Fumy’s eye 別府史之が見た世界 étape12

別府史之が見た世界12

本場ヨーロッパで活躍するプロロードレーサー・別府史之選手の「今」を、本人の言葉で読者の皆さんにお伝えする連載の第12回目。EFプロサイクリングへの移籍も決まり、来季に向けて12月も続けるトレーニングの模様などをお届けします(編集部)。

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Bonjour!
こんにちは。別府史之です。

みなさま良い年末をお過ごしでしょうか。我が家は12月23日が娘の誕生日で、続けて24日、25日がクリスマスでしたから、3日連続でお祝いでした!プレゼントは1か月以上前からしっかり用意していたので準備万端。娘の誕生日にはキャノンデールのマウンテンバイクをプレゼントしましたよ。前日にはリボンできれいにデコレーションもしたんです。気に入ってくれてたらうれしいな。奥さんにもキャノンデールのマウンテンバイクを買ってあげたので、いつか3人で乗りに行ける日が楽しみです。

別府史之が見た世界12

パーティーシーズンとは言っても、トレーニングは続けています。23日は娘の誕生日で特別にオフでしたけど、24日や25日だってコーチからの練習指示が出てましたからね。ただやっぱり時期的に集中して乗ることが難しいので、誕生日やクリスマスがやって来る前に、南仏での個人合宿でちゃんと乗り込んできました。

おかげでおいしいものを食べる準備はできています(笑)。でもオフだから、クリスマスだから、ってそこまで暴飲暴食することはないんですけどね。これまで選手生活を長く続けてきましたけれど、それほど体重も変動しないんです。高校生のころはたしかに冬には75kgくらいまで増えて……つまりベストの体重より7〜8kgも太っちゃってましたが、プロになってからは体重管理が自然に体に染み付いてます。たまのパーティーのときくらいは、もちろんフォアグラだってケーキだって食べますよ。食べた分はトレーニングで落とせばいいだけなんです。

すでに12月の最初からEFプロサイクリングのトレーナーであるケン・ファンマルケと組んで、練習を続けてます。そう、セップ(今季EF、来季はイスラエル)のお兄さんです。僕は以前はメリン・ジーマン(元スキル・シマノコーチ、現ユンボ・ヴィスマ監督)とかマルク・ランベール(現在ワウト・ファンアールトのトレーナー)からコーチングしてもらっていて、ケンによると「2人とも俺の師匠!」らしいです。今まで色々なトレーナーについてきて、それぞれにメンタリティやメソードが違うから慣れるまで大変だったこともあるんですけど、おかげで今回はやりやすいですね。

今はまだ無理に追い込まず、ベースを作り上げる時期です。Eスポーツ世界選手権(12月9日)の前も、ズイフトに特化した練習というよりは、むしろ来季に向けたトレーニングをやってました。内容はケイデンスを重視した走り。どうも近年は重いギヤをかけて走ることが多くなってました。今季は特に踏み踏みで走って、ケイデンスが足りなくなってきていた。だから今はリズムを取り、回していく走りを心がけてます。

 

別府史之が見た世界12

 

トレーナーのケンからは、フミは瞬発力とパワーは十分にある、むしろ今からはエンデュランスを強めていこう、とも言われています。エンデュランスを強化することで、山をもっと軽く越えることができる。そうすれば山を越えた後の最終盤にフミの力をもっと活かせるはずだ、スプリントではリードアウトの仕事もこなしてもらいたい、とも。つまりチームにとっても自分にとってもチャンスが増えるんですよね。ということでエンデュランスを鍛えることに専念してます。

振り返ってみると、ジーマンやランベールにお世話になっていた時代は、たしかに山をよく上れていた。そう考えると、近年の僕には、やっぱりそういう部分が足りてなかったんでしょう。それ以外のトレーナーとは追い込んでいく、強度を上げていく、という練習が多かったので、強度の値は出るんですけど。

 

ケイデンス数を上げることを意識して走ることで、今は体のリズムもかなり整ってきました。おのずとバイクポジションも変わりました。お、進化してるぞ、って感じますよ。年齢ではないんだな、とも改めて思ってます。いいトレーナーと出会えて本当に良かったです。

南フランスではサン・ラファエルという町に滞在しました。偶然にもグルパマ・FDJが同じ宿泊先でしたし、コフィディスやアルケアも近くで合宿していたんですよ。残念ながら天気はあまり良くなくて、でも気温は18度〜20度くらいと暖かくて。だから雨の日も、グルパマの選手たちがローラー回しているのを横目に、外に走りに行きました。カンヌの方にも足を伸ばしましたし、観光地のサントロペも裏山は走りやすかったですね。

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走っていてなんとなく懐かしい気持ちも味わいました。あの辺の道は、なんだか湘南や伊豆半島を思い出させるんです。リアス式海岸で入り組んだ入り江が繰り返し続いて、海岸道路沿いには電車も走っています。走りながらゆっくりと景色を楽しんで、「こんなところに住んでいる人たちはぜいたくだなぁ」なんて羨ましくもなったりしました。

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南仏フレジュスでは、サイクリングブランドのエコイ(公式サイト)本社にもお邪魔してきました。かっこいいオリジナルのロゴも作ってもらいましたし、奥野真行さんのデザインでオリジナルジャージも作っているところです。ジャージは試作品がすでに2回上がってきて、色々と手直ししたんで、近いうちにお披露目されるでしょう。下の写真がそのジャージです。製品が完成したら https://racing.ekoi.com/ja で購入できるようになります。お楽しみに! 2021年もシューズのスポンサーとして、エコイとはお付き合いを続けていきます。

 

別府史之が見た世界12

 

別府史之が見た世界12
別府史之が見た世界12

 

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それから、ちょっとした頼まれ事も兼ねて、ニコラ・ロッシュにも会いに行きました。年齢は彼のほうが1つ下なんですけど、思い返してみれば、ラポム時代のレジョナルというカテゴリー(エリートプロ、エリートアマ、ナショナル次ぐカテゴリー、地方の意)からずっと一緒に走ってきました。当時の僕は彼に負けたことなくて、遠征帰りの彼はいつもむすっとしてたなぁ……。プロになってからのロッシュは、すごく強い選手になりましたけどね。アンダー時代から一緒に走ってきて、2人ともプロになって、いまだ2人とも現役で走ってるなんて、しみじみ感慨深いです。僕が尊敬する選手の1人でもあります。

別府史之が見た世界12

 

個人合宿へ出かけたのは、コロナ禍のせいで、例年ならあるはずのチームキャンプが行われなかったからでもありますね。本来は12月は新しいジャージで写真撮影とか、ミーティングとか、そういうための合宿があるはずなんですけど。でも来年2021年から所属するEFエデュケーション・NIPPOにはアメリカ人選手も多いですし、コロンビアの選手もたくさんいます。そんな彼らは合宿のために欧州に来てまた地元へ帰る、っていうことが気軽にはできないですからね。

とりあえずミーティングはオンラインでやるそうです。ジャージ撮影……はどうなっちゃうんでしょう。移籍発表の写真で手に持っていたジャージは、あれ、単にサイズ合わせのために送られてきたもので、返却しちゃいました。新しいジャージ姿のおひろめは、もしかしたら1月中旬の合宿までお預けかもしれません。

プロ生活も来年で17年目に突入しますが、毎年オフは、実はジャージの整理で大変だったりもします。「いつか」のために、毎シーズン必ず最低1枚は、コレクションと思って保管してます。シーズン途中でチームスポンサーが変わったりジャージデザインが変わったりした場合もキープしておきますし、もちろん日本チャンピオンジャージも大事に取ってあります。残りは知り合いやお世話になった方々に差し上げますね。かなりきちんと整理している方だと思いますけど、なんだかんだ言って結構な量になりますよ。

選手によっては昔のジャージを家の壁に飾ってるんでしょうけど、僕はまったくそういうことはしないです。さすがに、ツール敢闘賞(2009年第21ステージ)とブエルタ敢闘賞(2016年第18ステージ)は飾ってあります。え、ジロのフーガ賞?うーん、見た目があまりトロフィーぽくないので、箱に入れてしまってあるままです(笑)。

まあ家の中をそこまで自転車色に染めるつもりはないですし、自転車愛を普段の生活に持ち込むこともないです。昔の自分のジャージやトロフィーを見て、懐かしんだり、モチベーション燃やしたりするタイプではないんですよ。まあ、たしかに、高校生の頃はポストカードやポスターを実家の部屋に貼ってましたね。アームストロングとか、グレッグ・レモンとか、マウンテンバイクの選手とか。でも今、飾ってあるのは、奥さんと娘の写真だけです。

その奥さんからは、ホームトレーナーをどうにかしろ、もう保管場所がない、って怒られてます(笑)。というのもEスポーツ世界選手権でタックスから貸与された最新型は、返却予定だったのですが、「来季のあなたの所属先は、我社がスポンサーしているチームですから、そのままお使いください」と言われて。すごく性能が高いのでありがたいことですけど、おかげでなんと我が家のホームトレーナーは6台に増えちゃいました。しかもジャージはまだなのに、来季用のバイクだけは3台も送られてきましたからね。

 

1月中旬の合宿は、脚質ごとの小さなグループに分けて行われる予定です。僕はパワーのあるルーラータイプということで、クラシック向けの選手たちと一緒。ヴァルグレンとかベッティオール、ククレールなどのリーダーと、その周りを固める選手たちで集まる感じですね。まだ具体的なレーススケジュールはもらってません。この合宿で色々テストやデータ収集をした上で、おそらく決まっていくんでしょう。

今年2020年は、間違いなく誰にとっても大変な1年だったはずですが、僕にとっても思うようにはできなかったシーズンでした。コロナのせいにも、チームのせいにもしたくはないのですが、自分の力で何かを変えられる状況ではなかった。どうしようもなかった。失ってしまったものは、決して少なくはありませんでした。

だからこそ、あのまま、自分の納得できない形で終わりを迎えるわけにはいかなかった。自分の意思でキャリアを辞めるのではなく、他人から無理やり追い出されるような……そんなのは絶対に嫌だったんです。負けたくなかった。おかげでまた、こうして心機一転、大きなチームで走ることができることになって、ものすごくモチベーションが上がってます。戦い続けたい。これがラストチャンスだと思って、自分で納得できるまで走り続けたい。

今年は平坦では自分でポイントを狙っていく走りを心がけたんですが、ワールドチームに復帰したからには、やはりチームのための仕事が大切になります。つまりよりマルチに走れなきゃならない。平地も山も、うまくこなせなきゃならない。そのためにも今からきちんと練習に励んで、準備しています。真面目にトレーニングに取り組み、チームにその態度を見てもらって、レースメンバーに選んでもらえるように。選んでもらったレースで、パフォーマンスをしっかりと発揮できるように。

もちろんワールドチームに戻ったからには、グランツールにも1つは出たいですね。そして、こういった努力の積み重ねの延長上にこそ、グランツール出場というもはあるはずです。

とにかくレースで忙しいシーズンになるといいですね。今年は気持ちが少し折れてしまったところがありますけど、来年はまた集中して選手生活を続けていくことができそうです。今までに培ってきた色々な経験に加えて、新たなチームでの新たな出会いで、さらに選手として大きくなれるとも感じています。

今日という日は今日しかない。 365日走り続けて、答えを見つけていきたいと思っています。

 

 

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いつも応援ありがとうございます!

伊藤隆さんからは、病院のベッドから、丁寧なメッセージをいただきました。

自転車のおかげで飲み薬が一種類減ったというのは、同じ自転車乗りとして、とても嬉しく感じています。これからもぜひ健康第一で、LOOK785ヒュエズRSとともに自転車ライフを楽しんでください。もちろん事故のないよう、どうぞお気をつけて。頑張ってください!

 

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今年の1月から始まったFumy’s eyeも、今回で無事に第12回目を迎えました。étape12、つまり第12ステージまでこうして読んでいただいて、本当にありがとうございました。みなさん、完走してくれましたか?

そして、来年もまたこの場で、連載を続けることになりました。さらにあと1年走り切ったら、24ステージですから……今度はステージ数がグランツールを超えちゃいますね。ということで、来年も引き続き、一緒に完走目指して走って(読んで)いただけるとうれしいです。

それでは、また来年。よい年末年始をお過ごしください!

別府史之

 
※質問やメッセージはinfo@cyclesports.jpで。メールタイトルには「Fumy’s eye」とご記入ください。またTwitterやFacebookコメント欄からの質問もお待ちしております!
 
(宮本あさか)