自転車は本当に車道左側を通行する方が事故リスクが少ない?

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illust.:佐藤賢明

自転車の車道左側通行ルールはだいぶ認知が進んできた感がある。一方で、それは車との事故のおそれがあり危険だと思う人が多いのが実情のようだ。そこでサイクルスポーツはau損保と協働で、自転車の車道通行時と歩道通行時の自動車ドライバーからの被視認性について、専門家の意見を仰ぎ考察を行った。自転車通勤者の増加、自転車保険加入の義務化が進む今、安全な自転車交通に向けての提言としたい。

そもそも道路交通法ではどう定められている?

今回は自転車交通の専門家として、自転車交通についての講演事業等を展開し、特に学校向けの安全な自転車通学の提案で実績のあるセルクル代表・田中章夫氏に話を聞いた。田中氏はNPO法人自転車活用推進研究会にも所属し、自転車の車道左側通行の事故リスクの少なさを説いている。

はじめに、改めて自転車の道路交通法上のルールをごく簡潔に確認しておきたい。

「自転車は軽車両として位置づけられており、つまり車両=車の一種です。歩道と車道の区別のある道路では、車道の左側を通行することが定められています。ちなみに、車両通行帯のある道路(片側2車線以上の道路)では、一番左側の車線を通行するよう定められています(つまり車線のどこを通っても法律上は問題ない)。

一方の歩道は、(あくまで例外として)自転車の通行が認められている所で、歩行者の通行を妨げないように徐行して通行して良いと定められています。この徐行とは、すぐに止まれる速度とされています」と田中氏。

自転車は車道の左側通行が原則で、歩道はあくまでも例外ということだ。

※ごく簡潔にまとめているので、詳細については道路交通法第2条、第17条、第63条の4を参照してほしい。

「車道左側通行ルールは知ってるけど、車道通行は危ないと思う」という実情

au損保が実施したアンケート調査によると、車道の左側通行に関するルール(道路交通法第 17 条・18 条)を「知っている」、「なんとなく知 っている」と答えた人は約 94%と、自転車利用者の大多数がこのルールを知っていることがうかがえる。

一方で、自転車で車道を走ることを「危ないと思う」、「やや危ないと思う」と答えた人は約 95%という結果が出ており、ルールは知っているものの車道の左側通行を危ないと思っている利用者が多くを占めている実情もうかがえる。

自転車対車の事故リスクを減らすカギは「認知」

このような実情がうかがわれる中、自転車は車道左側通行をした方が車との事故リスクは少ないと言えるのだろうか?

「はい。論理的に考えるとそうだと言えます。ポイントとなるのは、“自転車が車のドライバーから認知されているかどうか”ということです。

実は、交通事故の多くは認知ミスによるものだというデータがあります。これは自転車と車との事故についても同じで、多くは自転車が車のドライバーに気づかれていない、気づかれるのが遅かったことによるものと考えます」。

それはどういうことだろうか?

「車道左側の適切な位置を通行すると、車のドライバーからきちんと注意を払ってもらいやすくなります。中にはそのうえで幅寄せをしたりクラクションを鳴らしたりするドライバーもいるでしょうが、あえて事故を起こそうと思って当たりにくる人はまずいないでしょう。いたとすれば、それはもはや事故ではなくて事件です。

逆に、歩道を通行すると車のドライバーが注意して見る範囲から外れやすくなり、認知されにくくなってしまいます。すると歩道と車道が交わる所、特に交差点で事故が起こりやすくなってしまうのです。車のドライバーからすると、急に自転車が視界に現れたかのように見え、自転車の挙動に対処する余地が少なくなってしまう、ということです」。

自転車が歩道通行し、交差点で車と事故を起こしそうになるケースの一例

「実際、自転車と車の事故で多いのはこのケースなんです。自転車が車道の左側を通行すれば、自転車と車の事故の多くを減らすことにつながると考えます」。

車のドライバー視点から実験!

車道左側を通行すると車のドライバーから認知され、事故リスクが減る。非常に興味深い考え方だ。そこで田中氏のアドバイスをもとに、自転車の車道左側通行と歩道通行との車のドライバー視点での見え方の違いについて、実験を試みた。

(方法)
歩道のある片側一車線の道路で編集部スタッフが乗用車を運転し、その前を別のスタッフが自転車で通行する。その見え方について、ドライバーの目線位置から写真を撮影する(安全には十分に配慮した特殊な撮影方法を行っています)。
※実験は安全に十分に注意して行っています。また歩道は自転車通行可能な所で、かつ時速4km以下で徐行し、周囲に歩行者がいない状況で行っています。

実験1 車道左側通行と歩道通行との見え方の違い

まず、この2つの違いを実験してみる。まずは車道通行の場合だ。

車道の適切な位置を自転車で走行したときのドライバー目線からの写真

車道の適切な位置を自転車で通行したときのドライバー視点からの写真

運転したスタッフによると、「この場合は自転車の存在がいや応なしに目に入った」という。

「写真だと広範囲が見えているように思えますが、これに車のドライバーの意識が及びやすい範囲をイメージ化すると、より分かりやすくなります」と田中氏。

それをイメージ化してみると、下の画像のようになる。

車のドライバーの意識が及びやすい範囲をイメージ化したもの

次に、おおむね同じくらいの前方距離で、歩道を通行している写真を撮影した。

自転車が歩道を通行したときのドライバーからの見え方

自転車が歩道を通行したときのドライバー視点からの写真

先ほどと同様に、車のドライバーの意識が及びやすい範囲をイメージ化してみる。

歩道通行の場合で、車のドライバーの意識の及びやすい範囲をイメージ化したもの

車を運転したスタッフは、「だいたい同じ前方位置を通行しているはずなのに、車道左側を通行するより目につきにくくなった。車の種類にもよると思うが、バックミラーで隠れてしまうこともあった。今回のように植え込みや街路樹などがあると、なおさら注意が向きにくくなる」という印象を持った。

これについて田中氏は、「車のドライバーは運転中にありとあらゆる情報を目視によって得ます。その全てをインプットすれば脳が処理能力を超えてしまうので、脳が車の走行に関係のない情報を自動的に消去します。歩道は車が通行する場所ではないので情報が消去されやすく、そこを走る自転車も当然消去されやすくなります」と指摘する。

以上から、歩道を通行している方が車のドライバーから認知されにくい傾向がある、ということが分かる。

実験2 交差点での見え方の違い

実験1を踏まえて、自転車と車との事故が多いという交差点での見え方について、次の2つの実験をする。

①自転車は歩道通行し、信号のある交差点を直進する。車はその後ろから通行し、同じ交差点を左折する。そこでちょうど両者が鉢合わせるときの見え方を確認する。

② ①と同じ状況で自転車は車道通行をしてみる。

①歩道通行の場合

まず、交差点進入直前の見え方は下のとおりだ。車を運転したスタッフは「交差点進入前、先行して自転車がいるが先の実験と同じく注意が向きづらい。また、歩道を通行しているのでそのまま追い抜いてしまいやすい」と感じた。

歩道通行した場合の交差点進入前の見え方

そのまま進んで交差点を左折しようとし、自転車と鉢合わせたときの見え方は下のとおりだ。

歩道通行した場合の交差点左折時の見え方

車の運転をしたスタッフは「自転車と交差点を曲がるときに鉢合わせると、突然視界に現れるように見える」という印象を持った。一連の流れを分かりやすくしたものが、先に紹介したイラストだ。

②車道左側通行の場合

次に、車道左側の適切な位置を通行した場合の、①と同じ状況での見え方について実験した。まず、交差点進入前の見え方は下のとおりだ。

車道通行した場合の交差点進入前の見え方

車を運転したスタッフは「自転車の存在に気づいているので追い越しにくいうえに、あえて追い越して交差点まで進もうという気が起こりにくい」と感じた。

そのまま進行し、交差点を左折しようとしたときの見え方は下のとおりだ。

車道通行で左折するときの見え方

自転車の存在に気づいており追い越さずに進行したので、当然接触や巻き込みしにくくなることが分かる。

この一連の流れを分かりやすくイラスト化すると、下のようになる。

車道左側通行で交差点における事故リスクが減少することを示したイラスト

以上の実験から、自転車は車道左側を通行する方が車のドライバーから認知されやすくなり、結果として交差点などで車との事故リスクが少なくなる傾向がある、ということが言えるのではないだろうか。

事故発生件数はどうなっている?

実際、自転車対車の事故はどのような状況で起きているのか、警察が公開するデータを見てみよう。

出典:警察庁交通局資料「自転車関連事故に係る分析」(平成31年4月25日)

今回のテーマに大きく関わる、自転車と車との重大事故の状況だ。平成26年〜30年の自転車対車の死亡・重症事故件数のうち、約半数以上は出会い頭衝突となっている(上の図)。これは、自転車の信号無視や交差点の一時不停止・飛び出しなど、根本的な危険運転によるものが多いからだと推測される(本記事では触れていないが、これも自転車が歩道を通行することに多くの原因があると田中氏は指摘する)。

今回のテーマでポイントとなるのは、「右左折時衝突」が25%と全体の4分の1を占めることだ。これは、交差点等で自転車と車の事故が多いことの一つの裏付けと言えるだろう。

どんなに気をつけていても事故が起こる・起こしてしまうことがあると考えるべき

ここまで自転車の車道左側通行について考察してきたが、最後に田中氏はこう話す。

「大切なのは、事故リスクをどれだけ下げられるかなんです。ある条件下での航空機の事故遭遇率は、300年に1回というデータがあります。これはいろいろな仕組みによるところが大きいのですが、自転車に乗る人もそれと同じく、事故リスクを下げる運転をすれば良いのです」。

なるほど。そんな中、近年は自転車保険への加入義務化が進むが、それについてはどう考えればいいのか。

「どんなに気をつけていても、事故リスクはゼロになるわけじゃない。人間は必ずミスを犯します。また、公道には事故を起こしやすい運転をする人が紛れ込んでもいます。

特に問題なのは、自分が自転車乗車中に加害事故を起こしてしまったときです。それも絶対にゼロとは言い切れない。そのとき、あなたは相手への補償ができるか? 金銭的にそれが可能な蓄えがあるのか? そう考えると、自転車でも絶対に保険は必要です。

近年は自転車専用保険が登場しており、それを選ぶのも良い選択肢だと思います。少額から加入できたり、ロードサービスなどの付帯がついていたりと、万が一のときに便利です。用途に合わせて選ぶといいと思います」。

代表的な自転車専用保険としては、au損保の自転車向け保険が挙げられる。そうしたものもうまく活用し万一への備えをしつつ、事故リスクの少ない運転を心がけたい。

※単に自転車は車道左側通行をすればいいというわけではありません。交通ルール全般を守り、周囲の車・歩行者に迷惑を及ぼさない走り方を心がけてください(編集部注)。

ADVISER
セルクル代表
田中 章夫氏

交通安全コンサルティングなどを手がける企業を経営。高校生を中心に自転車事故件数減少に実績を持ち、自転車交通ルールを発信するFM番組にも出演。自転車通勤歴は14年で、車道通行のみで事故ゼロという経歴も持つ