フルームのツール3連覇をアシストした名機「ピナレロ・ドグマF10」【アサノ試乗します!その20】
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ピナレロのレーシングバイクの最高峰・ドグマF10。先代モデル・ドグマF8の後継モデルだが、さらなる剛性アップ、軽量化に加え、空力性能向上も果たしているという。ツール・ド・フランス3連覇中の強豪チーム・チームスカイのメインバイクであるこのマシンの乗り味やいかに。
剛性アップと軽量化、空力性能向上を果たし、先代モデルを凌駕
ピナレロのドグマは、2018年モデルでレーシングロードのF10シリーズとエンデュランスロードのK10シリーズの2トップ体制となった。このうち、F10はピナレロのレーシング系モデルの最高峰という位置づけになる。
ドグマF10はこれまでレーシングバイクのフラッグシップとして君臨してきたドグマF8の後継機種という位置づけ。左右非対称フレームをはじめ、ピナレロがこれまでに築き上げてきたコンセプトは踏襲しつつ、さらなる性能アップに向けて素材選びや細部の形状の見直しを図っている。
フレーム素材には、ドグマF8と同様、東レが開発した強度と剛性に優れるトレカT1100Gカーボンファイバーと最小限の樹脂を組み合わせたプリプレグを使用。細心の注意を払ってレイアップすることで、ドグマF8と比べて7%の剛性アップと、6.3%の軽量化を果たし、 フレーム単体重量は820g(53サイズ・塗装前)となった。
ドグマF8と比べて空力性能も進化している。フロントフォークは、TTバイク・ボリデHR同様のドロップアウトに整流効果を持たせるフィン・フォークフラップを採用。ダウンチューブのボトルケージ取り付け部付近をコンケーヴ形状(凹型)にして少し横に張り出すようにし、ボトルケージをくぼみに取り付けることで、ボトル装着時の空気の流れが最適化されるようにデザインされている。また、新型Di2ジャンクションを埋め込むeリンクシステムを導入。ジャンクションを内蔵することで、空力性能の向上と美しいルックスを両立している。
さらにシートチューブのボトルケージの取り付け台座は、通常の位置に加えてより下側にも装着できるよう台座を追加し、ボトルを装着した状態でより空気抵抗を削減できるよう工夫。ボトルを2本を装着した状態で、F8と比較して12.6%の空気抵抗軽減を実現したという。また、フロントディレイラー台座を取り外し可能とすることで、TTレース時などでフロント変速が必要ない場合に空力性能や軽量化を優先したいケースに対応する。
日本国内ではフレームセットとシマノ・デュラエースDi2完成車での販売。レギュラーモデルで10色以上のカラーバリエーションを展開するほか、ピナレロのカラーオーダーシステム・マイウェイでオリジナルカラーにカスタムすることも可能だ。サイズ展開も豊富で、在庫サイズで10種類、受注生産を含めると14サイズ展開というきめ細やかさだ。
あらゆる要素を高い次元で兼ね備えた“奇跡のバランス”
ピナレロのドグマといえば、サイクリストにとってはハイエンド中のハイエンドとしておなじみ。チームスカイのメインバイクであり、2017年はクリス・フルームのツール・ド・フランス3連覇、続くブエルタ・ア・エスパーニャでも個人総合優勝をサポートしたことは記憶に新しい。
そんなドグマの最新モデルが2017年のツアー・ダウンアンダーでデビューし、以後も多くの勝利を重ねたF10だ。
F10はツール・ド・フランスを制したF8の後継モデルで、そのことはルックスからも分かる。しかし、細部のアップデートを行うことで、重量、剛性、空力の面ではドグマ史上最高スペックになっているという。
ドグマの歴代モデルに試乗して感じていた個人的なイメージでは、見た目は一癖あるが、オンダフォークとオンダステーによってあらゆる路面で優れた接地感をもたらす乗りやすいバイクである——というものだ。いたずらに軽量化に走らず、アメリカンブランドの超軽量バイクのようなヒラヒラ舞うような刺激的な軽さはないものの、下りやハイスピード時の安定感やコントロール性能で勝負するタイプのバイクだと感じていた。
F10に乗ってみると、その印象がいくらか変わったことに驚く。軽さとパリッとした硬さが以前より際立っているのだ。これはおそらく先代モデルと比べて7%の剛性アップと6%以上の軽量化を達成したことによるものだろう。
とはいえ、以前のドグマらしさがなくなったわけではなく、ドグマらしさを残すように慎重に軽量化し、より軽快な走りを手に入れたというイメージだ。身を削るような軽量化とは違う、バランス重視の軽量化だ。
だから、下りやコーナーで腰高感を感じるようなことはなく、高速域でも安心してバイクをコントロールできる安心感と素直な挙動、狙い通りのラインをトレースできる小気味よいハンドリング、ブレーキング時に感じられるヘッド周りの頼もしさといった歴代ドグマにも感じられた乗り味は健在だ。
これらは一言でどのテクノロジーの影響とは言えない。F10世代にリファインされたオンダフォークとオンダRSリアステーのしなやかさとたくましさの絶妙のチューニングや、左右非対称のアシンメトリックフレームによるバランスの良さなど、あらゆるテクノロジーの相乗効果と思われる。
空力性能については、TTバイクのボリデHRのテクノロジーを受け継いでいるという。そのことはフロントフォーク後端のフォークフラップやフレーム各部の後端を切り取ったようなフラットバック形状、ダウンチューブのボトルケージ取り付け部のコンケーヴ形状に見ることができる。正直に申し上げると、短時間の試乗ではフレームのエアロ効果についてははっきりとは体感できなかった。これが長時間のレースなどではおそらく体の疲労度や平均スピードの違いとなってより明確に感じられるのだろう。
ドグマF10の性能面での最大の魅力は、レーシングバイクとして求められるあらゆる性能を高い次元で兼ね備え、その魅力を多くの人が享受できる“奇跡のバランス”にあると思う。重量も剛性も空力性能も、それぞれの要素だけを見ればドグマF10を超えるスペシャリストと言えるバイクはある。しかし、総合点においてはドグマF10は歴代のバイクでも屈指のレベルにあることは間違いない。
数少ない弱点を挙げるとしたら、価格の高さだ。フレームセットでさえ他社の上級クラスの完成車が買えてしまうような価格ゆえ、誰もが手を出せるわけではない高嶺の花だ。「レーシングバイクでありながら、レースに投入するのは気が引けてしまう」と思ってしまうのは、僕が小市民だからだろうか。
だが、ドグマはそんなプライスタグがついていても許される希有な存在でもある。高性能なバイクは数あるが、ドグマはシルエットを見るだけで分かるほどの抜群のプロポーション、その上に高級感のあるペイントというドレスをまとった、トップスターのような唯一無二のバイクだからだ。
spec.
「ピナレロ・ドグマF10」
フレームセット価格/68万円(税抜)
フレーム/カーボン
フォーク/カーボン
コンポーネント/シマノ・デュラエースR9100
ホイール/フルクラム・レーシングスピード
タイヤ/ピレリ・Pゼロヴェロ 700×25C
ハンドル/モスト・XC
シートポスト/ピナレロ・オリジナル
サドル/モスト・セライタリア
カラー/905チームスカイ、166レッドマグマ、167ブラックラバ、170BOB(受注発注カラーは除く)
サイズ/42SL、44SL、46.5SL、47、50、51.5、53、54、55、56、57.5、59.5、62
試乗車重量/6.94kg(51.5サイズ・ペダルなし)
■浅野真則
実業団エリートクラスで走る自転車ライター。ロードレース、エンデューロ、ヒルクライムなど幅広くレースを楽しみ、海外のグランフォンドにも参加経験がある。愛車はスコット・アディクトとキャノンデール・キャード10。ハンドル位置が低めのレーシングバイクが好き。