ズイフトだと速いのにロードバイクの実走が遅いのはなぜ?
目次
スマートトレーナーを用い、ズイフトをはじめとするバーチャルトレーニングアプリでライドをする人が増えている。そんな中で耳にするのは、「ズイフトだと速いのに、実走になるとうまく走れない・レースで思うような成績が収めるめられない」ということだ。これは一体どういうことか。このテーマについて特集しよう。
動画で見たい人はこちら
トレーナー上の走りと実走は違う
今回の指南役は、シクロパビリオンの自転車インストラクター、相川将(あいかわ しょう)さんだ。
スマートトレーナーで高い出力を出せてトレーニングアプリ上では速く走れているのに、実走になるとうまく走れなかったりレースで遅い。にわかには信じられないのだが、これはどういうことか。
「まず、バイクが固定された状態のスマートトレーナー上での走りと、実走とは違うということを認識する必要があります。
トレーニングアプリでは、基本的にスマートトレーナー等で出した出力(W/ワット)で速さが決まります。いかにトレーナー上で高いWを出せるかが重要になるのですが、実走では必ずしもそれが速さにつながるとは限りません。
また、実走では風の抵抗があったり、レースなら集団での立ち回りがあったりと、その他にさまざまな要素が絡みます」と相川さん。
「もちろん、トレーニングアプリとスマートトレーナーを使ったライドはとても有意義です。室内で飽きずに手軽にできたり、フィジカルを鍛えることにおいては非常に効率的です。
ただ、トレーナー上でパワーを出すためのペダリングに特化しすぎてしまうと、実走でうまく走れなくなってしまう可能性があるのです」。
なるほど。非常に興味深い。詳しく教えてもらおう。
編集部イチ体力のある被験者を事例に
ということで、今回は実際にズイフトをかなりやりこんでおり、高いパワーウェイトレシオを持つのになぜか実走の上り坂になるとうまく走れない、という編集部員のこっしー(越)を被験者として、このテーマに挑む。
こっしーのパワーウェイトレシオは体重の4.6倍。FTPは約260Wで、体重は56〜57kgだという。
「なかなかのレベルですね。レースでも十分立ち回れる実力だと思います」と相川さん。
しかし、こっしーはヒルクライムのときにズイフトと同じくらいの出力を出してもなぜかいいタイムにつながらず、しかも腰のあたりに痛みが出てしまうことが多いという。また、以前参加したエンデューロレースでは、コーナリング中に単独落車してしまうという苦い経験も……。
「まずはスマートトレーナーでの走りを見させてもらい、次にこっしーさんが苦手な上り坂での実走を見させてもらいます。その課題点と原因を指摘させてもらって、それを通じて読者の皆さんに今回のテーマについて学んでもらいます」。
走りを診断〜ペダリング時に踏み込みすぎ
まずはこっしーにスマートトレーナーにまたがり、“やや頑張っている”くらいの強度でペダリングしてもらう。
写真だと分かりづらいので動画もチェックしてみてほしいが、ペダリングするごとに腰から上がグラグラとしているのが分かる。
「腰回りの不安定感が気になります。腰がぶれていますね」。
「後ろから見てみると、腰が安定していないことから、それとつながって上半身のぶれも見受けられますね」。
「前から見ると、やはり上体が左右にぶれてしまっていることが分かります」。
なぜこのように腰と上半身がぶれてしまうのだろうか。
「原因としては、ペダリング時の踏み込みすぎです。クランクが下死点の位置に来たときに、真下に踏み抜くような動作がでているため、その反動で腰や上半身が持ち上げられてしまっていると考えられます」。
「これは、どうしてもトレーニングアプリでは出力でスピードが決まるので、出力を出そうとするあまり、下に踏み込みすぎることが関係していると思います。“パワーの数値を出すためのこぎ方”に陥っている可能性があります。
スマートトレーナーやいわゆるローラー台でライドをする人は、こうした傾向が強いかもしれません。また、トレーナーでのライドに限らず、初心者〜中級者によく見られる症状です。体力レベルの高いライダーでも、割と見受けられます」。
これを聞いて「言われるまで自分の腰〜上半身がぶれているなんて、全然気づきませんでした。また、踏み込みすぎていることもまったく意識していませんでした」と驚きを隠せないこっしー。
続いて、上り坂の実走での走りを診断してもらう。スマートトレーナーと同様に、やや頑張っているくらいの強度で走ってもらう。
「やはり、上半身のブレが出ていますね。“踏み込みすぎペダリング”がそのまま実走で表れています。
結局、スマートトレーナーと同じように実走で高い出力を出そうとして走っても、それがうまく推進力に換わらないのです」。
動画で走りを撮り、それを本人にも見てもらった。「これも言われるまで全然気づきませんでした。自分ではぶれてないつもりでも、動画で見ると一目瞭然なのにも驚きました」とこっしー。
踏み込みすぎ事例に対しての改善法
ここまでで、被験者・こっしーの場合は、パワーを出そうとするあまり“踏み込みすぎペダリング”になっていて、それが原因で上半身がぶれたり、出した力がうまく推進力に換わっていなかったことが判明した。相川さんによると、これは多い傾向にあるという。
では、“踏み込みすぎ”を事例に、その改善策を教えてもらおう。
「改善するためには、“サドルにしっかり座る”、つまりきちんとシッティングができるようにする、ということが必要です。先に説明したように、踏み込みすぎている人は下死点まで踏み切ってその反動でいわば上半身がペダリングのたびに浮き上がるような状態になっています。ですので、それをなくしていく作業のためにやります」。
エアペダリング
「1つ目にやってほしいドリルは、“エアペダリング”です。これは室内で、トレーナーでできる方法です。
まず、両足をペダルから外した状態でトレーナーにまたがります。そして、ペダリングしているかのように、空中で脚を回す動作をします」
「このとき、サドル、そしてハンドルのみに乗った状態で脚を回しているので、腰から上はそれほど上下しません。特にサドルの上に乗っている感覚を確認し、それをキープしながら再度ペダルに足をはめ、改めてペダリングしてみます。すると、腰から上が上下しにくくなるはずです。
もし、それでもまた上下するようなら真下で踏む動きが出ているので、エアペダリングを再度行い、良い感覚を養ってからもう一度ペダルをはめ直し、ペダリングしてみてください」。
1回のライドでやる目安は?
「腹筋と背筋まわりなど体幹を使うので、最初はかなりきついと思います。なので、1回のライドで5分程度を目安に取り入れてみてください。
頻度としては、常にやってください。ライドのはじめに毎回取り入れるくらいが望ましいです」。
片脚ペダリング
「次に、実走でできるドリルを紹介します。“片脚ペダリング”です。
片足をペダルから外し、もう片方の脚のみでペダリングします。ギクシャクしたり、踏み抜くような動きが出ないように、スムーズにペダルを回すように意識して行います」。
「ギヤは、重すぎず、軽すぎず、“適度な踏み当たり感”がある重さにしてください。また、そのうえで一定に回しやすい負荷にしてください。重すぎると力づくの動作になってしまいやすく、軽すぎると安定感がなくなります。
片方の脚で行ったら、もう片方の脚でも行います。なお、外している方の脚は、自然とだらんと垂らしておき、フレームに引っ掛けたりしないようにしてください」。
1回のライドでの目安は、片脚20回転くらいずつです。これも慣れないと最初はきつく感じるので、無理せずに。慣れてきたら、徐々に回数を延ばしてみてください。
行う場所には注意です。交通量の少ない、道幅が広めの所で、安全には十分に注意してやるようにしましょう。
このドリルも、下まで踏み抜かないようにするためのものです。下まで踏み抜いていると、下死点でペダリングが一瞬止まってしまうはずです。また片脚にすることで、ペダルの回しだしで腰まわりを自立させないといけないので、しっかりとサドルに座る意識も養われます」。
“頑張らずにゆっくりと走る練習を”
この他に、実走でできる方法は?
「方法というよりは、意識の持ち方のような話になりますが、一つは“いっそのことサイクルコンピュータを外してしまう”ことと、“頑張らずにゆっくり丁寧に走る”ことをおすすめします」。
「スマートトレーナーに乗っている人、まぁ、それに限らずパワーメーターを使っている人にも当てはまりますが、どうしてもパワーにとらわれすぎてしまう傾向にあると思います。高いパワーを出すことにとらわれた走りになってしまっているのです。皆さん、がんばり屋さんすぎる、といいましょうか」。
頑張りすぎて走ることの問題点はどんなところにあるのか?
「頑張って走りすぎると、フォームの崩れが出てきしまう可能性がありますし、また繰り返しになりますがパワーを出すための踏み込み式のペダリングが出てしまいやすいです。長続きしないペダリングが体に染みついてしまうこともあります。
なので、ゆっくりと走り、フォームの確認・ペダリングの確認にしっかりと意識を向けて走ることは大切です」。
自分の走りを客観的に見てみよう
今回のレクチャーを受けて、「自分一人だと気づかないことがあるけど、誰か他の人に見てもらったり、動画で自分の走りを確認することが大事だと思いました」とこっしー。
それに対し相川さんは、「そのとおり。室内でスマホなどを三脚で立てて自撮りで動画を撮ったりすることもできるので、ぜひやってみてほしいです。自分の走りを客観的に見つめることが大事です」と指摘。
「ズイフトやスマートトレーナー自体は、とてもすばらしい道具なのは間違いありません。でも、実走でしっかり走れるよう、それに偏りすぎないようにするのが大事ですね。実走とトレーナーの両方のいいとこ取りができるのが理想です」。
今回の記事で、何かヒントをつかんでもらえれば幸いだ。