スペシャライズド・新生ルーベで本物のパヴェを走ってきた
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先日の発表と同時に勝ち星をあげた、スペシャライズドの新生ルーベ。油圧ダンパーを導入したフューチャーショック2.0など、あらゆる点がリニューアルされたルーベを、海外在住の女性ジャーナリストが本場のパヴェ(石畳)コースでテストライド。そのレポートをお届けしよう。
アレンベルグの石畳の上で
むしろ先に見なくて良かったのかもしれない……。
パリ〜ルーベのハイライトとも言えるアレンベルグの石畳の石は、そのひとつひとつが弁当箱ほどもサイズがあり、長い歴史によって摩耗し凸凹がひどい。石と石の間の溝はリム幅よりも広いところだらけで、いかにもホイールをとられそうだ。雨に濡れたこの路面を先に見ていたら、何より恐怖に体が固くなって転倒していたかもしれない。
それは4月上旬にベルギーはフランドル地方で開かれた、スペシャライズドの新しいルーベの記者発表&試乗会でのことだ。
ルーベと言えば、昨年の勝者ペテル・サガンが乗っていた金色のルーベが印象に残っている人も多いのではないだろうか。
それが今年フルモデルチェンジを受け、世界中から記者が集まり、パリ〜ルーベとロンド・ファン・フラーンデレンのコースを試走した。
女性ライダーにとってもうれしくなる新ルーベ
新しいルーベの目玉はいくつもあるが、そのいちばんは、旧作からの特徴であるフォークコラム内サスペンションが、新構造の「フューチャーショック2.0」になったことだろう。
今回から油圧ダンパーが加わり、走行中でも調節ダイアルでダンピングを調節できるようになった。また、しなることで衝撃を吸収する新設計のパヴェ(石畳の意味)シートポストと65mm下げられたインターナルクランプとで、フロントだけでなくリアからのショックもバランスよく減衰させているという。
ふたつ目の目玉は、ターマックSL6を上回るという徹底したエアロ化と、軽量化だ。これまではエンデューランスマシンという印象が強かったルーベだが、今モデルはどこから見てもレーシングバイクというフォルムになっている。
目に入った瞬間に「かっこいい!」と思わせるセクシーなスタイルだ。フレーム重量は900gになり(サイズ56)、これはヴェンジより軽い。
そして3つ目が、ジェンダーレスモデル化だ。記者発表会中にお披露目されたプロモーションビデオは、薄暗いアレンベルグをルーベで疾走するライダーたちの迫力ある様子だったのだが、次第にライダー全員が女性であることが分かる。それはブールス・ドルマンス(UCI女子チーム)の選手たちだった。ビデオを終わりまで観ても、男性は出てこない。そして最後に「新ルーベはもう男性だけのモデルではありません。パリ〜ルーベ・レースももう男性だけでなくなるべきでしょう」とのメッセージが現れる。
新ルーベはこれまでの男性用、女性用というモデルの壁をなくしたジェンダーレスなモデルとしてリリースされた。スペシャライズドが2012年から採用しているバイクフィット計測器RETÜL(リトゥール)で集められたデータから、サイクリストの体格差は性差よりも個人差のほうが大きいことが明らかになったため、性別ごとに商品を分けるのをやめ、むしろ体格の違いに合わせたフレーム設計をしていくことにしたという。
ユニセックスだと小柄なライダー(筆者は154cm)は乗れるサイズはあるのか、あってもガチガチな剛性でつらいのではないかと心配になるが、新ルーベではその心配はないという。基準となるサイズ(大抵は56)での設計を各サイズにそのまま流用して寸を詰めるのではなく、どのサイズでも同じ乗り心地になるよう、カーボンの重ね方や重ねる枚数、接着の樹脂まで、すべてゼロからそれぞれ設計する「ライダーファストエンジニアード」方針を採用しているからだそうだ。サイズも44から64までと幅広い展開になっている。ジェンダーレス化はルーベが最初になるが、今後他のスペシャライズド車種も順次ジェンダーレスになっていく計画だ。
余談になるが、なぜパリ〜ルーベには女子カテゴリがない? そろそろ作ってもいいんじゃない?というレースオーガナイザーA.S.O.への軽い挑発をスペシャライズドがしてくれているのも、女性サイクリストとして率直にうれしく、とても心強く感じた。プレス発表会中に親しくなったアメリカやイギリスの女性ジャーナリストたちも、スペシャライズドのジェンダーレス化は自然な進歩と言えるし、このビデオのように女性を前面に出したマーケティングはすごくイイ!と絶賛しきりだった。
フューチャーショック2.0の実力は
ブリーフィングを受けた後、サイクリングウエアに着替えてグループライドに出る。自分にはやはり最小サイズの44が出てきたが、あらかじめ渡してあった自分のRETÜLフィッティング通りのセッティングをしてくれてあったので、すぐに体に馴染み、気持ちよくペダルを回し始める。フューチャーショック2.0は全開にしてハンドルバーに上からぐいっと体重をかけるとさくっと沈む感じで、けっこう柔らかい印象。舗装路のつなぎ目などは衝撃の角がとれトトッと軽やかに乗り越える感じだ。
いざ有名な石畳区間に突入すると、当然モーレツなシェイクの洗礼を受ける。しばらくはハンドルにしがみついて腰も浮かせてようやくという感じになるが、慣れてくると体幹を定めるコツみたいなものが分かってくる。と同時に、フューチャーショック2.0がかなり振動を和らげてくれていることが感じとれてきた。
実際、走りながらダイヤルでサスペンションを固くすると、シェイクが如実に鋭くなり、ハンドルが跳ねてバタついて怖い。フューチャーショック2.0はトラクションの向上にもかなり役立っていそうだ。お尻のほうも、とくにサドル後部に体重を乗せると、シートポストのしなりが効いて振動が来にくいことがわかってきた。
冒頭のアレンベルグについても、ひどく緊張はしたものの、意外やヒヤッとする瞬間はなく、なんとか走ることができた。しかし、これはお世辞などではまったくないが、ここはルーベでなければほとんど走れなかったのではないかと思う。それは他の女性ジャーナリストたちも同感と言っていた。
自分の場合は石畳では転倒しないことが最優先でようやく走っているというのが正直なところだったけれど、プロ選手なら、フューチャーショック2.0があるからこそ、コーナーで路面が荒れたイン側を攻めることができたりするはずだ。スペシャライズドの言う「スムーズさは速さ」には、こういうことも含まれるのだろう。
言わずもがな、この試乗会が終わった直後のパリ〜ルーベ2019でルーベに乗ったフィリップ・ジルベールが勝利。サガンは体調不良からまだ完全復帰できていないようだったが、イヴ・ランパートも3位に入った。ルーベの勝利製造機としての実績がまた積み上がったわけだ。ちなみにレース録画では、石畳セクター2を終えプリットとの一騎打ちに臨もうというジルベールが、手元のダンピング調整ダイヤルを回しているのが見られた。
ベルギー名物、北海を渡ってくる冷たい強風を頭から浴びながらの平坦グループライドでは、ある程度スピードが乗った状態でややタイトなコーナリング、さらに途中から路面が石畳に変化……というような状況でもルーベは期待したとおりのラインを軽快になぞってくれ、もっさりした感じはまったくない。
エアロで見た目も走り心地もレーシングバイク。一方でロングライドや悪路に強い真のオールラウンダーと言える新ルーベ。タイヤは33mm幅まで履くことができるので、ちょっとしたグラベルだって問題ない。
クリテリウムやヒルクライムレースを真剣にするというのでなければ、1台で幅広いロードライディングを楽しみたいという人には非常に有力な選択肢だ。
Reporter
青木陽子 Yoko Aoki
ロンドン在住フリー編集者・ジャーナリスト
神奈川県出身 国際基督教大学卒業。自動車雑誌、ファッション誌編集者などを経てWebメディアの先駆けとして注目を浴びた女性サイトCafeglobe.comを起業、編集長に。現在はロンドンでジャーナリスト、翻訳者、プランナーなどとして活動中。所有自転車13台。