パリ2024オリンピックを振り返る part2 太田海也
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パリオリンピックが終わり、1カ月以上が経過した。9月上旬に行われた全日本トラックで、オリンピックを振り返ってもらった。ここでは男子チームスプリント、ケイリン、スプリントに出場した太田海也に話を聞いた。
1日ごとの切り替え
「カーボン自転車に乗れないようなところから、ナショナルチームに来て、1から教えてもらうような形だった」というのがたった3年前。トラックナショナルチームに来てから並並ならぬ成長を遂げ、多くの輝かしい成績も残してきた太田海也(チーム楽天Kドリームス)。
パリオリンピックの男子短距離ではチームスプリント、ケイリン、スプリントと全ての種目に出場した太田だが、どのように本番の日々を取り組んでいたのか。
「オリンピックはより長い連戦になるので、正直、最終日のことを考えて初日からレースするっていうのは体力がもたない。チームスプリントのレースが最初に始まるんですけど、そのレースをしたら、もうオリンピックが終わるぐらいの気持ちで。最初から全てを意識するよりも、もう目の前のことが終わったらもうお終いになるぐらいの感じで、目の前のことに集中して取り組むような感じで毎回やっています。
今日は満足した、と、1日1日で完結して、気持ちも完結させられるように。でも逆に言ったら次の日に何があっても引きずらないように」
チームスプリントでの度重なったフライングや、スプリントの走行違反での降格、警告2回目によるケイリンでの失格などもあり、揺さぶられるような出来事が今回のオリンピック内で特に多くあった選手の一人だ。一月が経ち、太田はこう噛み砕いていた。
「そのときは衝撃的だったというか、自分としてはすごい心にダメージを負っちゃいながらも、こんなに自分って次の日のレースとか、次のレースとかで切り替えて走れるんだっていう、また自分の新たな一面が見られました。それが積み重なって、結果が出なかったのはやっぱ心残りがあるんですけど、最終日まで走り切れたっていうことは自信につながりました」
そう話すように、様々なことがありながらも、走りからはしっかりと攻めの姿勢は見えた。
「ありがちな言葉になるかもしれないんですけど、応援してくれてる人の、オリンピックだからこそやっぱ見てくれてる人もいて、だからこそ、勝つ・負けるというよりも恥ずかしくない走りをしたいというか、自分が自分で納得できて、その上で人にも感動を与えるような走りがしたいって思って走っていたんです。だからこそ一本一本集中して走れたなとは思います。それが結果に繋がらなかったっていうことがすごく自分の中でもどかしい気持ちです」
貴重な1ページ
競技を始めた頃から目指していたオリンピックの舞台についてはこう話す。
「オリンピックでしか味わえない経験をできたことには間違いがなくて、自分が生きていくうえで、貴重な1ページを経験できました。でもやっぱり、自分の目指していた結果というのが出なかった分、終わった後にすごくショックな気持ちにもなりましたし、体以上に心が疲れたなという感覚がありました。それでもとてもいい経験だったなとは思います」
オランダのハリー・ラブレイセンは、太田と同じく3種目全てに出場し、全ての種目で金メダルをさらっていった。彼のレースを見て太田はこう思ったという。
「今の自分の力をどれだけ客観的に見て評価したとしても、銅メダルは取れた可能性があると思うんですけど、金メダル、銀メダルというのは、正直、今の実力だと可能性がすごい低いところにいるなと、ラブレイセンを見て感じました。
圧倒的に強いというのを見せられて、でもそれにくじけることはないというか、だったらここからそこを目指して、今は銅メダルの可能性ぐらいのところにいて、そこの上を目指していけばいいのかなと思いましたね。周りの期待に今回はそえなかったというか、周りの期待するレベルではなかったというだけで。でも自分が成長したことは違いない。そこにフォーカスを置いて、自分のモチベーションに繋げられたらいいなと思っています」
パリオリンピックは終わったばかり。そこに向けて集中し切っていた太田はまだ、そのモチベーションの行先をどこに持っていくかは決めきれてはいない。ただ、「自転車の乗り手として、極めていこうというのには変わりはない」と話した。
ガッツポーズに込められた意味
全日本トラックではチームスプリントのみの出場で、他種目は辞退することとなった太田だが、岡山の後輩や、ナショナルチームの先輩である山﨑賢人の全日本トラックでの走りは会場でしっかりと目に焼き付けていた。彼らの走りを見終わった太田はこう語った。
「今まで先輩たちがいて、レースで倒して、僕の感覚的な話になっちゃうんですけど、戦うからこそ相手の良さも分かるし、良くないところも分かる。それは自分のその経験とか自分の知識としてインプットされるので、日本代表の今走っている(山﨑)賢人さんとか寺崎(浩平)さんが、自分の競技力とか自分の体に繋がっている。だからこそ、オリンピックも一緒に走っている感じがありますし、倒して、吸収して、繋げて走るみたいな感じがあります。だからこそ、倒されるときはいい経験値を持って倒されたいなと思ってるので、日々練習しています。倒したときにガッツポーズされるぐらい」
太田が考えるガッツポーズには意味が込められていた。
「たぶん、さっきのレース(山﨑賢人が全日本トラックのケイリンで勝ったレース)もそうですが、勝って当たり前のレースでガッツポーズする選手ってあまりいないじゃないですか。
その選手に対して、すごい労力を使って、研究して、研究して、勝ちたい、勝ちたい、勝ちたい!と思っているからこそ、ガッツポーズが出るので。僕は負けたときに、そうやってガッツポーズされると悔しさはもちろんあるけど、それだけ見てくれていたんだなと思います。
ガッツポーズは、相手の気持ちが現れるところで、日本ではあんまり良くない風習とされているところもあると思うんですけど、僕はそんなふうに思っていないですね。相手をリスペクトしてるからこそガッツポーズが出るんだと思います。本当に負けたときに、相手が喜んでくれるとさらに頑張ろうと思えるというか」
厳しい状況に出くわそうとも、ポジティブに自分の力へと変える。そんなところが直線的に成長を進めてこられた理由の一つなのかもしれない。
「相手のことをしっかり研究して倒したときに、ガッツポーズがしたいです」と太田は言う。
太田自身が決めた次の舞台で、渾身のガッツポーズが見られるのを楽しみにしたい。