ジャイアント・最新TCR 3グレードの違いとは?【アサノ試乗します!その47】

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ジャイアント・TCR 3グレードの違いとは?

ジャイアントの軽量レーシングロード・TCRの第10世代に当たる最新モデルが2024年にデビューした。「アサノ試乗します!」では、これから2回に分けて最新TCRシリーズを紹介する。今回は、最上位グレードのアドバンスド SLから「アドバンスド SL 0」、ミドルグレードのアドバンスド プロから「アドバンスド プロ 0」、エントリーグレードのアドバンスドから「アドバンスド 1 KOM」をピックアップ。前半はTCRのデビューからの30年近い歴史を振り返りながら、最新モデルのグレードごとの違いをチェックする。

 

ジャイアント・TCR 3グレードの違いとは?

 

ジャイアント・TCRシリーズとは

TCRシリーズは、1997年に初代モデルがデビューしたジャイアントの軽量レーシングロード。TCRは「トータル・コンパクト・ロード」の頭文字をとったもので、他社に先駆けてジャイアントがスローピングフレームを量産型のロードバイクに採用したエポックメイキングなバイクだ。スローピングフレームはフレームがコンパクトになることで軽量化や高剛性化に貢献するというメリットがあり、その後多くのブランドが追随したことからジャイアントの先見の明が証明されたと言える。

初代TCRはアルミフレームで、2002年デビューの2代目以降はカーボンフレームが追加となり、2005年デビューの4代目でインテグレーテッドシートポスト(ISP)を採用。2020年にデビューした9代目は重量剛性比と空力性能を強化して総合力を高めた。これらの歴代TCRは、チームオンセ、Tモバイル、ラボバンク、サンウェブ、CCC、ジェイコ・アルウラーなどの当時のプロチームに供給され、ツール・ド・フランスをはじめとする3大ツールなどいくつものレースで勝利を収めてきた。

2024年デビューの最新モデルは10代目にあたる。フレームとフォークの素材の違いで大きく3グレードに分かれ、最上位グレードのアドバンスド SL、ミドルグレードのアドバンスド プロ、エントリーグレードのアドバンスドが展開される。

10代目TCRは、フレーム単体ではなくホイールやタイヤなども含めたバイク全体での完成度を高めるべく「システム・オプティマイゼーション(システムとしての最適化)」というスローガンのもと開発が進められた。そのため、フレームセットだけでなく、ハンドルやホイールなどの開発も同時進行で行われた。

新型TCRのフレームで大きく進化したポイントが空力性能の向上だ。アドバンスド SL、アドバンスド プロの上位モデルはフォークコラムに「オーバードライブエアロ」というD型断面の規格を採用してハンドルまわりのケーブル内装化を実現し、アドバンスド シリーズもハンドルやステムに沿うケーブルラインを実現してヘッドチューブから内装するようになって空気抵抗を低減(なお、一方でメンテナンス性を両立しているのも特徴で、ホースを切らずにステム交換とハンドル高さ調整が可能となっている)。さらにダウンチューブやシートポスト、フォークに翼断面の一端を切り落としたようなトランケイテッドエリプスという形状を採用することでも空力性能を向上させている。このほか、重量剛性比を先代モデルと比べてさらに向上させたこともトピックだ。

さらに、上位モデルに採用される新開発のハンドルバーやステム、カデックス・マックス40ホイールなどのパーツも組み合わせることで、空力性能向上や軽量化をバイク全体で進めた。ジャイアントが風洞実験施設で風速40km/h、ヨー角-20〜+20°の条件下で動的マネキンを使って行った風洞実験によると、最新のアドバンスド SL 0 完成車は先代比4.19Wの空気抵抗を低減し、フレームセットのみでも2.28Wの空気抵抗を低減するという。ミドルグレード以降のモデルにもTCRと同時に開発された新型パーツが採用されており、上位モデル譲りの走りを実現しながらも高いコストパフォーマンスを実現している。

 

最新TCR 3グレードの違い

TCR アドバンスド SL シリーズ

TCRアドバンスドSL

TCR アドバンスド SL グレード

TCRシリーズの中では最上位グレードという位置づけ。海外のプロチームに供給されるのもこのモデルだ。フレーム・フォークともジャイアントの最高品質のアドバンスド SL グレードのカーボンを使用。自社工場でカーボン原糸から編まれるジャイアントで最も軽く、硬いカーボンで、最先端のテクノロジーを駆使してカーボンシートのカットや積層、成形を行いフレームやフォークが作られる。他社の軽量レーシングバイクと比べてもトップレベルの優れた重量剛性比を実現する。

3グレードの中で唯一フレームと一体成形されたインテグレーテッドシートポストを採用するのも特徴で、一般的なカーボンシートポストより軽量に仕上がるのも特徴。上からかぶせるタイプのISPシートクランプの内側にスペーサーを入れることでサドル高の微調整を行うことができる。

 

TCR アドバンスド プロ

TCR アドバンスド プロ グレード

TCR アドバンスド プロ グレード

TCRシリーズの中ではセカンドグレードという位置づけ。フォークは上位モデルと同じアドバンスド SL カーボンを使用するが、フレーム素材が上位モデルとは異なり、セカンドグレードのアドバンスド カーボンとなる。

フレームの前三角は、新モノコック工法と呼ばれるひとつの連続した部品として成形する工法を採用することで、高い重量剛性比を実現する。シートポストはカムテール形状のヴァリアントシートポスト(エアロシートポスト)をフレームに内蔵されたシートクランプで止める方式。空力性能の高さとサドル高の調整の容易さを両立する。トップモデルの軽快な走りを比較的お値打ちな価格で楽しめるグレードと言える。

 

TCR アドバンスド

TCR アドバンスド シリーズ

TCR アドバンスド グレード

シリーズの中ではエントリーグレードという位置づけ。フレーム、フォークともジャイアントのカーボン素材ではセカンドグレードとなるアドバンスド カーボンを採用し、優れた重量剛性比をリーズナブルな価格で実現する。

シートポストもアドバンスド プロ グレードと同様にヴァリアントシートポストという専用エアロシートポスト+フレーム内蔵型シートクランプという方式で、サドル高の調整がしやすくなっている。最も価格の安いシマノ・105 機械式12速の完成車は“税込で”33万円と、他社の同グレードの製品と比べて群を抜くコストパフォーマンスの高さを実現している。

 

各グレード 細部の違い

TCRアドバンスドSLのシートクランプ

シートポストの違い

TCR アドバンスド SLはフレーム一体型のインテグレーテッドシートポスト(ISP)を採用。上から専用のISPシートクランプをかぶせ、サドルを取り付ける。サドルの角度調整や前後位置の調整は通常のシートポスト同様にでき、サドル高さもISPシートクランプの内側に付属のスペーサーを入れることで1mm単位で調整できる

 

TCRシリーズのステアリングコラムの違い

ステアリングコラムの違い

アドバンスド SLとアドバンスド プロの上位2グレードは、フロントフォークのコラム断面がD型になったオーバードライブエアロを採用。コラム径は従来と同じ上1-1/4インチ、下1-1/2インチで、コラム前方のD型断面のフラットな側がケーブルの内装ルートになっている。一方、アドバンスドは一般的な円型コラムのオーバードライブを採用。ケーブルは上位モデルと同様ヘッドチューブ前方からフレームに内装される。

 

TCRシリーズのケーブルルーティングの違い

TCRシリーズのケーブルルーティングの違い

アドバンスド SLとアドバンスド プロは、各モデルともケーブル内装に対応するハンドルバーにオーバードライブエアロに対応するカーボン製ステムのコンタクト SLR エアロライトまたはアルミ製ステムのコンタクト SL エアロライトを組み合わせる。

ケーブルはハンドル内を通ってステム下側の溝を通り、オーバードライブエアロコラムの前方を通る形でフレームに内装される。一方、アドバンスドは、ケーブル内装非対応のアルミ製ドロップハンドルにアルミステムというコストパフォーマンス重視の組み合わせ。ケーブルはハンドルバーに沿ってステムの下側を通り、ヘッドチューブ前方からフレームに内装される。

 

TCRシリーズのハンドル形状

アドバンスド SLとアドバンスド プロは、各モデルともフレア形状を採用した新型ハンドルバー・コンタクト SLR カーボンハンドルまたはコンタクト SL アルミハンドルを採用。XSとSサイズは上37cm /下40cm幅、MとMLサイズは上39cm/下42cm幅のハンドルが標準装備される。一方、アドバンスドはフレア形状ではないアルミ製ハンドルバーのコンタクトドロップを採用する。

 

今回試乗するTCR 3モデル

 

TCR アドバンスド SL 0

 

 

TCR アドバンスド SL 0

●価格/154万円 ●メインコンポーネント/シマノ・デュラエース ●ホイール/カデックス・マックス 40 ディスク チューブレス ●タイヤ/カデックス・レースGCタイヤ 700x28c ●ハンドルバー/ジャイアント・コンタクト SLR ●ステム/ジャイアント・コンタクト SLR エアロライト ●サドル/カデックス・AMP ●試乗車サイズ/S

 

TCRのハイエンド、アドバンスド SLのシマノ・デュラエース Di2仕様。ホイールはカデックス最軽量のマックス40を組み合わせ、ハンドルバーはフレア形状のカーボンバー、コンタクト SLR、ステムもカーボン製のコンタクト SLR エアロライトと、細部までスキのないパーツ構成となっている。

アドバンスド SLには、スラム・レッド仕様完成車のアドバンスド SL 0 Red(165万円)、シマノ・アルテグラ Di2完成車のアドバンスド SL 1(104万5000円)、フレームセット(49万5000円〜)も用意される。

 

 

TCR アドバンスド プロ 0

TCR アドバンスド プロ 0

●価格/84万7000円 ●メインコンポーネント/シマノ・アルテグラ ●ホイール/ジャイアント・SLR 0 40 ●タイヤ/カデックス・レースGCタイヤ 700x28c ●ハンドルバー/ジャイアント・コンタクト SLR ●ステム/ジャイアント・コンタクト SL エアロライト ●サドル/ジャイアント・フリート SL ●試乗車サイズ/S ※フレームカラーは実際の製品と異なります。試乗車のカラーはフレームセット販売のみ

TCRのセカンドグレード、アドバンスド プロのシマノ・アルテグラ Di2完成車。ホイールはカーボンスポークを採用したリムハイト40mmのジャイアントのニューモデル、SLR 0 40。ハンドルバーはカーボン製で、ステムはアルミ製のコンタクト SL エアロライトを組み合わせる。

シマノ・105 Di2完成車のアドバンスド プロ 1(68万2000円)、シマノ・105 機械式12速完成車のアドバンスド プロ 2(57万2000円)、フレームセット(30万8000円)も用意される。

 

TCR アドバンスド 1 KOM

ジャイアント・TCR アドバンスド 1 KOM

●価格/42万9000円 ●メインコンポーネント/シマノ・105 Di2 ●ホイール/ジャイアント・PR-2 ●タイヤ/ジャイアント・ガヴィア コース 1 700×28c ●ハンドルバー/ジャイアント・コンタクト ●ステム/ジャイアント・コンタクト エアロライト ●サドル/ジャイアント・アプローチ ●カラー/アスファルトグリーン、マーズダスト(写真の試乗車はマーズダスト) ●試乗車サイズ/S

エントリーグレード、アドバンスドのシマノ・105 Di2完成車。ホイールはジャイアントのチューブレスレディ(TLR)対応アルミホイールのPR-2、ハンドルやステムをアルミ製とすることで価格を抑え、TCRの持ち味である軽快な走りをより手ごろな価格で楽しめる。

シマノ・105 機械式12速の完成車アドバンスド 2 KOM(33万円)も用意されており、カーボンフレームの軽量レーシングモデル完成車としてはライバルを圧倒する優れたコストパフォーマンスを実現している。

 

後編で徹底比較試乗インプレッションをお届け!

後編では第9世代TCRのオーナーでもあるライターアサノとサイクルスポーツ編集長・中島が、第10世代TCRシリーズのアドバンスド SL、アドバンスド プロ、アドバンスドの3グレードを乗り比べ、インプレッションを行う。単なる試乗インプレッションではなく、先代モデルからの進化もふまえ、オーナーならではの視点から新型TCRについて語る。

 

【後編は近日公開】

 

シリーズ 『アサノ試乗します!』