エンデュランス系の頂に立つもうひとつのドグマ「ピナレロ・ドグマK10」アサノ試乗します!その22
目次
K10はキャリパーブレーキモデルのみ。リヤブレーキはオーソドックスなキャリパーブレーキがシートステーに搭載される。整備性や汎用性を重視していることがわかる
ピナレロの最高峰・ドグマという冠は、エンデュランス系モデルの最高峰にも与えられている。K10というシリーズ名を与えられたエンデュランスロードの中から、まずはオーソドックスなリムブレーキ仕様のK10をチェックしよう。
F10をベースに、クラシックを闘うマシンとして進化
2018年モデルで登場したドグマK10シリーズは、ピナレロのエンデュランス系モデルの最高峰。パヴェ(石畳)を走破するクラシックレースに挑むライダーのためにドグマF10をベースに開発したモデルだ。
フレームの造形はF10をベースにしているだけに、F10にも採用されているボトルケージ周辺の空力性能を高めるコンケーヴ(凹型)デザインを採用し、フレーム素材もF10と同じ東レ製のT1100Gナノアロイカーボンを使っている。
一方、K10ではエンデュランスバイク・グランフォンドバイクとしての進化も遂げている。特徴的なのは、リヤ三角のデザインだ。シートステーがオンダステーのようにS字ではなく弓なりに湾曲し、チェーンステーも縦方向に薄い扁平な形が特徴のフレックスステーを採用。タイヤも最大28mm幅に対応する。
フレームジオメトリーもF10と異なる。ヘッドチューブがF10より長めになっており、アップライトなポジションが取りやすくなっているほか、ヘッドアングルが寝てフロントセンターが延長され、リアセンターも長くなっている。
K10シリーズはシートステーにサスペンションを搭載したK10-SディスクとK10の2モデル展開。K10-Sはディスクブレーキのみ、K10はキャリパーブレーキのみとなる。今回紹介するK10はフレームセット販売のみで、フレームサイズは44から59.5まで10サイズ展開。カラーはカタログモデル3色が用意されるほか、カラーオーダーシステム・マイウェイでのカスタムも可能だ。
レーシングにエンデュランスが融合したオールラウンダー
近年、カーボンフレームの台頭でフレーム設計の自由度が高まったことから、ロードバイクの分業化が進んでいる。メジャーブランドは空力に優れたエアロロード、軽さを追求した軽量モデル、そしてロングライドやグランフォンド向けに快適性を高めたエンデュランスロードというカテゴリーを設け、それぞれ特有の性能を高めたバイクをラインナップしている。
今回試乗するドグマK10はキャリパーブレーキ仕様でサスペンションを搭載しないオーソドックスなエンデュランスロードだ。F10をベースとしているだけに、フレームの前三角は一見F10とそれほど変わらないよう見える。しかし、ジオメトリーを確認すると、フォークのオフセット量やフォーク長が異なり、ヘッドアングルもわずかながらK10の方が寝ている。ヘッドチューブもK10の方が5mm長い。
エンデュランスモデルというとヘッドチューブを1cm単位でレーシングモデルより長くするブランドが多く、全く別のマシンになってしまっているブランドが多いが、ピナレロはレーシングマシンにエンデュランスロードの要素を融合しようとしているのが分かる。
これに対し、リア三角はF10とK10では明らかに違う。オンダステーとは異なる弓なりのシートステー、縦方向に薄いチェーンステーからなるフレックスステーは、いかにも路面からの衝撃をいなしてくれそうだ。リアセンター長も延長されているため、ホイールベースがK10の方が長くなっている。
そんな予備知識を頭に入れつつ走り出してみる。第一印象ではF10との違いが分からないほどレーシーに感じた。ヘッドまわりやBBまわりの剛性感はドグマに近いし、ヘッドチューブの長さもそれほど感じさせない。フレーム素材が同じだからかもしれない。
しかし、やや荒れた路面を走った時にK10の真価が分かった。路面からの突き上げはフレックスステーがうまくいなしてくれるので、快適性はK10の方が高い。とはいえ、衝撃はある程度マイルドにしてくれるものの、基本的に乗り味は硬いので、あくまで「ピュアレーシングマシンのF10と比べて」とか「快適性は必要十分なレベル」という注釈は付く。
直進安定志向もF10より高く、突発的に横風にあおられてもバイクはライダーをナーバスにさせるようなチャカチャカした挙動を示さないので安心して走れる。その分、コーナーではF10ほど切れ味は鋭くないが、ハンドリングはニュートラルでだるさは一切ない。言い換えればコーナーでも安定志向が高く、万人に操りやすいとも言える。
重量は試乗車のスペックで7kgを切るぐらいで驚くほど軽くはないが、その分、どんな場面でも腰高感を感じさせない安定感がある。登坂もそつなくこなすし、下りやコーナー、横風の強い場面では安定感を発揮する。その上、快適性も必要十分なレベルにある。まるで死角のないバイクで、あらゆるサイクリストがその良さを感じられることがこのモデルの最大の特徴だろう。
個人的に唯一気になったのは、K10がキャリパーブレーキ仕様しかラインナップされていないことだ。K10シリーズはシートステーにサスペンションを搭載するK10-SディスクとK10からなるが、K10にはディスクブレーキ対応モデルがないのだ。つまり、サスペンションのないモデルを選ぶとなると、必然的にキャリパーブレーキ仕様になってしまう。エンデュランスバイクと油圧ディスクブレーキは非常に相性がいいと感じるので、K10にこそディスクブレーキ仕様が用意されていてもいいと思う。
F10とK10との違いについても触れよう。F10はまさにピュアレーシングバイクであり、レースを主戦場とするバイクだ。一方、K10はレースを楽しめないわけではないが、過酷な上りや荒れた道がある山岳グランフォンドを気持ちよく走るような場面でこそ本領を発揮すると思う。週末ごとにロングライドやツーリングを楽しみ、時々レースに出たい——という多くのホビーサイクリストの期待に応えるのは、F10ではなくてK10だろう。
spec.
「ピナレロ・ドグマK10」
フレームセット価格/68万円(税抜)
フレーム/カーボン
フォーク/カーボン
コンポーネント/シマノ・デュラエースR9150 Di2
ホイール/フルクラム・レーシングクアトロカーボン
タイヤ/ピレリ・Pゼロヴェロ 700×25C
ハンドル/モスト・タロン
シートポスト/ピナレロ・オリジナル
サドル/モスト・セライタリア
カラー/702ブラックレッド、701ホワイトオレンジ、703BOB
サイズ/44SL、46.5SL、50、51.5、53、54、55、56、57.5、59.5
試乗車重量/6.98kg(53サイズ・ペダルなし)
■浅野真則
実業団エリートクラスで走る自転車ライター。ロードレース、エンデューロ、ヒルクライムなど幅広くレースを楽しみ、海外のグランフォンドにも参加経験がある。愛車はスコット・アディクトとキャノンデール・キャード10。ハンドル位置が低めのレーシングバイクが好き。