スマートトレーナーの祖 エリートの最新機種、ベストはどれだ?

目次

エリートのスマートトレーナー

Presented by Elite

バーチャルサイクリングアプリの地形変化に合わせて負荷が自動で変わるスマートトレーナー。20年ほど前、世界初のスマートトレーナーを作ったのはイタリアのブランド、エリートだ。この企画ではエリートの最新モデル3機種を紹介し、その性能を徹底解剖する。

 

エリートのスマートトレーナー

 

エリートの輸入代理店カワシマサイクルサプライによると、世界初のスマートトレーナーは、20年ほど前に同ブランドが発表したリアルアクションだという。

その後、エリートは後輪を外してバイクをトレーナーに設置する世界初のダイレクトドライブ式スマートトレーナーを発表。音の静かさや振動の少なさが特徴で、その後多くのブランドが追随した。精度の高さに定評のある光学トルクセンサー式パワーメーターを採用する唯一のブランドでもある。

先進性だけに目を奪われがちだが、カワシマサイクルサプライによると、エリートは日本の住宅事情も考慮して、音の静かさや振動の少なさを徹底的に追求しているという。回転部分の精度の追求や本体の振動を減らすアルミ鋳造製ボディの採用などはその一例だ。

さらにサイクリングアプリを独自に開発したり、フロントフォークに装着して勾配変化の再現とステアリング機能を実現するデバイスであるライザーを発表するなど、インドアトレーニングの環境作りにも力を入れてきた。

スマートトレーナーの歴史を作り、市場を開拓し続けてきたエリートは2025年モデルで、3つの新製品を発表した。この企画では各モデルの違いや特徴を紹介し、実際にズイフトでライドしてインプレッションを行う。

 

AVANTI(アヴァンティ)

15万4200円

アヴァンティ

新設計の最新モデル上位機種譲りの高機能

±1%の高精度なパワー計測が可能な光学式トルクセンサーを内蔵し、最大パワー2100W、最大18%の勾配を再現可能。Bluetooth 2回線を同時接続できるようになったほか、オンラインサイクリングで重要な安定した接続を実現するため、Wi-Fiルーターに無線接続できるのが特徴。通常の10倍に当たる毎秒10回のデータ送信が可能で、正確なライドデータが記録できる。ミドルグレードながら、上位機種とほぼ同等の機能を実現。

フレックスフィート

脚部のフレックスフィートにより、本体が横方向に4.5°動く。自然な乗り心地を実現し、サイクルトレーナー特有の筋疲労も低減

本体

本体は鋳造アルミ製。回転部の精度が高く振動が少ない。持ち上げたときにバランスが取れる位置にハンドルが設置される

脚を折り畳んだ状態

脚を折り畳んだ状態の横幅は、僅か21cm。収納時にも邪魔になりにくく、この状態でもしっかり自立するので安心だ

フライホイール

4kgのフライホイールで上位モデルに迫る最大パワー2100Wに対応。最大18%の勾配を再現でき、インドアサイクリングを存分に楽しめる

アダプター

12mmスルーアクスル、9mmクイックリリースなど、様々な規格に対応するためのアダプターも本体に収納できる

Impression

回転部の精度が高く、高ケイデンスのペダリングでも音や振動は少ない。ライド中に近くの人の会話が聞こえるほどで、動画を見ながらライドしても通常の音量で大丈夫そう。ズイフト中に通信落車が起こらず、エルゴモードでのワークアウト中に突如踏めなくなるほどの負荷変動もなく、光学式トルクパワーセンサーのお陰で瞬間的に大トルクをかけてもパワー変動もしっかり記録する。ストレスなくライドに集中できた。

 

DIRETO XR with Zwift COG&CLICK(ディレートXR ウィズズイフト コグ&クリック)

13万2300円

ディレートXR ウィズズイフト コグ&クリック

ズイフト用変速システム搭載 お値打ちなエントリーモデル

エリートのダイレクトドライブ式スマートトレーナーのエントリーモデル、ディレートXRにズイフト専用変速システムのズイフトコグ&クリックが装備されたモデル。上位モデル同様の光学式トルクセンサーを搭載し、±1.5%という高精度なパワー計測を実現。負荷機能も最大2300Wとハイエンドモデルと同レベルだ。ズイフトコグ&クリックは8〜12段変速の多くのバイクに対応し、バーチャル変速なので静音性も抜群だ。

ズイフトコグ

ズイフト専用バーチャル変速システムのズイフトコグ&クリックを標準装備。バイク側の変速段数に依存せず、複数台で使い回せる

ズイフトクリック

ズイフトコグは、手元のズイフトクリックで変速する。仮想変速段数は24スピードで、ボタンを1回押すごとに1段ずつ変速する

Impression

エリートのスマートトレーナーは静かで振動も少ないが、ズイフトコグ&クリックを使うと変速時のガチャンという音すらしなくなる。これなら集合住宅でも早朝ライドや夜間ライドが楽しめるのではないか。さらに自転車側の変速段数に依存しないので、変速段数が違う自転車でも1台のスマートトレーナーを簡単に併用できるのも魅力だ。ただ、うっかり自転車側の変速レバーを操作してしまうとチェーンラインが狂ってしまうので注意が必要だ。

 

JUSTO2(ジャスト2)

21万9800円

ジャスト2

エリートのハイエンド 最高峰の性能を実現

パワー計測誤差1%以下の光学トルクセンサー式パワーメーターに、センサーの校正を自動で行うオートキャリブレーションも搭載。最大負荷2300W、最大24%の勾配を再現可能なハイエンドモデル。BluetoothデュアルチャンネルやWi-Fiルーターへの無線接続対応、データ送信が通常の10倍で行えるファストトラック機能搭載と、通信機能も強化。アルミボディが振動を抑えて音も静かと、まさに究極のスマートトレーナーだ。

フライホイールの重量も高い実走感の演出に一役買っている。アヴァンティのフライホイールが4kgであるのに対して、ジャスト2のフライホイールは3.2kg増の7.2kgのフライホイールを採用している。バーチャルサイクリングで下ってから上り返すようなコースでは、フライホイールの重量差がそのまま慣性の違いとなり、負荷のスムーズな変化や、自然なペダリングフィールとなってライダーが実感できるのではないだろうか。

アヴァンティとジャスト2のカタログスペックにフライホイール単体の重量は記載されていないが、負荷強度や測定精度だけではない、実走感の違いを生む部分である。

 

フレックスフィート

フレックスフィートを搭載。本体が横方向に4.5°揺れる黒い脚と7°揺れる赤い脚があり、好みに応じて付け替えることができる

ゲートウェイ

別売のゲートウェイ(1万7500円)とLANケーブルでトレーナーとルーターを有線接続し、より安定した通信を実現できる

フライホイール

フライホイールは7.2kg。最大2300Wの負荷を実現し、最大24%の勾配を再現できる。これらはいずれもエリートでは最大の数値だ

脚を畳んだ状態

脚を畳んだときの本体の幅は19.5cmと、今回紹介する3モデルの中で最もコンパクトになる。使わないときも邪魔にならない

Impression

アヴァンティと同じフレックスフィートを搭載。シッティングでのペダリング中も本体が自然に揺れるので、インドアトレーナー特有の、実走と微妙に違う場所の筋疲労が出にくそうなのが印象的だった。アルミ製の本体で振動を抑え、ライド中の音も静かだ。アヴァンティとの違いは最大負荷と再現可能な最大勾配で、ジャスト2は勾配の再現度が非常に高く、バーチャルサイクリングへの没入感が一段上だと感じた。

 

3機種のスペック表

バイク固定方法:エンド幅130 〜135mmのクイックリリース、142mmのスルーアクスル対応。
別売アダプタで135×10〜12mm、135×12mmスペシャライズドSCS規格、148×12mmブースト、157×12mmスーパーブーストに対応
問・カワシマサイクルサプライ

 

SUPPORT 修理は国内で対応。預かり期間の短さも魅力

スマートトレーナーには2年間の保証があり、通常使用による故障は無償で修理が受けられる。修理はユーザーが国内正規販売店を通じて依頼し、カワシマサイクルサプライが担当。おおむね1週間〜10日で返送される。同社サポート担当の清原裕介さんによると、故障の最大の原因は汗。「ライド中は室内に湿気がこもらないよう換気し、スウェットカバーを活用し、汗がトレーナー内部に入るのを防ぎ、使用後にから拭きするだけでも違う。少しでも違和感があれば販売店にご相談ください」

エリートのサポート

 

Adviser

浅野さん

浅野真則

自転車ライター。2015年からズイフトを始め、5年前にスマートトレーナーを導入。今欲しいものはズイフトのアバターを手元で操作するコントローラー、ズイフトプレイ(日本未発売)

 

歴史を重んじつつイノベーションを忘れない

text&photo 本誌・中島丈博

エリート本社

本社を象徴するのは2本のチムニー。中に石灰石を積めて焼成し、生石灰を生産する工場だったもの。1890年と1913年に建設された

今回のスマートトレーナー新作発表の前、2024年の3月にエリート本社を訪れる機会を得た。イタリア、パドヴァにある歴史的建造物を含む本社敷地内には、R&Dセクションや倉庫、品質管理部門がそろう。1979年に創業した同社はボトルやボトルケージ、トレーナーやカーキャリヤ、メンテナンススタンドをラインナップする、自転車競技の縁の下の力持ちだ。

トレーナーの処女作は、創業当時にラインナップされていた3本ローラー「スーパープロフェッショナル」と「オリンピオニカ」。1992年にはタイヤドライブ式の「トラベルマグ」を発売。スマートトレーナーの原型となったのが、2005年に登場した「リアルアクション」というモデル。当時はまだズイフトのようなオンラインサイクリングサービスがなく、PCにインストールして使用する「リアルソフトウェア」が同梱されていた。実際のレースコースや有名な峠が収録されており、ネットに接続すればユーザー同士でレースができるものだった。

リアルアクション

初代スマートトレーナーのリアルアクション

リアルアクション付属のソフトウェア

付属のソフトウェアには名峠が収録されていた

また、「マイEトレーニング」という自社製APPがあり、欧州選手がオフシーズンにトレーニングを行う「マペイ・スポーツセンター」が監修したワークアウトを利用できたり、自身が録画したコースをインドアトレーニングで活用できたりといった機能を持った製品をいち早くリリースしていた。

そして、2012年にフレームを直接トレーナーに固定するダイレクトドライブ形式の「リアルターボムイン」を発表する。レモン製のダイレクトドライブタイプのトレーナーもあったが、ファンで走行抵抗を作っていたので騒音がひどかった。それをコンパクトに、静かにしたターボムインはヒット作となったのだ。日本市場でもよく売れたという。

リアルターボムイン

リアルターボムイン

そして、新作の全てに搭載されている光学式トルクセンサーを初めて搭載したのが2016年に登場した「ドライボ」。スピードやケイデンスから仮想パワー値を算出するよりも精度を高めるのが狙いであった。ひずみゲージと比べても測定誤差は小さい(±1%以下)。

ドライボ

ドライボ

現在出荷されるエリートのスマートトレーナーは、製造こそパートナー企業で行われているが、出荷前の品質管理は本社で全数検査している。基準となる出力で回るモーターに一台一台セットして、数値のズレや、振動が起きないかをチェック。フライホイールは一つずつバランス取りも行われている。

日本市場のユーザーは特に厳しいそうで、その声あって今の検査体制ができたと言っても過言ではないそうだ。

スマートトレーナーの校正を行うセクション

スマートトレーナーの校正を行うセクション。検査機が並ぶ

ジャスト2の内部

ジャスト2の内部構造。メーカーで分解修理ができる体制を敷いている。ベルトを伝って汗が内部に入り込んでしまうと故障の原因になる