ジャイアント・TCRアドバンスド プロ0ディスク-ホビーライダーに最高のレーシングロード-アサノ試乗します!その35
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2021年モデルでフルモデルチェンジを果たしたジャイアントのレーシングロードTCRシリーズ。ジャイアントのカーボンフレームのスタンダードとなるアドバンスドグレードを採用するTCRシリーズの最上位モデルがTCRアドバンスドプロ0ディスクだ。その性能をチェックし、前回紹介したアドバンスドSLカーボンフレームを採用するTCRアドバンスドSL1ディスクKOMとの乗り味の違いも明らかにしていく。
ジャイアント・TCRアドバンスド プロ0ディスク-アドバンスドフレームではシリーズ最上位モデル-
カーボンフレームを採用する3グレードのうち、TCRアドバンスドSLシリーズのみジャイアント最高峰のレーシングカーボンフレーム・アドバンスドSLグレードを採用し、TCRアドバンスドプロシリーズとTCRアドバンスドシリーズはスタンダードグレードのアドバンスドカーボンフレームを採用する。
アドバンスドプロシリーズとアドバンスドシリーズには、リムブレーキ仕様の完成車も用意されるのが特徴だ(アドバンスドSLシリーズはフレームセットのみリムブレーキモデルが用意されるが、完成車としては販売されていない)。
アドバンスドプロシリーズとアドバンスシリーズの違いはコンポーネントやホイールの違いと言っていい。アドバンスドフレームを採用するモデルのうち、最上位に位置するのが今回紹介するTCRアドバンスドプロ0ディスクで税込み価格は68万2000円。メインコンポーネントにはシマノ・アルテグラDi2×油圧式ディスクブレーキ仕様、ホイールはジャイアントのフックレスカーボンチューブレスレディ(TLR)ホイールである「SLR1 42ディスクカーボンホイール」が採用されている。
アドバンスドグレードのフレームを採用するモデルは幅広い価格帯でさまざまなモデルが用意されており、予算に応じて選ぶことができる充実したラインナップを展開している。ディスクブレーキ搭載モデルで最も安いTCRアドバンスド2ディスクSEは税込み29万1500円と30万円台を切る価格設定だ。
ジャイアント・TCRアドバンスド プロ0ディスクの細部-アルテグラDi2とカーボンTLRホイールを標準装備-
TCRのアドバンスドフレーム採用モデルの中で最もグレードの高いTCRアドバンスドプロ0ディスクは、メインコンポーネントにシマノ・アルテグラDi2の油圧式ディスクブレーキモデルを搭載する。ジャイアントのパワーメーターやカーボンフックレスリムTLRホイールも標準装備する。基本的なパーツ構成は前回試乗したTCRアドバンスドSL1ディスクKOMとほぼ同じだ。なお、両者の細かい違いについては記事の後半で紹介する。
ジャイアント・TCRアドバンスド プロ0ディスクをインプレッション-ホビーレーサーの必要十分以上を兼ね備えた戦略的モデル-
ジャイアントのロードバイクは他のブランドを圧倒する高い費用対価値で知られる。中でもTCRアドバンスドプロ0ディスクは、性能を考えたらかなりのバーゲンプライスなのではないかと思う。
テストライドはTCRアドバンスドSL1ディスクKOMとTCRアドバンスドプロ0ディスクを同日に乗り比べる形で行った。どちらもメインコンポーネントにシマノ・アルテグラDi2、ホイールはジャイアントのフックレスカーボンホイールSLR1 42を搭載しており、その他のパーツ構成もほぼ同じ。純粋にフレームの違いをインプレするのが狙いだった。まずアドバンスドプロから試乗したのだが、第一印象は「これ、ハイエンドじゃないの?」というものだった。
重量が軽いため加速の乗りもよく、オーバードライブ2を採用していてハンドルからヘッドチューブまわりの剛性が高い。個人的にTCRシリーズの魅力だと思っているハンドルをリズミカルに押し引きしながらペダリングすることでターボ車のような暴力的な加速が体感できる点も上位モデルと変わらない。急制動したときやコーナーリングでの安心感も健在だ。
カタログ表記の完成車重量ではアドバンスドプロはMサイズで7.2kg、これに対しアドバンスドSL1はSサイズで6.8kgとなっているが、同一サイズで乗り比べると400gもの重量差は感じない。走行に関わるホイールやタイヤ、操作性に関わるコンポーネントが同じなので、走行性能にそこまで差があるとも感じられない。
乗り比べたときに感じられる最も大きな違いは、フレームの硬さだ。アドバンスドプロが採用するアドバンスドグレードカーボンフレームは比較的マイルドな剛性感で、アドバンスドSLが採用するアドバンスドSLグレードカーボンフレームはかなりソリッドな乗り心地に感じられる。
それが端的に感じられるのは、スプリントの時のように大トルクでペダルを踏み込んだとき。アドバンスドSLの方が余すことなく力を伝えるように感じられるが、同時に硬さも感じる。短時間、短距離であればよく進んで気持ちいいのだが、おそらく長時間、長距離となると、いわゆる“踏み負ける”と感じる人も出てくるのではないだろうか。
その点、アドバンスドグレードカーボンフレームのアドバンスドプロは、ホビーレーサーレベルでは十分な剛性感がありながら、ややマイルドな味付けになっている。切れ味ではやや劣るかもしれないが、それでも十分レーシーだ。ホビーレーサーの多くはアドバンスドプロの方がフレームの剛性を考えると相性がよいと感じる人が多いように思う。
レースとレースのためのトレーニング中心に乗るのであれば、アドバンスドSLは魅力だ。また、ヒルクライムを主戦場とするサイクリストなら、少しでも重量を軽くしたいはずなので、そういう方もアドバンスドSLが向いているだろう。しかし、それ以外の「ロングライドも楽しみつつ、レースも走りたい」というような方にはアドバンスドプロもいい選択肢だ。フレームの剛性感がほどよく、購入時のパッケージでレースでも必要十分なスペックを備え、何よりアドバンスドSLシリーズより13万2000円も安く手に入れられるからだ。
ジャイアント・TCRアドバンスド プロ0ディスク-スペック-
価格:68万2000円
フレーム:アドバンスドグレード コンポジットOLD142mm
コンポーネント:シマノ・アルテグラDi2
サドル:ジャイアント・フリートSLR
サイズ:425(XS)、445(S)、470(M)、500(ML)mm
アドバンスドSL1とアドバンスドプロ0の違いは?
TCRアドバンスドSL1ディスクKOMとアドバンスドプロ0ディスクの最大の違いは、フレームの素材にある。アドバンスドSL1ディスクは、ジャイアントの技術の粋を集めて軽さと剛性を最高レベルで実現したアドバンスドSLグレードのカーボンフレームを採用。一方アドバンスドプロ0ディスクは、カーボンフレームのスタンダードという位置づけのアドバンスドグレードカーボンフレームを採用している。
外見上の最も大きな違いは、シートポストだ。アドバンスドSL1ディスクはフレームとシートポストが一体化したISP(インテグレーテッドシートポスト)を採用しているが、アドバンスドプロ0ディスクは通常のシートポストとなっている。ISPでは専用のサドルクランプを介してサドルを装着し、上から差し込む。スペーサーを入れることで最大20mmの高さ調整が可能だ。また前後の向きを入れ替えることで、サドル後退量を15mmと5mmの2通りに変更することもできる。なお、シートクランプはスタンダードとロングの2種類あり、使い分けることでもサドル高の調整が可能だ。
フレームの造形も微妙に異なり、シートステーのシートチューブとの接合部の形状が違っている。アドバンスドSL1ディスクの方がモノステーになっている部分が短く、タイヤとのクリアランスが広くなっている。これはISPを採用したうえで必要な剛性と強度、快適性を実現するため、シートチューブ接合部の設計を見直しているためだろう。
アッセンブルされるメインコンポーネントやホイールは両者同じで、パーツも基本的に同じだが、いくつかのパーツが異なる。ひとつはサドルで、アドバンスドSL1はカーボンレールのフリートSLR、アドバンスドプロ0にはステンレスレールのフリートSLが標準装備されている。もうひとつはステムで、アドバンスドSL1にはコンタクトSLRカーボンステム、アドバンスドプロ0にはアルミ素材のコンタクトSLステムが標準装備されている。
こうしてみると、両者の違いはごくわずかに過ぎないことが分かる。それでも乗り味は微妙に異なり、アドバンスドSL1がピュアレーサーであるのに対し、アドバンスドプロ0はレースからロングライドまで広い守備範囲を誇る。もしこの両者のどちらを選ぼうか悩むなら、このキャラクターの違いと価格差を踏まえて選択するのがいいだろう。