ジャイアント・最新TCR 3グレード乗り比べ【アサノ試乗します!その48】

目次

TCR 3グレード乗り比べ

ジャイアント・TCRシリーズの最新モデルは、最上位のアドバンスド SL、セカンドグレードのアドバンスド プロ、エントリーグレードのアドバンスドからなる。「アサノ試乗します! TCR第10世代」の後編では、第10世代TCR 3グレードの代表的なモデルに、先代TCRオーナーのライター浅野真則とサイクルスポーツ編集長・中島丈博が試乗。旧モデルオーナーならではの視点も加え、インプレッションを行う。

 

今回試乗するバイク

ジャイアント・TCR アドバンスド SL 0

【試乗バイクその1】ジャイアント・TCR アドバンスド SL 0 ●価格/154万円

ジャイアント・TCR アドバンスド プロ 0

【試乗バイクその2】ジャイアント・TCR アドバンスド プロ 0 ●価格/84万7000円

ジャイアント・アドバンスド 1 KOM

【試乗バイクその3】ジャイアント・TCR アドバンスド 1 KOM ●価格/42万9000円

 

テストライダーはこの2人

【TEST RIDER1】浅野真則
「サイクルスポーツ」の雑誌やWEBを中心に活動する自転車ライター。仕事の傍らレースのために日々トレーニングを続けており、試乗インプレッションやトレーニング系の記事、イベントレポートなどを得意とする。現在のロードのメインバイクはジャイアントの先代TCRアドバンスド SLで、このバイクでヒルクライムレースの入賞経験もある

【TEST RIDER2】中島丈博
自転車専門誌「サイクルスポーツ」、WEBメディア「サイクルスポーツ.jp」の編集長で、元メッセンジャーという経歴を持つ。各ブランドの最新モデルの発表会に精力的に足を運んでおり、ジャイアントの歴代TCRにも試乗経験がある。第10世代TCRもメディアローンチのタイミングで台湾でいち早く試乗した。先代TCRアドバンスドプロのオーナー

 

TCR アドバンスド SL グレード〜ヒルクライムをはじめ、本気でレースをしたい人におすすめ

浅野:まずはシリーズ最高峰のTCR アドバンスド SLです。今回の試乗車はシマノ・デュラエース R9200仕様の完成車でした。個人的に乗っているバイクが先代のTCR アドバンスド SLで、しかも現状は今回の試乗車と同じコンポーネントに載せ替えています。

中島:違いはどうでしたか?

浅野:個人的には空力性能に関しては進化したように思います。ハンドルまわりのケーブル内装やエアロを意識したフレアハンドルの採用は、空力面で大きなメリットがあるように思いました。一方、剛性感や軽さ、前作に初めて乗ったときに感じたフロントフォークやヘッドまわりのカッチリ感などからくるコーナーやブレーキング時の安心感など、フレームセットとしてのバランスの良さは、前作である程度完成されていて、それを継承していると感じました。

軽い走行感に関しては、試乗車についているカデックス・マックス40が良い仕事をしていると感じます。このホイールを第9世代に付けたら、第10世代にかなり近い乗り味になるのではないかと思います。

空力に関してはセミフレアハンドルの影響も大きいでしょう。今回の試乗車のSサイズには上37cm 、下40cm幅のハンドルがついていて、上ハンが3cmも狭くなっています。ブラケットを持って巡航するとき、自然に前面投影面積の小さなフォームがとりやすく、下ハンを持つ従来のエアロフォームで前面投影面積を小さくすることもできます。つまり、ブラケットを持っても下ハンを持ってもエアロなフォームになるので、同じぐらいの運動強度で走っていても新型TCRはいつもの感覚よりメーター読みのスピードも上がっていました。僕のTCRも今すぐこのハンドルに付け替えたいと思ったぐらいです(笑)。

中島:なるほど。僕が一番印象に残ったのは、アドバンスド SLってゴリゴリのレースグレードなのに、快適性が高いということでした。他のグレードと比べると確かに剛性が高いのに、ISPだからかシートポストまわりが適度にしなってシッティング時に路面からの突き上げや振動をうまくいなしてくれているような気がします。トップグレードらしくダンシング時の振りも含め、全ての挙動が軽い。それでいて、振動吸収性も良いから不思議。コーナリングはカデックスのタイヤとのコンビネーションもあって、とても軽やかで高い安定感があります。反応も良く、かつ硬さがなくてとてもしなやかな軽さが表に出てくるバイクですね。

ISPって、通常のシートポストのようにシートチューブの途中でシートクランプがないから、カーボンレイヤーもシートポストの上の方までぶっ通しになるし、設計の段階でしなりを計算しやすいんでしょうね。実際、積層を見ていてもロングスパンの層があったので、構造を最大限活かしているように思います。

浅野:それは僕も同感です。ISPはサドルの高さ調整がややしにくくなるという弱点はありますが、上からかぶせるタイプのシートクランプの中にスペーサーを入れることで1mm単位で上げることができます。下げる方はISPを切ったところまでになるという制約はありますが、僕の場合は特に不都合を感じませんね。サドル高はフィッティングで出してもらった数値からいじることもまずないので。むしろ普通のカーボンシートポストだとクランプの固定力が足りなくて走っている途中に下がってしまうものもあったりしますしね。

中島:調整しやすいと言えば、ケーブル内装なのにハンドルの高さ、ハンドルの送り・しゃくりなど、コックピットまわりの調整がしやすいのはいいなと思いました。ステアリングコラムがオーバードライブエアロという独自規格で専用のステムやスペーサーを使うのに、普通のステムと同じように調整できました。それでいてケーブルが露出していないクリーンなルックスを実現している。この点に関しては先代オーナーとして純粋にうらやましいです。

浅野:僕も先代モデルの唯一の不満はそこなので、よく分かります。

中島:セミフレアハンドルは、サイスポでも特集を組んだくらい注目しています。それが最初から装備されているのはいい。普通のドロップハンドルバーから換えると、最初はダンシングのときなどに戸惑いますが、慣れますね。

浅野:フレアハンドルのダンシングのときのバイクの振りにくさは、最初は僕も気になりました。でも、ハンドルを押す側の腕をしっかり伸ばしてやると、今までのバイクと同じようなリズムで振れるような気がしました。完成車の各サイズについてくるハンドル幅は、これまでと比べて上ハンが狭くて下ハンは同じサイズなので、スプリントのときのように下ハンを持ってダンシングするようにすればいいんでしょうね。

中島:重量剛性比も先代モデルより向上しているとのことでしたが、そのあたりはどうですか? 個人的には台湾で試乗したときに、高速域から踏み込んだときにさらに加速する印象があって、反応性に関してはさすがだなと思ったのですが、トップライダーに合わせた剛性チューニングなのでやっぱりホビーライダーには硬すぎと感じる人もいるかな、という気もしました。

浅野:個人的には第8世代→第9世代がものすごく進化して一気に完成度が高くなった印象がありました。それと比べると、正直なところ第9世代→第10世代はそこまでの違いは感じませんでしたね。先代モデルでも特に不満がないというのもありますね。

かと言って第10世代で硬くなりすぎたとか、劇的に軽くなったという印象もないので、そこは軽さと剛性を高い次元で両立するTCRらしい乗り味をキープしつつ、少しずつ正常進化させているのだろうなと感じました。その中でもアドバンスド SLはいかにもレーシングマシンという乗り味だと感じます。

中島:もしオーナーになったら、ステムの長さを調整したくなる可能性はあります。専用品で値は張りますので念頭に入れておきたいところ。アルテグラDi2搭載モデルが狙い目だと思います。

 

TCR アドバンスド プロ グレード〜レースからロングライドまで軽快に走りたいならこれ!

浅野:続いてセカンドグレードのアドバンスド プロです。中島さんは先代のこのシリーズに乗っていますが、違いをどう感じましたか?

中島:一番の違いは、プロペルにも採用されているD型断面フォークコラムのオーバードライブエアロが採用されたことだと思います。これは最上位モデルのアドバンスド SLにも採用されているもの。ケーブル内装に対応してハンドルまわりのケーブルの露出もなく、クリーンなルックスになりましたよね。これは個人的には10代目になって見た目にも大きく変わったと感じる部分です。ハンドルもトレンドのフレアハンドル、しかもカーボン製が付いているのもいいですね。

浅野:このグレードは、フォークは上位モデルと同じアドバンスド SLで、ステアリングコラムにも新規格のオーバードライブエアロが採用されています。ケーブル類はハンドルの中を内装されてステムの下を通ってフレームに内装される形です。

中島:ケーブルが露出しないクリーンなルックスを実現し、空力性能の高さも備えていますね。先ほども触れましたが、コラムスペーサーの位置を入れ替えてハンドルの高さを調整するのもオーソドックスな従来式のコックピットと同じようにできるのがすばらしいです。個人的には先代モデルで惜しいと思っていた部分が解消され、使い勝手も犠牲になっていないのは高く評価したいと思います。

浅野:一方、フレームはアドバンスドになっています。素材が変わったからといって、個人的には剛性感をはじめとする乗り味に関して、上位モデルとの違いはあまり感じなかったです。しなりを感じるようなヤワな感じではなく、剛性感はあるけど、踏み負ける感じでもないと思いました。同じような剛性チューニングでも、重量はアドバンスド SLのフレームに比べると少し重くなるのかなと。上位モデルの乗り味をこのモデルなりに再現しているなと思いました。

中島:自分はフレームの硬さには差を感じましたね。ホビーライダーには明らかにこちらの方が脚に優しくて、ロングライドを走ると違いがあるのかなと思いました。ホイールのキャラクターの違いも、この走行性能の差別化として大きな要素になっています。

浅野:フレームの剛性感という話に関連して、アドバンスドのカーボンフレームは、内蔵シートクランプ+専用エアロシートポストの組み合わせになっています。サドルの高さ調整が上げる方も下げる方もオーソドックスな方式と同じようにできる点は評価できますが、シッティングで走っているときの路面からの突き上げのいなし具合はアドバンスド SLのISPに軍配が上がるような気がしました。

中島:確かにそれはあるかもしれませんね。フレーム内にシートクランプがあることで、シートポストまわりがしなりにくくなって、突き上げを感じやすくなるというのはあり得そうです。

浅野:完成車としてのパッケージも個人的には評価しているポイントです。今回試乗したアルテグラ Di2仕様のモデルは、買った状態でポジションを合わせたら特にいじるところがないですよね。特にアッセンブルされているホイールのジャイアント・SLR 0 40は、カーボンリムにカーボンスポークを組み合わせていて、このバイクの軽快な走りを足元から支えていると感じます。カデックス・マックス40とは構造が違いますが、“カデックスのジェネリック”と言っていいんじゃないの、というレベルです。スポーク交換などの修理にも対応しやすく、実用的でいいホイールだなと思います。

中島:今回試乗したアドバンスド プロ 0は、パーツ構成にもスキがなく、レースにもロングライドにも使える、まさにホビーライダーにピッタリのモデルですね。

 

TCR アドバンスド グレード〜オーソドックスなパーツ構成で意外に乗りやすい

浅野:最後にエントリーグレードのTCR アドバンスドです。個人的にはエントリーとは思えないすばらしい出来だったなと思います。フレームもフォークもアドバンスドのカーボンなので上位グレードに比べて重量面では不利ですし、ハンドルバーやステムもアルミ、ホイールもアルミリムのものなんですけど、加速や長い上り以外は重量をそれほど感じず、意外に軽快に走るなと思いました。

中島:3台のうちいちばん最初にTCR アドバンスド1の試乗を行いました。サードグレードへの先入観を吹っ飛ばしてくれる1台です。平地は十分。上りでは車重が気にならないと言ったらウソだけど、上位モデルから「よく走る」感覚を引き継いでいる。

ジャイアントのエントリーホイールがよく走るという意見にも同感です。ただ、僕は上位モデルと比べるとやっぱり違いはあると思いました。特にフォークがアドバンスドになっていることで、上位モデルと比べるとハードブレーキング時やコーナーでの安心感、ハンドリングの切れに違いを感じました。

ジャイアント印のブレーキローターが付いていますが、シマノの純正ブレーキローターと比べるとパッドへの食い付き、速度の微妙なコントロールでは違いを感じました。

とはいえシマノ・105 Di2仕様でこの走りとは、もう十分すぎます。ツーリングなどで使うならまったく不満は感じないでしょう。自分がパーツを交換するなら、まずタイヤとローターから手を着けていくかな。

浅野:アドバンスドのフォークは、上位モデルと形状が同じで素材が異なるのと、コラム断面が一般的な円型の1-1/8コラムなんですよね。僕は加速時や上りでの走りの軽さの違いは顕著に感じましたが、フレームやフォークの剛性感には各モデルの差をそれほど感じなかったんですよね。軽さと剛性のバランスで言うとアドバンスド SLが圧倒的に高得点ではあるなと思いましたが、特別に剛性が高いとは思いませんでしたし、ロングライドでもアドバンスド プロとアドバンスドと同じように乗れそうだと思いましたけどね。

中島:オーバードライブの円形断面のコラムなのに、ケーブルはフレームに内装されるんですよね。ただルートが違って、アドバンスドではハンドル部分はハンドルに沿わせていて、そこからステムの下を通してヘッドチューブの前からフレームに内装する形なので、ケーブル内装と言ってもオーバードライブエアロ採用の上位2グレードとは厳密には異なります。見た目がクリーンなのは、今どきのバイクっぽくなっていて評価できます。

浅野:ハンドルもフレアハンドルじゃなくてオーソドックスなドロップバーですね。そこはトレンドよりもコスパ優先ポイントでしょうか。おそらくアドバンスドのターゲットは“ガチレース勢”ではないと思いますし、他の2つのシリーズよりも自転車歴も浅めの人を想定しているのかなとも思うので、扱いやすいというのは重要なファクターかもしれませんね。

それこそ初めてのロードバイクにこのグレードを選ぶ人がいてもおかしくないです。となると、このグレードの価格設定も魅力的だなと思います。シマノ・105 機械式12速仕様だと完成車価格33万円なんですよね。個人的にはこのシリーズならこちらをプッシュしたいです。Di2仕様との差額が10万円近くあるので、浮いた費用を他のところに回して、走りをグレードアップするのがおすすめかなと。

中島:機械式変速は価格だけでなく、車で言うマニュアル車のようなライダーが操作する喜びを感じられます。一方、Di2の操作のしやすさと変速の確実性はライドクオリティを高めてくれます。機械式の価格面の魅力か、Di2のライドクオリティの高さか、どちらに価値を見いだすかでしょうね。

 

まとめ〜TCRはジャイアントが誇る名車に昇華した

浅野:TCRは、個人的には先代の第9世代の時点で既に“名車”と言えるレベルにはなったと感じていました。初めて試乗したときに走行性能の高さに衝撃を受け、後にプライベートで乗ることになったのも、心底すばらしいと思ったから。これまでにたくさんのバイクに試乗してきましたが、そこまで良いと思えたバイクは過去に数台だけでした。第10世代TCRは、第9世代に初めて乗ったときのような劇的な感動はあまりなかったですが、そこから全方位的に性能を上積みしたという点は評価できます。とりわけ最上位モデルのアドバンスド SLよりも、アドバンスド プロやアドバンスドのミドル〜エントリーグレードがボトムアップした印象が強くて、第10世代はエントリーモデルからすごいぞ! と思いました。

中島:レースをするならアドバンスド SLは確かにいいんだけど、予算が150万とか超えてきちゃうので、なかなか手が届きにくい高嶺の花という気がします。アドバンスド プロ 0になると、それより70万円ぐらい安くなるので、現実的に手が届くハイエンドはこのモデルかな。完成車の状態で乗り続ける前提で高いモデルを買うのもいいですが、例えばアドバンスド プロを購入できる予算があってもあえてアドバンスドを選んで後からホイールなどをアップグレードするという方法も考えられますよね。

浅野:各シリーズとも、「軽くて、ペダルの踏力をしっかり推進力に換えてくれて、よく走る万能レーシングバイク」というTCRらしさはちゃんと感じられますが、どういうユーザーにおすすめできるかというライダー像は微妙に違うような気がします。アドバンスド SLは真剣にレースに取り組んでいる人で、メインがレースという人。特にヒルクライムとか、上りが多いコースのレースには向いている気がします。アドバンスド プロは、レースもロングライドも同じぐらいのプライオリティで楽しんでいる人。アドバンスドは、ロングライドに軸足を置きながら、たまに自分へのチャレンジとしてヒルクライムやエンデューロを楽しむ人というのが僕の中ではしっくりきます。

 

最新TCRシリーズ 3グレードの違いについてはこちら

ジャイアント・最新TCR 3グレードの違いとは?【アサノ試乗します!その47】

 

シリーズ 『アサノ試乗します!』