2024さいたまクリテリウム来日 プリモシュ・ログリッチ単独インタビュー
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2024ツール・ド・フランスさいたまクリテリウムの前日、レッドブル・ジャパンの社屋にてプリモシュ・ログリッチにこれまでのこと、これからのことについて聞いた。
チームを新たにし、手にしたグランツールでの勝利
さいたまクリテリウムの前日の11月1日(金)、東京都内のレッドブル・ジャパンの本社にて来日したプリモシュ・ログリッチ(レッドブル・ボーラハンスグローエ)にインタビューを行った。
今シーズン、ユンボ・ヴィスマ(現ヴィスマ・リースアバイク)からレッドブル・ボーラハンスグローエへとチームを移ったログリッチ。今年は、クリテリウム・デュ・ドーフィネの総合優勝を飾ってからツール・ド・フランスに臨み、途中落車により第13ステージで無念のDNS。
その後、ブエルタ・ア・エスパーニャではステージ3勝を挙げ、自身4度目のブエルタ総合勝利を収めた。
1年を振り返って、自身としてこれらの結果をどう評価しているのかを聞いた。
「僕はただ満足しています。本当に幸せで誇りに思っています。新しい環境、新しいチームに入って、達成したことが大きいです。実際、とても難しかったですが、多くの困難を乗り越え、全力を尽くしました。最終的には、素晴らしい勝利をいくつか手に入れ、僕の輝かしい戦歴に加えることができました」
新しいチームでグランツールに勝つということは、今までとは違った意味を持つのだろうか。
「素晴らしいことです。僕たちは本当にたくさんの努力をしました。もちろん僕だけでなく、チームメイトやスタッフ、周りの全ての人たちと一緒に。年間で3つのグランツールがあり、そのうちの1つを勝ち取りました。だから、僕たちにとって素晴らしい年でした」
レッドブル・ボーラハンスグローエというチームについて、そして自身の役割についてログリッチはこう語る。
「チームは大きく変わっています。レッドブルが参入してきて、全く新しいチームになりました。新しい様々な分野のスペシャリストがたくさん加わりました。将来的にチームが成功するかどうかは心配していませんが、僕は将来的に、最高のパフォーマンスを出したいと思っています。だからこそ、僕は彼らをサポートし、僕の知識や経験を活かして、どうすれば最高の状態になれるかを伝えようとしています」
古巣を離れた理由
2016年から8年間在籍し、長くリーダーを務めていたユンボ・ヴィスマから移籍を決めた理由については、「とてもシンプルです。結局のところ僕たちは異なるビジョンがあったのです。僕たちは一緒に成長し、素晴らしいストーリーを築いてきましたが、最終的にはチームがそれぞれのビジョンを持っていて、僕自身にも異なる考えがありました。だから、僕たちは自然にチームを離れるという結論に至りました。僕にとっても本当に素晴らしい経験でした。
僕はもう二十歳そこらではなく、キャリアの終わりに近づいているので、新しい環境で新しい人たちと出会うことができたのは良いスタートになりました。新しいチームに移ることができたのは、とても良いことだと感じています」と話した。
昨年のブエルタでは、総合1位にセップ・クス、2位にヨーナス・ヴィンゲゴー、3位にログリッチと、ユンボのメンバーが表彰台を独占した。輝かしい結果をもたらした一方で、チーム内でのリーダー争いは酷なものではあった。
第8ステージでクスがマイヨ・ロホに袖を通し、そこからキープ。第16ステージでヴィンゲゴーが勝利し、トップのクスとのタイム差を1分ほど縮めると、第17ステージでチームは、チーム内のトップ3人を競わせる指示を与えた。そして、ログリッチは厳しいアングリルの上りでチームメイトに対してアタックを仕掛け、ステージ勝利。
その後、最終的にチームはクスを勝たせるという方向に舵を切ったが、これまであまりなかったように思われるチーム内で競わせるという選択肢は、ログリッチからすれば重要なチャンスの一つであった。当時、どのような思いを持っていたのだろうか。
「セップが最後に一番良かったので、彼が勝つのにふさわしかったのは間違いありません。1位から3位までが同じチームの選手だったのも、素晴らしいことです。僕たちは、僕が出たジロ、ヨナスが出たツール、そして最後のグランツールをセップが、それぞれ別の選手が勝ち取って、ブエルタでは1-2-3を達成しました。これ以上のことはありません。
一方で、自分自身のことを振り返ると、家族と共に、そのレベルに到達するために必要な犠牲もありました。自分を応援してくれる人たちに対しても、最高の自分を見せる責任があります。これが、チームを変える決断をした理由の一つでもあります。自分のベストを尽くすための機会が欲しかったのです」
グランツールを戦ううえでヴィンゲゴーやクスが長年リーダーを務めたログリッチから教わったことも多いはずだ。また、逆に彼らの存在はログリッチに対してどのような影響を与えたのか。
「彼らは僕から多くを学んだと思います。僕たちは一緒に多くのグランツールを走りましたし、彼らは偉大なチャンピオンです。特にヨーナスはツール・ド・フランスを勝ち取ったし、セップも同様です。グランツールに勝つというのは本当に特別なことで、誰もができるわけではありません。そういう意味で、僕が彼らの成長の一因であったならうれしいですし、その一部になれたことは素晴らしいです。
また、彼らの存在も僕をより良くしてくれる要因です。競争があることで、自分自身を高めるモチベーションになりますし、彼らのおかげで僕も成長できました」
そもそものマインドとして、何よりも自身のベストを尽くすことに意味があるとログリッチは考えるそうだ。
「結局、コントロールできるのは自分自身だけだということです。相手をコントロールすることはできません。自分の行動によって相手の反応を少しは影響できるかもしれませんが、相手が何をするか、どれだけ速く走るかは彼ら次第です。僕がコントロールできるのは、自分自身とその限界だけです。
サイクリングというのは本当にハードな耐久スポーツで、常に自分との戦いです。痛みを感じるとすぐにやめたくなるし、それでも自分を奮い立たせて、ベストを尽くすのが大きな挑戦となるんです」
これから目指すこと
来季に目指すものについてはこう答える。
「数週間前にシーズンが終わったばかりなので、そろそろ再スタートを考え始めています。現在は特に若い選手たちがどんどん成長していて、彼らは本当にハードに走っています。僕が23歳のときに自転車を始めたことを考えると、今の20歳の選手たちのレベルは本当に印象的です。最近のサイクリングは、5年前とは全く違うスタイルになっています。
まだまだトップ選手たちと競争し続けたいので、彼らのペースについていく必要があります。それが大きな挑戦です。もちろん、勝つことが好きなので、どんなレースでも勝てることは本当に素晴らしいです。来年は何かを勝ち取るために頑張ります」
ログリッチはジロとブエルタの表彰台の頂点には登ったが、まだツールの頂点は経験していない。ツールへの勝利というところに執着心はあるのだろうか。
「皆さんご存じのとおり、ツール・ド・フランスについてですが、勝ちたいとは言わない方がいいかもしれませんね。そうすれば、勝つことになるかもしれないので……。僕の成績に加えられたら本当に美しいことです。
でも、今のサイクリングは非常に厳しいです。例えば、ツアー・ダウンアンダーに勝つことは想像できませんね。今からトレーニングを始めても、もう遅すぎます。
競技レベルが非常に高くて、全てを捧げてレースに臨む選手がたくさんいます。最終的に勝てたら本当に素晴らしいですが、ツール・ド・フランスや他の2つのグランツール、モニュメントレースなど、大きなレースでの勝利も含めて挑戦していこうと思います。サイクリングには1月から10月までたくさんのレースがありますから。チャンスはたくさんあります」
同国ポガチャルの強さの原動力は“楽しさ”
ジロを勝ち、同年のツールを勝ち、世界チャンピオンにすらなった同じスロベニアのタデイ・ポガチャルについては、ログリッチからはどう見えており、どの部分に強さを感じているのか。
「彼とは友達ですし、彼が今、成し遂げていることは本当にすごいことです。信じられないほどのレベルですから、僕たちは彼をどうやって倒すかを考えるのではなく、自分たちをどう改善できるかを考えています。彼はもう20歳というような年齢ではありませんが、まだ若いですし、彼が持っている楽しさが最大の強みだと思います。それが自転車レースに対する姿勢を支えているんです。もちろん、パフォーマンスやパワーなどの数値も素晴らしいですが、楽しむという部分が彼の本当の強さだと思います」
レッドブル・ボーラハンスグローエの単独エースとして挑んだ今年のツールでは、ポガチャルやヴィンゲゴーに対して、どのように勝利への算段を立てていたかを聞くと、「確かに十分ではありませんでしたね」と笑う。
「今考えると、僕たちは本当に十分な努力をしていなかったと思います。しかし、現実的に考えなければなりません。僕たちはグランツールに勝つことに慣れているチームではありませんし、毎年必ず1つは勝てるわけではありません。だから、時間が必要です。皆が一歩ずつ進んでいく必要があります。僕も年を重ねていますが、まだ学んでいる最中で、これからも学び続けます。今年は何か新しいことを取り入れ、少しでも成長できればと思っています。結果については、最終的にどうなるか見てみる必要がありますが、今年のツールの総合トップ3、タデイ、ヨーナス、レムコ(・エヴェネプール)に対して、僕たちがあまり遅れをとっていないことは確かです」
最後に自身のリラックス方法について聞くと、ログリッチはこう答えた。
「二人の子供の父親として、家に帰ると自転車のことは全く考えません。子供たちの要求が最優先ですし、その時期は夫としても、父親としても努力しています。それが一番の挑戦です。彼らがいるからこそ、僕はレースの準備で4カ月も家を空けることができるのですから」
2024ツール・ド・フランスさいたまクリテリウム
■ 日程:2024年11月2日(土)
■ 会場:さいたま新都心駅周辺(埼玉県さいたま市)