CYCLE SPORTS.jpが選ぶ 2019年10大ニュース・プロダクト編

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2019年に発表・発売された製品から1年を振り返る10大ニュース・プロダクト編。ロード用ディスクブレーキはますます普及し、eバイクも低価格化が進むなど、スポーツバイクの新しい商材が今後圧倒的なスピードで普及することを感じさせた。一方、インドアサイクリングも市民権を得るなど、スポーツバイクを取り巻く環境そのものが激変する可能性も感じさせる1年だった。

コロンブスが100周年、限定チューブセット販売

コロンブスが100周年、限定チューブセット販売

コロンブスの100周年限定販売チューブセット

サイクリストには自転車のフレームを構成するチューブでおなじみ、イタリアの鋼管メーカー・コロンブスが2019年に100周年を迎えた。これを記念し、100周年記念限定限定チューブセット・チェントが発売された。チェントとはイタリア語で100を意味し、世界で500セットのみが販売される。

チェントは、新素材・オムニクロムを使い、超大口径のダウンチューブを採用して従来のチューブよりも軽量化と高剛性化を両立。フレームサイズにかかわらず最適なバテッド量を確保するため、ダウンチューブとトップチューブ、シートステーは各3サイズ用意しているのも特徴だ。さらにチューブの持ち味を最大限に生かすため、BBはチューブとの接合面積を確保できる樽形にするなど、コロンブスの技術の粋を結集している。さらにブランドのシンボルマークである鳩の形を表現したシートチューブ用スリーブを採用するなど、構造上はもちろん、デザインに至るまで緻密に作り込まれているのが特徴だ。

バイクのフレーム素材といえば、かつてはスチールが主流で、コロンブスはまさに自転車の歴史とともに誕生し、歩んできたとも言える。現在はカーボンフレームが主流で、金属フレームの中でもスチールフレームはどちらかというと“趣味性の高いもの”という位置づけになっている。中でもフレームビルダーによって作られるスチールフレームは、乗り手の体格やライディングスタイルに合わせてオーダーメードでき、既製品のフレームや完成車をステムの長さやサドル位置などのポジションで合わせるのとは違う、“人車一体感”を味わわせてくれるはず。それはサイクリストにとって最高のぜいたくと言えるだろう。

スポーツバイクにおいて、人気モデルが低価格帯と高価格帯の2極に集中しがちな昨今、フレームビルダーによるオンリーワンのバイクを作ることがもっとクローズアップされてもいいのかもしれない。

グラベルロード専用コンポーネント シマノ・GRX登場

シマノ・GRXシリーズ

シマノがグラベルロード専用コンポーネントGRXを発表した。ラインナップは電動変速のDI2と油圧ディスクブレーキを採用するアルテグラグレード相当のRX815シリーズ、機械式変速に油圧ディスクブレーキを組み合わせたアルテグラグレード相当のRX810シリーズ、105グレード相当のRX600シリーズ、そして10速でティアグラグレードに相当するRX400シリーズの4種類。

いずれのシリーズもフロントダブルとフロントシングルの両方に対応。岩などにヒットしにくいように張り出しを押さえたシャドータイプのリヤディレイラーは、最大42Tのスプロケットに対応し、オフロードでのチェーン暴れを防ぐためにスタビライザーを搭載している。また、太いタイヤを履くことを想定したフレーム構造に対応するよう、フロントディレーラーやチェーンリングの位置が外側にオフセットされているなど、グラベルライドを想定した設計を採用している。

グラベルロードは、グラベルライドだけでなく、タフさが支持されてロングツーリングや通勤バイクとしての需要も高まっている。1台でさまざまなライディングスタイルをカバーするグラベルロードは、今後ますます人気が高まりそうだ。

カデックスがロード用のカーボンフックレスリム採用のホイールを発売

カデックスがロード用のカーボンフックレスリム採用のホイールを発売

カデックス・カデックス42チューブレス

ジャイアント傘下のパーツブランド・カデックスがカーボンフックレスリムを採用したロード用ホイールセットを発売した。フックレスリム自体は車やバイクでは一般的で、MTBでも既にエンヴィやジップが実現していたが、より空気圧が高いロード用のフックレスリムはこれが初めてだ。

最も注目すべきポイントは、タイヤのビードを保持するビードフックがないフックレスという方式を採用していること。これによってリムの強度を高めながら重量を抑えることに成功している。

カデックスのロード用フックレスホイールはリムハイト42mmの「カデックス42」とリムハイト64mmの「カデックス64」の2種類。それぞれディスクブレーキ用とリムブレーキ用がラインナップされる。重量は最軽量のカデックス42リムブレーキ仕様でペア1265gと同クラスのカーボンチューブレスホイールと比べてもかなり軽量に仕上がっている。

空気圧のみでタイヤをリムに固定するのはチューブレスやチューブレスレディと同じだが、ビードフックがない分、タイヤの相性は制約される。公式アナウンスでは、対応するタイヤがカデックスブランドの製品かジャイアントのガヴィアシリーズのみとなっている。今後ホイールメーカーやタイヤメーカーがこの流れに追随し、タイヤやホイールの選択肢が増えるかどうかが注目される。

スラム12速化、コーラスも。ロードバイク12速の時代へ

スラム12速化、コーラスも。ロードバイク12速の時代へ

12速化を果たしたスラム・レッドeタップ AXS(右)とカンパニョーロ・コーラス(左)

昨年、カンパニョーロの上位モデルが12速化したことで、ロードバイクコンポーネントも12速の時代に突入したが、2019年はその流れがさらに加速した。

スラムはレッドフォースのワイヤレス電動変速eタップにリヤ12速のAXS(アクシス)をラインナップ。12速化とワイヤレス電動変速化に一気に舵を切った。スプロケットにはトップ10Tを採用し、ロー側も最大33Tを用意することで、あらゆるギヤレンジをカバー。フロントチェーンリングをロードバイク用は主に50-37Tとすることで歯数差を減らし、変速性能も高めた。リムブレーキ仕様と油圧式ディスクブレーキ仕様をラインナップする。

一方、カンパニョーロはコーラスにも12速を採用。エルゴパワーや前後ディレーラー、ブレーキの設計は上位グレードを踏襲し、素材を変更することで、性能はそのままにグループセットで税抜17万円台〜という価格を実現。2019年現在、最も安く手に入れられる12速のロードバイクコンポーネントだ。また、上位グレードにはないワイドレシオのロー34Tのスプロケットや、フロントには48-32Tのエクストリームコンパクトチェーンリングも用意するなど、ロードレースに限らずさらに広い使用シーンを想定していると言える。もちろんリムブレーキと油圧ディスクブレーキを用意。変速は機械式のみだ。

近年中にリニューアルが予想されるシマノの最高峰ロードバイクコンポーネント・デュラエースが12速化に踏み切るか? ローターは13速を既に商品化しているが、デュラエースはさらにその上を行くのか? 今後の動向に注目だ。

シマノのMTBコンポーネント、デオーレXTとSLXも12速化

シマノのMTBコンポーネント、デオーレXTとSLXも12速化

シマノ・デオーレXT(上)と同・SLX(下)

シマノはロードバイクコンポーネントに先駆けて2018年にMTBのハイエンドレーシングコンポーネント・XTRでリヤ12速を採用したが、2019年にはデオーレXTとSLXも12スピード化を果たした。

デオーレXTはシマノのMTBコンポーネントのヒエラルキーではXTRに次ぐグレードで、上位モデルのテクノロジーを継承しながら、より求めやすい価格を実現し、レースから本格的なトレイルライドまで幅広く対応する。今回のモデルチェンジでM8100シリーズとなった。

一方SLXは、デオーレXTの弟分という位置づけで、かつてはデオーレLXというシリーズ名が与えられていた。XTより価格を抑えて手の届きやすい価格を実現することで、ハードにトレイルライドを楽しみたい向きや少しでも安くMTBライドを楽しみたいという多くのライダーにふさわしいコンポーネントに仕上がっている。今回のモデルチェンジでシリーズ名はM7100シリーズとなった。

シマノのMTBコンポーネントがデオーレXTとSLXまで12スピード化されたことで、コンポーネントの互換性も大幅に拡大し、予算と性能へのこだわりを秤にかけてより自分に最適なコンポーネントのミックスも可能になったことは、MTBサイクリストに取って福音と言えるだろう。

ロードディスクブレーキ拡大、ティアグラグレードも

シマノ・ティアグラも油圧ディスクブレーキ仕様が登場

シマノ・ティアグラも油圧ディスクブレーキ仕様が登場

ロードバイクのディスクブレーキもハイエンドモデルを中心にかなり普及してきた。トレックは2020モデルからロードバイクのハイエンドモデルでリムブレーキモデルのラインナップを廃止してディスクブレーキに一本化すると表明し、ロードバイクのディスクブレーキ化の波はより大きなものとなった。

ロードバイクコンポーネントメーカーの最大手・シマノでは、油圧ディスクブレーキのラインナップをハイエンドレーシングコンポーネントのデュラエースからエントリークラスの完成車に多く採用される10速コンポーネントのティアグラにまで拡大した。

これまでエントリークラスのディスクブレーキ搭載モデルでは機械式ディスクブレーキの採用率が高かったが、レバーの引きが油圧式と比べて重くなりがちで、ディスクブレーキのメリットを享受しにくかった。しかし、ティアグラグレードの油圧ディスクブレーキの登場により油圧式ディスクブレーキ搭載の完成車の価格もこなれ、天候を問わない安定した制動力を軽いレバータッチで得られるメリットをエントリーモデルにも採用しやすくなった。

手が小さく、下りでブレーキをかけるのに握力がなくなってきて怖い——という女性サイクリストはビギナーを中心に少なくないが、シマノでは105やティアグラグレードに油圧ディスクブレーキ対応のショートリーチレバーも用意している。手が小さめの人でもレバーを握りやすく、このレバーを使うことで油圧式ディスクブレーキのメリットはさらに高まる。今後ロードバイクで油圧式ディスクブレーキが主流になっていくのは間違いない。

高性能化でカテゴリーの垣根を越えた万能ロードバイクが登場

高性能化でカテゴリーの垣根を越えた万能ロードバイクが登場

トレック・ドマーネSLR9

ロードバイクといえばかつてはレーシングバイクというイメージだったが、最近ではその用途によってさまざまなカテゴリーに分けられるようになった。かつてのレーシングバイクというイメージのバイクは軽量レーシングロードなどと言われるようになり、長距離を快適に走ることに主眼を置いたエンデュランスロード、空力性能を追求したエアロロード、さらにオフロードを走れるタフさを備えたグラベルロードまで登場した。

しかし、こうした垣根が近年薄れつつある。例えばスペシャライズドのルーベシリーズは、フューチャーショックという独自のサスペンションユニットを搭載したエンデュランスロードとの位置づけだが、軽量化とフレーム形状のエアロ化も進め、レーシングロードのターマックより優れた空力性能を誇り、エアロロードのヴェンジより軽量なオールラウンドバイクに仕上がっているという。

また、トレックのドマーネシリーズも、ISOスピードと呼ばれる独自のサスペンション機構を搭載しクラシックレースを速く走るために開発されたエンデュランスロードという位置づけだが、最大38Cのタイヤを装着でき、グラベルライドもロングライドもロードレースも走れるオールラウンドな1台になっているとちまたで評判になっている。

このようなバイクは1台でマルチに使えるのが魅力で、「レースも出たいがロングライドも楽しみたい」「ふだんはオンロードを軽快に走りたいがたまには軽くグラベルも走りたい」というようなニーズに応える。車でもオンロード性能を重視したクロスオーバーSUVに人気が集まっているが、スポーツバイクにもこのような現象が見られるのは興味深い。

グラインデューロ、野辺山グラベルチャレンジなどグラベルイベント大盛況

グラインデューロ、野辺山グラベルチャレンジなどグラベルイベント大盛況

2019年10月に日本で初開催した「グラインデューロジャパン」

アメリカではプロロードレーサーも参戦するなど、世界的な盛り上がりを見せるグラベルイベント。2019年は大規模なグラベルイベントが日本でも開催された。

9月にはMTBマラソンレースとしておなじみのSDA王滝でもグラベルクラスが新設され、42kmと100kmを合わせて65人がエントリーした。MTBとまったく同じコースをMTBクラスの選手と一緒に走行。海外のグラベルレースのコースと違い、この秋の王滝は路面がかなりガレていて選手たちを大いに手こずらせた。フロントフォークにサスペンションを搭載したバイクを用意する選手もおり、今後海外と違う王滝グラベル仕様のバイクづくりのノウハウが確立され、日本独自のグラベルレースに成長するかもしれない。

10月にはアメリカ・カリフォルニア発祥のグラインデューロが日本に初上陸。エントリー開始からまもなく募集定員がいっぱいになるほどの人気ぶりは日本でも健在だった。台風19号の接近で中止も懸念される中、距離を短縮して開催され、大盛況のうちに初回大会は幕を下ろした。2020年も6月に開催されることが決まっている。

11月には野辺山グラベルチャレンジも行われた。このイベントはラファスーパークロス野辺山の翌日に行われ、シクロクロスレースではその一端しか楽しめない八ヶ岳山麓絶景を多くのサイクリストに堪能してもらおうと、特に景観を意識した八ヶ岳周辺の林道と農道を縫うように特別コースが設けられた。こちらはレース部門とツーリング部門が開催され、約300人が出場した。

2019年に開催されたこれらのイベントの盛況ぶりを見るかぎり、今後この流れは全国的に拡大していくのではないか。

Zwift人気は衰え知らず! スマートトレーナーはさらに進化し、低価格化も

Zwift人気は衰え知らず! スマートトレーナーはさらに進化し、低価格化も

ワフー・キッカーバイク

インドアサイクリングアプリの雄・Zwift(ズイフト)は、その人気を不動のものとした感がある。天候に関係なく好きな時間にライドを楽しめるとあって、交通量の多い都市部に住む人や多忙な社会人、防犯上の観点から夜に一人で実走ライドには出かけにくい女性などには特にメリットが多い。

ズイフトは2019年秋に一部コースでステアリング操作に対応するアップグレードを行った。「Zwiftコンパニオンアプリ」をインストールしたスマートフォンをハンドルに設置し、ハンドルの切れ角を加速度センサーで検知することで画面上のアバターが操作するバイクもハンドル操作を行ってコーナーリングを行うというものだ。

また、スマートトレーナーでおなじみのワフーは、新型サイクルトレーナー「キッカーバイク」を発表。サドル高やハンドルの突き出し量、クランク長など5点を調整することで愛用のバイクのポジションを実現でき、ズイフト上のコースの勾配変化もバイクの傾きをリアルタイムで変化させることで実現する。変速操作やブレーキ操作にも対応しており、将来的にはズイフトでもこれらの操作に対応することが予想される。

ズイフトをはじめとするインドアトレーニングを楽しむのに不可欠なスマートトレーナーの低価格化も進んでいる。音や振動の少ないダイレクトドライブ式のものでも10万円を切るようなモデルが出始めており、従来型の固定ローラータイプのものなら定価で5万円前後のものもある。バーチャルサイクリングは既に市民権を得ており、今後もバーチャルサイクリング人口はさらに拡大していくと予想される。

日本におけるeバイク元年。低価格なモデルが充実

日本におけるEバイク元年。低価格なモデルが充実

シマノ・ステップスE6180シリーズ(上)と同E5080シリーズ(下)

2019年は日本におけるeバイク元年とされる。コンポーネントメーカーのシマノでは、eバイク用の電動アシストユニット・ステップスシリーズのラインナップを拡大。新たにE6180、E5080の両シリーズが追加され、ハイエンドモデルのE8080シリーズと合わせて3モデル体勢となった。

E6180シリーズは、街乗りからロングライドまで対応する、バランスの良いアシスト性能を実現しているのが特徴。またQファクター(左右のペダル間隔)を狭く設計していて、小柄なサイクリストでもペダリングしやすくなっている。一方、E5080シリーズは、上位機種の基本性能を受け継ぎながら軽量・コンパクトなパッケージを実現した、ステップスで最も軽量なユニット。スポーツバイク、特にロードバイクの軽快な走りを損なわないユニットとして注目される。

これを受け、完成車メーカーもハイエンドから低価格帯のモデルまでさまざまなeバイクをラインナップ。20万円を切る完成車も出始めており、ユーザーの選択肢は着実に増えている。これまで価格が購入の障壁だったユーザーも食指を伸ばしやすくなっていくだろう。また、これまで国内展開されてこなかった海外ブランドのロードバイク型のeバイクも日本のアシスト基準に合わせたモデルの販売も発表されている。スペシャライズドはロードバイク型のeバイク、ターボクレオシリーズを2020年春に発売すると発表した

エントリーモデルからハイエンドモデルまで、eバイクと普通のロードバイクを選んで買える日もそう遠くないはずだ。