安井行生のロードバイク徹底評論第13回 キャノンデール・スーパーシックスエボ vol.3

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安井スーパーシックスエボ3

徹底評論第13回は、近年稀に見る「衝撃のモデルチェンジ」となったキャノンデール・スーパーシックスエボである。アメリカでのローンチイベントに参加し、帰国後も日本で何度も試乗を行い、さらにこの連載のために新型エボの全モデルに(ホイールを統一して)乗った安井。新世代万能ロードに関する考察をしながら、新型エボを分析・評価する。

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解析ソフトがフレームを作るわけではない

近年の万能ロードが似てきた理由その2は、開発に“計算”が入ってきたから。
開発でFEMやCFDなどの解析ソフトや風洞実験を使い始めたからどれも似てくるんだ、と言う人がいる。なるほど一見それらしい論ではある。でも本当にそうなのか。
もし、同じコンセプトを基に、別々のメーカーが同じ解析ソフトと同じ風洞実験施設を使ってロードフレームを開発したら、全く同じものが出来上がるか。おそらくそうはならない。
なぜならCFDもFEMも風洞実験も、「人間が考えた形がいいかどうかを検証するためのもの」だから。「壊れるか壊れないか」「剛性が高いか低いか」「空気抵抗が大きいか小さいか」は、最初に形が存在しないと検証できない。ソフトと風洞実験施設が形を作るのではない。エンジニアが理論と経験とセンスとひらめきをもとに、形を「考えて作る」のである。その形(や素材や積層など)の良し悪しを、ソフトに判断させているだけなのだ。
BMCのACEテクノロジーなどはソフト主導の設計であり、コンピュータ支援設計の支配力がかなり強いようだが、それでも人間の「こういうカタチにしたい」という想い・情緒は完全に排除できていないだろう。

形を“考えて作る”とき、(多くの場合は他社の)先例を参考にするのは当然である。評判のいいヒトんちのモノを横目で見ながら、オイシイところはアイディアを頂戴する(もちろんパテントに引っかからないように細心の注意を払いながら)。自転車業界に限らず、それが商売というものである。そうしないと食っていけない。先例ゼロの状態から「いいモノを作り出せる」のは本当の天才だけ。そんな人は一握りしかいない。
だから最新の万能モデルがどれも似てきたのは、開発に解析ソフトが入ったことが直接的な原因ではなく、完成度の高い既存モデルの影響を受けているからではないか。有り体にいえば真似だ。

ピナレロのオンダフォークだって、ルックの675の一角獣スタイルだって、それが発表された直後に堂々とパクるメーカーは存在した。そもそも、アルミ時代のカーボンバックだってインテグラルヘッドだってスローピングフレームだって、ワイドリムだってインテグレーテッドBBだって、あるメーカーが始めたとたん爆発的に広まった。現在ロードバイク界を席巻しているカムテール形状、それは2010年にスコットがマクラーレンとタッグを組んでロードバイクに取り入れたもの(F01テクノロジーという名称が付けられていた)である。世間一般ではこれを「マネ」というのではないか。

安井スーパーシックスエボ3

 

ソフト上で「いい結果」に収斂するのは確か

「確かにそうなんだけど、解析ソフトを使って何かの判断をするときは、何十種類ものパターンのモデルを試して、その中で一番優れているものを選んでいくだろ。そうすると、どのメーカーも『ソフト上で結果がいい方向』に収斂していくことは十分考えられる」
とは某モーターサイクルメーカーで開発をやっている知人。最近の万能ロード事情について聞いてみたら、こんな答えが返ってきた。
「解析ソフトを使うと、解析条件に対して効率的な形になっていくもの。どのメーカーも同じような条件で解析していたら、みんな同じような形になるはず。その条件が正しいかどうかは別にして、だけどね」

これを聞くと、解析技術の進化・導入が「似てきたこと」に影響していそうである。万能ロードと同じく、どれも似たような形になっているエアロロードについても同様のことが言える。
「空力に関しても、開発プロセスの中にCFDが入ると、『空力的に優れた形』に収斂していくからどうしても似てきちゃう。それは自転車ならではだと思うけどね」
「モーターサイクルはカウルの面積が大きいから、見た目が商品力を左右する。だからデザイナーが形をいじりたがる。『性能と見た目のバランス』をどうとるのかが難しいんだけど、自転車はフレームがむき出しだから、モーターサイクルみたいに『見た目重視』か『性能重視』かで分かれるよりも、『性能』寄りになって形が近くなりやすいんだと思う」

彼が言うように、そもそも自転車という乗り物はどれも似るものだ。形状で個性を演出する余地が残されているクルマやモーターサイクルと違って、飛行機などと同じく「形状=機能」の乗り物だからである。
実際、スチールの時代はもっと似ていた。というかざっくり言えばどれも同じというレベルだった。ラグの1mmほどの凹凸によってあーでもないこーでもないと言っていたのだから。アルミ時代も同じようなもので、インテグラルヘッドやカーボンバックを含め、金属時代は素材の設計自由度の低さと製造方法の制限によって「似ざるを得なかった」とも言える。アルミ時代後半に一時のブームになったハイドロフォーミングによってなんとか個性を競い合う、という状態だった。

安井行生のロードバイク徹底評論第13回 キャノンデール・スーパーシックスエボ vol.4に続く