スペシャライズド・エートス 軽くて楽しいを目指した全く新しいモデル
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ブレイク・ザ・ルール
今年、すでにスペシャライズドはターマックのモデルチェンジを発表した。トップレンジは年に1モデルずつ発表してくるのが常であった近年のロードバイク市場において、さらにスペシャライズドが新モデルを投入してくるというのはちょっと予想外だった。
そんな不意打ちで発表されたのが「エートス」。ターマックでも、ルーベでも、ヴェンジでもない、久しぶりに新しいモデル名が誕生した。その開発コンセプトが「ブレイク・ザ・ルール」。既成概念にとらわれないバイクを作りたいとの気概を表している。
何を壊したのか
2年半の開発期間を費やしたエートス、では何がブレイクされたのか。まずわかりやすいのは重量である。これまでもロードバイクは軽量化の道を歩んできたが、ディスクブレーキ搭載により再び、軽量化のレベルは戻された。それでも、あっという間にUCIが規定する最低重量6.8kgは実現されたわけだが、エートスはこの重量規定を大幅に下回る。シマノ・デュラエースDi2の完成車が5.9kg(フレーム重量585g/56サイズ)に仕上がるというから驚きだ。
軽さを手に入れるためにワイヤ内蔵や、エアロ形状といったことには見向きもしていない。つまり、これまでスペシャライズドが作ってきたルールや、社内の考えという”ルール”も破ることを目指したのだ。
だが乗った時のフィーリングにはこだわったという。各サイズおなじライドフィールを持たせるための設計である「ライダーファーストエンジニアード」に基づいてカーボンレイアップが構成されているのはもちろんだ。それでいて、軽量化のために前作のターマックであるSL6と比べるとカーボンのレイヤーを11%減らしている。それは細かいピースで構成されていたものを、一つ一つのピースを大きくすることによって実現している。それはレイヤーを貼り合わせる”のりしろ”が減ることでもあり、製造誤差の発生を抑えることにもなっている。SL6はフレームの厚みが4mmあったのに対して、エートスは2mmになっているという。
このレイアップを実現するために、解析シミュレーションを10万回行い、強度と重量を両立させている。
ただ軽いだけのバイクか、否か
上記のような数字で表すことができる性能に加えて、エートスは「走って楽しい」バイクにすることを目指したという。選手がレースで結果を出すためのバイクではなく、サイクリストが日々のサイクリングを満喫するために必要な性能をもたせたという。その一つが軽さであり、必要十分な剛性なのだという。
ディスクブレーキロードでリムブレーキを懐古している?
神奈川県の丹沢周辺で行われた試乗会で、短時間ではあるが試乗することができた。ファーストインプレッションは「非常に懐かしい走行感」である。
懐かしい剛性感だ。適度にウィップして、進む。6~7年前のハイエンドリムブレーキバイクが持っていた雰囲気を感じた。最新のディスクブレーキロードバイクにある、スルーアクスルが前後輪をがっちりとフレームに固定して、キレイに1本のレールの上に乗っている感覚、ホイールの軸が前後でずれていないような走行感とは違う。振動は「がん」と来たものがびたっと止まる、収まるというイマドキの最新設計フレームとは違う。
ロードバイクがディスクブレーキを手に入れて以後、「リムブレーキの走りが良かったな」と思っている人は、食指を動かされるのではないだろうか。
ただ、個人的にはもやもや感が残った試乗となった。確かに軽いバイクではあるが、それ以上の感動があまりなかった。ルーベにフューチャーショックが搭載された時に感じた振動が消える不思議さ。ヴェンジの空力を重視したがちっとした走り。ターマックSL6の狙ったラインにバイクが滑り込んでいく爽快感。そして、そのディスクブレーキモデルでは「リムブレーキと同じライドフィールを実現した」と大々的に言っていたし、実際にそうだと思った。それらの感動をエートスからは感じなかった。
トータルバランスよりも、何かそのバイクが持つ強烈な個性。きらりと光る尖った性能に惹かれる性分のサイクリストの感想だ。
ジオメトリ
スペシャライズド・エートス価格
シマノ・デュラエースDi2完成車:132万円(税抜)
スラム・レッドeタップAXS完成車:132万円(税抜)
フレームセット価格:55万円(税抜