Fumy’s eye 別府史之が見た世界 étape14

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別府史之が見た世界14

本場ヨーロッパで活躍するプロロードレーサー・別府史之選手の「今」を、本人の言葉で読者の皆さんにお伝えする連載。今回は、2021シーズンの初戦についてお届けします(編集部)。

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Bonjour!
こんにちは、別府史之です。

前回から少し間隔が開いてしまいましたが、せっかくですから僕のシーズン初戦の話題をお届けしたい、ということで少し記事のタイミングを遅くしてもらいました。そう、2月27日(土)・28日(日)開催のアルデッシュ・クラシックとドローム・クラシックのワンデーレース2連戦で、僕の2021シーズンが始まりました!

今はレース翌日なんですが、実は脚が痛くて昨夜はよく眠れませんでした(笑)。だって日曜日はかなり仕事しましたから。たった1人で50km以上もプロトンを引いたんですよ。そう、1人で。

別府史之が見た世界14

というのも僕らのチームは4枚もカードを有していたんです。つまりA・ベッティオール、S・カー、H・カーシー、そしてM・コートニルスン。この4人を終盤の山場まで好ポジションで引っ張っていくことが、僕らの仕事でした。ただ予想外だったのは、4人の逃げが決まった後、どこのチームも牽引に協力してくれなかったこと。もちろん序盤はコントロールせずにタイム差をありったけ与えて、最終盤で急速に吸収する……というやり方もあります。でも、そうすると最終盤にペースが上がりすぎて、スプリントのできる選手が山で千切れちゃう。だから僕らのチームとしてはペースを崩さないように、序盤からコントロールする作戦をとったんです。

さすがに1人で引くのはきつかったです。途中で(中根)英登が15kmくらい先頭を変わってくれたおかげで、少し休めましたけど、それでも脚の負担は半端なかった。残念ながらテレビ中継が始まった頃には、すでに限界に近かったかな……。

 

きつくても充実したレース

この2連戦には過去に出場したことがあるんですが、実はあまり良いイメージを持っていなかったんです。「どんな展開になるのやら」ってちょっと心配もあった。特に土曜日のコースは山岳がきついだけではなくて、道幅もすごく狭くて、しかも路面の状態が悪い。勝負したいのなら、他のレース以上に、常に前に留まらなければならないと分かっていましたからね。

とにかく自分が牽引役となって、前線を守りました。他のチームが割り込んでこようとしたら、必死にそれを阻止して。道幅が広ければいくらでも前に入る余裕があるので、緊迫感は少ないんですけど、こういう道の細いレースだと最初からストレスかかりっぱなし。コーナーのたびに集団がたわみ、ねじれ、その瞬間を突いて隊列に割り込もうとする動きが起きるんです。だから今までの経験を最大限に駆使しました。特に土曜日は、チームみんなが最終盤までいい位置で走ることができたし、カーシーが3位に入ってくれました。

脚は痛いし、もちろんすごく大変ではありましたけど、プロとしての仕事は満足にできました。チームメートの表彰台で、努力が報われたという思いがありますし、カーシーやベッティオールとは初顔合わせでいきなり初戦だったにも関わらず、僕を信頼して後ろをついてきてくれたことも嬉しかった。なによりレースが終わった後に、みんながすごく喜んでくれたんですよね。

レース後のフィードバックミーティングで、あの仕事が良かった、あの動きが良かった、という話をみんなでしたんですが、その時に「フミが仕事をしてくれた」ってチームメートからの感想が出た。これは自分の中では大きかったですね。特にベッティオールが「フミがやってくれたことはサイレントジョブ。目立たないけれど、しっかりチームの役に立った。これは簡単なことじゃない」って評価してくれたんですよ。

僕がやったことは当たり前のことです。ただ、やっぱりそうやって言葉にしてもらえると、仕事をする側としてはやる気が出ます。ワールドツアーというトップカテゴリーに、僕の仕事を必要とし、感謝してくれるチームやチームメートがいる。すごく嬉しいことでしたし、だから今は本当に晴れやかな気持ちです。

シーズン初戦でしたから、たしかにちょっとした緊張感はありました。レース自体ではなく、むしろ出発準備のほうが気が張りますね。スーツケースにシューズ、サングラス、安全ピン……とレースに必要なものを順番に入れていくんですけど、「忘れ物をしてはいけないぞ」という感覚は久しぶりに味わいました。実は合宿に行くときは、持っていけるだけ色々なものを持っていっちゃう。でもレースの時は逆に、必要最低限しか持っていきません。必要なものだけをチョイスすることで、気持ちが引き締まって、ああ、レースだ!って精神的にも準備ができる。

別府史之が見た世界14

今シーズン使用するエコイのサイクリングシューズです。エコイとのコラボウェアももうすぐ完成予定です。乞うご期待

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今回のレースは自宅からそう遠い距離ではないので電車で行きました

そうそう、久しぶりと言えば、久しぶりに英登にも会いました。レース中に色々とおしゃべりしたりして、嬉しい反面、不思議な気分でもありました。だって去年から同じチームにいた割には、なかなか一緒に走るレースってあんまりなかったんですよ。「こうしてプロトンの中で母国語でしゃべれるって、やっぱりいいね〜」なんてお互いに話をしました。

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新たなレースに向かって

コロナ禍のせいでいまだにホテルは1人部屋ですし、今回は同じホテルにUAEとアルペシンも宿泊してましたけど、交わることは一切なかったですね。ミーティングルームのような部屋で、チームごとに分かれて食事をとるシステムです。

当然ですが、PCR検査も必須です。今回のレースだけでも3回検査がありました。レース6日前に1回、3日前に1回、そして土曜日の朝に1回。土曜日の検査は、日曜日のレース後に国境を越えて自宅に帰る人のためのものです。チーム拠点があるスペインのジローナに向かうためには、たとえ陸路で国境を越える場合でも、PCR検査が必要なんです。選手だけじゃなくて、スタッフも全員受けたので、チーム側のコスト負担はかなりのものだと思いますよ。

今回はフランス「内」のレースでしたから、僕としては気楽でしたし、家族も後からレースを応援に来てくれました。でも、この先フランス「外」のレースに出たらどうなるのかな……という漠然とした不安はありますね。国外のレースで陽性になった場合、下手したらすぐには自宅に帰れないわけですから。

別府史之が見た世界14

レース前、娘が応援に駆けつけてくれました

もちろん選手からスタッフまでこうして検査を徹底して行うからこそ、普通に自転車レースが開催できている。ありがたいことだ、という気持ちは常に持ってます。レース会場もスタートやフィニッシュの周りにはものすごい数のフェンスが張り巡らされていて、無観客対策がきちんと行われているからこそ、そのフェンスの内側で僕らは全力を尽くすことができます。このコロナ禍で普通に仕事ができることは、とてつもなく恵まれていることなんですよね。ただ、やっぱり複雑な気分ではあります。

今日のようなレースの翌日は、たいていはカフェを飲みながら、午前中はのんびり過ごします。午後からはリカバリーライドを1時間から1時間半程度。溜まった乳酸を除去するためには脚を軽めに回す必要があるので、回転数多めで走ります。

別府史之が見た世界14

朝寝坊はそんなにしないです。もちろん睡眠こそが最大のリカバリーですから、たっぷり寝ます。昨日は夜10時半にベッドに入って、朝は7時半くらいに起きました。普段からも8〜9時間は睡眠時間を取りますよ。ただ自宅に居る時は、学校に行く娘の起床時間に合わせて、比較的早起きかもしれません。

たとえ早起きしても、トレーニングは、やっぱり日が昇ってから行きます。少し前だとまだ早朝は薄暗かったですし、そもそも10時半か11時にならないと寒すぎて練習に行けませんでした。もうそろそろ、9時半くらいから練習に行けそうな、そんな気候になってきましたね。まあ暖かくなってきたらきたで、花粉がすごく飛び散って、アレルギーがひどくなるんですけど。

とにかく今は、こうしてレースが始まって、ああ、僕は「これ」をすごく望んでいたんだ、としみじみ実感しています。プロ生活17年目にして改めて、この世界で走リ続けられることの喜びを噛みしめてます。次のレースに向けて、身体も心も準備はできています。いつでもどーんと来い、という気分です!

それでは、また。

別府史之

 

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(宮本あさか)