安井行生のロードバイク徹底評論第13回 キャノンデール・スーパーシックスエボ vol.9

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安井スーパーシックスエボ9

徹底評論第13回は、近年稀に見る「衝撃のモデルチェンジ」となったキャノンデール・スーパーシックスエボである。アメリカでのローンチイベントに参加し、帰国後も日本で何度も試乗を行い、さらにこの連載のために新型エボの全モデルに(ホイールを統一して)乗った安井。新世代万能ロードに関する考察をしながら、新型エボを分析・評価する。

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2ndグレードもバランスのいい秀作

次は②のスタンダードモッドだ。
機械式アルテグラ仕様でカーボンクリンチャーを履いて約40万円とはかなりお買い得感があるが、ローターはデオーレグレードのRT54、チェーン、スプロケは105グレードとなる。
第一印象、これもかなりいい。当然だがハイモッドと同じくバランス型で、刹那の切れ味より様々な状況を走った結果どうなのか、ということを重視して作られている印象。②の方がリムハイトが低いこともあり、加速性能や登坂時の振る舞いは意外と①(ハイモッドディスクデュラエースDi2に近いものがあるが、高速への伸びは②のほうが明らかに大人しい。とはいえ価格を考えると諸手を挙げてお勧めできる出来である。

安井スーパーシックスエボ9

リムブレーキの③(スーパーシックスエボカーボンアルテグラ2と⑥(③×DTスイス・PRC1100ダイカット35は最後にするとして、④と⑤(それぞれ①と②×DTスイス・PRC1100ダイカット35ディスク)でハイモッドとスタンダードモッドのフレーム比較をする。
担当エンジニア曰く「ハイモッドとスタンダードモッドとの違いは重量のみで、ハンドリングや剛性値は同じ」とのことだったが、走りには明らかな差がある。ハイモッドのほうが軽快で反応性もいい。もちろんついているコンポにもパーツにも重量差があるため、フレーム単体の違いを正確に判断することはできないが、感覚的にはフレームの剛性感の差も小さくないと思う。剛性は似たようなものかもしれないが、剛性感は違うのだ。
とはいえハイモッドが硬すぎるとは感じない。脚当たりのよさと反応性を両立している感じだ。だからハイモッドに大金を投じる価値はあると判断する。瞬間の反応性を重視しないならスタンダードモッドでも十分満足できるだろうが。

 

初代を彷彿とさせる軽やかな走り

ではリムブレーキの③と⑥。
ここに真の驚きが待っていた。
まずDTスイスを履かせた⑥から。
素晴らしい。素晴らしい剛性感だ。リムブレーキならではのしなやかさがあり、中速から踏み増したときの足当たりのよさは絶品である。加速の度に「キモチイイ」と声が漏れるほどの快感。挙動の自然さや奥深さという点では、なんとシリーズ最良だ。
絶対的な性能は最新ハイエンドに一歩劣るが、一昔前のハイエンドに匹敵するレベルだろう。とにかくバランスがいい。硬すぎず、あらゆる挙動がスムーズで、高速への伸びもいい。
ハイモッド完成車で感じたハンドル周りのギクシャクもゼロだ。ダンシングをしていると陶然となれる透明感のある剛性バランスに仕上がっている。登坂力も相当高い。上品な足さばきで、軽快に坂を駆け上る。初代エボを彷彿とさせる軽やかで爽やかで美しい走り。

安井スーパーシックスエボ9

純正ホイール(フルクラム・レーシング500)の③でも乗ったが、フレームの完成度の高さに引っ張られて、これも決して悪くなかった。重量があるので俊敏性は薄れるのだが、バランスのいい剛性感は消えない。これにレーゼロを入れればもっとシャキッと走るだろうし、ボーラ35のチューブラーを入れれば一級のヒルクライムバイクになるだろう。

リムブレーキ版の新型スーパーシックスエボ。ディスクブレーキ版の影に隠れ、作り手からも「安いモデルも欲しいからリムブレーキも作っておいた」などと言われてしまう可哀想な存在だが、その走りは名車といっていい出来である。これならプロだって満足するだろう。
この性能がアルテグラ完成車で28万。105完成車(ホイールはフルクラム・レーシング900)で22万。控えめに言って大バーゲンだ。乗り味を重視し、かつディスクブレーキが必須ではないのなら、これを候補に入れないのは勿体ない。

実は、売れ筋からは外れるであろうリムブレーキ仕様の試乗車は用意されていなかった。しかしキャノンデール・ジャパンは、この企画のために48サイズのスーパーシックスエボカーボンアルテグラ2の新車を試乗用に下ろしてくれた。メディア向け試乗車がどんどん少なくなる時勢のなか、何を言うか分からないやさぐれライターのために、である。おかげでこの素晴らしい走りを味わうことができた。感謝感謝。
この試乗車は今後全国で行われる試乗会に回るのだろう。皆さまにはぜひ、机上の高性能ではなく、「走りのリアル」を身に付けたこの一台を体感していただきたい。その際、ホイールはいいモノに交換することをお勧めする。

<④と⑥の比較(ハイモッドディスクとスタンダードモッド・リムブレーキの比較)>
挙動のナチュラルさではやはりリムブレーキ(⑥)のほうが上だ。④のハンドルセットの独特の剛性感もあるだろうが、ディスクブレーキ化した結果でもあるだろう。驚くことに中負荷域まではハイエンドの④とミドルレンジの⑥で動的性能がさほど変わらないのだが(わずかに④のほうが鋭い程度)、高負荷域になると④にハイエンドらしい爆発力が宿り始め、負荷が上がるにつれて差が広がってくる。高負荷でも鋭さが持続するのは④だ。

<⑤と⑥の比較(スタンダードモッド同士のリムブレーキ・ディスクブレーキ比較)>
剛性バランスはリムブレーキのほうが明らかにいい。動的性能もリムブレーキのほうが高い。面白いことに、⑤を純正ホイールに戻す(=②)と、剛性バランスが⑤より整う。ホイールが重くなるぶん挙動は鈍くなるのだが、ギクシャクした感じが薄まるのだ。さすがは純正ホイールと言ったところか。

大多数にはスタンダードモッドのディスク仕様を。高速高負荷域での鮮烈を求める手練れにはハイモッドを。低価格帯を買うユーザー層と、ナチュラルな挙動や人車一体の高揚感が欲しいといううるさがたにはスタンダードモッドのリムブレーキ仕様を。走りを分析したうえで新型エボの商品構成をまとめるとこうなる。

安井行生のロードバイク徹底評論第13回 キャノンデール・スーパーシックスエボ vol.10に続く