安井行生のロードバイク徹底評論第13回 キャノンデール・スーパーシックスエボ vol.1

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安井スーパーシックスエボ1

徹底評論第13回は、近年稀に見る「衝撃のモデルチェンジ」となったキャノンデール・スーパーシックスエボである。アメリカでのローンチイベントに参加し、帰国後も日本で何度も試乗を行い、さらにこの連載のために新型エボの全モデルに(ホイールを統一して)乗った安井。新世代万能ロードに関する考察をしながら、新型エボを分析・評価する。

 

先代の面影はどこへ?

風洞実験で数々のチューブ形状を検討し……時速43km時の必要パワーを旧型比で30ワットも削減し……だんだんエアロロードのプレゼンを聞いている気分になってきた。
ここは映画「サウンド・オブ・ミュージック」のモデルになったトラップファミリーが今も経営するロッジの一室。あのスーパーシックスエボがモデルチェンジすると聞き、編集部から「アメリカで行われるローンチイベントに参加せよ」という命を受け、胸を躍らせ渡米した翌日のことだ。
プレゼンは快調に進む。18%も快適性を向上させ……インテグレーションを推し進め……いやいやちょっと待ってくれ。
カムテール?ケーブル内蔵?快適性?インテグレーション?
半日ぶんの時差ボケが吹き飛んでいく。この変貌ぶりは一体どうしたことか。あのエボは一体どうなってしまったのか。
バーモント州のストウで行われたキャノンデールのローンチイベント。それは、そういう驚きから始まった。

なにせ先々代は695gというフレーム重量と、完璧とも言えるバランスを備えた名機。先代はやや空力を意識しつつもストイックな設計を貫いたピュアレーシングバイク。それは、シンプルで求道的なロードバイクに乗りたいと願う自転車乗りの最後の砦だった。
それがモデルチェンジするというのだから、ルック・785を真正面からメッタ刺しにするようなカリカリの軽量バイクを期待する。
しかし目の前に鎮座しているのは、ケーブル類を内蔵し、エアロハンドルとディスクブレーキを装備し、45mmハイトの勇ましいカーボンクリンチャーを履き、シートステーの位置を下げてリヤ三角をコンパクトにし、全身カムテールとなった、トレンド全部入りの物体だ。
現代エアロロードではお馴染みとなったカムテール断面のコラムスペーサー、臼式の内蔵シートクランプ、30C対応のタイヤクリアランス……その変貌ぶりに頭が混乱してくる。これは旧型の面影を振り払い、意識を切り替える必要がありそうだ。

安井スーパーシックスエボ1

プレゼンターの話を簡単にまとめると、「旧型で定評のあった軽さ、剛性バランス、ハンドリングを維持しつつ、その他の全ての性能(空力性能、快適性、インテグレーションなど)を向上させた」ということらしい。
もちろん、ライターがそんな“いかにも”な宣伝文句に惑わされてはいけない。そんなに万事がうまくいくわけがないからだ。ロードバイクは(というか乗り物は)相反条件だらけの商品である。あっちを立てればこっちが立たずだらけの物体なのだ。

プレゼンでは、全走行抵抗における空気抵抗の割合がどれほど大きいか、真円チューブと比べてカムテール断面がいかに空気抵抗面で有利か、ライバルと比べて新型エボの空力性能がいかに優れているか、SAVEハンドルバーの空力優位性などが力説された。やはり完全にエアロロードのノリである。

 

新世代万能ロード一考

スペシャライズド・ヴェンジ、キャノンデール・システムシックス、トレック・マドン、サーヴェロ・S5、BMC・タイムマシンなどが相次いで発表された2018年に比べると、エアロロードの勢いは鎮静化した。今は各メーカーが打倒ヴェンジに向けて爪を研いでいる段階だろう。そのかわり盛り上がっているのがコンペティティブロードの万能化だ。この新型エボはその典型である。
かつては旧々エボ、旧エボのような、汎用性が高く軽量でシンプルなフレームを「万能バイク」と呼んだものだが、空力性能、快適性、ディスクブレーキ、ワイドタイヤ対応、トータルインテグレーションなどが必須(というかそうじゃないと商品力が確保できない)となった今では、この新型エボのようなバイクこそが万能モデルということになっている。

そんな新世代万能モデルの特徴は、どれも非常に似通ったシルエットになっていることだ。スペシャライズドのターマック、BMC・SLR01、ウィリエール・ゼロSLR、スコット・アディクトRC、デローザ・メラク、コルナゴ・V3-RS、フジ・トランソニック、フォーカス・イザルコ、そしてこの新型スーパーシックスエボ……ここ数年内にデビューした万能モデルは、同じヤツが設計してんのか?と言いたくなるほどどれもよく似ている。かなりのマニアでない限りシルエットクイズで全問正解できる人はいないだろう。
それらが似ているとされるポイントは以下の3点だ。
①各チューブをカムテール形状にしていること。
②ケーブル類をハンドルやフレームに内蔵していること。
③シートステーとシートチューブの交点を下げ、リヤ三角をコンパクトにしていること。

①と②はもちろん空力性能を上げるためである。ヴェンジの回で説明したように、涙滴断面とほぼ同等のCD値を有するカムテール形状は、真円断面と比してエアロダイナミクス面で圧倒的に有利だ。また、空気抵抗にさほど関与しなさそうなケーブル類も気流を乱す要因となる。おそらくCFD上ではケーブルの有無がCD値の決して無視できない差となって表れるのだろう。結果、非エアロロードながらハンドルにケーブルをフル内蔵するモデルが多くなった。

安井行生のロードバイク徹底評論第13回 キャノンデール・スーパーシックスエボ vol.2に続く