サスペンションを電子制御する、世界初のエンデュランスロード「ピナレロ・ドグマK10-S DISK」アサノ試乗します!その24
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ピナレロ・ドグマK10シリーズのフラッグシップは、シートステーとシートチューブの接合部にサスペンションを搭載したを搭載したドグマK10-Sディスクだ。
今回は電子制御アクティブサスペンションeDSS2.0搭載モデルに試乗。ピナレロが考える最高峰のエンデュランスロードの魅力に迫る。
電子制御アクティブサスペンション搭載、K10シリーズ最高峰
ドグマK10シリーズには、サスペンションを搭載するK10-Sディスクというモデルがラインナップされている。このモデルには、ロードバイクとして世界初の電子制御アクティブサスペンションeDSS2.0を搭載するモデルと、先代のドグマK8にも採用されたオーソドックスなエラストマーサスペンションeDSS1.0を搭載するモデルがラインナップされる。
注目はやはり電動アクティブサスペンション搭載モデルだ。シートチューブ内にセンターコントロールユニットとバッテリーを内蔵。センターコントロールユニットはサスペンション制御を司るCPUが搭載され、ジャイロスコープと加速度計を活用して路面状況を識別し、路面状況のよい道ではサスペンションをロックし、荒れた道ではサスペンションを作動させるという切り替えを自動的に行う。
ダウンチューブにはE-リンクというDi2のジャンクションを搭載するスペースがあるが、ここにサスペンションを操作するヒューマン・マシン・インターフェース(HMI)が搭載されている。これを使うことで、アクティブサスペンションの電源のON/OFF、手動モードと自動モードの切り替え、アクティブモードの作動状況の細かな設定などが行える。
電子アクティブサスペンションは、ガーミンのサイクルコンピューターに専用アプリをダウンロードすることで、サイクルコンピューターからも動作状況の確認やモードの切り替えが行えるようになっている。
フレームの造形はサスペンションが搭載されている以外はK10の特徴がそのまま採用されている。ボトルケージ周辺の空力性能を高めるコンケーヴ(凹型)デザインを採用し、フレーム素材もF10と同じ東レ製のT1100Gナノアロイカーボンを使っている。一方で、リア三角はK10と同じフレックスステーを採用し、フレーム自体の衝撃吸収性を高めている。タイヤも最大28mm幅に対応する。ジオメトリーもK10と同じだ。
K10-Sは、前述の通り電子制御アクティブサスペンションeDSS2.0搭載モデルと、エラストマーサスペンションのeDSS1.0搭載モデルをラインナップし、いずれもディスクブレーキ仕様で、受注生産によるフレームセット販売のみ。フレームサイズは44から59.5まで10サイズ展開。カラーはカタログモデル3色が用意されるほか、カラーオーダーシステム「マイウェイ」でのカスタムも可能だ。
K10-Sディスクがスポーツeバイクだったら面白い
ロードバイクへの電動デバイス搭載の流れは、じわじわと、確実に進んでいるように思える。最たるものは電動変速で、今や3大コンポーネントブランドはそれぞれ独自の電動変速システムをラインナップしている。ハイエンドモデルの完成車を見渡せば、ほぼ電動変速を搭載している。
電動化の流れはサスペンションにも到達した。ピナレロ・ドグマK10-Sディスクの電子制御アクティブサスペンションeDSS2.0だ。
エンデュランスロードにサスペンションを搭載するのは、スペシャライズド・ルーベのフューチャーショックなどの例もあり、以前ほど珍しいことではないのかもしれない。それでも珍しいことには変わりない。だが、ドグマK10-Sの電子制御アクティブサスペンションは、オートモードにするとシステムが自動的に路面状況を判断し、路面状況のよい舗装路ではロック、荒れた路面ではサスペンションを作動させるという点で新しい。もちろんライダーが自らサスペンションをロックしたり解除したりすることも可能だ。
eDSS2.0がどんな仕事をしてくれるのか、楽しみにしながら試乗を始めた。
サスペンション付きバイクという先入観からすると、乗り味は思いのほか硬い。フレームがピュアレーシングモデルのF10と同じ素材でできているのだから当たり前と言えば当たり前だが、主に足まわりのカッチリ感はかなりのものだ。これはディスクブレーキ化に伴って足まわりを12mmスルーアクスル仕様としたことが影響しているように思う。また、路面状況のよい舗装路だったため、サスペンションがロックされていたことも影響しているかもしれない。
荒れた路面でもアクティブサスペンションはそれほど大げさに介入しないように感じた。設定にもよるのだろうが、細かな凹凸を積極的にいなすという感じではなく、歩道の車両誘導口ぐらいのギャップになるとようやくアクティブサスペンションの恩恵にあずかれるという感じだった。なので、MTBのフルサスバイクにあるような、ペダリングに合わせてサスペンションが作動してしまうボビングは起こらなかった。
アクティブサスペンションは、マニュアルモードではソフトとハードに切り替えることができ、ソフトとハードでは明らかにソフトの方がサスペンションが仕事をしているように感じられた。体重や路面状況を加味してセッティングを煮詰めていけば、今までのエンデュランスバイクにはない次元の快適性を手に入れることもできそうだ。
K10-Sディスクは、アクティブサスペンションやディスクブレーキを搭載することで、同じようなグレードのコンポーネントやホイールで組んでも完成車重量はK10より重量は増えてしまう。これがエンデュランスバイクとしていい方向に働いている部分と、悪い方向に働いている部分があるように思われた。
重量が増えていい方向に働いているのは、抜群の安定感を獲得したことだろう。K10が元々持っている直進安定性の高さはもちろん受け継いでいるのだが、路面が荒れているコースの走破性、コーナーでの安定感、強い横風にも動じないところなどは、エンデュランスロードとして魅力的だと感じた。もちろん、あらゆる状況で軽いレバーの引きで確実にスピードコントロールできる油圧式ディスクブレーキのメリットもある。
重量が増えることのデメリットは、加速時・登坂時に軽快な走りが味わえないことだ。ヒルクライム性能や加速の乗りに関しては、ノーマルのK10の方が断然いい。エンデュランスロードの主戦場は、日本のホビーサイクリストの場合、ロングライドやグランフォンドということになるだろうが、1日に3000mも4000mも上るような山岳グランフォンドだと、このバイクでは正直なところツライのではないか。
僕はロードバイクに大切なものは軽快な走りだと今も信じて疑わない。だから正直に言うとK10-SディスクよりはK10の方が自分の好みだ。K10-Sディスクのサスペンションは、日本の舗装路を走るにはややオーバースペックな気もするのだ。さらに、電子制御アクティブサスペンション搭載モデルは、フレームセットで税込だと100万円オーバー。「同じぐらいの金額でハイエンドクラスの新しい完成車が買えるではないか」なんて考えてしまう僕のようなタイプのサイクリストは、K10-Sディスクのオーナーにふさわしくないのだ。
どういう走り方を志向するかという視点でK10-SディスクとK10のどちらがふさわしいかを選ぶとしたら、その基準は明確だ。平坦メインで快適性を何より重視するならK10-Sディスク、ロードバイクらしい軽快な走りと快適性を最大限両立したいならK10がおすすめだ。
個人的には、K10-Sディスクをベースに電動アシストユニットを搭載したeバイクがあったら面白いと思う。上りでモーターによるアシストが得られるので、重量増を相殺してあまりある力強い走りが楽しめるからだ。
そんな空想が広がるのも、K10-Sディスクが大いなる可能性と魅力を秘めている証拠に違いない。
spec.
「ピナレロ・ドグマK10-S DISK」
フレームセット価格/99万円(eDSSサスペンション仕様・税抜)、 78万円(DSSサスペンション仕様・税抜)
フレーム/カーボン
フォーク/カーボン
コンポーネント/シマノ・デュラエースR9170
ホイール/フルクラム・レーシングクアトロDB
タイヤ/ピレリ・Pゼロヴェロ 700×25C
ハンドル/モスト・タロン
シートポスト/ピナレロ・オリジナル
サドル/モスト・セライタリア
カラー/698ブラックレッド、699ホワイトオレンジ、700BOB
サイズ/44SL、46.5SL、50、51.5、53、54、55、56、57.5、59.5
試乗車重量/7.83kg(53サイズ・ペダルなし)
■浅野真則
実業団エリートクラスで走る自転車ライター。ロードレース、エンデューロ、ヒルクライムなど幅広くレースを楽しみ、海外のグランフォンドにも参加経験がある。愛車はスコット・アディクトとキャノンデール・キャード10。ハンドル位置が低めのレーシングバイクが好き。