レースから毎日のライドまで使える1250gのカーボンホイール VORTEX・N4
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中国の一流大学の学生らが起こした新興ホイールブランド・VORTEX(ボルテックス)が2020年に日本に上陸した。同ブランドの目玉は、調整・交換可能なエアロカーボンスポークを採用したNシリーズ。多彩なラインナップの中から、リムハイト40mmのリムブレーキ用チューブレスホイールとしては軽量な前後ペア重量1250gのN4をテストした。果たしてその実力は?
調整可能なカーボンスポークをはじめ、随所に英知を結集
ボルテックスのNシリーズは、「NEW GENERATION」の頭文字をとったものだ。最大の特徴は、テンション調整や交換が可能な軽量エアロスポークを採用していることだ。
カーボンスポークというと、リムとハブを直結するタイプがほとんどで、圧倒的な軽さを実現している一方、テンション調整や交換は不可能というものが多かった。最近カデックスなどごく一部のブランドが調整・交換可能なカーボンスポークを採用した完組ホイールを製品化したが、まだ少数派だ。Nシリーズに使われているボルテックスオリジナルのRCSカーボンスポークは、ハブ側をフランジに引っかけるストレートプルタイプとし、リム側にアルミニップルを組み合わせることで、テンションの調整と交換が可能になっている。
ボルテックスで最初に開発されたエアロカーボンスポークは、エアロスポークの定番サピム・CXレイと比べて25%も軽く引っ張り強度が40%も高いという実験データが出ていたが、このホイールに使われているRCSカーボンスポークはそれをさらに改良した2代目だ。1本あたり9万6000本ものカーボン繊維を使って作られていて、1本わずか3gと軽量ながら、初代カーボンスポークと比べて17%引っ張り強度が高く20%の剛性アップを実現している。さらに断面形状もスポーク中央部のブレード部の横幅を0.1mm狭くすることで空力性能も高めた。
RCSスポークはリム側(ニップル側)とハブ側と中央部でそれぞれ違う形に成型されており、ニップル側は直径2.5mmの真円断面とすることでスポーク角度の変化にも最大3度まで対応し、走行中などの負荷がかかった状態でも応力を最適化する。中央部は縦5.0mm×横1.2mmのブレード形状で、高い空力を実現している。ハブに引っかける側は、3.0×1.7mmの楕円形断面とし、ハブフランジに確実に引っかけることでスポークのねじれによるスポークテンションの変化も起こりにくくなっている。
スポーク本数はフロント14本、リア21本。フロントはラジアル組、リアはドライブ側2:反ドライブ側1の割合で、ドライブ側がクロス組、反ドライブ側はラジアル組となっている。リアホイールはリム形状も左右非対称とし、リアの左右のスポークバランスを均一に保つことで高い剛性と安定性、優れたパワー伝達を実現している。
また、ハブフランジの形状やリムハイト、リムのスポークホールの角度を最適化することで、すべてのスポークの長さを統一。カーボンスポークながらメンテナンスや修理が容易なのも特徴だ。
リムブレーキ仕様はブレーキ面に矢印形の溝を刻むことでドライコンディションだけでなくウエットコンディションでも安定した制動力を実現。さらに熱に強いレジンでカーボンを固めることで、下りの長時間のブレーキングによる摩擦熱に対する耐性を高めている。リムのフックビード内部にはチタン合金を埋め込み、ビード部を補強するとともに放熱性も高め、リムブレーキのブレーキ面の熱対策は万全だ。
さらにハブに採用されるセラミックベアリングも自転車のホイールの特性に合わせて開発されている。自転車のホイールは工業用機械と比べて回転速度が遅く、地面からの大きな衝撃を受け、軸方向に負荷がかかるのが特徴だが、それにあわせてベアリングのシール形状やグリスの種類や量、アウターレースの厚みなどを最適化しているという。
リムブレーキ仕様のチューブレス対応クリンチャーモデルは、リム内幅17mmで現在スタンダードになった700×25C幅のタイヤとのマッチングも良好。タイヤ装着面にスポークホールがないため、リムテープが不要なのが特徴だ。チューブレスタイヤやチューブレスレディタイヤと組み合わせて運用する場合もチューブレスレディ対応リムテープで気密性を高める必要がないので、ホイールの軽量化につながる。さらに専用のチューブレスバルブを使ったときにホイールの重量バランスが整うよう、カウンターウェイトも内蔵するという細かい配慮もなされている。
このように至るところに英知が結集されたNシリーズは、新興ブランドの製品ながら高いポテンシャルを秘めている。実際に2019年のニセコクラシックで年代別2位に入賞した選手がNシリーズのホイールを使っていたそうで、その高い戦闘力は折り紙付きだ。
Nシリーズは、リムハイト40mmのN4、リムハイト60mmのN6があり、それぞれチューブレス対応クリンチャーとチューブラー仕様、リムブレーキとディスクブレーキ仕様という充実のラインナップを誇り、フリーボディもシマノ、カンパニョーロ、スラムXDRと現行の全てのコンポーネントにも対応する。
日ごろからチューブレスレディ対応のカーボンホイールを愛用するライター浅野真則が、N4リムブレーキ・チューブレス対応クリンチャーモデルの実力に迫る。
ボルテックス・N4(リムブレーキ・チューブレス対応クリンチャーモデル)
価格:25万円(税抜)
スポーク:カーボン
スポーク本数:フロント14本、リア21本
リム:カーボン
リムハイト:40mm
リム内幅:17mm
前後ペア重量:1250g(±5%)
体重制限:120kg(自転車・装備品含む)
製品WEB:novacorona.studio.site
インプレッション「軽く、空力もよくてチューブレス対応。完成度の高さは随一」
チューブレスなのに、なんだこの軽さは! ボルテックス・N4を開梱して取り出したときの率直な第一印象だ。
チューブレスの圧倒的な転がり抵抗の少なさに魅了され、今では練習からレースまでほぼ常にチューブレスホイールを愛用しているが、軽量チューブラーホイールとチューブレスホイールの走りの軽さはどこか違う。リムハイト40mmクラスで前後ペア1200g未満のチューブラーホイールの切れ味鋭いシュパッと軽快な乗り味はやはり刺激的だし、あの乗り味が時折フラッシュバックすることがないわけではない。「ロードバイクでは軽さが正義」と長年すり込まれてきた自分は、「比較的軽量なチューブレスレディ対応ホイールでさえ軽量チューブラーホイールより重量がある」という事実が常に心のどこかに引っかかっている気がするのだ。
N4はリムブレーキ仕様のチューブレス対応クリンチャーで1250g、試乗した個体も実測1300gを切っていて、チューブレス対応ホイールとしては相当軽い。しかもリムテープが不要なのでチューブレスレディで使うにしても、シーラントさえ入れればOKと実際に使う場合に必要な重量増も最小限で済む。なんて素晴らしいのだろう!
まずはクリンチャータイヤにラテックスチューブを入れて試走した。ペダルに加えた踏力をダイレクトに駆動力に推進してスイーッと転がるように走る一方、乗り味はかなり硬く感じた。見た目には薄いカーボンスポークがかなり剛性が高く、ソリッドな乗り味につながっているようだ。
しかし、チューブレスレディタイヤと組み合わせ、転がりの軽さと乗り心地を両立するような空気圧に設定すると印象は一変。転がりの軽さはそのままに、乗り味の硬さが解消されてかなり乗りやすくなった。これならレースはもちろん、ロングライドも快適にこなせる。このホイールの良さを最大限に引き出すにはチューブレスで運用するのがおすすめだ。ちなみにタイヤはチューブレスレディのヴィットリア・コルサスピードTLR700×25Cを組み合わせたが、装着のしやすさや空気の保持力などは普段使っているチューブレスレディホイールと大差なかった。
試乗する中で印象的だったのは、一度スピードに乗せると巡航はかなり楽だということだ。軽量ホイールにありがちな高速域でスピードが頭打ちになる感覚やスピードを維持するのに常に脚を回し続けなければならないということもなかった。印象としてはカーボンスポークが引っ張り方向だけでなくホイールの下側に来たときに剛性の高さを生かして突っ張り棒のように作用し、結果としてリムの真円度が高く保たれてよく転がるようなイメージだ。もちろん自転車のホイール向けに最適化されたセラミックベアリングも良い仕事をしている。
参考までに巡航がどのぐらい楽に感じたかをライドデータから拾ってみると、自分の練習コースの平坦区間を無風状態で時速35kmで巡航した際に必要なパワーがいつものホイールと比べて10Wほど低かった。つまり、同じスピードを出すのにその分だけ楽に走れるということだ。いつも使っているホイールより若干リムハイトが高いのでその分は差し引いて考える必要もあるが、40mmハイトのホイールにしては高速巡航性能はかなり高いと思う。
上りはこのホイールの強みである軽さが生きる。ダンシングで低めのケイデンスでモリモリ上る走り方でも、シッティングで高ケイデンスでシャカシャカと上る走り方でもよく進むが、個人的にはシッティング×高ケイデンス走法との相性がいいと感じた。
下りも軽量ホイールにありがちな不安はない。リムのブレーキ面に記された矢印形のパターンは優れた制動力とコントロール性能を発揮してくれるし、雨の日でも大きく制動力が低下しないので安心感があった。コーナーでバイクを倒したときも、剛性の高いカーボンスポークが足元が腰砕けになるのを防ぎ、意図通りの素直なハンドリングを楽しめる。40mmハイトのリムは横風の影響も受けにくく、突風で挙動が乱されることもほとんどなかった。
N4は軽くて空力も高く、これ1本でヒルクライムからロードレースまで幅広いレースをこなせるオールラウンドホイールといえる。さらにクリンチャーとチューブレスの両方式のタイヤに対応するので、タイヤの選択肢も豊富にあるし、パンク修理も容易なのでレースだけでなく毎日のトレーニングにも使えそうだ。
とはいえ、いくつか気になる点もある。一つは標準装備のクイックリリースが軽量タイプである点だ。一般的なクイックリリースのようにボルトの締め具合を調整してからレバーを倒すだけでは十分な固定力が得られず、レバーを倒した状態でさらに増し締めしないとホイールがしっかり固定されないのだ。重量の軽さという点では魅力だが、ホイールをしっかり固定するという観点からはやや不安も感じる。気になる方はクイックリリースだけでも交換すればこの問題はクリアできるだろう。
なお、ボルテックス代理店・ノバコローナによると「軽さにこだわったため軽量クイックリリースが標準装備されていますが、今後対策品に変更する予定」とのこと。詳細が決まり次第同社公式SNSなどで発表されるという。
もう一つは専用のカーボンスポークを使っている点だ。スポークを交換可能とうたわれていても万一の破損時に補修パーツがすぐに出るか不安という人もいるだろう。この点についてもノバコローナに問い合わせてみた。
「補修パーツは当社に常備されているので、レースから普段のトレーニングまで安心して乗っていただきたいです。万一の破損時は、現時点では当社にホイールを送っていただき、当社のメカニックが修理して返送する形になりますが、将来的には全国の取扱店に専用工具を設置して個別に対応してもらえるようになる予定です」(担当・鈴木さん)とのことだ。この態勢であれば早ければ1週間以内にホイールの修理ができるはずなので、レースでもトレーニングでも安心してガンガン使えそうだ。
N4にはディスクブレーキ対応モデルだけでなく、リムブレーキ対応モデルが用意されているのもポイントが高い。リムブレーキ用の高性能チューブレスホイール、しかもコストパフォーマンスに優れ、軽くて空力にも優れていて、普段使いからレースまでカバーするなんて夢のようではないか。リムブレーキ仕様のロードバイクの“あがり”のホイールに最適だと思う。近い将来このようなホイールは買えなくなると予想されるので、買うなら今だ!