猪野学 ネオ坂バカ奮”登”記 第41回

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美しい瀬戸内海の景色

美しい瀬戸内海の景色。この景色に何度も励まされた……

坂バカ俳優、猪野学(いの まなぶ)。NHK BS1の番組「チャリダー★」で活躍する姿は、多くのサイクリストが知るところだ。Cyclist(サイクリスト)で連載中だった「猪野学の坂バカ奮闘記」が、サイト閉鎖にともないサイクルスポーツへお引越し。さらなる活躍をレポートしていく。今回は、ブルベ「BRM1012徳島1000km」の参戦記だ。(編集部)

前回のお話(BRM803東京200金太郎編)はこちら

 

ダンシング封印作戦

1000km……途方もない距離だ。それを自転車で75時間かけて走る。BRM1012徳島1000km! いよいよ最大の難関が幕を開ける……

SRを取得し四国1000km出走が決まってから、日々の天気予報を見るたびに、私の視線は全国地図の四国へとフォーカスし「あぁ〜あそこを一周するのかぁ……ホントにできんのかぁ〜」と憂鬱な気分にさせるのであった。

しかしありがたいことに準備の期間は充分にあった。そう! しっかりと対策をしてきたのだ。

まず一番の問題は、ここ最近のブルベで胃腸を壊してしまっていることだ。何としても胃腸は死守しなければならない。そのために導入したのが心拍計だ。日本縦断を果たした「篠さん」が「心拍数はずっと100くらいでしたよ」と仰っていた。上げても120だと……。今回は絶対心拍数上げない上げない作戦なのである。

さらに膝を守るためには導入したのがふかふかサドル(2000円)だ! 私は600kmを越えると膝に痛みが出てダンシングができなくなる傾向にある。

ダンシングができないとお尻が痛い……お尻が痛いからダンシングすると膝が痛い。痛みの連鎖が永遠と続く……それは地獄を意味する。

お尻が痛くならない=ダンシングを減らせる!! ダンシング封印作戦だ!

さらに強い味方なのはDHバーだ。空気抵抗はもちろん。乗車姿勢を変えられるのはとてもありがたい!

体さえ壊さなければ、75時間で1000kmは走れるという算段なのだ。

大盛りうどんでカーボローディング

スタート前日、大盛りうどんでカーボローディングする筆者。覚悟を決めたからか不思議と緊張はない

 

BRM1012徳島1000kmスタート

スタート地点は徳島県。徳島〜高松〜愛媛〜高知と四国を反時計回りする。

午後12時。スタート地点に到着すると参加者が100人くらい居る。7年に一度の大舞台だが、あまり緊張感はなく穏やかな雰囲気だ。着替えや補給食などを入れるドロップバッグ(荷物を途中まで運んでくれる公認サービスがあり、その荷物を入れるバッグのこと)を主催者に預けて13時に四国一周スタート! 果たして4日後の16時までに戻って来れるのか?

スタートしてすぐは徳島市街地。少し信号が多いが関東に比べるとマシだ。

20kmくらい走ると四国らしい瀬戸内海の美しい景色が現れた。関東平野と違いテンションが上がる景色だ。そして何よりありがたいのが信号ストップが少ないことだ。スイスイ距離をかせげる。さらに追い風なのはDHバーだ! 腕を畳めることでこんなに空気抵抗が減らせるのか!?

調子が良いのでついつい踏んでしまいがちだが、心拍計に目をやると150とある。今回は何としても胃腸を守ると決めたので120まで下げる。

今回の装備

今回の装備。前述のドロップバックのお陰で荷物は最小限となった。日本は自販機がたくさんあるので、ボトルは1本のみとかなり軽量化したが……。DHバーに付いているカメラとサイコンが異様だ

 

タヌキとSDA王滝3位の者と

50km地点のPC1に着いた。

1日目の宿泊は200km地点の今治。ホテルには23時には到着すると連絡してあるので休憩せずに先を急ぐ。

するとタヌキのコスプレをした参加者が現れた。「今年は天気が良くて最高です! 7年前は雨でした」と話かけてくれた。

そして気になる情報が入ってきた……。「反対側の高知は向かい風と雨予報ですね……前半かせいだ方がいいかもです」。

高知県は信号がなく距離をかせげると聞いていたが向かい風となると話が違う。ありがとう! タヌキさん! と別れを告げると「あ、これクマのコスプレです!」と返ってきた。

同じアニマルアタックならタヌキの方がずいぶんありがたい。

日没を迎える頃には先頭付近に出ていた。またスピードブルベになってしまっている……

1000km走る1日目の200kmなんてものはサクッと終わらせてしまいたいという心理からついつい踏んでしまいがちだ……

すると今度はガタイの良い参加者が声をかけてきた。「猪野さん! 私はSDA王滝3位の者です!」

私は2位の者だ。まさかこんなところで再会するとは……

王滝3位だけあって強烈な引きで私を引っ張ってくれる。私は本当にこの方に勝ったのだろうか?

3人くらいのトレインでものすごいスピードで距離をかせぎ、あっという間に200km地点の今治に21時20分に到着した。

王滝3位の猛者に礼を言い、コンビニで夕食を買いホテルにチェックイン。

再スタートは深夜2時を予定しているのでたっぷり4時間は休める。これはありがたいとベッドに潜り込む。

目を閉じて想う……BRM金太郎200kmであんなに疲弊したのに、今回はほとんど疲れていない……まだ800km残っているから気が張っているのだろうか。

改めて超長距離と人間の心理というのは奥が深い……。明日は今回最長の高知県の四万十まで460km走る。勝負の1日だ。

あまり考えると心が疲弊するので、“心を閉じて”無になる。ありがたいことに、眠りはすぐにやってきた。まるで禅僧のように全てを閉じて眠るのであった……

次回! こんなに坂があるなんて聞いてないぞ! 地獄のアップダウン佐田岬編へと続く。

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