スペシャライズド・ターマックがモデルチェンジ
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モデルチェンジを発表したターマック。SL7へと進化した
噂になっていた新型ターマックが遂にヴェールを脱いだ。SL6と同等の軽さを有しつつ、プロが太鼓判を押す剛性とハンドリングを実現し、現行ヴェンジに負けない空力性能を手にしたという。もうヴェンジは必要ないのか、それとも……。
空力を手にした新型
昨年のキャノンデール・スーパーシックスエボ、スコット・アディクトRC、デローザ・メラク、フォーカス・イザルコマックス。
今年のジャイアント・SLR、トレック・エモンダ、BMC・SLR01。
申し合わせたようにビッグメーカーが新世代万能ロードをリリースした、豊作の2019~2020シーズン。
そんな中、「オレこそ主役だ」と言わんばかりのタイミングで登場したのが、スペシャライズドの新型ターマックである。近年稀に見る名作となった現行ヴェンジの後を追う本気のレーシングバイク。確かに注目度は他社のライバルより高いだろう。
スペシャライズドジャパン本社で行われたプレゼンによると、SL7世代となった新型ターマックのコンセプトは「空力、剛性、軽さを一台にまとめる」というもの。それができないから今までエアロロードとコンペティティブロードに分けてたんですよね?と突っ込みたくなるが、グッと我慢する。
一見するとSL6とさほど変わらないように思えるが、もちろんフレームは完全新設計だ。
空力性能に関しては、シートステー、シートチューブ、シートポスト、ヘッドチューブ、フォークの形状を変更して空気抵抗を削減した。さらにヴェンジで採用されたエアロハンドル「エアロフライ2」を採用し、ケーブルをほぼフル内蔵。ダメ押しにホイールには先日発表されたばかりのラピーデを履かせる。結果、現行ヴェンジに肉薄するエアロダイナミクスを得ることができたという。スペシャジャパンスタッフの発言によると、ヴェンジとの必要ワットの差は40km走行時でたった2.5Wほどらしい。
それならば……と、なんとスペシャライズドはあの名作ヴェンジをあっさりディスコンにするという。今でもトップレベルにあるヴェンジのことだから、ニューカラーを出したりアルピニストと軽量ハンドルを入れて空力万能軽量完成車を作ったりと、商売の方法はいくらでもあるだろうが、「もうコースによってバイクを使い分ける必要はなくなった」とカタログで発言したその責任はとるのである。男らしい有言実行だが、ヴェンジ好きとしてはちょっと残念だったりもする。
BB規格は先代のBB30からスレッド式になった。古のスレッド式は雌ネジを立てたアルミスリーブが必要になるため重量面では不利である。しかし、メンテナンス性や異音トラブルを考え、スレッド回帰を決めたという。
軽さ&剛性に関しては、他社同様に解析ソフトを使用して空力・剛性・強度・軽さをバランスさせることで実現した。フレーム重量は800gだそうだ。今となっては目立つ数字ではなく、SL6のSワークスターマックディスクとほぼ同じだが、BBのスレッド化とフレームのエアロ化を考えると相応だろう。当然ディスクブレーキ専用設計だが、ヴェンジと違って機械式変速でも組める。もちろんフレームサイズ間の乗り味の差をなくすライダーファーストエンジニアリングも投入されている。
先代ターマックと同等の軽さを持ちながら、ヴェンジと同レベルの空力を有する。話だけ聞けば確かにヴェンジはいらないし、先代は一気に色あせてしまう。しかし数字だけでロードバイクは判断できない。
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ハンドルはヴェンジ流用だが、ステムはターマック専用品(商品名:ターマックステム)。ヴェンジステムとカタチは似ているが、剛性はそのままに45gも軽くなっているという。ハンドルバーはヴェンジのエアロフライ2を流用。当然ケーブル類は内蔵するが、ステム&コラムの中を通すのではなく、ステム下を通ってヘッドチューブの前側に入る。
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ケーブル類はステム下を這って上側ヘッドベアリングの内側を通る。電動変速&ターマックステム用、機械式変速&ターマックステム用、汎用ステム用と、3種類のキャップが用意される。
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タイヤは32Cまで入る。写真はロヴァールの新型ラピーデCLXにSワークスターボコットンの26Cを履かせた状態
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D型シートポスト、ドロップドシートステーなど、エアロのエッセンスを注入した前作SL6だが、ダウンチューブは丸みを帯びた四角断面だったりと、さほど積極的ではなかった。しかしSL7は全体的にカムテール形状を採用している。
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先代の上位グレードの完成車はSワークスクランクを使っていたが、BBがスレッドになったこともあって、SL7はコンポメーカー純正のクランクを使う。重量的にはデュラエースよりSワークスクランクのほうが軽いが、変速性能などを考慮した結果だという。
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シートポストは専用のD字断面。カムテール形状による空力性能向上と、前後方向の柔軟性を確保するためだ。ヤグラ部分にはジャンクションAを内蔵。
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シートクランプはトップチューブに埋め込まれる。
ヴェンジとの相違点
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新型ターマックのヘッド、フォークコラム
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ヴェンジのヘッドからフォークコラム部
現行ヴェンジの開発によって得られた知見を落としこんだという新型ターマック。ヘッド部の形状はよく似ており、ステムやスペーサーの形状も瓜二つだ
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新型ターマックのシートステーとシートチューブの集合部
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こちらはヴェンジの同部分
シートステーもヴェンジそっくりの形状となった。ドロップドシートステーとしてシートチューブをしならせやすくし、さらに前面投影面積を減らして空力を向上させるためだろう。タイヤは32Cまで入る
軽いだけではない、シャープな走り
現行ヴェンジの洗練された乗り味はそのままに、軽快感を高めたようなバイクを想像していたが、違った。SL7は相当ストイックなレーシングバイクである。
まず、加速はすさまじくシャープだ。ヴェンジより剛性は高いだろう。ヴェンジほど懐が広くなく、競争に徹した作り。ヴェンジがあれほど万人にうけたということは、万人に乗りこなせたということでもある。トッププロが使うと高負荷高速域での反応性に不満が出たのかもしれない。
ヴェンジのような夢のような高速巡航性はないが、万能バイクとしては相当にいいレベルだ。高速巡航性には空力だけでなく剛性感やペダリングのしやすさ、動力伝達の良し悪しなども影響するため、単純な空力性能だけでは語れない。ホイール(ロヴァール・ラピーデCLX)の空力性能もかなりいいので、だいぶホイールに引っ張られているような気はするが。
快適性はレーシングバイクらしく振動をカンカンと伝えてくる。ルーベがあるのだから新型ターマックはレーシング性能に振り切ったということか。しかし振動の減衰は速いため、乗り味は安っぽくはない。ハンドリングはクイック。直進時は意識して真っ直ぐ走らせる必要がある。
SL7は現行ヴェンジより明らかに想定脚力が高い。しゃきしゃき踏めるときならいいが、疲れたときにシッティングで上っていると跳ね返される感じがある。そのかわりヴェンジのようなワンテンポ置いて加速する感じではなく、即座にダッシュする。ヴェンジの代替にはならないが、レーシングバイクとしては正常進化だろう。
ジオメトリ&スペック
試乗車スペック
フレーム:カーボン
フォーク:カーボン
コンポーネント:シマノ・R9170デュラエースDi2
ハンドル:スペシャライズド・エアロフライⅡ
ステム:スペシャライズド・ターマックステム
サドル:スペシャライズド・BG Sワークスパワー
シートポスト:専用品(20mmオフセット)
クランクセット:シマノ・R9100デュラエース(スペシャライズド製パワーセンサー付き)52×36T
ホイール:ロヴァール・ラピーデCLX
タイヤ:スペシャライズド・ターボコットン 700×26C
サイズ:44、49、52、54、56、58
価格:132万円(税抜)
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Flo Red/Red Tint/Tarmac Black/White
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Carbon/Color Run Silver Green