サイクルスポーツが選ぶ2024年10大ニュース・プロダクト編

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10大ニュースプロダクト編2024

オリンピックイヤーだった2024年は、自転車界でもさまざまな製品が発表された。年末恒例のサイクルスポーツが選ぶ10大ニュース・プロダクト編では、話題の製品やサービスから2024年を振り返る。

 

軽くてエアロ、メジャーブランドの軽量オールラウンダーが続々登場

ピナレロドグマF2024

ピナレロ・ドグマF

2024年はメジャーブランドのロードバイクのレーシング系最新モデルが次々と発表された。ピナレロ・ドグマF、トレックからは第8世代マドン、ジャイアントからは第10世代TCR、スコット・アディクトRCなど、各ブランドを代表する“主役”たちのそろい踏みとなった。

これらのモデルは、いずれも軽量でありながら、ハンドルまわりの造形やフレームのチューブ形状を見直すなどして空力性能も向上させている。いわば軽量でエアロなオールラウンダーだ。かつては軽量なクライミングバイク、空力性能に特化したエアロロードと明確な役割分担があったが、そうしたラインナップを保つブランドは減りつつある。

ただ、同じような軽量オールラウンドバイクを標榜していても、各ブランドの立ち位置は微妙に異なる。ハイエンドモデルの完成車重量5.9kgと軽さに重きを置くアディクトRCに対し、マドンはシートチューブのISO FLOWに象徴されるようにどちらかというと空力性能と快適性に重きを置いているのは興味深い。

トレック・マドンSLR

2024GIantNewTCR

ジャイアント・TCRアドバンスドSL

スコット・新型アディクトRC

スコット・アディクトRCアルティメット

 

本当にeバイク?ユニットやバッテリーが目立たない軽量eロードバイクが日本上陸

トレック・ドマーネ+ SLR

トレック・ドマーネ+SLR9

黎明期のeバイクは、アシストユニットやバッテリーの存在感があり、一目でeバイクと分かったものだ。バッテリーの内装などでかなりデザインも洗練されてきたが、特にeロードバイクはeMTBと比べるとフレームが細く、バッテリーやアシストユニットが目立ちやすい傾向にある。

しかし、トレック・ドマーネ+SLRやオルベア・ゲインなど、一目見てeバイクとは思えないような洗練されたデザインのeロードバイクが続々と日本に上陸した。

ドマーネ+SLRはBB付近に、ゲインは後輪にアシストユニットを搭載するが、いずれも小型軽量で目立たないため、一見普通のロードバイクにしか見えない。それでいてドマーネ+SLRはおよそ96km(レンジエクステンダー併用で146km)、ゲインはおよそ150kmの航続距離があり、完成車重量も12kgを切っている。重さやバッテリーのもちといったeバイクの弱点もクリアしており、輪行ツーリングだって視野に入ってくる。

今後ますます軽量で高性能なeロードバイクが登場することも期待でき、スポーツバイク市場に占めるeバイクのシェアも拡大することだろう。

オルベア・ゲイン

オルベア・ゲイン

 

アルカンシェルを獲得した国産トラックバイク「V-IZU TCM」

パリ2024五輪 V-Izu TCM-2

photo:Koichiro NAKAMURA

オリンピックイヤーの2024年、トラック競技の日本ナショナルチームはパリ五輪に向けて新開発されたの国産のトラックバイク「V-IZU TCM」を投入した。レーシングカーや航空機の開発を手がける東レカーボンマジックが開発を手がけ、東レの最先端カーボン素材を使い、HPCJC(ハイパフォーマンスセンター・オブ・ジャパンサイクリング)のフィードバックを受けて開発された。

このバイクで、10月に行われた世界選手権トラックでは、窪木一茂選手が男子スクラッチで日本人初の金メダルを獲得。この種目の世界チャンピオンとなってアルカンシェルを獲得した。また、パリ五輪では男子チームスプリントで日本記録を更新し5位に入賞、男子ケイリンでは中野慎詞選手が4位入賞を果たした。

 

スラム・レッドAXSやクラシファイド・ビスターなど注目のコンポーネント登場

レバー

スラム・レッドAXSのシフト/ブレーキレバー photo:長谷川拓司

バイクの変速や制動などを司るコンポーネントにも注目の製品が登場した。

スラムはレッドAXSをモデルチェンジ。ブラケットを持つエアロポジションで走る選手が増えたことから、シフト/ブレーキレバーのブラケット形状を大幅に見直したほか、ブラケット先端に新たにボタンを設け、変速などの操作や無線ドロッパーシートポストなどの操作に対応。MTB/グラベルのAXS(無線変速)コンポーネントと組み合わせて使うことも可能だ。

無線式の電動内装変速リアハブ「パワーシフトハブ」を展開するクラシファイドとコンポーネントブランド・TRPとのコラボによって誕生した電動グループセット「VISTAR // Powershift(ビスターパワーシフト)」がユーロバイク2024で発表された。フロントシングルのチェーンリングと外装12速カセット、クォンタムシフトを組み合わせ、ギヤ比はロード用とグラベル用が用意される。ブレーキレバーのボタンを使って変速し、ロード用は16段、グラベル用は15段の仮想の変速(ギヤ比パターン)を実現した。

多段化が進み、操作フィールをはじめとするライドクオリティが向上し、変速が電動やワイヤレスになるなど、技術的にも人間工学的にも進化を続けるコンポーネント。今後どんな進化を遂げるのだろうか。

ビスターパワーシフト

クラシファイド×TRP・ビスターパワーシフト

 

グラベル用コンポーネントのニューモデルが登場 シマノ・GRX、カンパニョーロ・エカルGT、スラム・レッドXPLR

シマノのグラベルコンポGRXに2×12速電動変速仕様が新登場

シマノ・GRX Di2 RX825シリーズ

ホビーライダーが楽しめるグラベルイベントも国内外で増え、裾野が広がりつつあるグラベル界隈。2024年はグラベルグラベルコンポーネントのニューモデルが主要ブランドから相次いで発表された。

シマノは昨年発表されたばかりのグラベル用コンポーネントGRXに12スピードのDi2仕様を追加。先に登場した機械式変速とは違い、フロントダブルのみで、ロードバイクコンポーネントの上位モデルと同様カセットの最小歯数は11Tとなる。先に登場した機械式変速12スピードでは、フロントシングル×最小歯数10Tの新しいカセットスプロケットが採用されており、ロード中心のツーリングから本格的なグラベルライドまで、ライドスタイルによって幅広い組み合わせが選べるのも魅力だ。

カンパニョーロはグラベルコンポーネントのセカンドグレード・エカルGTを発表。1×13スピードというドライブトレインは上位モデル・エカルと変わらないが、機械式変速のみとしたり、使用素材を見直したりすることで手の届きやすい価格を実現している。

スラムはレッドXPLRを発表。ドライブトレインが1×13スピードとなったのがトピックだ。このコンポーネントと同時に傘下のジップからリム内幅32mm、対応タイヤ幅は40〜60mmというグラベル専用設計のホイール・303XPLRも登場し、グッドイヤーからはこのホイールのためのタイヤも発表された。足まわりも含めたトータルでひとつのコンポーネントを形成しているのが特徴だ。

エカルGT

カンパニョーロ・エカルGT

スラムレッドXPLR2024

スラム・レッドXPLR photo:吉田悠太

 

ズイフト誕生10周年。新ワールドやルートが追加、ズイフトコグ&ズイフトクリックでハード面も進化

ズイフト10周年

バーチャルサイクリングサービスの先駆け、ズイフトは2024年で10周年を迎えた。これに合わせ、ズイフトの現在のメインワールド・ワトピアの一エリアとして、ズイフト誕生時のベータ版の舞台だったジャービス・アイランドが復活。ジャービス・アイランドを通る新コースも誕生した。先日行われた「アミノバイタルⓇ全日本最速店長選手権 in Zwift 4th」では、新コースのひとつ「Coast to Coast」がレースの舞台となった。

ハード面でも新しい動きがあった。スマートトレーナーに装着された専用のコグを専用のスイッチで操作することで、バーチャル空間内での変速ができる「ズイフトコグ&ズイフトクリック」が登場。変速スイッチを押すことでスマートトレーナーの負荷が変わって変速したのと同じ状態になる仕組みで、チェーンがスプロケットの上で移動するときの変速音がなくなるため、騒音が抑えられるという特徴がある。集合住宅住まいのインドアサイクリストに取っては朗報だろう。

ズイフトコグ

ズイフトコグ

ズイフトクリック

 

大手ブランドVS新興勢力、群雄割拠のカーボンホイール

2024カンパニョーロボーラウルトラWTO

カーボンホイールといえば、バイクの軽量化につながり、走行性能にも大きな影響を与えるサイクリストあこがれの機材。大手ブランドではカンパニョーロのボーラWTOシリーズが3代目にリニューアルを果たしたことが今年のトピックだ。このところ急速に進むタイヤのワイド化に対応すべく、内幅23mmのリムを採用。ボーラの代名詞と言えるG3スポーキングは、上位モデルのウルトラでは従来の8対から7対へと変更され、空力性能を向上させている。

ここ最近は円安や物価上昇で機材の高騰が進んだ影響もあり、新興ブランドやビルダー系のブランド、中華系ブランドも勢力を拡大している。こうしたブランドのカーボンホイールは、大手ブランドのものと比べて比較的手ごろな価格で購入できるものが多い。また、オリジナルのハブやカーボンスポークを設計する技術力の高いブランドもある。

一方でリペアパーツの入手性や保証など、アフターサービスの充実度はまちまちという問題もある。お値打ちとはいえ高価なものなので、性能、コスパはもちろん、アフターサービスなども考慮して賢く買いたいところだ。

 

小径車にもディスクブレーキ化×タイヤ太幅化の波

K9クロス

ダホン・K9X

ロードバイクはディスクブレーキが普及したことに合わせてフレーム設計が変わり、どんどん幅の広いタイヤがはけるようになっている。こうした流れは小径車界隈でも見られ、ディスクブレーキを標準装備し、太めのタイヤを履きこなすモデルも増えている。

ダホンでは人気モデルK3のホイールをインチアップしてエアボリュームのあるタイヤを履き、ディスクブレーキを標準装備してドライブトレインを多段化したK9Xというモデルを発表。birdyでもブロックタイヤ×ディスクブレーキのGTというモデルが数年前から定番モデルとしてラインナップされている。バイクのカスタムでも太めのタイヤを履かせてちょっとしたグラベルを走れるようにする人も増えている。

車輪が小さい小径車は、ロードバイクに比べて段差や悪路の走破性が低く、路面の衝撃を伝えやすいが、太めのタイヤを履くことで乗り心地がよくなったり、路面状況が悪い場所の走破性を高めることも期待できる。小径車のタイヤを太くするカスタムは、重量の軽さや軽快さを追求するのでなければ理にかなっていると言えるだろう。

田村さん

パシフィックサイクルズ・birdy GT photo:島田健次

 

スペシャライズドのMTB・スタンプジャンパーがリニューアル。独自開発のリヤサス搭載

スタンプジャンパー15登場

MTBでは、1981年に誕生した世界初の量産MTB、スペシャライズド・スタンプジャンパーの15代目スタンプジャンパー15が登場したことがトピックといえるだろう。

このモデルは、特許出願中のジーニーというリヤサスを搭載しているのが特徴。DHバイクのように大きなバンプの衝撃を吸収する高い衝撃吸収性と、ショートトラベルバイクのようなペダリングロスの少なさや軽快さを両立する。

また、ヘッドパーツの入れ替えでヘッドアングルを3通りに変更でき、ホルストリンクの向きを入れ替えることでBBハイトも変更できるなど、ライダーの好みやコースに合わせてバイク自体の特性を変えることもできる。ロードバイク以上に細分化が進むMTBの中で、1台であらゆるトレイルを楽しめるユーティリティバイクだ。

 

タイヤもエアロ化! 各社から空力性能に優れたタイヤが登場

コンチネンタル エアロトリプルワン

コンチネンタル・AERO111

ロードバイクでは空力性能の重要性に注目されるようになり、フレームやホイールは空力性能の高さがひとつのセールスポイントになっている。2024年は奇しくも複数のブランドの「エアロ」をキーワードにしたタイヤが出そろい、注目を集めた。

コンチネンタルはフロント専用タイヤAERO111を発表。空力研究のスペシャリスト・スイスサイドと共同で開発し、トレッドに整流効果を高めるボルテックスジェネレーターを規則的に配しているのが特徴だ。

カーボンホイールでおなじみのエンヴィも、エアロに注目したタイヤ・SESをラインナップする。TUFOとの共同開発で作られ、CFD解析や風洞実験を行い、空気の流れを整えるトレッドパターンを採用している。

カデックスのエアロチューブレスは、カデックスのフックレスホイールに装着したときに最適な形状になるように設計されており、自社ブランドのタイヤとホイールの組み合わせで最高の空力性能を得られるようになっている。

タイヤの性能といえば、グリップや転がりの軽さ、重量の軽さ、乗り心地などさまざまなファクターがあるが、今後ここにエアロという新しい要素が加えられることになるかもしれない。