リドレーのロードバイク「ファルコン」を試乗インプレッション
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リドレーから新シリーズ「ファルコン(FALCN)」が登場した。軽量オールラウンダーとして長らく活躍してきたヘリウムシリーズの後継を担うもので、エアロダイナミクスをも重視しているのが特徴だ。ラインナップはハイエンドの「ファルコンRS」と、セカンドグレードにあたる「ファルコン」の2種類。今回はアルテグラDi2仕様の後者に試乗した。
リドレー・ファルコンの特徴

リドレー・ファルコン 【試乗車スペック】●メインコンポーネント/シマノ・アルテグラDi2 ●フォルツァ・シラス プロ ロード インテグレーテッド コックピット ●ホイール/シマノ・WH-R8170-C36 ●タイヤ/コンチネンタル・グランプリ5000 700×28C ●サドル/セレSMP・コンポジット ●試乗車サイズ/S ●ペダルなし実測重量/7.73kg ●カラー/ホワイト-シルバー
RIDELY Falcn
●フレームセット価格/49万5000円
●サイズ展開/XS、S、M
●カラー/ホワイト-シルバー、ブラックレッド
●フレーム&フォーク素材/カーボン
●付属品/ステム一体型ハンドル
●バイククラフト対応/
シマノ・デュラエースDi2(96万1400円)
同・アルテグラDi2(76万4500円)
同・105Di2(68万2000円)
上りでアドバンテージを得るための十分な軽さと剛性を持ちながら、平坦や下りで速く走れるだけの空力性能を有すること。そんな全方位的な設計プロセスを経て誕生したのが、リドレーの「ファルコン」シリーズだ。LAB(Lightweight Aero Bike)と名付けられたプロジェクトには、開発エンジニアだけでなく空気力学の学者も参画。CFD(数値流体力学)解析などを駆使して、すべてのチューブセクションの形状が最適化された。特に特徴的なのはフォーククラウンで、自社の風洞施設で実験したところ、ここを通過する空気の流れがさまざまに影響することが判明。そこで、レーシングカーにも用いられているディフューザー(拡散)要素を採り入れることで、クラウン内側の空気の流れを改善することに成功した。具体的には、ディフューザーのないフォークと比較して、時速50kmにおいて空気抵抗を10%も低減できたという。
ケーブルをフル内装できるF-ステアーを採用したヘッドチューブをはじめ、横風の影響を受けにくい断面形状のトップチューブ、軽さとエアロダイナミクスを両立したシートチューブ&シートステーなど、すべてのチューブ形状にその理由が秘められている。昨今のロードバイクのフレームはスタイリングが似つつあるが、自社で風洞施設を持つリドレーの場合、そこに確固たる根拠があるのだ。
ここに紹介するのはセカンドグレードの「ファルコン」だ。ハイエンドの「ファルコンRS」との相違点は、使われているカーボンの弾性率とシートポストの断面形状、そしてヘッドセットの上側ベアリングのサイズだ。フレーム重量はSサイズ同士で比較すると、816gを公称するファルコンRSに対し、ファルコンは956gとなっている。17%という重量差は決して小さくはないが、フレームセットの価格が約8割も違うと聞けば納得の範疇だろう。
販売形態はフレームセットのほかに、ミズタニ自転車独自のバイククラフト(フレームセット+コンポーネント)が3タイプ用意されている。カラーはホワイト×シルバー(写真)とブラック×レッドの2種類だ。

シートポストは、上位グレードのファルコンRSが空力と快適性を両立したD型断面を採用するのに対し、ファルコンは汎用性の高いφ27.2mmの円形断面を選択。固定はウス式で、上部のラバーを浮かせると調整ボルトにアクセスできる

ステム一体型ハンドルの「Forza Cirrus Pro Road Integrated Cockpit」と専用スペーサーが付属する。フレームの大きさごとにデフォルトのサイズがあり、それ以外を希望する場合はオプション販売となる

タイヤ幅については、昨今のロードレースの主流である28mmで開発を行いつつ、最大34mmまで対応できるようにクリアランスを設定。路面状況や用途に応じて、よりワイドなタイヤを装着できるように配慮している
試乗インプレッション〜初手から肌馴染みの良いオールラウンダー

インプレッションライダー/大屋雄一 モーターサイクルにも造詣が深いフリーランスライター。ヒルクライム、ブルベ、シクロクロス、キャンプツーリング、MTBレース、ママチャリ耐久など、自転車を使った競技や遊びは一通り経験している雑食系だ。リドレーは過去に2台所有
ファルコンRSをベースに、使用するHM UDカーボンの弾性率を60T/40Tから30T/24Tに変更し、剛性と快適性を同等レベルとしながらコストパフォーマンスを追求したのが「ファルコン」だ。こうしてグレードを作り分ける例は枚挙に暇がないが、ファルコンに関してはシートポストの断面形状だけでなく、ヘッドセットの上側ベアリングを1-1/8インチから1-1/4インチへ拡大するなど(下側は1-1/2インチで共通)、かなり手の込んだ変更を加えている。その理由について、ディレーラーのワイヤを通すためかと推察したが、このフレーム自体は機械式コンポ非対応との注釈がある。おそらく、弾性率の異なるカーボンを使いながら剛性レベルをRSと同等とするための一環なのだろう。
走り出してまず感じるのは、ハンドリングのマナーの良さだ。人が歩くような微速域からフラつきにくく、スピードを上げていってもクイック過ぎずダル過ぎないというニュートラルな扱いやすさがある。狙ったラインをスッとトレースできる反応の良さを見せつつ、旋回時、直進時とも適度な安定性があり、これらはフレームの剛性バランス以外に、新しくなったというジオメトリも貢献しているような気がしてならない。
ペダリングの印象は、勾配の有無や大小にかかわらず軽やかでリズミカルだ。試乗車のホイールが軽量なアルテグラC36であったこと、またチェーンリングの歯数が50-34Tと小さめだったことなども、踏み出しを軽く感じさせた要因ではあろう。しかし、時速30kmからグッとスピードを上げていくときの踏み応えや加速フィール、5%程度の上りをシッティングで進んでいく際に伝わる適度な剛性感は、最新のハイエンドモデルに肉薄するものだ。
フレームセットに付属するステム一体型ハンドルは、フレームとの剛性バランスに優れてると感じた。下ハンを握ってダンシングすると、わずかなしなりを感じさせつつも、リズミカルにスピードを上げていける。ハンドルの高さ、つまりコラムスペーサーを入れる枚数によってもこのエリアの剛性は変わるだろうが、5°という絶妙なフレア角度も含め、個人的には非常に気に入ったポイントの一つだ。
快適性については、レースにも対応できるロードバイクとしては高いレベルにある。試乗車のタイヤはGP5000のクリンチャー仕様だったが、アスファルトの細かな凹凸による振動は体に伝わりにくく、ギャップ通過時もそのショックをうまくいなしてくれる印象だ。それでいてエンデュランスロードほどのたわみを感じることはなく、軸足はあくまでもロードレースにあることを実感する。試乗車のシートポストはアルミ製だったが、これをカーボン製にすればさらに振動吸収性は高まるだろう。
試乗中、急ブレーキを余儀なくされることがあったのだが、その際のフォークを含むフロント周りの剛性感の高さに感心した。ここが柔なフレームの場合、フォークブレードが手前にしなるような感触があるが、ファルコンにそうしたネガは一切なし。安心して減速できるからこそ、自信を持って走行ペースを上げられるのだ。
エアロダイナミクスの優劣については、組み合わせるホイールのリムハイトやその断面形状にも左右されるため、フレーム単体での評価は難しい。しかし、刻々と風向きが変わる状況においてフラつきにくかったのは、ジオメトリだけでなく各部のチューブ形状も貢献していた可能性はあろう。
シリーズのセカンドグレードではあるが、ロードレースはもちろん、ヒルクライムやエンデューロ、そしてロングライドまで、高い次元で応えてくれるのは間違いない。初手から肌馴染みの良いバイクであり、実にバランスのいいオールラウンダーだ。