「普遍と変化が築く安心感」パールイズミの新時代はじまる
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日本のサイクルウェアメーカーを牽引し続けてきたパールイズミが、最近変わったという。なぜ今、このタイミングで? そして具体的に何が変化したのか。想像するよりも直接話を聞く方が容易いと、サイクルスポーツは満を持してパールイズミ本社の扉をノックした。
「変わった?」を徹底解明する
「パールイズミが最近、なんだか変わった?」
ある人は「垢抜けた」、とある人は「洗練された」。近年、サイクリストの中で様々な意見が飛び交うが、総じて言えるのは「変化した」ということだ。日本を代表する老舗のウェアメーカー・パールイズミは、言うまでもなく国産サイクルウェア大手で、サイクリストならば一度は製品を手に取ったことがあるだろう。そのパールイズミが”変わった”というのだ。
理由を解明すべく訪問したのは、相撲の街として全国にその名を馳せる両国。江戸情緒が残るビジネス街にパールイズミの本社は位置している。「なぜパールイズミは変化しているのか?」我々の問いかけに答えてくれたのは、専務取締役マーケティング担当の清水秀和さんだ。
「『より多くの人に届ける』というパールイズミの理念に則り、私たちは新たなフェーズに乗り出したのです」
彼らが変わらなければならなかった理由、それは近年のサイクルウェア市場の変化によるという。従来パールイズミは製品のデザイン性はもちろん、機能や技術といった「着用時の快適性」を重視し、ものづくりの第一線を走り続けていた。だが近年、国内外を含めサイクルウェア市場が拡大化し、今までになかったような新しいコンセプトのウェアが増加、結果として消費者であるサイクリスト一人ひとりがウェアを選べる時代になったという。
そんな中、サイクリストから選ばれるためには何が必要なのか。清水さんは「今欲しいトレンドをタイムリーに届ける」のが重要なことの1つだと言う。
「今までは販売店などで買えるマス向けの製品に力を入れてきました。現在は、今まで光が当たらなかった”小さなニーズ”に目を向けたアイテムの開発にも乗り出しました」
シックなオリーブグリーン、イエロー、ネイビー。究極的にシンプルでありながら、それまでのパールイズミでは見ることのなかった色使いに、思わず目を引かれた人も多いのではなかろうか。タイムリーなトレンドを吸い上げ、いち早く製品化することに特化した「PGL(Pearl izumi Garment Lab)」は、パールイズミの新たな試みの一つだ。ネット販売のみの少量でスペシャルなアイテムを作り上げることでウェア業界に一石を投じる、その名の通り”実験室”としての役割を果たしている。
アンバサダーを迎えてパールイズミの世界観を発信
新たな取り組みはそれだけではない。サイクリストのニーズにより敏感になるため、自転車を通じパールイズミとユーザーを繋げるコミュニティ作り。社内で熱心にスポーツを取り組む従業員をサポートするASP(Athlete Support Program)という取り組み。そして、ライターであり、様々なブランドのアンバサダーを務め、自身でもトライアスロンを楽しむ北川麻利奈さんらと取り組むアンバサダー活動など、多岐にわたる。
取材当日も、パールイズミは北川さんをオフィスに迎え、製品の理解を深めるためにものづくりのプロと座談会を行っていた。
「サイクリスト一人ひとりの具体的な声を拾い、ユーザーが求めるウェアを作り上げていけるような環境を整えています」
と、意気込みは十分だ。
土台を支える普遍の”ものづくり”精神
しかし、筆者を含めサイクリストというのはわがままなもので、変化に対して一抹の不安を覚えることもある。例えば「今まで慣れ親しんでいたパールイズミのイメージも変わってしまうの?」や「快適性はどうなってしまうの?」など、国産の実直なイメージに親近感を寄せていた人も少なくはないだろう。
「そこは安心してください。僕らはずっと”泥臭いものづくり”を続けています」
そう力強く答えてくれたのは、デザイン課の佐藤充さんだ。「自転車に乗る人が快適に走れるように」という命題は、サイクルウェアの製造を開始した1964年より脈々と受け継がれてきたものだという。自身が自転車乗りでもあった初代は、自身で作ったウェアを自ら着用しテストを行い、そこで得た改善点をサンプルに反映し、改良を重ねてきたという。
「やっていることの本質は当時と何ら変わりません。サイクリストでもあるパールイズミの社員で、完成したサンプルを複数名で試しフィードバックを重ね、一つの製品に向き合っています」
例えばサイクルパンツ。詳しく教えてくれたのはパタンナーの鎌田さんだ。パタンナーとはデザイナーが描いた製品の型紙(パターン)を書き起こし実際に形作る専門職で、鎌田さんはインタビュー当日に大量の試作品を持参してくれた。
「社内でサンプルを縫い上げ、完成と同時にメンバーが集まり意見交換するんです。パッドの位置や縫い目など実際に履きながら試行錯誤して決めていきます」
創業当時から変わらない方法を“泥臭い”と公言しながらも、社内からは「この環境こそ恵まれているのだ」という声も挙がっている。
「僕は一般アパレルメーカーから転職してきましたが、ここはまず丁寧に物を作る環境が整っているんですよね。例えば、展示会に出品するサンプルに半年かけて企画開発しているんです。真摯にものづくりができる、ということが仕事をする上でとても嬉しいです」
と言うのはデザイン課の内山さん。デザインや素材の選定から工場とのやりとりなど、製品化までの一連を担当している。ここで言う「工場のやりとり」も、製品のクオリティに関わる肝なのだ。
「社内で検討した仕立て方法や製品の図面は、あくまでもサンプルを作る上での話。工場で大量生産するとなると、作り方の最適解は異なります。そのときに重要となるのが、工場の現場を守る職人とのやりとりです。『図面を投げておしまい』ではなく、職人との丁寧なやりとりを経て、ようやく一つの製品が誕生するのです」
人の体温を感じるパールイズミのものづくりは、一日で作り上げることはできない。創業より脈々と受け継がれてきた”秘伝のタレ”のような環境があって、パールイズミだけがなし得るイノベーションが成立するのだ。
さらに忘れてはならないのがオーダーウェアのサービスだ。ユーザーの求めるデザインを二人三脚でゼロから作り上げる部門マネージャー・荒牧さんは、「とにかくサービスとして良いものを提供したい」と意気込む。
「低価格化や即納にリソースを割くのではなく、プロダクト自体の質が向上するように力を尽くしていきたいですね。ユーザーからちゃんと愛され、選ばれるメーカーへ。オーダーウェア分野でも価値向上に努めています」
そして自身でもシクロクロスやMTBレースに出走し、数々の好成績を残している営業部長の清水辰典さんは、これまでにないB to Bの関係を作り上げている。
「もともと私は17年間にわたって生産管理部にいたので、製品や現場について十二分に理解しています。そこに営業としての『会話力』をプラスしより関係を強化したい、と」
清水さんは持ち前の経験とフィジカル的な強みを生かし、プライベートでもショップや代理店と積極的にライドへ出かけている。もちろん走行中に語らうのは、機材や各パーツのことなど、いちサイクリストとしてのマニアックな話題。「仕事以前に、自転車が好きという共通項がありますからね」と清水さんは微笑む。会話の端々から得られる“生の声”を拾い集め、より厚い関係性を作り上げているのだ。
これからも安心できる存在でいたい。VISIONから見つめる未来
変わらぬ安心と、時代に合わせて変化するクリエイティブ。5年後、10年後を見据えてパールイズミはどうなっていくのだろう。
「サイクリストをリードしつつ、やっぱり安心できる存在でありたいですね。人間で例えると『この人と一緒にいるとホッとする』ような人ですかね。製品を生み出すものづくりの環境は今後も不変です。けれど時代に合わせてフィットする力も大切です。いつ何時もサイクリストの日々に寄り添っていけるようなアイテムを作っていきたいと考えています」
そんなパールイズミのフラッグシップVISIONシリーズには、今日のパールイズミを結集した最高峰のアイテムがそろう。PGLやASPで培ったエッセンスを凝縮し、サイクリストの五感すべてにフィットするサイクルウェアの理想型だ。
「今日『自転車に乗る』という行為は日常生活に溶け込み、どんどんシームレスになっています。それならばウェアも合わせて変化せねばなりません。機能性や技術はもちろん、サイクリストの日常に溶け込むシンプルなウェアこそ、今パールイズミが追求する形です」
元来、我々が日常的に着用している衣服も初めは「覆う」という機能的な要素から出発した。それがいつしかファッションという自分を表現する手段のひとつとして、日常に彩りを添えているのだ。ならば、サイクルウェアはどうか?
パールイズミは”変化”を持ってして、我々サイクリストに問いかけているのだ。