ホビーレーサーにとっての“コルナゴ最適解”「V4」
目次
異次元とも言えるタデイ・ポガチャルの走りを支えるコルナゴのフラッグシップ「V4Rs」。その血統を受け継ぎつつ、僕たちホビーサイクリストに向け、より身近な存在として新たにリリースされたのが「V4」だ。注目のセカンドグレードの実力を、自転車ジャーナリストの吉本司がV4Rsと乗り比べつつ探る。
コルナゴ・V4の特徴
コルナゴのロードバイクラインアップにおいて、ロードレースにおいて最高のパフォーマンスを発揮すべく開発されたのが“V”シリーズ。そのセカンドグレードとして、今年新たに仲間入りするのが、この「V4」だ。
基本となるフレーム形状は、タデイ・ポガチャルの愛馬であるフラッグシップの「V4Rs」と同様。D型断面のチュービングを全面的に採用し、TTバイクに用いられるような横に張り出したドロップドタイプのシートステーを配して空力を高めるフレームワーク。よりリアルな剛性指標を用いてフレーム剛性の最適化を行う「リアル・ダイナミクス・スティティフネス」など、上位機種でキーとなるテクノロジーは、もちろん全て反映されている。
V4Rsとの違いは、カーボン素材とステムとハンドルバーが別体となったコックピットシステムを採用する点だ。これによりホビーサイクリストに適した走行性能が追求され、手にしやすい価格を実現している。
ポガチャルも使用するトップモデル「V4Rs」
ロードレースでの勝利を命題とするVシリーズの4作目として、2023年モデルとして投入された最高峰。UAEチーム・エミレーツの選手たちの意見を元に、空力、軽量性、動的剛性、堅牢性の向上を追求。
数的データとしては、前作のV3Rsに対して空力が3%(パワー値にして13.2W)、フレームキット重量(ステム一体型ハンドル、ヘッドセット込み)で47gの軽量化を達成(フレーム単体重量/798g、フォーク重量/375g)。さらに動的剛性の面では「リアル・ダイナミクス・スティフネス」を元にした設計により、シッティングのクライミング、スプリントにおけるフレーム剛性が、V3Rsに対して、それぞれ5%、4%向上している。
コルナゴのロードレースに懸ける情熱と、同社の最新・最高の技術の結晶により、タデイ・ポガチャルを史上3人目となるトリプルクラウン達成へと導いた。
コルナゴ・V4 試乗インプレッション〜変化するホビーサイクリストのニーズに応える存在
ロードレースはトッププロ選手であっても、基本的にUCIに車体を登録した市販品に乗ることがルールに定められている。すなわち僕たちホビーサイクリストは、私財を投じさえすればタディ・ポガチャルをトリプルクラウンへと導いたコルナゴ・V4Rsに乗れるのだ。数あるスポーツの中で、プロ選手と同じ機材を一般ユーザーが手にできる競技は、実はそう多くない。そして、それはロードバイクという趣味の魅力の一つでもある。
しかしながら、ここ数年で、その様相も変わりつつある。価格の高騰だ。今や完成車のトップグレードの相場は150万円を超え、プロ選手と同じ機材を楽しむことは、ひと昔前と比べて門扉がかなり狭まってしまった。トップグレードはいわば“スーパーカー的”存在となり、アルテグラクラスのコンポを装備するようなセカンドグレード以下が、僕たちにとって“現実的な最高峰”となりつつある。そんな変化するホビーサイクリストの要望に応えてくれそうなモデルが、今回試乗するコルナゴの『V4』である。
セカンドグレードであっても失わない高級感
試乗車はアルテグラDi2のコンポを装備したV4の中でも最高グレード。ホイールが普及品のフルクラム・レーシング600DBというアルミリムモデルが装備されているので、比較試乗に用意したV4Rsと並ぶと精悍さに物足りなさを覚えるのは致し方なかろう。
しかし、V4はV4Rsと“一卵性双生児”とあってフレーム形状は同様。だからV4の車体にV4Rsに装備されるデュラエースのホイールを履かせると、それだけで凜々(りり)しいピュアレーサーの姿に生まれ変わる。「Grigio」と呼ばれるガンメタ系のカラーは、ミラー系のロゴマークと相まって、ウェブで目にするよりも実車の方が断然重厚な雰囲気だ。セカンドグレードであっても、やはり高級感の演出のうまさは、さすがコルナゴである。
安心感ではV4Rsに勝っている
この世にはあまたのロードバイクがあるものの、時代が変わっても、モデルが変わっても、その走りに一貫した“らしさ”を持っているメーカーは極めて少ない。いや、もしかすると、それはコルナゴだけかもしれない。そして、V4もペダルを踏むとほどなくして「やっぱりコルナゴだ」と、筆者はつぶやいてしまった。
実寸よりもホイールベースが長いように感じられるほどに安定感は抜群だ。それは重量のかさむフルクラム・レーシング600DBから軽量なデュラエースのホイールに履き替えても、その印象は大きく揺るがない。バイクの中心に自然と収まる乗車感覚。さらには頼りがいのあるフロントまわりの剛性感。これらによって荒れた路面や滑りやすい路面でもコントロールに自信を持って挑むことができ、高速コーナーもバイク任せのオンザレールで曲がっていける。ライダーに怖さを微塵(みじん)も感じさせない。この安心感の高さは、まさにコルナゴの美徳である。
V4Rsの方が加速の鋭さ、ペダリングの軽さではやはりV4を上回り、そのレベルはさすがにポガチャルを勝利に導き続けるだけあって“超”が付く一線級である。しかしながら安定感で言えば重量の重さが功を奏してV4の方が勝っている。車重が軽く、バイクの動きが鋭いV4Rsは、プロ選手のようなライディングスキルであれば特に不安は覚えないだろう。けれども筆者のようなホビーライダーであれば、V4の安定感の方が扱いやすさを得やすいはずだ。特にロングライドやグランフォンドの後半など、疲れが出てきた時間帯のコーナリングや荒れた路面では、バイクコントロールのストレスを感じにくいだろう。
ホイール交換でレーシング性能がさらに開花する
標準で装備されるアルミホイールは重量がかさむので、初速や中低速の加速のキレはスポイルされるとはいえ、そのままであってもV4が持つ潜在的な走りの軽快感と軽やかなペダリングフィールは十分に伝わってくる。さらに実用速度域の時速30km以上での巡航は、バイクの安定感と相まってバイクがきれいに流れていく感覚にとても長けている。剛性感も適切で、トルクが強いようなペダリングを求めてこないのでムダ脚を使うことは少ない。そして、速度が増すほどに推進力に力強さを味わえるのは、これもまたコルナゴらしい乗り味である。
V4RsとV4を乗り比べてみると、V4は安定感や走りの軽さといったV4Rsの基本性能を的確に受け継いでいる。とはいえV4Rsの方が車重は軽く、剛性感がライダーへと伝わりやすい分、ハンドリングの俊敏性に優れ、加速はより鋭く、高負荷・高速域での走りに力強さがある。やはりテクニックとパワーのあるプロレーサー向けの味付けだ。もちろんV4Rsはホビーサイクリストが乗っても楽しめる。しかし、ロングライドやグランフォンド、そして長距離のロードレースで距離を重ね、体力が落ちてくるライドの後半、雨天や荒れた路面など、ライダーへの負担がかかるような場面を考えると、ホビーサイクリストにとってはV4を選んだ方が総合的に楽しく、快適に走れるのではないかと筆者は想像する。
ストック状態ではアルミホイールに少し加速を食われるものの、それもデュラエースのホイールに変えて乗れば一気に視界は良好になり、ピュアレーサーとしての実力が思い切り花開く。もちろん総合的な性能でV4Rsを凌駕することはできないが、多くのレベルのレーサーがV4を選んだからといって勝敗を左右されることはないだろう。脚力差のファクターの方が断然大きいはずだ。
ホビーレーサーに魅力的な速さと扱いやすさの絶妙なバランス感
ロードバイクの魅力の一つは胸の空くような加速だ。それを最も濃厚に味わうことのできるフラッグシップモデルは、多くのサイクリストが惹かれてしまうのは筆者も納得できる。しかし、僕たちホビーサイクリストは、プロ選手のようなパワーも出せなければ、神業のようなライディングスキルを持つわけではない。だからちょい乗りの試乗で加速に興奮する自転車よりも、長距離を走ったときに自分に寄り添いサポートしてくれる一台を選ぶべきである。そうした観点に立つとV4というモデルは、ポガチャルがトリプルクラウンを達成したV4Rsの濃厚なレーシング性能のエッセンスを反映しながら、ホビーレーサー(サイクリスト)にとっての扱いやすさを巧みにバランスさせた魅力的な一台である。
さらに言えば、先述したとおりコルナゴらしいライディングフィールがしっかりと表現されている点がすばらしく、それもまたV4、そしてコルナゴを買う価値である。とかくV4Rsにばかり目を奪われがちだが、筆者は今回のV4の試乗を通じて、老舗イタリアンレーシングブランドの底力を改めて見せつけられた気がする。
コルナゴ・V4 ラインナップ
V4 ディスク アルテグラ Di2
シマノ・アルテグラDi2完成車
価格:89万1000円
V4 ディスク 105 Di2
シマノ・105 Di2完成車
価格:71万5000円
V4 ディスク 105
シマノ・105(機械式12速)完成車
価格:56万1000円
カラー展開
サイズ展開
420S
455S
485S
510S
530S(カラーはVDDKのみ)
ジオメトリ
Brand Info〜COLNAGO(コルナゴ)について
1954年にエルネスト・コルナゴによって創業され、2024年で70周年を迎える老舗イタリアンブランド。常に自転車競技とともに歩み続け、勝利への飽くなき探求心からロードバイク史に輝く名作を数々残してきた。トレードマークであるクローバーが記されたそのバイクたちは、エディ・メルクスからタデイ・ポガチャルに至る歴代の偉大なるチャンピオンの走りを支え、全てのメジャーレースのタイトルを獲得している。