ピナレロ・パリ ディスク 汎用性が高まった伝統の名車 アサノ試乗します!その33
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前回紹介したプリンスと並び、ピナレロのブランドを支えてきた往年の名車・パリが2021年モデルで7年ぶりに復活した。かつてはピュアレーシングバイクとして知られたが、この最新モデルはコンフォートジオメトリーを採用したエアロロードに変貌を遂げ、レースだけでない幅広い楽しみ方を許容するバイクになった。果たしてその乗り味はいかに?
パリ ディスク-コンフォートジオメトリー採用のエアロロード-
パリは、ピナレロのレーシングバイクとしてプリンスやドグマに先駆けて1994年に誕生した歴史ある名車。初代モデルはアルミフレームで、レース機材がスチールフレームからアルミフレームへ移り変わる過渡期に誕生した。7000番台のアルミ合金の大口径チューブを使った軽量フレームは、1997年のヤン・ウルリッヒのツール・ド・フランス個人総合優勝をサポートした。
その後、カーボンバック仕様のハイドロチュービングアルミフレームにオンダフォークを組み合わせたパリFP、さらにピナレロのレーシングバイクとして初のフルカーボンフレーム・パリFPカーボンが登場した。2010年にはドグマ60.1のテクノロジーを受け継いで左右非対称フレームを採用したパリ50-1.5がお目見えしたが、2014年モデルを最後にパリはラインナップから姿を消していた。
2021年モデルで7年ぶりに復活したパリは、コンフォートジオメトリーを採用したエアロロードという、レーシングバイクだった過去のモデルとは違うキャラクターになった。コンフォートジオメトリーは、リーチ(BBの垂線とヘッドチューブ上端の芯までの水平距離)が短く、スタック(ヘッドチューブ上端の芯の高さからBBの高さまでの垂直距離)が高いため、比較的アップライトなポジションが取りやすいのが特徴。レース志向でない人にもポジションが出しやすい。
タイヤも最大30mm幅に対応し、オンロードでのロングライドはもちろん、太めのタイヤを履かせてちょっとしたグラベルも走れる汎用性の高さを兼ね備えているのも特徴だ。
パリ ディスク-細部-
パリ ディスク-1台でマルチに楽しめるのが魅力-
プリンスといえば、ピナレロのレースバイクというイメージを持つ人も多いだろう。しかし、2021年モデルの最新世代のパリは、ピュアレーサーではない。コンフォートジオメトリーを採用したエアロロードとのことだ。
ドグマなどに通じるエアロ形状を随所に取り入れるているが、ジオメトリーを見ると、プリンスなどのレーシングバイクと比べてリーチは短く、スタックは高い。これにより、アップライトなポジションを出しやすいことが分かる。ヘッドチューブも長めなので、レースバイクではステムの下にスペーサーを入れるようなハンドルの高さでもスペーサーの数を減らせるため、見た目もすっきりする。
さらに、チェーンステー長はドグマやプリンスよりも長めで、グラベルロードのグラヴィルよりは短め。見た目はエアロだが、エンデュランスロードに近いジオメトリーと言える。
そんな予備知識を持って走り出したら、BBまわりの剛性の高さに驚いた。フレーム素材はT600UDカーボンで、ドグマなどのレーシングフレームに使われているものよりマイルドな乗り味になると思っていたのだが、むしろプリンスよりソリッドに感じる。期待値より剛性が高かったからそう感じただけなのかもしれないが、少なくともBBまわりにしなやかさを感じるようなバネ感があるフレームではない。ソリッドな乗り味でアップライトなポジションというのは、もしかすると体重が重めで深い前傾姿勢をとりにくいサイクリストにはちょうどいいのかもしれない。
レーシグバイクと比べてホイールベースが長めなのもあって、直進安定性は高め。挙動がチャカチャカしていないので、強風が吹く場面や下りや高速コーナーでは安心感がある。とはいえ、オンダフォークのフォークオフセットはプリンスと変わらず、ハンドリングはニュートラルでレスポンスが特別悪いわけではない。
フレームの随所にドグマに通じるエアロなデザインが施されていて、シルエットはエアロロード然としている。しかし、ケーブル類はプリンスのようにフル内装でないので、ハンドルまわりはケーブルが露出している。空力性能面ではマイナスだが、ポジションが煮詰まっていなくてハンドルの高さやステムの長さを替えたいような人には優しいと言えるかもしれない。しかも、ダウンチューブにEリンクが設けられているので、将来的に電動変速コンポーネントにアップグレードするのも容易だ。
新生パリの特徴をまとめるなら、レーシングバイクに匹敵する剛性感を持ちながら、ポジションがコンフォート寄りになったバイクといえる。決して往年のパリのようなレーシングバイクではない。キャリアの長いサイクリストはどうしても「パリ」というネーミングに過去のイメージを引きずってしまい、中途半端なイメージを抱くかもしれない。
しかし、ロングライド中心に楽しみ、時々エンデューロやヒルクライムなどのレースにも出場して、いざとなったら太めのタイヤを履かせてちょっとした未舗装路も気にせずに走れるような、1台で3役以上をこなすマルチパーパスバイクに変貌を遂げたのだと考えるとこれはこれでありではないか。レースはレーシングバイク、ロングライドはエンデュランスロード、グラベルはグラベルロードがいいに決まっているが、住宅事情や経済的な理由で複数台所有するのが難しい人もいる。そういう人でピナレロの唯一無二のルックスに惚れ込んでいるサイクリストならば、パリは非常に魅力的な選択肢となるだろう。
このモデルもホイールアップグレードプログラムの対象になっている。基本ホイールのシマノWH-RS171仕様でメインコンポがシマノ105仕様の完成車で37万円台。ホイールをカンパニョーロ・ボーラにアップグレードすると60万円オーバーにはなるが、快速ロングライドバイクに仕上がりそうだ。
パリ ディスク-スペック-
価格:37万92900円(105ミックス11Sディスク完成車・税抜)
素材:ハイストレングスカーボン T600UD
フロントフォーク:オンダ フォークフラップ ハイストレングスカーボンT600
ボトムブラケット:イタリアン
最大タイヤサイズ:700×30C
サイズ:43、46、49、51.5、53、54.5、56、58(C-C)
プリンスとパリ、どちらを選ぶ?-プリンスはレーサー、パリはマルチパーパスバイク-
前回と今回でピナレロの往年の名車の血統を継ぐプリンスとパリの試乗を行った。最後に両者の比較をしてみよう。
どちらのバイクもドグマの最新モデルのテクノロジーを受け継いでフレーム随所にエアロ形状を取り入れていて、ピナレロのアイコンであるオンダフォークも採用している。遠めにはそれほど大きな違いはないように見えるかもしれない。しかし、プリンスはレーシングバイク、パリはロングライドに軸足を置いたマルチパーパスバイクと、キャラクターが全く違うバイクである。両者のどちらかを購入したいと検討する場合は、まずは自分の乗り方がどちらのバイクに合うかを考えるのが賢明だろう。
ジオメトリーも違い、プリンスはハンドルを低くしたレーシーなポジションが出せるが、パリはスタックが高いのでハンドルを低く下げるには限度がある。一方、パリはアップライトなポジションが出しやすく、レーシングモデルだとステムの下に何枚もスペーサーを入れなくてはいけないようなポジションでも、スペーサーの数を減らしてスッキリとした外観が実現できるのは魅力だ。
どちらも完成車を展開するが、プリンスはコンポーネントがカンパニョーロ・コーラス仕様、シマノ・アルテグラ、シマノ105の3種類から選べるのに対し、パリはメインコンポーネントがシマノ105仕様の1種類のみだ。同じ105仕様の基本ホイールモデルで比較すると、アッセンブルされているパーツが違うので単純比較はできないものの、プリンスが48万円台なのに対してパリは37万円台とおよそ11万円の差がある。また、プリンスはフレームセットでの販売も行っているので、好きなパーツでオリジナルのバイクを組み上げることも可能だ。
フレームはいずれもDi2のジャンクションを搭載できるEリンクシステムを搭載するため、将来の電動変速化にも対応する。一方で、プリンスはすべてのケーブルをハンドルバーからステムを経由しフレームに内装するフル内装化を実現しているのに対し、パリはダウンチューブ横の開口部から内装するだけにとどまっている。ここは将来的にアップグレードできる部分ではないので、ケーブルのフル内装を実現したいなら、自ずとプリンスが候補になる。ちなみに2021年4月現在ピナレロではプリンスがケーブルフル内装に対応した最も安価なバイクだ。