猪野学 ネオ坂バカ奮”登”記 第38回
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スタート&ゴールの二子玉川。今回こそはブルベを楽しむと意気込む筆者。
2024年の目標である1000kmのブルベ完走に向けて、まずはその出場権獲得に必要なSR(スーパーランドヌール)取得に向けての道半ばの私。
というわけで300km、400kmのブルべに続き、いよいよ最大の難関!BRM鬼怒川600kmに出場してきた。
スケジュールが許さないため、前回の400kmから僅か2週間での挑戦だ。
600kmは制限時間が40時間なので睡眠がとれる。
1日目は330km走り、矢板のルートインで仮眠をとる予定だ。
聞くところによると、どうやらブルベを楽しむコツは旅感覚らしい。
どこか遠くへ赴き風光明媚なコースを走れば良いのたが、そんなスケジュールは無い。
という理由から選んだのが、ご近所の多摩川出発!多摩川ゴール!のBRM鬼怒川。
これで決まりだ!
朝7時に二子玉川を出発!普段トレーニングで走っている多摩川沿いを、北上する。
今回のテーマはズバリ楽しむ事!
楽しむためには心拍数を上げないのが鍵ではないかと考え、鼻呼吸を徹底する。
ツール・ド・フランスでレムコやポガチャルが涼しい顔で口を閉じて走る…
そう!皆んなの憧れの鼻呼吸走法だ!
さらに口角を上げる事で「楽しいのだ」と脳を錯覚させる画期的な作戦なのだ。
ひとつ目の峠、山伏峠も鼻呼吸で楽しむ。
すると1時間前の6時スタート組の参加者が現れた。
見ると女性で小径車で参加されている…小さなタイヤで600km…上には上がいるものだ。
埼玉県の秩父に入りさらに奥秩父へと入って行く。
初めて踏み入る領域だ。
すると日航機墜落事故慰霊碑が目に止まる。
航空機史上最も傷ましい事故だ。
ブルベじゃないとまず来ない山奥だし、ゆっくり走っていなければ見逃していたかも知れない。
ゆっくり歩む事で得るものある….私は合掌し奥秩父の峠を越えて群馬県に入った。
矢板矢坂矢板矢坂矢板矢坂矢板矢坂
峠を越えると160km地点の有人のPCがある。
スタッフの方が「文字どおり峠は越えました…あとは那須塩原まではド平坦ですよ」と励ましてくれた。
読者の皆様はお分かりだろう…サイクリストのこういう言葉は信じてはいけない。
案の定、群馬県の前橋に入るとそれは訪れた。
群馬名物「赤城おろし」だ。
猛烈な向かい風が襲ってくる!
以前、前橋工業自転車部を取材した時に「群馬は風が強いから強い選手が育つんです」と言っていた。
猛烈な向かい風で一気に上がる心拍数!
鼻呼吸走法は脆くも崩れ去り、開いた口からは様々な液体が流れ出す。
頑張っているのに全然前に進まない…
やっとの思いで260km走りPCのコンビニに着いた時に異変に気付く。
コンビニ弁当を見るだけで吐き気をもよおす。
一気に強度を上げた事で内臓をやられたらしい。
固形物どころか頼みのアスリート粉飴も受け付けない。
無理矢理カロリーメイトをかき込みながら走るが力が入らない…ハンガーノックだ。
意識が朦朧とし、いよいよマズい状態だ。
チェックインが遅れる旨を、今宵の宿のルートイン矢板に電話する。
「ルートイン矢坂(やさか)ですか?」と聞くと「いぇルートイン矢板(やいた)です…」と帰ってくる…
ん?ハンガーノックのせいか?
しばらく矢坂と矢板の不毛なやり取りが続く。
私は坂バカなのでルートイン矢坂(やさか)を予約してしまっただろうか?
そもそも日本に矢坂(やさか)ってあるのか!?
宿が取れてないと痛い…全身から冷や汗が吹き出す!
すると「猪野様…矢板(やいた)で予約されております’」とフロント。
世に言う“矢板/矢坂 騒動”だ。
何とか予約の確認は取れた…
ホッとすると、あたりは漆黒の闇だ。
恐らく群馬か栃木か…どこかの田園地帯なのだろう。
気を取り直しスタートすると頬に雨粒を感じる。
雨粒はあっという間に大粒となりゲリラ豪雨となる…漆黒の中、滝のような雨に打たれる。
これは何かの罰ゲームか?
ブルベを楽しむのが目的だったのに完膚なきまで叩きのめされている。
すると雨の影響でiPhoneの電源が陥ちる。
漆黒の闇でライドwith GPSというナビゲーションを失った…
リタイアが脳裏をかすめるのであった。
後編!
ルートイン矢板が坂バカを救う! へと続く。