2020トレック・新ドマーネは万能ロードバイクか?〜アサノ試乗します! その31

目次

独自の衝撃吸収機構・ISO(アイソ)スピードを搭載するエンデュランスロード、TREK(トレック)・Domane(ドマーネ)シリーズ。パリ〜ルーベに代表されるクラシックレースをターゲットに開発されているが、最大700×38Cのタイヤに対応しグラベルタイヤの装着も可能。レース、ロングライド、グラベルに対応し、オールラウンドに乗れるロードバイクとの呼び声も高い。グラベル用、レース用など3種類のタイヤで試乗し、万能性に焦点を当ててインプレッションする。

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この1台でレースからロングライド、グラベルまで対応できる?

トレック・ドマーネSLR9

今回試乗するバイクのトレック・ドマーネSLR 9。シマノ・デュラエースR9170 Di2完成車で112万6000円(税抜)

クラシックレースをターゲットに速さと快適性を追求したトレックのエンデュランスロード・ドマーネ。その最上級モデルSLR9は、最上級のOCLV700シリーズカーボンフレームに衝撃吸収機構のIsoSpeed(アイソスピード)をシートチューブとヘッドセット上部に搭載。フレームの空力性能追求にも余念がなく、ケーブル類はフレームに内装し、サイクリングに必要な携行品を収納するストレージもダウンチューブに設けている。また、最大700×38Cのタイヤを装着可能で物理的にはグラベルタイヤも装着可能だ。

このようにスペック上はレースからロングライド、グラベルライドまで1台で楽しめるポテンシャルを秘めていると言えるが、実際のところはどうなのか? ロードレース向けの細めのタイヤ(700×25C)、標準装備のタイヤ(700×28C)、グラベル向けブロックタイヤ(700×35C)の3種類のタイヤでライドテストを行い、真実を確かめた。

自転車ジャーナリスト・浅野真則

インプレションライダー/ライター・浅野真則。自転車ライターとして活動しながら、プライベートでJエリートツアーやホビーレースに参戦。愛車は軽量レーシングモデルばかりだが、最近はグラベルロードにも興味がある

ドマーネSLR 9のディテールをチェック!

衝撃吸収機構アイソスピードをシートチューブとヘッドまわりに搭載。シートチューブをトップチューブから独立させることでシートチューブに伝わる衝撃を緩和するリヤアイソスピード、ステアリングコラムをしならせてハンドルまわりの衝撃を緩和するフロントアイソスピードにより、ステアリングや反応性に悪影響を与えず快適性を高めることに成功している

IsoSpeed(アイソスピード)

衝撃吸収機構のIsoSpeed(アイソスピード)

ディスクブレーキ化によってフレームのクリアランスが大きくなり、太いタイヤを装着できるモデルが増えているが、ドマーネシリーズは最大700×38Cまで対応。標準装備のタイヤも700×28Cとロードバイクにしては太めだ

Domane SLR 9のタイヤクリアランスの様子

ドマーネSLR9のタイヤクリアランスの様子

快適性とともに速く走ることも追求しているのがドマーネの特徴。ヘッドチューブまわりやダウンチューブなどフレーム各部の形状も空気抵抗削減を意識したものになっており、レースはもちろん、単独でのロングツーリングでも速く走れることにつながる。

Domaneのエアロ化

エアロ形状のヘッドまわり

ダウンチューブにストレージ(収納スペース)が設けられている。ストレージにはCO2ボンベやスペアチューブを収納可能なビットバッグが収められている。ストレージのカバーはボトルケージを付けた状態でも簡単に開け閉めできる。

フレーム内蔵ストレージ

フレーム内蔵ストレージ

フェンダー(泥よけ)を装着するためのねじ穴も目立たない位置に設けられている。レースバイクらしいシンプルなルックスを保ちながら、実用性も考慮されていることが分かる。

マッドフェンダーマウント

マッドフェンダーマウント

新開発のマイクロアジャストシートマストを採用し、ミリ単位のサドル高調整も容易に。ボントレガーのテールライトをスマートに装着するための台座が設けられている。ステム一体型の専用ハンドルを選べば、サイクルコンピューターやライトも専用のアウトフロントマウントにすっきり装着可能だ。

テールライト一体型マウント

テールライト一体型マウント

試乗その1 標準装備の700×28Cロードタイヤ
〜標準仕様での乗り味をチェック〜

ドマーネSLR9には、標準でBONTRAGER(ボントレガー)・R4クラシックスハードケースライトロードタイヤの700×28Cが装備されている。エンデュランスロードらしい太めのタイヤだ。まずはノーマルの状態で乗り心地や走行性能をチェックしよう。

標準装備の28Cタイヤ

標準装備のBontrager(ボントレガー)・R4クラシックス ハードケースライトロードタイヤ 700×28C(9600円・税抜)

オンロードでは28Cが最もバランスが良い

ロードバイクのタイヤはレーシングモデルでも25Cが標準的になったが、さすがに28Cは太く感じる。しかし標準装備されているアイオロスXXX4はリム内幅が21mmと太く、見た目にはそれほどボリュームを感じさせない。

今回はクリンチャー仕様でテストしたが、エアボリュームに由来する衝撃吸収性の高さが印象的だった。石畳のようなやや荒れた路面でも、ハンドルやサドルから不快な振動が伝わりにくいと感じた。もちろんアイソスピードの働きも大きいだろう。

走行性能に注目すると、加速時にやや重量の重さを感じるものの、巡航し始めるとスピードの維持が楽で、自分の体感よりサイクルコンピューターに表示されるスピードがずいぶん高かった。リム幅が広く扁平率が上がるため、28Cでもタイヤのよれが気にはならず、キビキビとしたコーナーリングを味わえたのも印象的だった。

快適性と走行性能を高い次元で融合させ、ドマーネのロードバイクとしての魅力を最大限に引き出すにはこのサイズが必然なのだと感じた。

標準装備の28Cタイヤで試乗

舗装路では、巡航時の走りの軽さが際立った。コーナーでもキビキビとした挙動を示した

 
石畳風の道を走る

石畳では28Cタイヤのエアボリュームが生きて路面からの衝撃をうまくいなしていた

試乗その2  25Cタイヤ
〜標準より細めのタイヤでレーシーな走りにつながるか?〜

続いて軽量レーシングロードバイクでは標準的なサイズの700×25Cのロードタイヤを装着し、舗装路で28Cタイヤとの違いを検証する。タイヤが細くなるだけでなく、重量が標準タイヤの285gから200gと軽くなるが、その違いは走りに影響を与えるか?

25Cで試乗してみる

25C試乗用のボントレガー・R3ハードケースライトロードタイヤ 700×25C(5300円・税抜)

 

25C装着時のタイヤクリアランス

700×25Cは標準より細いので、タイヤのクリアランスも十分すぎるほどにある。リム幅の太さもあり、実寸より細く感じるほどだ

加速の乗りはよくなるが、ドマーネの良さが生かし切れない

事前の予想ではこのセッティングが一番レーシーで自分好みになるのではないかと予想していた。だが、実際に走ってみると、ドマーネにはこのサイズのタイヤはミスマッチだと感じてしまった。

走り出しは軽快で加速の乗りもよく、走りが軽くなったように感じられるのだが、巡航時に28Cのときに感じられた転がりの軽さが希薄になった印象を受けた。長い上りに限定するなら重量面でメリットがある25Cの方が良さそうだが、下りや平坦も含めたトータルで考えると28Cの方がドマーネの良さを引き出せるように感じた。

エアボリュームが少ないためか、28Cの時より路面からの衝撃が強く伝わってくるようになった。ドマーネの売りである快適性もスポイルしてしまうので、少なくとも今回のテストからはドマーネに25Cタイヤを入れる意味を感じられなかった。

25Cタイヤで試乗

25Cタイヤにすると加速は軽快になる。長い上りでも重量面のメリットはあるのだが……

試乗その3 35Cグラベルタイヤ
〜グラベルロード化できるのか?〜

最後にトレッドにブロックパターンの付いたボントレガー・GR1チームイシューグラベルタイヤの700×35Cを装着。ポジションはロードバイクのままだが、見た目はグラベルロードっぽくなった。この仕様でグラベルロードとして使えるのか、検証しよう。

使用する35Cグラベルタイヤ

使用するボントレガー・GR1チームイシューグラベルタイヤ 700×35C(6700円・税抜)

 

35Cグラベルタイヤ装着時のタイヤクリアランス

35Cのグラベルタイヤを装着しても、フロントフォークにはまだ十分なクリアランスがある

本格的に攻めるのでなければオフロードも十分守備範囲

ドマーネはトレックのロードバイク3兄弟の中では直進安定性に優れている。これは石畳や未舗装路もコースに含まれる春のクラシックレースをターゲットに開発されたからだ。

しかしドマーネは最大700×38Cのタイヤに対応し、グラベルロードのタイヤも物理的には装着可能だ。グラベルタイヤを履かせればオフロードをガンガン走れるようなグラベルロードに変身するのか? 答えはイエスでもあり、ノーでもある。

ロードバイクとグラベルロードの中間的なジオメトリーなので、オフロードでも硬く締まった土の路面、小さめの砂利が表面に浮いているぐらいのジープロードなら楽しく走れる。しかし、ジオメトリーやドライブトレインのギヤ比などがグラベル仕様でない分、急勾配があるコースや本格的なオフロードに対応するのはキツイと感じた。

やはり“餅は餅屋”。だが、ツーリングやロングライドでちょっとした未舗装路や工事で路面が荒れている区間があっても、ストレスなく走れるという意味では魅力と言えそうだ。

35Cグラベルタイヤで試乗

比較的路面の荒れていない未舗装路では、グラベルタイヤとアイソスピードの効果もあって気持ち良く走れた

 

トレイルもいける!

オフロードの急勾配では、ロードバイク用コンポーネントの限界を感じる場面もあった

総評 1台でマルチに楽しむなら、ドマーネの守備範囲の広さは魅力

ドマーネSLR9にキャッチフレーズを付けるなら、「自転車界のユーティリティプレイヤー」だ。基本の立ち位置はレース志向の強いエンデュランスロードで、ロングライドも十分守備範囲。グラベルタイヤを履かせればある程度の未舗装路も気にならないため、従来のロードバイクにはない行動範囲の広さも兼ね備えているし、あらゆるシーンに対応する柔軟性も秘めている。ロードバイクとグラベルロードをミックスしたようなカテゴリーを超越したバイクといえ、車でいうところのクロスオーバーSUV的な存在だと感じた。

そのことはジオメトリーにも現れている。ドマーネのジオメトリーはトレックの軽量レーサー・Émonda(エモンダ)やエアロロード・Madone(マドン)と比較すると、ホイールベースが長く、ヘッドアングルも寝ていて直進安定志向が強い一方、トップチューブが短くヘッドチューブが長いのでアップライトなポジションも取りやすくなっている。特にホイールベースが長めであることやBB下がりが大きめであること、ヘッドチューブが長めであるという特徴は、グラベルロードにも共通するものだ。

ドマーネの最大の長所は、舗装路で長距離を速く快適に走れるという点にある。長い上りがそれほどなく、加減速も少ないコースならレースでも十分使えるし、サーキットで行われるエンデューロレースには向いていると思う。ちょっとした未舗装路にも気にせずガンガン入っていける……といいたいところだが、SLR9は完成車で100万円オーバーのハイエンドモデルゆえ、さすがにちょっと躊躇してしまう。

さらにSLR9に搭載されるデュラエースはスプロケットのローギヤが30Tなので、フロントが50-34のコンパクト仕様でも本格的なグラベルを楽しむにはギヤが重すぎる。舗装路メインで石畳や未舗装路の区間もある春のクラシックを意識しているのだから、致し方ないところではある。

オールラウンダーという観点でいえば、個人的にはOCLV500シリーズカーボンフレームにシマノ・アルテグラを組み合わせたドマーネSL6や、同フレームの105仕様・ドマーネSL5の方がふさわしいと思う。両モデルとも前後のアイソスピードを搭載しているし、34Tローギヤのスプロケットも搭載しているからだ。

ふだんはロングライドが中心で、たまにエンデューロレースに出たり、ちょっとしたグラベルも走ってみたいという方にドマーネはまさにピッタリの1台なのは間違いない。そのうえでオンロードでの最上級のパフォーマンスを楽しみたいならSLRシリーズ、もっと気軽にさまざまなスタイルを楽しむならSLシリーズを視野に入れるのがいいだろう。