ジャイアント・TCRアドバンスドSL1ディスクKOM 手が届きそうな最高峰 アサノ試乗します!その34
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2021年モデルでリニューアルを果たしたジャイアントの軽量オールラウンド系レーシングロード・TCRシリーズ。コンパクトフレームやオーバードライブ2などシリーズのアイコンともいえるテクノロジーを採用しつつ、空力性能の強化や高剛性化、軽量化を推し進め、シリーズ史上最強のモデルとなった。今回はアドバンスドSLグレードの最高峰フレームにシマノ・アルテグラDi2をメインコンポーネントとして搭載したTCRアドバンスドSL1ディスクKOMをチェックする。
ジャイアント・TCRアドバンスドSL1ディスクKOM-最高峰フレームにアルテグラDi2を搭載したバリューモデル-
ジャイアント・TCRシリーズは、軽量レーシングロードとして1997年に初代モデルが登場。3大ツールやクラシックなど世界最高峰のレースで数々の実績を残してきた同ブランドを象徴するモデルだ。
今ではロードバイクの世界でも常識となったスローピングフレームを「コンパクトフレーム」という名称でいち早くロードバイクに取り入れ、ロードバイクの歴史においてもエポックメイキングなモデルと言える。
2021年モデルでリニューアルを果たした最新世代は、9世代目にあたる。カーボンフレーム採用モデルは、素材によって大きく2つのグレードに分けられる。最上位グレードは、ジャイアントの技術の粋を結集し、軽さと剛性の高さを最高レベルで両立させたアドバンスドSLグレード。ベーシックグレードに位置づけられるのが、上位モデル譲りのバランスの良さと適度な剛性感を持ち合わせるアドバンスドグレードだ。
今回紹介するのは最高峰・アドバンスドSLグレードのフレームに、メインコンポーネントとして油圧ディスクブレーキ仕様のシマノ・アルテグラDi2を搭載したTCRアドバンスドSL1ディスクKOM。シリーズ全体では2番目の高価格モデルだ。
フレームに関しては、TCRシリーズの最高峰・アドバンスドSL0ディスクと同じアドバンスドSLグレードのカーボンフレームで、ペイントが異なるのみ。アッセンブルされるコンポーネントやホイールなどのパーツのグレードを見直すことで、上位モデルより税込み定価で50万円以上お値打ちな価格設定となっている。それでもカーボンフックレスリム採用のチューブレスレディ(TLR)ホイール「SLR1 42ディスク カーボンホイール」やジャイアント製のパワーメーター「パワープロ」を標準装備するなど、完成車としてのパッケージングは非常に高いレベルでまとまっている。
ジャイアント・TCRアドバンスドSL1ディスクKOMの細部-パーツ構成を見直すことでコストダウン-
TCRアドバンスドSL1ディスクKOMは、ハイエンドモデルのアドバンスドSL0ディスク完成車と同じフレームを採用しているが、コンポーネントはシマノ・アルテグラDi2油圧ディスクブレーキモデル、ホイールをジャイアント製のアルミスポークのフックレスカーボンリムTLRホイール「SLR1 42ディスク」とすることでコストダウンを実現している。また、KOMと冠されるように、ドライブトレインはチェーンリングを50-34T、カセットスプロケットを11-34Tとすることで、ホビーサイクリストがヒルクライムを楽しみやすいギヤ比になっている。
ジャイアント・TCRアドバンスドSL1ディスクKOMをインプレッション-高嶺の花ではない、手が届きそうな最高峰-
何の予備知識もなしにこのバイクに乗ったとしたら、このモデルがハイエンドモデルだと言われたら間違いなく信じてしまうだろう。それぐらい完成度の高いバイクだ。
個人的に第9世代のTCRシリーズのプレスローンチで、いち早くハイエンドモデルのTCRアドバンスドSL0ディスクに試乗させてもらったのだが(記事リンク)、そのときに味わった感動が再来した。
ステアリングコラム径を上下とも1.5インチとするオーバードライブ2の採用で、ハンドルやヘッドチューブまわりの剛性アップを実現。卓越したハンドリングと制動時の安心感は桁違いだ。加速時にもハンドルをうまく押し引きしてやるとクルマで言うターボのような暴力的な加速が味わえる。加速の良さはフレームが軽量であり、パワー伝達の上で重要なヘッドチューブからダウンチューブ、BB、チェーンステーにかけての剛性バランスが素晴らしいことも影響しているはずだ。
さらに速度感覚が麻痺するほど高速巡航性能が高い。フレームが風を切り裂いて後方にスムーズに流し去っているようにさえ感じられる。このことはカーボンフックレスTLRホイールの転がり抵抗の少なさや走りの軽さも影響しているのは間違いない。
アッセンブルされているパーツもスキがない。メインコンポーネントはシマノ・アルテグラDi2でもちろん油圧式ディスクブレーキを採用。さらにジャイアントオリジナルのパワーメーター付きクランクを標準装備している。そのままのスペックでレースで十分通用するし、ペダルやANT+対応のサイクルコンピューターさえ持っていれば、新たに買い足すものはない。
各ブランドのハイエンドレーシングモデルが100万円オーバーは当たり前、150万円を越えるようなモデルもある中で、このバイクの価格は税込みで81万4000円。ジャイアントのハイエンドモデルと比べても50万円ほど安い。もちろんその分コンポーネントはシマノ・デュラエースDi2からアルテグラDi2にグレードが下がっているし、ホイールもカデックスのカーボンスポーク採用のカーボンフックレスTLRホイールからジャイアントのアルミスポーク採用のカーボンフックレスTLRホイールに変更されているわけだが、重量以外の性能差が価格差ほどには感じられないほど出来がいい。
と、褒めるだけでは能がないので、重箱の隅をつつくレベルの個人的に気になったポイントも記しておきたい。
ひとつはドライブトレインにチェーンリング50-34T、カセットスプロケット11-34Tというロードレース向けではないギヤ比を採用している点。出自がレースバイクなので、ハイエンドフレームのアドバンスドSLと組み合わせるならせめて52-36Tのチェーンリングを標準にしてほしかった。ヒルクライムのみならこのギヤ比でも問題なさそうだが、アウター50Tでは、ある程度走れるサイクリストだとレースの下りではギヤが足りないこともあり得るはずだ。
もうひとつはカラーバリエーションの少なさ。TCRアドバンスドSL0と同じフレームを使っているのだから、このモデルにもSL0と同じ精悍なブラックとか、フレームセットのみで展開される角度によってブルーにもグリーンにも見えるマットクリソコラを完成車でも選べると、さらに魅力が増すと思うのだ。
と、このような個人的な不満はともかく、このバイクはハイエンドレーシングフレームを採用した完成車のパッケージとしては2022年モデルでも頭ひとつ抜けた費用対価値があると断言できる。もしプライベートでレーシングバイクを購入するなら、現時点で有力候補のひとつだ。
ジャイアント・TCRアドバンスドSL1ディスクKOM-スペック-
価格:81万4000円
フレーム:アドバンスドSLグレード コンポジット バリアントOLD142mm
コンポーネント:シマノ・アルテグラDi2
サドル:ジャイアント・フリートSLRカーボンレール
サイズ:680(XS)、710(S)、740(M)、770(ML)mm