チネリのロードバイク「プレッシャーⅡ」を試乗インプレッション
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チネリのカーボンロード系のフラッグシップであり、イタリアの名門コンチネンタルチームにも供給されている「プレッシャー」が、2025年に「Ⅱ」へとアップデートされた。エアロダイナミクスを追求したスタイリングはほぼそのままに、カーボンファイバーの積層を最適化するとともに、タイヤクリアランスをワイド化。その魅力にじっくりと迫ろう。
チネリ・プレッシャーⅡの特徴

チネリ・プレッシャーⅡ 【試乗車スペック】●メインコンポーネント/シマノ・デュラエースDi2 ●専用ハンドルステム ●ホイール/ヴィジョン・メトロン45SL ●タイヤ/ハッチンソン・チャレンジャー チューブレス 700×32C ●サドル/セラサンマルコ・アスピデショート レーシング ●試乗車サイズ/S ●ペダルなし実測重量/7.23kg ●カラー/ダンディーズ レーシング グリーン
cinelli PRESSURE Ⅱ
●フレームセット価格/68万2000円
●サイズ展開/XS(46)、S(49)、M(52)、L(55)、XL(58)
●カラー/レーシング ホワイト パティナ、ダンディーズ レーシング グリーン
●フレーム&フォーク素材/カーボン
●別売り/専用ハンドルステム(13万2000円)
2018年にプレッシャーの開発をスタートさせたチネリ。当時、同社のスーパースターをチームバイクに使用していたイタリアの名門チームコルパックに意見を求めたところ、「山岳コースのことは忘れていい。スーパースターよりも空気抵抗が小さく、平地の高速レースに対応できるフレームが欲しい」とのリクエストがあったという。
スーパースターはケーブル類の一部が外装式であったため、ここに気流の乱れが生じていたのも事実。そこで、ケーブル類のフル内装化を主軸に開発が進行した。電動コンポへの対応を考慮した結果、ヘッドパーツはFSAのACRシステムを採用することが最適であるという結論に。そして、最初のプロトタイプを製作してから3種類のバージョンを経て、製品版が2020年11月に発表となった。
2025年モデルとして登場した「プレッシャーⅡ」は、前作のプレッシャーをベースにカーボンファイバーの積層が最適化された。Ⅱの開発にあたり、チネリでは積層の異なる4種類のフレームを試作し、社内の開発チームとプロ選手が協力してテストを実施。その中からレースで通用する剛性と軽さを兼ね備えたものが選択された。ジオメトリについては大きな変更はなく、ヘッドチューブがわずかに長くなったのみ。具体的には、試乗したSサイズで125mmから134mmに変更されている。
タイヤクリアランスが30mmから32mmに広がったのも、プレッシャーⅡにおける改善ポイントの一つだ。またハンドルバーについては、前作ではステム一体型ハンドルのヴィジョン・メトロン5Dが設定されていたが、Ⅱではモデル名入りの専用品が用意されることとなった。

リヤタイヤとのクリアランスを埋めるようにデザインされていたシートチューブは、その形状をややおとなしいものに。付属するシートポストや、それを固定するウス式クランプも改良されている

専用のステム一体型ハンドル(13万2000円)は別売りとなる。サイズは370-90mm、390-100mm、390-110mm、410-120mmの4種類で、ブラケット取付位置の幅がハンドル幅として表記されている
試乗インプレッション

インプレッションライダー/大屋雄一 モーターサイクルにも造詣が深いフリーランスライター。ヒルクライム、ブルベ、シクロクロス、キャンプツーリング、MTBレース、ママチャリ耐久など、自転車を使った競技や遊びは一通り経験している雑食系だ
前作のチネリ・プレッシャーは、ケーブル類のフル内装工作やドロップドシートステー、カムテール形状とした各チューブデザインなど、エアロロードのトレンドを余すところなく盛り込んだ一台だ。発表されたのはおよそ4年前の2020年11月のこと。誰もが知るイタリアの老舗でありながら、近年はシングルギヤやグラベルバイクなどにも注力。サイクリングカルチャーに敏感というブランドイメージが強かっただけに、この本格的なエアロロードの登場は意外性を持って受け止められた。なお、開発・設計はチネリが100%担当し、生産を請け負うサプライヤーには他ブランドへの金型使用を許可するなど、戦略的な取り組みも見られる。
今回の試乗のために用意されたプレッシャーⅡは、タイヤクリアランスが拡大されたことを強調するためか、ハッチンソン・チャレンジャーの32Cが組み込まれていた。ホイールがリム外幅31.1mmを公称するヴィジョン・メトロン45SLということもあり、足周りはCXバイクのようにボリューミーだ。カラーリングはダンディーズレーシンググリーンとレーシングホワイトパティナの2種類。試乗車のグリーンは後ろ三角に薄いピンクを組み合わせるという大胆な塗り分けであり、スタイリングこそエアロロードの流行を追っているが、色使いはさすが独自路線を貫くチネリと言ったところだろう。
走り出してまず感じたのはタイヤの存在感だ。32Cという太さはジオメトリよりもハンドリングに与える影響が大きいようで、時速20km以下では舵角の付き方が非常に穏やかだ。とはいえ、32Cまで許容できるように設計したのはチネリ自身である。速度が高まるほどに直進時、旋回時とも安定性が増し、彼らの狙いが見えてくる。時速40km以上のコーナリングではアスファルトに吸い付くように安定し、急に横風を喰らっても車体はフラつきにくい。加えて、ワイドなタイヤが生み出す横方向のグリップ力とフレームのねじれ剛性がうまくバランスするのか、旋回中のコントロール性にも長けているのだ。
ペダリングに対する反応は、打てば響くようなレスポンスこそ薄いが、入力に対してスムーズにスピードが伸び上がっていくイメージだ。米国ブランドのハイエンドモデルがレース機材に徹しているのに対し、プレッシャーⅡは同じくコンペティティブなロードバイクでありながら、そこにペダリングの心地良さが感じられるのだ。
ステム一体型の専用ハンドルは、フレーム全体の剛性とマッチしており、ここだけが硬すぎる、または柔らかすぎるといったネガティブなイメージはない。アウトスウィープ3度の下ハンは絶妙に握りやすく、多くのサイクリストに好まれそうだ。
プレッシャーⅡは、MBHバンク・バッラン・Csb・コルパックが実際に使用している生粋のレーシングバイクだ。フレームセットが68万2000円と聞くと、どうしても他ブランドのハイエンドモデルと比べてしまうが、これをレース機材と捉えるか、それとも愛車として向き合うかで評価は大きく分かれるだろう。トヨタの86に乗っているからといって、誰もがサーキット走行をしたり、ましてやワンメイクレースに出場するわけではない。それと同様にハイエンドモデルに乗る理由も千差万別であり、スタイリングへの一目惚れや、エンデュランスロードでは味わえない爽快な走りに魅了される人もいるだろう。
プレッシャーⅡは、レースに興味がない人にとっても魅力的な選択肢だ。走り終えてバイクから降りた時にふと目が合うニコちゃんマーク。「あぁ、今日のライドも楽しかったな」と思える瞬間こそが、このバイクの真価を物語っている。