ほぼ100%プラスチック製の自転車に乗ってみたところ……
目次

世界初となる、ほとんどがプラスチックで作られており、しかもそのうち約50%が廃プラスチックを活用している自転車「igus:bike(イグスバイク)」。その日本国内では初となる試乗会が東京都内で開催された。これは乗ってみるしかない。レポートをお届けする。
イグスバイクの特徴

イグスバイク。重量は約17kg。価格は日本円にすると約20万円(2024年時点)だ
開発したイグス社はドイツに拠点を置く世界的企業で、産業機械の可動部向け樹脂製品を展開している。その技術を使い、3年半の開発期間をかけて作り出したのが、このイグスバイクだ。
通常、自転車は金属部品や潤滑剤を使うものが多いが、定期的なメンテナンスをしなければ錆びてしまう。また、潤滑剤を使用することは環境への悪影響も懸念される。そこで同社は、どうにかそれをプラスチックの力を活用することによって解決できないか、と考えた。そこで完成したのが、錆びない、潤滑剤がいらない、そして再資源化できるという性格をもったこの自転車というわけだ。
廃プラスチックとして活用されているのは漁業で使う網やシャンプー用容器で、フレームとホイール部分に使用されている。

フロントフォークがかなり特徴的で、ハンドルバーと連結されている

フレームに内装されているので見えないが、チェーンではなくベルトドライブを用いている。クランク軸はアルミ製だ

こちらがクランクシャフトで、ベルトがはまるチェーンリングに当たる部分はプラスチック製だ

ブレーキはワイヤ式ディスクブレーキを採用。通常の自転車だとハブに当たる部分が大きな空洞(輪と言うべきか?)になっている

一番気になるのは回転部分のベアリングはどうなっているの!?ということだ。何とここにはまったく金属部品も潤滑剤も使われておらず、イグス社独自の樹脂製ベアリングが用いられている。写真はそのサンプル。くるくると手で回してみると、するすると滑らかに回っていくので不思議だ

ブレーキレバーの形状が独特で、ハンドルバーのエンド部分からレバーが伸びる

ホイールは27.5インチで、タイヤは27.5×2.0″とシティ系自転車としてはかなり太幅だ

センタースタンドが付属するが、ここもちゃんとプラスチック製になっている
既に言及しているものもあるが、プラスチック製ではない部分としては、ブレーキまわり(ワイヤ類、ブレーキローター、ブレーキキャリパー等)、ライト類、タイヤ、ベルトドライブのベルト、クランクシャフトだ。まあ、さすがにここはプラスチック製にはできないだろうから、ほぼ100%プラスチック製とうたっていいのではないだろうか。
変速機はなく、シングルギヤである。
試乗インプレッション

編集部員が試乗してみた ※ここは試乗用の特別なクローズドコースです
さあ、気になるのは「まともに自転車として走れるのか」だ。試乗する前は、「正直、これ大丈夫なのかなぁ」と思っていた。
乗ってみると、これはまともな自転車だ!
まず、乗り心地はマイルドなのが印象的。タイヤが極太スリック系ということが大きく作用しているとは思うが、それを差し引いてもプラスチック製ゆえの独特な乗り味というか、優しい乗り心地が感じられた。
次に、安定感はわりと高い。これも極太タイヤがいい影響を及ぼしているところが大きいと思うが、ふらつきは少なく、まっすぐ安定して進んでくれる。自転車の運転に不慣れな人でも乗りやすいだろう。
一応、旋回をしたりスラロームしてみたが、不安感はない。その際、これもプラスチックの特性によるものなのか、若干車体全体が沈み込むサスペンションに近い感覚があり(タイヤというよりも車体全体という印象。これはグニャグニャしてヤワであるという意味ではない)、それも自転車を傾けて曲がる際の安定感に寄与している気がした。
重量は17kgとそれなりにあるが、こぎ出しは意外と軽いし、進みが重い印象はなかった。高級なシティ自転車に乗っているような感覚だ。持ち上げてもみたが、それほどずっしりとくる感じもなかった。
唯一違和感があったのはダンシング(立ちこぎ)したときだ。リズムがとりにくいというか、車体を左右に均等に振りにくいと感じられた。ハンドル幅と形状、操作の慣れの問題もあるかもしれない。まあ、そんなにネガティブに捉えるほどではない。
これがほとんどプラスチックでできていることを考えると、乗り物としての完成度は高いと思う。
これがどのくらい耐久性があるのかまでは今回の試乗では未知数だが、少なくとも潤滑剤を定期的に入れるという点でのメンテナンスはほぼ不要そうなので、その意味では環境負荷は少ないだろう(ブレーキまわりは放っておけば錆びたり不調をきたすだろうから、その点はツッコミどころだが)。また、廃プラスチックで全体の50%が作れるという点でも、通常の自転車に比較すれば環境負荷は少なそうだ。
同社によると、今後は公共のシェアバイクへの本格導入などを進めていく予定だという。確かに、錆びに強く潤滑剤が不要な点ではメンテナンス頻度が低く、故障率も低そうなので、相性は良さそうだ。変速機がないというのも構造がシンプルになるので、その点では効いてくるのかも。今後、日本の街中で見かけるようになっていくかもしれない。
“高級ママチャリ”として欲しいと思う人はいるんじゃないかなぁと、個人向けに販売しても良さそうだとも思った。“所有していて面白い”と感じる自転車だし、集合住宅に住む人が多い日本の都市部にマッチする性格だ。例えばマンションの駐輪場に置いておくとか、賃貸アパートの駐輪場なんかに置いておいてもメンテナンスの頻度が低いので利点が多いだろう。
今後のイグスバイクの展開に期待したい。