【東京五輪男子ロードレース詳報】カラパスが金、ユキヤ「僕の今の位置がここだ」

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東京2020男子ロード

@BettiniPhoto2021

東京五輪の自転車ロードレース男子は東京・調布市の武蔵野の森公園をスタートし、富士スピードウェイにフィニッシュする234kmで争われた。エントリーは130人、直前になってシモン・ゲシュケ(ドイツ)ら2人が新型コロナウイルス陽性となり、128人のスタートとなった。

日本代表は新城幸也と増田成幸。ユキヤはオージーケーカブトのエアロR1、増田は同社イザナギのいずれも日本代表スペシャルデザインを被ってスタートした。

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東京・調布市の武蔵野の森公園をスタート @BettiniPhoto2021

 

海外のトップ選手が日本を駆け抜ける

Tokyo 2020 Olympic Games東京五輪男子ロードレース

府中大國魂神社の参道をプロトンが通過する貴重なショット Photo by PA Images/AFLO)

 

府中市の大國魂神社の参道を自転車だけが通り抜ける厳かなパレードは多摩川にかかる是政橋でリアルスタートとなり、すぐに8人の逃げが形成された。メンバーはユライ・サガン(スロバキア)、オールイス・アウラール(ベネズエラ)、ニコラス・ドラミニ(南アフリカ)、ミハエル・ククルレ(チェコ)、エドゥアルド・グロス(ルーマニア)、ポリフロニス・ゾルザキス(ギリシャ)、エルチン・アサドフ(アゼルバイジャン)、ワン・ルイドン(中国)。

プロトンはこの逃げを容認し、タイム差はあっという間に8分台となった。前回のリオ五輪の覇者、グレッグ・ヴァンアーヴェルマート(ベルギー)が先頭に出てプロトンをコントロールし、多摩市から相模原市にかけての市街地を背景に走る光景がネットで中継されると、新鮮な映像にモニターを見つめるファンのツイートが盛り上がった。

 

Tokyo 2020 Olympic Games東京五輪男子ロードレース

リオ五輪の金メダリストであるベルギー代表グレッグ・ヴァンアーヴェルマートが献身的に集団先頭を引く photo:Tim de Waele

 

最初の1時間の平均時速は41km。各選手は補給を頻繁に行い、暑さ対策に重点を置いているようだ。観戦は自粛するようにとのお達しが出て、映像はネット中継されていたものの、沿道にはたまたま通りがかった(のかもしれない)人たちがプロトンと随行車両の長い列を見守った。ツール・ド・フランスを彷彿とさせる空撮にはネット上で「わたしたちの日本、いつもより美しく見えないか?」のキャッチが付けられた。

道志みちを進む逃げ集団はアサドフが遅れて7人となったが、山伏峠を前にタイム差は20分まで広がった。プロトンからはトリスタン・デ・ランゲ(ナミビア)が単独で前を追ったが、これはちょっと無理な動きだ。20分はさすがにマズイと思ったのか、ヤン・トラトニク(スロベニア)とヴァンアーヴェルマートが先頭に出てペースアップを図る。80km地点(残り154km)の山伏峠通過時点で逃げは5名に減る。プロトンは17分後方となった。

 

集団内に漂う雰囲気「勝負は三国峠」

山中湖畔では待望の富士山は望めず、路面は一部濡れていた。籠坂峠を越えてプロトンは一定ペースで富士山に進み、その上りで逃げ集団を吸収する目論みなのかもしれない。多くの選手は暑さと湿度の対策に腐心しており、プリモシュ・ログリッチ(スロベニア)が経口補水液のOS-1をがぶ飲みするシーンが中継映像に映った。ユキヤによれば道志みちあたりで早くも「ほとんど全員が三国での勝負を待っている」と察知したという。

逃げの5人が南富士エバーグリーンラインの上りにかかった時点でタイム差はまだ13分。11kmで700mほど上るこの上りでどこまでタイム差が詰まるか、プロトンはトラトニクがジャージの胸をはだけて先頭を牽いている。ペースが上がり、プロトン後方のテレビカメラモトの映像に新城幸也と増田成幸が映る。まず増田が遅れてしまう。

 

Tokyo 2020 Olympic Games東京五輪男子ロードレース

ヤン・トラトニクの引きで富士山を上るメイン集団 photo:Tim de Waele

 

富士山麓の頂上まで残り3km、先頭にはイタリアチームが出てペースが上がる。テンポで脚を回して耐えていたユキヤだが、徐々に前との差が開いてしまう。富士スピードウェイのモニターを見つめる大観衆から拍手が起きる。大声を出せない観戦会場での拍手に不思議な気持ちになる。アレハンドロ・バルベルデ(スペイン)も遅れていく。

逃げとのタイム差は5分台にまで縮まって、139km地点(残り95km)、水ヶ塚公園のT字路を右折、下り区間に入った。ユキヤが記録したこの下りの最高時速は102km。スーパーダウンヒルでプロトンに復帰したユキヤは、プロトンとともに富士スピードウェイに向けて進んだ。

富士スピードウェイに入ってきた逃げの5人とプロトンとのタイム差は3分30秒。集団の前方は活性化し、各国が三国峠の上りにかかる前に先手を打っていく。ジロ2位のダミアーノ・カルーゾ(イタリア)らがアタックを繰り返す。レムコ・エヴェネプール(ベルギー)とヴィンチェンツォ・ニバリ(イタリア)、エディ・ダンバー(アイルランド)が少し集団を離したが、吸収された。

スピードウェイの外周を回って再度、サーキットのピットレーンを通過していく頃には、3人となっていた逃げは吸収され、イギリス、オランダ、そしてイタリアチームがイニシアチブを獲って一列棒状だ。日本代表の2人はこの大集団に残っている、スゴイ! フィニッシュライン通過の時点で189km(残り45km)、プロトンは決戦の地、三国峠へと突き進んだ。

三国峠の上りは序盤の勾配が緩いあたりからアタックの応酬となる。中継映像にユキヤが映る。スピードウェイのモニターを注視する全観衆がこぶしを握るのがわかる。アナウンスするサッシャさんの声にもさらに力が入る。ベルギー勢がウァウト・ヴァンアールトのためにハイペースをキープする。先頭集団は一気に26人ほどに絞り込まれていく。

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ツールの覇者ポガチャルが自ら仕掛ける

アタックしていったのは6日前にツールドフランスの表彰台の中央に立ったばかりのタディ・ポガチャル(スロベニア)だ。勾配が変化するポイントでするすると前に出ていく。ブランドン・マックナルティ(アメリカ)、マイケル・ウッズ(カナダ)がついていく。タイム差は20秒ほど。ドーナツ状の滑り止め舗装が施された、ここが最も勾配のきつい区間だ。しかし後続のリゴベルト・ウラン(コロンビア)、ミハウ・クフィアトコフスキー(ポーランド)らもこれを逃がすことはなく、差は19秒、9秒と縮まっていく。

 

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勝負所の三国峠でポガチャルが仕掛け、それを各国のエースが追随する。後方に優勝したカラパスの姿もある photo:Tim de Waele/AFLO

 

明神峠までの急勾配を終え、三国峠までは尾根の脇をいくアップダウンの区間だ。先頭の3人には8人が追いつき、11人の集団が形成された。おそらくこれがメダル争いのメンバーだ。三国峠でチームスタッフが補給を渡す。さらにここから山中湖への下りで2人が追いつき、13人の集団になった。

メンバーはポガチャル、アルベルト・ベッティオール(イタリア)、ウラン、クフィアトコフスキー、ウッズ、リチャル・カラパス(エクアドル)、マックナルティ、ヤコブ・フルサン(デンマーク)、マクシミリアン・シャッハマン(ドイツ)、アダム・イェーツ(イギリス)、ヴァンアールト、ダヴィド・ゴデュ(フランス)、バウケ・モレマ(オランダ)だ。

山中湖を時計回りに回って再び籠坂峠へ。フルサンらが先頭集団内のお見合いを狙って積極的に仕掛けるが決まらない。旭ヶ丘の交差点を曲がって籠坂峠へ上る地点は指定の補給地点だがこの直前、ラスト25kmでマックナルティがアタック! この距離を残しての動きにツール総合3位のカラパスが反応、2人の逃げが15秒、24秒と差を開いていく。フィニッシュを待つ富士スピードウェイの観衆は大歓声こそ出せないが「すげえ」「鳥肌立つ」とどよめいた。

追走の11人は組織だって追うことができず、タイム差はじわりと広がった。先頭交代はしているものの、スプリントの脚を残そうとしているのだろうか。籠坂峠を上りきり、カラパスとマックナルティがラスト20km看板を通過。タイム差は27秒から36秒へと開いていく。

追走は捨て身でヴァンアールトが牽いてラスト8kmの時点でタイム差13秒まで詰めたが、そこまでだった。先頭2人は富士スピードウェイの西ゲートを入った。

 

エクアドル史上、二つ目の金メダル

そしてカラパスはラスト5.9km、なんとマックナルティを切り捨てるアタックを敢行。カラパスは脚を残していたのだ! 追走のメンバーは直線の先に捉えた獲物、マックナルティに襲いかかる。マックナルティは追走にあっさり追い着かれたが、そのとき逆にカラパスと追走の差は31秒に広がっていた。

ラスト3kmで33秒差を追いつくのは難しい。ヴァンアールトやモレマが牽引し、イエーツもこれに同調するが、タイム差は徐々に広がってしまう。カラパスを直線の前方に捉えることができなくなって、目標は銀、銅メダルに変更せざるを得なかった。

カラパスは独走で富士スピードウェイのホームストレートを駆け抜けた。エクアドル史上2個目の金メダルだ。追走に残った8人は表彰台を賭けたゴールスプリントを迎え、カラパスから1分7秒後、ヴァンアールトがポガチャルとハンドルを投げ合って銀、銅メダルを手に入れた。平均時速38.4km、このコースでこの速度、これが世界のレベルなのだ。

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エクアドルのカラパスが東京五輪で金メダルを獲得した @BettiniPhoto2021

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僅差の2位争いとなったポガチャルとヴァンアールト @BettiniPhoto2021

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東京五輪・男子ロードレース表彰台 @BettiniPhoto2021

表彰台のあとの記者会見でカラパスは「エクアドル史上2個目の金メダルは、間違いでなければ24年ぶりのものだ(1996年アトランタ五輪で競歩の選手が金メダル)。我が国の多くの人々が楽しむこの自転車競技の歴史のなかで初めてのことで、特別なことだ。上りのスピードはとても速く、その後多くのアタックがあった。僕はセレクションが行われるのを耐え、アタックの瞬間を待った。マックナルティは逃げるには最適の相棒で、20秒の差がついたことを知ったとき、メダルが目の前にあることに気づき、全財産を賭けた。サーキットに入ったとき、僕は純粋に続けていたが、彼は失速したんだ。後ろにはたくさんの強い選手がいたので安心することはできなかったが、最終的には僕は調子がよかった」と話した。

ユキヤはバルベルデやデュムランと同じ10分12秒遅れの集団で無事フィニッシュ、35位でUCIポイントを獲得した。増田成幸は19分50秒遅れの最後から2人目の完走者となったが、みごと84位で完走してみせた。

 

新城「今の僕の位置がここだ」、増田「絞り出すようにしてフィニッシュした」

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新城は35位でフィニッシュし、UCIポイントを獲得した @BettiniPhoto2021

ユキヤは「富士山で遅れたのはラスト1kmで、あれは確実に戻ることができる。下りなら、僕は誰よりも速いです。無事に集団に追いついて、三国峠の上りは20番手くらいで入った。大きく左に曲がるところくらいまではと思ったけれど、離されてしまった。でも、これ以上の何ができたとも思えないくらいのベストな結果。僕の今の位置がここだということです。最後のスプリントは、『お前は大丈夫(スプリントしていい)』と言われてやったけれど、前の2人は知らない選手だった」と話してくれた。

増田はツイッターで「母国開催の特別なオリンピック。自分にとっては一生に一度。絞り出すようにしてフィニッシュしたら、もう搾りかすのようなカラッカラの状態。(でも)辞めずにゴールを目指しました。オリンピックだから」とつぶやいている。

 

Tokyo 2020 Olympic Games東京五輪男子ロードレース

増田成幸、全てを出し切った Photo:Shutaro Mochizuki/AFLO

 

東京五輪男子ロードレース結果

1位リチャル・カラパス(エクアドル) 6:05:26
2位ウァウト・ヴァンアールト(ベルギー) +1:07
3位タディ・ポガチャル(スロベニア) +1:07
4位バウケ・モレマ(オランダ) +1:07
5位マイケル・ウッズ(アメリカ) +1:07
6位ブランドン・マックナティ(アメリカ) +1:07
7位ダヴィド・ゴデュ(フランス) +1:07
8位リゴベルト・ウラン(コロンビア) +1:07
9位アダム・イェーツ(イギリス) +1:07
10位マクシミリアン・シャッハマン(ドイツ) +1:21

35位新城幸也 +10:12
84位増田成幸 +19:50

 

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