トラック競技 短距離&中距離 東京五輪へ向けた思い

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トラック競技 東京五輪目前
6月9日、トラックメディアデーと称し、東京オリンピックトラック競技日本代表内定候補選手、短距離、中距離両コーチによるオンライン記者会見が行われた。また、6月18日には、日本競輪選手養成所の敷地内にて練習の様子がメディア向けに公開された。
 
海外からのコーチ就任、練習環境の変化、世界大会でのメダル、そしてオリンピックの延期などさまざまな事象を乗り越えて変化と経験を積み上げてきた。
 
メディアデーでの記者会見、ならびに過去のインタビューを照らし合わせて今までを振り返り、40日を切った本番、東京オリンピックへの思いを聞いた。
 

”本当のナショナルチーム”へ

トラック競技 東京五輪目前

世界選、スプリントで新田を支えるブノワ

 
東京五輪へと向かうおよそ5年という歳月は、トラック日本ナショナルチームをあまりにも大きく変えた。いや、もしかすると、”やっと”ナショナルチームとして世界標準に近づいたと言った方がいいのかもしれない。しかし、それでもまだ足りない面もあるとブノワ・ベトゥ短距離ヘッドコーチは話す。
 
「ナショナルチーム全体がいろいろ変わってきました。組織自体も大分変わってきたし、スタッフも変わってきました。選手に関しては、勝ちたい気持ちや心境における成長が見られます。あとは自分が勝てるという自覚が身についてきたと思います。今は”本当のナショナルチーム”になってきているかと思います。
 
しかし、他の国と比べて、まだ技術、サイエンスの面ではナショナルチームとしてまだ欠けているとは思います。サイエンスの面では全てが欠けていると言えるんですが、具体例をあげるなら、風洞実験施設がないこと。風洞実験をしたければイギリスに行かなければならない。そうすると、競争国に私たちのデータを提供してしまうことになるので、国内でできないというのは多大な損失となるのです」
 
関係するほぼ全ての人々の意識の変化まで行き着いた。環境面、あらゆる体制やシステムを構築するまでにはまだ至っていないのが現状と言えるだろう。
 
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公開練習にてウォーミングアップを行う短距離ナショナルチームのメンバー

 
そもそもの変化の発端となったのは、ブノワが2016年10月に日本ナショナルチームの短距離ヘッドコーチとして就任したことだ。
 
それまでの日本ナショナルチームの体制は、各大会に向けてある種突貫的であり、トレードチーム(現状ではUCIトラックチームという名称。日本ではドリームシーカーやチームブリヂストンサイクリングなどのこと)のポジションなどもあまりに不明確だった。
 
新田祐大がドリームシーカーを立ち上げたばかりの頃、新田の状況をブノワが聞くと、「何なんだこの日本は。この日本という国は面白いな」と皮肉めいたことを話したという。
 
練習体系はもちろんのこと、ナショナルチームとして機能させるため、全ての選手が伊豆へと集められ、居住環境すらも大きく変わった。
 
今や、まるで家族のようと言っても遜色がないほどにナショナルチーム全体が一丸となっている様子が見受けられるが、当時、就任が決まったコーチ陣と選手たちが信頼関係を築き上げるのには時間を要したという。一昨年末、新田に当時を振り返ってもらった際、こう話していた。
 
「練習もずっと一緒にやってたんですけど、もう練習させられてる感が強すぎて。あれやれ、これやれって。訳も分からず1年が過ぎて、日本の競輪の成績はすごい良かったんですけど、競技の成績が全く出なくて。そういう形で1年目はスタートしましたね。スタート時、一緒にやっていた人は感じている部分なのかなと。みんな口揃えて言うのは、『最初のときはひどかった』。
 
(ブノワは)フランスでメダルをずっと取っているし、最新の科学的トレーニングとかそういう感じなんだろうなと、僕らのイメージでは、分析して、機械を体にくっつけて、マシンに乗って、こうだああだっていうのを分析しながら読み解いていくのかなと思っていたら全く違くて。毎日これ乗れ!みたいな。やばくなっても乗れ。やばいと思うのは、自分の気持ちだからやばくない。限界を超えないとお前らは強くならない。お前らはまだヒヨコの状態だ、みたいな。これ軍隊でしょ?って思いましたね(笑)」
 
関係性が変わったのは、ナショナルチームのメンバーが世界大会で結果を出し始めてからだという。ワールドカップや世界選手権など世界大会でのメダルは、やってきたことの意味を証明することにつながり、チームに一体感を生んだ。
 

「勝つ」。それだけのために

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集中力を高く持ちながらトレーニングに臨む

 
ブノワが就任する前のリオオリンピックにも出場している脇本雄太は、リオの直前と東京を直前にした今、その違いをこう語る。
 
「一番自分の思う変化っていうのは、リオオリンピックの方は、メダルを取れたらいいなっていう楽観的な考え方だったんですけども、今回の東京大会に関しては、絶対取るっていう自分にとってのターゲットになっているのかなという感覚です」
 
ブノワが日本ナショナルチームに蒔いた種は、勝利へと向かう精神だった。「勝つ」という強い意志を一人一人が持ち始め、気付けば「あわよくば」なんて思いはとうに消えており、自信に変わっていた。それだけ鍛え上げてきたのだ。肉体も精神も。
 
フィジカルの限界を突破しようとする際、通常であれば精神的限界の方が早く訪れる。それに打ち勝つために圧倒的な精神的強さが求められる。肉体的限界を乗り越えた先に確実に待っているのは耐え難いほどの苦痛。その恐怖を知っている上で乗り越えなければならない。並の精神で簡単に乗り越えられるものではないはずだ。選手たちはそれを幾度となく乗り越えてきたからこそ今がある。
 
そうして積み上げてきた精神の強さは、レースを前にした選手たちから湧き立つ闘志や、インタビューで放つ言葉の一つ一つに現れた。
 
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男女混合で750mの全力ダッシュ4本目を振り絞る

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スタッフの介抱なしに自力で立ち上がれないほどに出し切る新田

新田は、これまでの経験で自身の変化を経て、強靭な精神の必要性を痛感していた。
 
「やっぱり精神的な部分が崩れてしまうと、肉体的な部分が準備できていても戦えないですし、肉体的な準備ができてないときに精神的に崩れてしまうと、両方駄目で。全く駄目になってしまう。なので、必ず精神的な部分だけは、自分でどう思うかだけの話なので、ここだけは崩さないように何とか頑張っていこうとやり続けた結果、今、たぶん成績の面においても、好調で居続けることができているのかなと思います。この気持ちをあと2カ月程度維持して、あとはオリンピック終わるまで、なんとか持ちこたえたいなと思っています」
 

「全てを懸けた武士たち」

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この東京五輪までにブリヂストンのトラックバイクも大幅に進化した

 
自転車競技の中でもトラック短距離選手たちほどオンオフの差を感じることはない。選手によりけりな面もあるとは思うが、トラック中距離やロードレースなど長時間のレースを行う選手たちからは、一本の細い糸が漂ったり、張り詰めたりするかのような緊張感を感じることがある。
 
一方でトラック短距離の選手たちのレース前は、言い過ぎかもしれないが、近づいたら殺されるのではと思うような覇気や剥き出しの闘争心を感じる。そしてその1本1本にかける走りは、まるで命を削るかのように全力だ。
 
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ブノワ・ベトゥ短距離ヘッドコーチ

 
ナショナルチームの選手たちが纏う空気も大会を経るごとにプレッシャーを増した。
 
ブノワは、昨年の世界選手権で日本ナショナルチームの選手たちのことを、「勝つために、全てを懸けた武士たち」と表現した。また、最大の目標である東京五輪に向けて、選手たちに共通してアドバイスするならと聞かれ、ブノワはこう答えていた。
 
「共通して言えることは、戦いに行く、戦争に行くというくらい後悔がないように挑むこと。武士になって、フィニッシュ後に死んでもいいくらいの思いで臨むこと。本当に勝ちたいのであれば、そういう気持ちが必要です。暴力的に聞こえてしまうかもしれないですが、私たちは5年という期間、時間をかけてたくさん努力をして、痛み、辛さ、いろいろなことがありました。だからこそ、オリンピック当日には本当に戦争に挑む、勝利のために死ぬ覚悟を持つ、それくらいしないと勝つことはできません。
 
(新田、脇本、小林)3人とも優勝する可能性がありますし、優勝がなければ落胆することになるでしょう。それは、勝つポテンシャルが十分にあるからです。それゆえに期待しています」
 

最後の限界への挑戦

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公開練習を走る脇本

 
脇本はコロナによる延期の1年で一番変わった点を空力面での改善と語った。延期を機にイギリスの風洞実験施設へ出向き、エアロフォームへの改善を行った。脇本に限らず、この1年だけで分かりやすいところでは、ハンドル幅は見るからに狭くなっている。
 
ブノワと綿密に話をし、指導をもらいながらエアロフォームにしていったことで脇本自身も速くなった感覚や力の効率化を感じていると言う。
しかしその一方で、限界を感じ、焦りもあると話す。
 
「やっぱり1年延期をもらって、僕は特に感じているんですけども、年齢の限界を迎えているんだなと思っているんです。肉体の限界突破はもちろん、精神的な限界も。自分の中でよくやってるなという風に思いますし、リオ大会から数えて競技年数も8年を超えていて、頑張ってはいるんですけども、年齢の限界だけはどうしても越えられない壁があるのかなと思っていて。走りたい気持ちはあるけども、しっかり我慢しながらやっていくしかないのかなと思っています」
 
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男子ケイリン、スプリントに出場する脇本雄太

 
東京五輪前最後の国際大会となった香港でのネイションズカップには、脇本が世界選手権で戦った現世界チャンピオンのハリー・ラブレイセンらを擁するオランダなどの強豪国は出場しなかった。
 
1年以上の期間を経て、世界選手権以来の強豪選手たちとの戦いをどう想定するか尋ねるとこう返ってきた。
 
「想定をするのは難しいので、あくまでももう精神的なものですね。要は世界選手権で戦ったあの感覚を思い出しながら、よりパワーアップしてるんだろうなと想像をしながら東京大会を迎えているという感じです。よりプラスでイメージする感じで、要は世界選手権のままではないでしょっていう考え方を持ちながらやっています」
 
インタビュー時はまだ緊張はしていないと話した脇本だが、現在沖縄で行なっている合宿で最後の詰めを行い、本番への緊張感や雰囲気を高めていくという。脇本が狙うはただ一つ。「ケイリンで金メダルとること」だ。
 

「最後と決めたから」

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公開練習を走る小林

 
2020年2月末にドイツ・ベルリンで行われた世界選手権では、挑む気持ちが足りなかった短距離女子のレースを見たブノワは怒りをあらわにした。「甘やかしすぎてしまった」。そんな話もしていた。
 
しかし、小林優香は、香港でのネイションズカップで、元世界チャンピオンである香港のリー・ワイジーをケイリンで敗った。
 
「かなり長い道のりでした。競争相手がリーワイジー選手だったということもあって、小林選手は彼女をあまり得意と捉えていないと思うので、それゆえに倒したいという気持ちが彼女を越えられたんだと思います。あとは、オリンピックのメダル獲得者に勝つということは、自分の立ち位置がどこにあるかの参考になるので、自分が努力してきた成果の確認、自己承認ということにもつながったんじゃないかと思います」
そうブノワは評価した。
 
小林自身もこの勝利は大きな自信となったと話す。
「やっぱり彼女は世界のトップ選手で、その彼女を捲って優勝できたっていうのがすごく自信になりました。金メダルを取るために(大会に)入って、その闘志が今までは剥き出しにしすぎてこぼれちゃったりみたいなことがあったんですけど、今回は冷静にかつ闘志を剥き出しにっていうのがうまくできたと思います」
 
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女子ケイリン、スプリントに出場する小林優香

 
これまでワールドカップなどでメダルも獲得してきた小林だったが、消化しきれないほど悔しい思いをすることも多かった。だが小林の最終目標である東京五輪を前に、改めて気持ちが切り替わった。
 
「本当に去年まではなかなか悔しい部分の方が多かったと思いますし、自分の中でモヤモヤする部分が多かったんですけど、今年に入ってからはやっぱり最後と決めたからっていうのももちろんあると思うんですけど、全てに全力を尽くしてやっていますし、すごく東京オリンピック本番が今は楽しみですね」
 
世界王者のエマ・ヒンツェなどの強豪選手たちがどの程度仕上がっているかは未知だ。しかしそれも小林はポジティブに捉える。
 
「やっぱり彼女たちもこの間のネイションズカップを見ていると思いますし、そこで日本チームはこういう風に仕上がっているんだよというのは見せつけられたと思うので。世界チャンピオンと戦う立場の方がプレッシャーはあると思うので、その中で私は母国開催でしっかり金メダルを取れるように頑張りたいです」
 

「目指せるものは全て」

トラック競技 東京五輪目前

男子ケイリン、スプリントに出場する新田祐大

 
昨シーズン、チームスプリントでの大飛躍が見られ、スプリントでは主に深谷知広の活躍も目立った。五輪延長期間を経て、今度は深谷に限らず、ナショナルチーム全体で個人種目のスプリントでの向上が見られる。
 
昨年の世界選手権以来初めての世界大会となった香港のネイションズカップでは、スプリントで日本人が表彰台を独占した。その頂点に立ったのは新田だった。昨年末頃に行われた全日本選手権では、まだまだスプリントの走り方は素人と話していた新田だが、ここでは大きく改善が見られた。
 
「以前よりは、見てもらっても楽しんでもらえるような走り方はできてるんじゃないのかなと思います」
新田はこう言って笑った。
 
この改善には、スプリント巧者として活躍を見せていた深谷の協力があった。映像を見て、討論を行うだけではなく、実際に走って落とし込んでいく作業を行ったと新田は話す。
 
「僕自身はもう体力的には準備ができていた。ただそれを生かすスキルがなかった。スキルを強化したことによって、両方がトップレベルに達して、一緒に練習する深谷たちもスキルアップ、レベルアップができるようになった。そうすることによって、さらに高いレベルのトレーニングができて、結果、全体的に向上したっていうことに繋がるのかなと思っています」
 
トラック競技 東京五輪目前

公開練習を走る新田

 
競輪(国内の競輪、競技のケイリンともに)を生んだ国として、今までケイリンに重きを置いてきており、代表内定候補の脇本や小林はケイリンでの金メダルを目標と口にする。しかし、新田からはケイリン、スプリントどちらに重きを置くという発言はない。その理由はこうだ。
 
「僕としては、もう捨てるものはなくて、目指せるものは全て狙っていきたいと思っています」
 
8月1日の東京五輪トラック競技開始まで残り2カ月を切った今の気持ちについて、新田はこう語る。
 
「まだ今の段階ではそんなに緊張というのはしていません。ただ、オリンピックを想定した話し合いとかミーティングをするとやっぱり心拍が上がるので、大会当日になったらこうなるんだろうなとは思っています。
 
ただ、気持ちが舞い上がったりとか、高ぶり過ぎちゃったりとかして、空回りだけはしないように。常に戦う気持ちというのは何なのか、戦うために今までやってきたことは何なのかっていうのを考えながら。結果をどうこうというよりは、自分がどうやってスタート位置に立つか。スタートしたら、ゴールに向かってどういうふうに突き進むべきなのかっていうことだけを考えて、それをリハーサルすることですね。
 
残りの期間、それを繰り返すことが、しっかりとした結果繋がると思うんで、しっかり日々を大事に過ごしたいなと思っています」
 

長所の最大化

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公開練習で梶原と話をするクレイグ

 
トラック中距離では女子オムニアムに梶原悠未、男子オムニアムに橋本英也、女子マディソンに梶原と中村妃智が出場する予定だ。
 
東京五輪前最後の国際大会となった香港でのネイションズカップは、男女ともに出場者も少なく、明らかに優勝候補と呼ばれるような選手たちの名前はスタートリストにはなかった。それゆえに五輪を想定したレースとは言い難いものとなってしまった。それでも中距離のクレイグ・グリフィンコーチは、五輪に向けてプラスになる部分が得られたと話す。
 
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クレイグ・グリフィン中距離コーチ

 
「ネイションズカップは、もっと多くの出走者、規模を望んでいたんですが、予想よりもはるかに小さい規模のイベントとなってしまいました。ですが、私はライダーのパフォーマンスや結果だけでなく、チームとして戦えたこと自体に満足しています。ライダーだけでなく、メカニック、マッサー、コーチなどスタッフ陣も含め、私たち誰もが1年以上チームとしてレースに参加できていませんでした。私は、取り巻く環境全てがあってこそ結果に結びつくと考えているので、今回は、みんながレースの現場に戻って、再びレースのプロセスを経験できたことは非常に良かったと考えています。
 
また、オリンピックの選手村に入るときに直面するであろうコロナの検疫体制などを体験できたことは貴重でした。ネイションズカップでの結果やパフォーマンスに加えて、今回得た知識や経験は必ずやオリンピック本番で助けとなると思います」
 
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女子オムニアム、女子マディソンを走る梶原悠未

 
ネイションズカップでは3つのメダルを持ち帰った梶原は東京五輪に向け、「未来の選手である子供たちも見ている中で代表に選ばれているので、日本代表として胸を張って最高のパフォーマンスができるように準備していきたいと思います」と話した。
 
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アルカンシェルを着て公開練習に参加する梶原

 
梶原がすでに高いフィジカル、戦術、メンタルを築き上げてきていることはそのアルカンシェルのジャージで証明済みだ。クレイグに五輪本番までにさらに上乗せするのであればどこを強化したいかと聞くと、「知っているなら教えてほしい」と前置き、こう話した。
 
「(梶原)悠未の場合、弱点となる部分にフォーカスしすぎず、スピード、パワー、集団内での戦略力など彼女の強みの部分を最大化することを考えていて、彼女の能力をさらに高められるよう、レースを想定するトレーニングを意識しています。
 
彼女が世界選手権を勝った理由は、誰よりも速いからだと思っています。だからこそ、これまで彼女が勝つために得たことを続けていくつもりです。それによって、弱点となる可能性のある領域を最小限に抑えられ、うまくいけば、昨年よりも速くなるんじゃないかと思っています」
 
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女子マディソンに出場する中村妃智

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この1年で底上げを図ってきたと話す中村

 
今回の五輪では大きなフォーカスは置かれていないものの、梶原とともに女子マディソンに出場する中村も延期が決まってからの1年、ベースの底上げができるよう取り組んできた。自国開催での五輪という特別な舞台に向けて、意気込みを語る。
 
「小さい頃からテレビの中で見てきたオリンピックという舞台に自分が挑戦できるということにとても感謝しています。やっぱりオリンピックの4年に一度というタイミングで挑戦できることもすごく奇跡に近いと思いますし、それがまた自国開催というのは、もう自分の人生ではなかったかもしれないことなので、このチャンスをしっかり次に繋げていけるように、自分の中でも今後の未来や、自転車競技の普及というところにも、自分の活躍で少しでも力になれたらという風に思っています。オリンピックではメダルの獲得を目指して頑張っています」
 

自転車の魅力を伝える絶好の機会

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世界選レース前の橋本

 
オムニアムという競技は、勝負の行方がレース展開によって大きく左右され、単純に実力どおりに結果が出ないことも多い。男子は特にその色合いが濃い。クレイグは橋本が狙えるであろうポジションを想定する。
 
「男子オムニアムはレース展開が難しく順位も変わりやすいので、どんなことも起こり得る予想がつきにくいレースです。もちろん(橋本)英也がメダルを取れる可能性はあると思っていますし、近づいて欲しいという思いもあります。トップ5に入ることはできると思っています」
 
トラック競技 東京五輪目前

男子マディソンを走る橋本英也

 
リオ五輪のときは代表選考に漏れ、煮え切らない悔しい思いを抱えた橋本だったが、東京五輪では代表内定候補に選ばれたものの今度は延期という異例の事態。一時はモチベーションを落としたが、そこで改めて自転車の楽しさを見出した。
 
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公開練習でタイムを計測する橋本

 
橋本は、「自転車やサイクリングの楽しさを多くの人に伝えたい」という理念を持ち、それを自らが体現する。勝負どころで見せる楽しくてたまらないという表情がまさにそれを物語っているように思う。
 
オリンピックという自転車競技に興味がない人でも情報が耳に入ってくるような大会で結果を残すことこそが自転車を広める一つの手段だと橋本は考える。
 
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公開練習では後ろを置き去りにして最終周回を終えた

 
日本国内やアジアでは戦術やスピード、持久力ともに抜きん出ている橋本だが、やはりヨーロッパやトラック先進国と言えるような国々のハードルは高い。昨年の世界選手権では、トップ争いのスピードの違い、アグレッシブさに敵わなかった。
 
それでもレース後には、「なんかいいですよね…..ワクワクしてます。勝てない相手じゃないと思うんです」と不敵な笑みを浮かべた。
 
ロードレースでいうならば、ワールドツアーを主戦場とするオムニアム世界チャンピオンのベンジャミン・トマやエリア・ヴィヴィアーニ、ロジャー・クルーゲなどとは戦う舞台は全く異なる。されどもトラックの上での個人戦で何が起こるかは分からない。だからこそ、橋本が起こす”波乱”を期待したい。