トランソニック2.5 フジのお値打ちエアロロード アサノ試乗します!その25
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日本にルーツをもつアメリカンブランド「フジ」。チームUKYOの選手たちも使うエアロロードバイクがトランソニックシリーズだ。今回は上位モデル譲りのテクノロジーを継承したセカンドグレードの、シマノ・105仕様の完成車「トランソニック2.5」をチェックする。
上位モデルとの主な違いはカーボンのグレードや積層方法のみ
フジのトランソニックシリーズは、同ブランドのエアロロードの最新モデル。空力性能の追求はもちろん、優れたコントロール性能と剛性、さらに整備性の高さやポジション調整の自由度など、全方位的に高次元でバランスの取れたバイクづくりを目指しているのが特徴だ。
このバイクの開発にあたっては、同社のトラックバイク「トラックエリート」、TTバイク「ノーコムストレート」の開発の際に行った風洞実験のデータに加え、機材供給を行うプロチーム・ネットアップエンデューラの選手たちからのフィードバックも生かされている。
グレード展開はハイエンドモデルの1.1と、シマノ105仕様の完成車2.5の2モデルを展開。このうちトランソニック2.5は、フレーム素材にC5ハイモジュラスカーボンを採用。上位モデルと違う素材を使い、レイヤリングを変更することで、フレーム各部の剛性値はそのままに、振動吸収性を高めているという。
また、ジオメトリーも上位モデルと共通で、フレーム各部のデザインも同じであり、空力とコントロール性能を追求する主要なテクノロジーもそのまま継承されている。たとえば、流線型にかたどられたヘッドチューブ、シートステーに取り付けられるリアのダイレクトマウントブレーキを覆うような独特のデザイン、マッシブなBBエリアと左右非対称チェーンステーは上位モデルにも採用されているものだ。
価格はトランソニック1.1がフレームセットで24万円(税抜)、トランソニック2.5はシマノ・105仕様完成車で25万円(税抜)となっており、いずれもコストパフォーマンスに優れている。トランソニック2.5はフレームサイズも46〜56cmまで5サイズ展開しており、サイズ展開の幅広さも魅力だ。
目新しさはないが、ライダーファーストを徹底していて好感
ロードバイクの2019年モデルを象徴するキーワードは、「エアロ」「ディスクブレーキ」となりそうだ。しかし、エアロロードという車種自体はすでにロードバイクの1ジャンルとして定着している。
フジのエアロロードであるトランソニックシリーズも、発売からすでに数年が経過している。今回の試乗車トランソニック2.5を改めて見てみると、ブレーキは専用設計ではなく、ごく一般的なダイレクトマウントタイプのキャリパーブレーキで、ステムやハンドルなども汎用品が使えるようになっている。
リアブレーキにはフロント用のダイレクトマウントキャリパーを使うが、整備性を重視して一般的なロードバイクと同じシートステーに搭載される。至極オーソドックスで目新しいギミックは特にない。
ただし試乗する前からこれらをもって“時代遅れ”と断じるのは早計というものだろう。
試乗してみると、いい意味で“普通”だと感じる。エアロロードにありがちな縦方向の突き上げが少なく、振動吸収性が高いのだ。
試乗車のタイヤが700×25Cとやや太めだった点を差し引いても、多少荒れた路面での振動吸収性の高さはエアロロードというカテゴリーの中では特筆すべきものがある。ちなみに、タイヤは最大700×28Cまで対応するというから、さらに振動吸収性を高めるような方向にもアレンジできそうだ。
巡航スピードからレースでのアタックをイメージして加速すると、エアロロードらしい伸びやかな加速も味わえる。ヘッドチューブまわりの造形やリアホイールとシートチューブのクリアランスを詰めた空力追求のためのデザインが効いているように思う。短い上りなら平地や下りの勢いを利用して力強くクリアできるが、さすがに長い上りの軽快さは軽量レーシングロードに一歩譲る。
エアロロードというと、大きなトルクをかけてペダルを踏み込んだときに横剛性不足に由来する過剰なウイップにリズムを乱されることが多々あるが、トランソニックはそんなこともない。
フレームを見ると分かるが、ダウンチューブやシートチューブは、単体で見るとエアロ形状を強く意識しているものの、ヘッドチューブ付近やBB付近の接合部の面積を広くとるような形状になっており、これがカッチリとした剛性感をもたらしているようだ。
ただし、縦方向の振動吸収性の高さとは裏腹に、横方向の剛性はピュアレーシングバイクのそれで、ロングライドでは踏み負けてしまうと感じる人もいるかもしれない。
ヘッドまわりの剛性も高い。フロントフォークは下が1.5インチのテーパードタイプで、ハードブレーキング時もハイスピードでコーナーを攻めたときも不安を感じさせない。
狙ったとおりに減速でき、狙ったポイントで止まれ、狙ったラインをトレースできる。いい意味で“普通”であるからこそ、まるで自分の手脚であるように操れるのだろう。
自分の手脚のように操れると言えば、ステムやハンドルなどが専用品でなく汎用品を使えるため、ポジション出しの自由度が非常に高いのもメリットだ。どれだけ風洞実験でフレームとその他のパーツを含めたトータルで空力性能の高いバイクを作り上げても、それがライダーにフィットしなければ意味がない。汎用品のハンドルやステムが使えれば、ポジションだけでなく、ハンドルの形状や微妙な角度まで好みを形にできる。
ハンドルは3つしかないバイクとライダーの接点のひとつであり、ハンドルまわりを好みの状態に煮詰めていけるメリットは計り知れないと思う。
トランソニックシリーズは、登場以降各部のアップデートを重ね、熟成を重ねてきたという。目新しさはないかもしれないが、開発者のエゴを押しつけるのではなく、ライダーの使いやすさも重視して真面目に作られた、ポテンシャルの高さを感じさせる1台だ。
価格面も非常に良心的なので、ロードレースやクリテリウムをガンガン走りたいが、バイクに潤沢な費用はかけられないという人には特におすすめしたい。
spec.
「フジ・トランソニック2.5」
シマノ・105完成車価格/25万円(税抜)
フレーム/カーボン
フォーク/カーボン
コンポーネント/シマノ・105
ホイール/オーヴァル・コンセプト327
タイヤ/ヴィットリア・ザフィーロプロ 700×25C
ハンドル/オーヴァル・コンセプト310エルゴ
シートポスト/オリジナル
サドル/オーヴァル・コンセプト238
カラー/マットカーボン×シルバー
サイズ/46、49、52、54、56
重量/8.4kg
■浅野真則
実業団エリートクラスで走る自転車ライター。ロードレース、エンデューロ、ヒルクライムなど幅広くレースを楽しみ、最近はTTに精力的に取り組んでいる。海外のグランフォンドにも参加経験がある。ロード系の愛車は、キャノンデール・スーパーシックスエボとキャード10、スコット・アディクトの3台。ハンドル位置が低めのレーシングバイクが好き。