Fumy’s eye 別府史之が見た世界 étape16
本場ヨーロッパで活躍するプロロードレーサー・別府史之選手の「今」を、本人の言葉で読者の皆さんにお伝えする連載。今回は、日本に帰国した理由や日本での過ごし方、自身がプロデュースしたエコイのジャージについてお届けします(編集部)。
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Bonjour!
こんにちは、別府史之です。
実は、今、久しぶりに日本に帰ってきてます。これまでは最低でも1年に1度は帰ってましたし、ジャパンカップの時期には毎年たいてい1か月くらいは実家で過ごしていたので、こんなに長い間帰らなかったのは初めてでした。約1年4か月ぶりの日本です!
3月末に体調を崩して、そこからほぼ2週間はまったくなにも出来ない状況でした。予定していたレースも当然欠場するしかなかったし、せっかく仕上がっていた調子も落ちてしまった。5月にも予定していたレースはありましたが、今のコンディションで走ってもなんだか中途半端な気がしたんです。いずれにせよ、もはや春には間に合わない。
だったら思い切ってしばらく日本に帰ろう。この空いた時間を、有意義に利用しよう。そう決めました。新型コロナウイルスの影響でしばらく帰ることができなかったので、家族や友達と会って、故郷を満喫して、気持ちをリフレッシュしたいという想いも強かったですし。もちろん日本でしっかり乗り込んで、心機一転、シーズン中盤から後半に調子を合わせていこう……と。
それにしても、予想はしていましたが、実家にたどり着くまではいろいろありましたね。今は最寄のリヨン空港からパリまで国内線が飛んでいないので、まずはトルコ・イスタンブールでトランジット。そして日本到着後には、3日間の完全隔離です。羽田空港に到着して、検査や手続きを終えて、空港を出られたのが4時間後。それから他の乗客たちと一緒にバスに乗って、指定のホテルに連れて行かれました。一体どこまで連れて行かれるんだろ、ってどきどきしましたが、到着した先は横浜みなとみらいのホテルでした。めちゃくちゃいいロケーションで、窓からは最高の夜景が!
食事は悪くなかったですよ。SNSで他のホテルに隔離されている人たちの写真を見たりして、「え、これで大丈夫かな」と不安だったんですが、幸運にも僕はいいホテルにあたりました。いろいろなおかずが小分けにされていて、野菜もお肉もバランスよく入っていて。3日間飽きることもなかったです。実は到着したときはお腹が減っていたので、お弁当2つください……なんてお願いしてみたものの結局もらえたのは1つでしたが、食べてみたら十分な量もありました。むしろ普通の人なら食べ切れないくらいじゃないかな、って思うほどたっぷりでした。
ホテルでの3日間は部屋の外に出ることが許されないので、部屋の中で1日2回ずつ30分のワークアウトも。スクワットとか、椅子を踏み台代わりにしてジャンプとか……汗だくになるまで部屋の中でトレーニングです。時々ふと「あれ、なんか俺、ゴルゴ13っぽい?」とか考えましたね(笑)。だって横浜のみなとみらいの風景をバックに、上半身裸で、部屋の中で鍛えてるんですから。もしも向こう側のインターコンチネンタルホテルからこちらを覗く人がいたら、「あの部屋の人、大丈夫かな」なんて絶対なると思いますもん。
ホテル隔離が終わった後は、羽田までまたみんなでバスで戻って、そこで解散です。そこから自主隔離の場所まで……僕の場合は実家ですけど、公共交通機関での移動はダメなんですよ。そこで問題になったのが自転車をどう運ぶか。というのも今回はロードバイクとTTバイクを1台ずつに、ホイール8本、スーツケース2個という合計で100kgを超えるすごい大荷物で帰ってきましたからね。隔離先のホテルも、自転車を保管するために、わざわざもうひとつ部屋を用意してくれたくらいです。
で、まずは宅配便で送ろうと考えたんですけど、空港に入っている会社では、自転車が入っているボックスの各辺の合計が規定を超えていると断られてしまいました。別の会社では受けつけているサイズなんですが。じゃあ大きいレンタカーを乗り捨てで借りようかと思ったら、うーん、想像以上の値段でした。ということで試しに箱や自転車をばらして、空港まで迎えに来てくれた父親のゴルフに詰め込んでみたら……全部入ったんですよ!コンパクトに見えて実はスペースがありました。おかげで無事に実家まで帰ることが出来ました。
こんなご時世なので、例年より長く日本に滞在することになります。実家に帰ったあとも、日本到着2週間は自主隔離をしなくてはならないですし。それにジャパンカップ時のようなオフ直前でもなく、シーズン中ですから、日本でもしっかりとトレーニングしたい。簡単にフランスとの間を往復することも出来ません。だからどうしても持ってくる機材は多くなりました。自宅隔離期間に備えて、事前にはチームスポンサーさんに、ホームトレーナーTACX neo2を実家に送ってもらうようお願いもしておきました。
その自主隔離期間も無事に終えて、今は久しぶりに日本の道を走ってます。やっぱりいいですね。実家のある神奈川から、静岡や山梨へと走りに行くんですけど、走っていてすっごく楽しいんです。
交通量はたしかに多いです。でも、走るには最高のところだな、自分の住んでいた場所って自転車が乗りやすい土地だったんだな、と再認識しているところでもあります。富士山も見えるし、海もある。ちょっと足を伸ばせば箱根の大観山にも、ヤビツ峠にも行けます。ロケーションとして最高ですよ。ヤビツなんて、信号もないから、ずっといいペースで上り続けることができますし。「自転車王国」じゃないですけど、こういう土地で生まれ育ったおかげで、僕は自転車が強くなったのかもしれないな~って改めてしみじみ実感しましたね。
もちろん自分が「道を知っている」というのもあります。あ、ここ憶えてる、ここを曲がればいいんだ、っていうのが自然に出てきます。で、「俺はこの道なんで知ってたんだろう??」なんて考えたときに、「ああ、兄貴だ!」って。中高生の頃に匠兄にいろいろなところに走りに連れて行ってもらって、道を憶えたからなんです。
道って誰かに教えてもらわないと、なかなか分からないもの。ここは交通量が少ない、とか、ここは道幅が広い、とか。僕自身も石上(優大)とか後輩たちに道を教えてたし、兄自身もNIPPOの清野慶太さんや飯島誠さんに教わったんですよ。近所を走っているときにすれ違ったりして、「ついて行っていいですか?」と一緒に走らせてもらって、道や走り方を教えてもらう……。昔からみんなが走っている道、っていうのは、やっぱり走りやすい道だから。自転車も歴史であり文化なんですね。こうやって人から人へ、上から下へと、つながっていくもの。
さて、僕が昨年末にプロデュースしたエコイのジャージが、ついに発売されました。コンセプトはゴージャスでエレガント。可愛いジャージとかおしゃれなジャージってのはあるんですけど、「エレガントに乗れる」っていうのは今まであまりなかった。だから1つくらいそういうのがあってもいいんじゃないかな、と。
まずはデザインにこだわりました。全体に散りばめられている「FB」は、四葉のクローバーをモチーフにしています。幸運の象徴ですよね。それがバイクチェーンでつながれている。自転車にとってチェーンとは必要不可欠なパーツであり、人と人とのつながりも意味してます。背中のポケットの中には、隠れアイテムも潜んでます。クローバーと木札を抱えている蛙です。これは「無事に帰る」という意味を込めた交通安全祈願なんですよ。それに僕の住んでいる地域は蛙で有名な場所ですし。ビブショーツの肩紐には「Je suis avec toi」、つまり「僕がついているよ」というメッセージも書き入れました。
そうなんです、メッセージ性の強いジャージにしたかったんです。「楽しく安全に自転車を乗って欲しい」という願いを込めたかった。こんな僕の想いを、いつもお世話になっているデザイナーの奥野真行さんが、実際のデザインに描き起こしてくださいました。おかげですごくシンプルかつシックな、かっこいいデザインに仕上がりました。
素材もトップクオリティのものだけを厳選しました。漆黒とゴールドのジャージなんですが、同じ色でもトーンは色々あるし、素材によっても色の映え方がまったく違うんです。引っ張ると色味が変わる素材もあったし、そもそも引っ張ると縫い目の部分が白く見えちゃうジャージもあります。だから見た目のクオリティには細部まですごく気を配りました。
値段だけで見れば高いと感じられるかもしれないんですけど、つまりめちゃくちゃ高品質ジャージなんですよ。いわゆる「プロ仕様」の中でも、トップ級のクオリティ。たとえばアルケアはエコイのジャージを着ているんですが、チームの中でも、普通の選手と(ナイロ)キンタナのジャージは実は品質が違います。生地やパッドの素材を変えてあって、値段的に高いから、リーダーだけに支給されてるそうなんですが……僕のジャージはこの「キンタナレベル」です!
ひとつだけ注意して頂きたいのは、「プロ仕様」なので、サイズ的にはちょっとタイトな作りかもしれないことですね。ただ当然、生地も縫製もしっかり丈夫ですし、ハードな使用にも洗濯にも耐えます。乾燥も早い。きっと満足していただける仕上がりです。5月は自転車月間ですし、気候も良くなってきましたので、これを着て自転車を楽しんでもらえると嬉しいです。
僕自身は、5月は九州に行って、まるまる1ヶ月乗り込むつもりです。僕は高校卒業とほぼ同時にフランスに渡って、ヨーロッパで走るという夢を叶えました。その代わりに日本でゆっくり過ごす、日本をじっくり走る、という機会を20年近く持てなかった。日本をよく知らないんです。だからトレーニングしつつも、九州では積極的に日本の文化に触れたい、勉強したい……とも考えてます。
もちろんコロナ禍なので注意は怠らずに。走行中はひとりなのでマスクはしませんが、常に携帯していますし、暑くてもできる限りネックウォーマーをつけています。誰かが側に来たときに、すぐに口元へ引き上げられるように。互いに互いを守り合おう、っていう精神を大切にしたいですからね。
それでは、また!
別府史之
メッセージはinfo@cyclesports.jpま