズされるが、フジはこのバイクを「アドベンチャーロード」と位置づけている。グラベルにも対応するタフさと優れた快適性、ツーリングに対応できる広い拡張性、ロードバイクとしての優れた高速巡航性能を兼ね備えたバイクとのことだ。
ジャリを見れば、バッグやボトルケージを増設しやすくなっているのが一目瞭然だ。ボトルケージ台座はダウンチューブの裏表で2箇所、シートチューブに1箇所あり、トップチューブにはボトルケージやボルトオンタイプのストレージを装着できる台座もある。さらにフロントフォークのブレードにもボトルケージやバッグを装着するためのラックを装着する台座が設けられている。携行する荷物の量によってサイドバッグやパニアバッグを装着した本格ツーリングまで対応可能なのだ。
これだけならツーリングバイクとしてはよくある話かもしれない。ジャリシリーズの魅力は、出先でのトラブルも含め、さまざまなシチュエーションを想定していることがうかがえる点だ。
例えば、トップチューブの裏側にはシリコン製のパッドが装着されているが、これはグラベルロードで担ぎが必要になった際に、肩に負担がかからないようにするための装備だ。また、BB規格も最もオーソドックスなBSA規格を採用しているが、これも出先でトラブルに見舞われたときに修理やパーツ交換がしやすいように配慮しているからだ。もちろんアルミフレームを採用しているため、輪行時の不安も少ないし、未舗装路で多少飛び石を食らっただけでナーバスになる必要もない。
これだけだとタフでマッチョなグラベルロード・ツーリングバイクという感じだが、実は高速巡航性能にも長けている。
ホイールは700Cにも650Bにも対応し、700Cは最大45mm幅、650Bは47mm幅のタイヤまで装着可能なタイヤクリアランスを備えている。今回試乗したジャリ1.5は、700Cサイズのホイールに、35mm幅のセンターに転がり抵抗の少ないパターンを配したグラベル向けタイヤを標準装備する。さすがに一般的なロードバイクのような軽快な加速を求めるのは厳しいが、ひとたびスピードにさえ乗せてしまえば、MTBよりは明らかに高いスピード域で巡航することが可能だ。650Bホイールに換装すれば、多少高速巡航性能には劣るが、よりグラベルを楽しむ方向にもセッティングできそうだ。
もうひとつ特筆すべきポイントとして、安定性の高さも挙げておきたい。BBハイトが低くて低重心なのと、チェーンステーを長めにすることでホイールベースを伸ばし、直進安定性を高めていることが理由だろう。このバイクのために特別に作られたオーヴァルのアドベンチャーバーも、バイクコントロール性能を高めるのに一役買っている。一般的なドロップハンドルより20mmワイドでドロップ部分が外側に出ている特殊な形状となっており、特に未舗装路でバイクを制御しやすいと感じた。
この安定性の高さは、未舗装路を走る場合のバイクのコントロールのしやすさにつながるのはもちろん、舗装路で巡航するときもバイクが安定しているので、バイクの姿勢を保つのに余計な労力を必要とせず、疲労を軽減する効果があるように思う。特に荷物を満載するようなロングツーリングでは特に恩恵を感じられるのではないだろうか。ロングライド向きといえば、ヘッドチューブが長めでアップライトなポジションで乗れるのもそうだ。
このバイクの魅力は、多用途に対応し、あらゆるシーンを楽しく走れるポテンシャルを秘めていることだ。細かいポイントでは、ホイールは前後とも12mmスルーアクスルだが、リヤのみクイックリリースにも対応しており、タイヤドライブ式の固定ローラーにも特別なアダプターなしで対応できるようになっている。インドアトレーニングから通勤の足、グラベルライド、ロングツーリングまであらゆる使い方に対応するのだ。
今回試乗したジャリ1.5にはスラムの1×(フロントシングル)コンポーネントでグラベルロードやシクロクロスバイクより軽いギアを搭載しており、悪路の走破性を高める方向性のパーツアッセンブルだった。上りでもフロント40T×リヤ42Tの軽いギアで走れるので、速く走ることを求めないのであればこれでも十分だと思う。個人的にはこのバイクは速さより楽しさを求めたほうがいいと思うが、もしオンロードツーリング寄りの高速走行を重視したセッティングを追求するなら、ロードバイク用のコンポーネントに換装すればよい。
ジャリ1.5の完成車としてのパッケージングに不満があるとすれば、ブレーキが油圧式ディスクブレーキではないことだ。オフロードの下りでは、レバーの引きは軽い方がいいからだ。あと、ホイールもせっかくならロードチューブレス対応のものにしたい。MTBではチューブレスがすでに定番となっているが、オフロードではチューブレスの優位性が圧倒的に高いからだ。
……いつの間にか「もし自分が手に入れたらこんな風にカスタムしたい」と考えてしまっていた。こんな風にカスタマイズの可能性がいろいろ考えられるのは楽しい。ジャリを手に入れたら、きっと今より楽しいサイクルライフが待っているような気がしてならない。
「フジ・ジャリ1.5」spec.
スラム・エイペックス完成車価格/18万円(税抜)
フレーム/A6-SLスーパーバテッドアルミニウム
フォーク/カーボン
コンポーネント/スラム・エイペックス
ホイール/オーヴァル・コンセプト327ディスク
タイヤ/クレメント・XプロUSH 700×35C
ハンドル/オーヴァル・コンセプト325
シートポスト/オーヴァル・コンセプト300
サドル/オーヴァル・コンセプト238
カラー/マットシルバー
サイズ/46、49、52、54、56
重量/10.0kg
■浅野真則
実業団エリートクラスで走る自転車ライター。ロードレース、エンデューロ、ヒルクライムなど幅広くレースを楽しみ、最近はTTに精力的に取り組んでいる。海外のグランフォンドにも参加経験がある。ロード系の愛車は、キャノンデール・スーパーシックスエボとキャード10、スコット・アディクトの3台。ハンドル位置が低めのレーシングバイクが好き。