新型デュラエースR9200登場! 新型アルテグラR8100も同時発表
目次
フルモデルチェンジが噂されていたシマノ・デュラエースが、ついにそのベールを脱いだ。ロードレーシングコンポとして通算10代目となるR9200系デュラエースは、リヤ12段変速、セミワイヤレス電動変速などの新機能を軸にして、さらなる進化を果たした。そして驚くことに今回は、R8100系となる新型アルテグラも発表された。
シマノ・デュラエースR9200シリーズの特徴
5年振りのフルモデルチェンジを果たした、ロードレーシングコンポの絶対的存在シマノ・デュラエース。製品番号は従来から100番進んだR9200系となり、その開発テーマに「サイエンス・オブ・スピード」を掲げ、以下の5つのキーワードから性能が構築された。
●イボルブド・ニュープラットフォーム
進化した新しいDI2プラットフォーム
●リファイン・インターフェイス
洗練されたインターフェース
●モスト・アドバンスド・ドライブトレイン
最先端のドライブトレイン
●エンハンス・ブレーキシステム
ブレーキシステムの強化
●リファインド・ホイールシステム
ホイールシステムの再定義
今回のモデルチェンジについて事前にいろいろな臆測が飛び交っていたが、ドライブトレインはリヤ12段×フロント2段となり、DI2についてはワイヤレス方式へと進化を果たした。同時に50年近く続いたデュラエースの機械式変速がついに姿を消すことになった。
そのワイヤレスDI2は、シートチューブ(ポスト)にバッテリーを内蔵してエレクトリックコードで前後ディレーラーを接続。デュアルコントロールレバーとリヤディレーラーが無線通信するというシステムだ。
今回シマノでは新型DI2の設計にあたり、電波干渉が起こりにくく、従来よりも4倍速い処理速度と消費電力を75%削減したスペックを持つ独自のICチップを開発。前後ディレーラーのバッテリーを有線式にしたのは、これまで以上に速く、正確な変速性能を目指すためだ。
そして、カセットスプロケットの歯先形状などを新設計した「HYPERGLIDE+(ハイパーグライドプラス)」を組み合わせることで、前後の変速スピードを大幅に削減(フロント45%/リヤ58%減)するとともに、ショックの少ない滑らかで正確な変速を実現するに至った。
新型デュラエースの進化はこうしたドライブトレインの刷新だけはない。エアロポジションを確保しやすいブラケット形状と変速レバーへのアクセス性を高めたデュアルコントロールレバー、コントロール性能と軽量化が進んだブレーキ、完全な新設計によって3つのリムハイトが展開されるホイールラインナップなど、ロードレーシングコンポの王者として、その名に恥じない機能と性能が追求されている。以下からは個々の製品について詳しく見ることにしよう。
シマノ・デュラエースR9200シリーズの細部をチェック
デュアルコントロールレバー
セミワイヤレスの電動変速のためにデュアルコントールレバーのブラケットは新たにボタン電池とICチップが内蔵されている。それもあってブラケットは従来よりも全体的に大型化している。同時にライダーが走行時に最も握る部分がレバーブラケットであることから、シマノではその握りやすさを追求して形状を一新。ブラケットの根元側は中指、薬指、小指でしっかり握れるようになり、ホールド性が大きく向上している。ちなみにブラケットで最も細い部分の周長は、ST-R9170と同等なので握りを余すこともないという。
近年デュアルコントロールレバーを内向きに固定してエアロポジションをとるプロ選手も見られるようになったが、そうした要求にもしっかりと対応している。ブラケットは前端に向かって内側へ入るようにデザインされており、また大型化した先端部は握りやすい形状とした。これによりブラケットを持ってもしっかりとエアロポジションをとれるようになっている。
一方、シフトスイッチはブレーキレバーに対してのオフセット量を従来から1.5mm増やし、解除側のスイッチ(レバー手前側)はその長さを5.1mm延長してアクセス性を高めている。さらにスイッチを押す感触も、速く滑らかになった変速性能にマッチするよう、クリック感を若干強めているという。
ディスクブレーキを制御する内部構造については、レバーブラケット先端が大きくなっているため、グラベルコンポのGRXで好評のハイピボット設計を用いたかに思えるが、前作ST-R9170の基本設計を踏襲。GRXの構造ではロードディスクには制動の立ち上がりが速すぎるため、ST-R9170をベースにピストンを早送りできる構造を新たに仕込み、コントロール性が高められている。
クランクセット&カセットスプロケット
新型デュラエースの大きな性能トピックは、より速く・滑らかになったという変速だ。その実現にはワイヤレスで高速化したディレーラーの動きも自体そうだが、新設計となる「HYPERGLIDE+」のカセットスプロケット、さらにはチェーンとチェーンホイール(クランクセット)の存在が不可欠になる。
チェーンホイールはシャープさを際立たせた新デザインだが、中空構造のクランク(ホローテックⅡ)とチェーンリング(ホローグライド)の基本構造は前作同様。BB軸はスチール製の24mm径を貫く。チェーンリングについてはスパイクピンの数こそ同じだが、細部形状とギヤの歯先形状をリファインしている。歯組構成はプロ選手の使用を想定したビッグギヤの54×40Tが新たに加わった。
カセットスプロケットはワイドレシオになり11-30Tと11-34Tの2種類を用意。11-30Tについては、ミドルギヤに15-16-17Tのクロスレシオを配置してレースシーンで使用頻度の高いギヤに最適化した歯組構成としている。このワイドレシオを速くスムーズに変速させるためのHYPERGLIDE+は、各ギヤに刻まれる変速ゲートの形と歯先の形状が、新たにロード用の12段変速に最適化されている。
こうしたドライブトレインの設計によりR9200の変速スピードは、従来よりもフロントが45%減(0.2秒以内)、リヤは58%減(0.1秒以内)という驚異的な進化を遂げた。もちろん速さだけでなく、変速の滑らかさやショックの低減も大きく向上しており、オートマチック変速のシンクロシフト、セミシンクロシフトに設定にした場合でも、旧型と比べて格段に違和感の少ないシフトフィーリングを実現しているという。
リヤディレーラー
リヤディレーラー最大の特徴は、有線タイプのDI2であった電動変速を制御するパーツ、ジャンクションAが組み込まれ、デュアルコントロールレバーと無線通信によって結ばれ変速することだ。従ってこれまでバッテリーへの充電プラグ、変速調整や変速モード(ノーマル/シンクロ/セミシンクロ)の切り替えボタン、残電源などを示すLEDなどが搭載されている。充電についてはモーターユニットのあるリヤディレーラー後部から行い、充電コードはパワーメーターと共用となる。
ディレーラーとしての基本構造はR9100シリーズから投入されたシャドータイプを引き続き採用。電動変速ユニットはモーター自体を新たにし、その配置を変えることでリンクプレートを直接押すことのできる設計となり、これにより作動の速さを獲得している。
11-34Tというワイドレシオのカセットスプロケットに対応するためにプリーケージはロング化された。従来モデルに比べて大きく立体的になったアクターリンクプレートの形状も、ワイドレシオ化に対応して剛性を高めるための仕様と言えるだろう。ちなみにビックプーリーについては回転効率の良さはあるものの、変速スピードの向上を阻害する要素があるため採用せず、R9200シリーズでは上下とも11Tのプーリーとしている。
フロントディレーラー
フロントディレーラーは一目でブラケット部分が小型になったことが分かる。前作に比較し33%小さくなり、重量は96gとなって大幅な軽量化を達成している。
小型化と高速なフロント変速を生み出すために内部構造は一新された。小型化されたモーターはより高出力になっており、その置き方自体も変えられている。さらに従来モデルではトグル構造でリンクプレートを動かしていたが、新型ではパーツを介さずモーターが直接リンクプレートを押す構造だ。モーター自体の出力アップもあるが、モーターとリンクプレートの間に介在するパーツが省かれたによって動きのタイムラグがなくなり、その結果として従来よりも大幅に高速化したフロント変速を提供することを可能にした。
ブレーキ
ディスクキャリパーは軽量化を求めつつ必要な剛性を得るためにキャリパーボディを一新。従来型は2ピースだったが、新型ではボディ自体を小型化するとともにワンピースタイプのモノボディを採用している。同時にブリーディング用のブリードボスとネジが別体となり、フレームにキャリパーを付けた状態での作業性が大きく向上しているという。
その内部構造は対抗2ピストンを引き継ぐが、セラミック製のピストンが軽さと断熱性により優れるレジン製に置き換えられ、アップデートが行われている。
制動性能については絶対的な制動力(タイヤがロックして滑っている領域)の領域を抑えて、コントロール性を高める特性を伸ばすセッティングに。具体的にはサーボウェーブ構造のレバー比が変えられており、パッドがローターを捉える感触が良くなり、スピードコントロールをよりリニアに行えるという。ちなみにレバー比が異なるため従来のR9100系との互換性はない。
ディスクブレーキの問題として挙げられているローターの熱変形によるパッドとの接触については、従来よりも10%広いパッドクリアランスを確保することで対策が講じられた。さらにディスクローターは既存のSM-RT900だけでなく、既にMTBコンポに用意されていたRT-MT900をスペックイン。SM-RT900に対して熱変形を最大66%抑えることが可能になり、パッドクリアランスの向上と相まってローターとパッドの接触を低減することができるという。ローター径は160mmと140mmの2種類。
チェーン
R9200の専用品となるカセットスプロケットに組み合わせるチェーンは、既に12段変速のMTBコンポXTRに使用されているCN-M9100。フッ素によってコーティングするシルテック加工を、アウターリンクプレートとローラー部に施して滑らかなチェーンの動きを実現し、クロマイジング加工されたインナーリンクプレートが耐摩耗性を高める。チェーンの着脱はクイックリンクで行なう。
エレクトリックコード&バッテリー
前後のディレーラーとバッテリーを繋げるエレクトリックコードのEW-SD300は第3世代となり、よりスリムかつ軽量になった。チューブ外径は従来のEW-SD50が2.6mmなのに対して2.3mmにサイズダウン。もちろんカプラー部の直径も5.0mmから3.4mmとなり、フレームに開けられる穴の小型化、コード自体の収納性も向上している。ちなみに従来型のエレクトリックコードと新型を接続できる変換アダプターのEW-AD305も用意される。
バッテリーは基本形状と電力スペックは従来の内装型(BT-DN110A)と同様だが、新型のエレクトリックケーブルに対応したBT-DN300にアップデート。また、エレクトリックケーブルのポートも、1つから3つに増設されている。
コンポーネント一覧表
※新型のR9200シリーズについてはクランクセット/52-36T(170mm)、カセットスプロケット/11-30T、ブレーキローター/F:160mm、R:140mmを例に記載し、旧型のR9100シリーズについてはDI2/ハイドローリックディスクブレーキ/内蔵バッテリー/内装式ジャンクションA仕様で、同じクランクセット・ブレーキローターの組み合わせを例に記載しています。
ホイール
ホイールラインナップはリムハイトの異なる3モデル。上りに特化した36㎜の「C36」、オールラウンドな50㎜の「C50」、そして高速コースに適した60㎜の「C60」という内訳だ。
カーボン製のエアロリムは内幅21mm、外幅28mmという最新設計のワイドタイプ。その重量は未公表だが、シマノいわく「かなり攻めた」とのことで相当に軽い仕上がりのようだ。リムに合わせるハブも新設計で軽さを意識した作りとなり、ホイール全体としての軽量化が追求されている。
スポークパターンはC36とC50では前輪の左右が1:1となる設計だが、C60のみ駆動剛性を高めるために1:2となる。同時にC60はハブも専用品。スポーク太さもC36とC50が1.5mmであるの対してC60は1.8mmで、これも駆動剛性アップに貢献するものだ。
フリーハブは「ダイレクトエンゲージメント」と呼ばれる内部構造を新たに搭載。これはMTBコンポのXTRと同様のフェイスラチ
こうして新たになったホイール群だが、注目すべきはその重量。ディスクブレーキ仕様のWH-R9270-C36-TLの重量は1350gで、これはWH-R9170-C40-TLよりも272g軽く、大幅な軽量化に成功している。また、空気抵抗についてはWH-R9270-C50-TLの場合、WH-R9170-C40-TLよりも5.1W、WH-R9170-C60-TUよりも1.0W低減。横風などに対してのコントロール性能も、WH-R9170-C40-TLと同水準に仕上げられているという。
価格は前後セット23万3530円(各モデル共通)。前作よりも7万円以上(WH-9170-C40-TLとの比較)抑えられており、価格面でもライバルメーカーとの競争力を大幅に高めている。
パワーメーター
R9100シリーズでラインナップに加えられたパワーメーターだが、今作ではチェーンホイールがアップデートした以外は、左右クランクでのパワー計測など基本構造は従来どおりだ。しかしながら計測精度は従来の±2.0%から±1.5%へとアップデートして、より正確なパワー計測を可能にしている。このパワーメーターによる今後の発展的機能が期待されるところだ。
リムブレーキ仕様もラインナップ
リムブレーキ仕様は有線式のDI2となる。デュアルコントロールレバーはブラケットフードが変更され、新たなE-TUBEに対応
ホイールラインナップはディスクブレーキ仕様と同じく3つのリムハイトをそろえるが、対応するタイヤはチューブラーのみとなる。リムブレーキシステムの利点である軽さを生かすためだろう。WH-R9200-C36HR-TUは前後セットで1286gという軽さに仕上げられている。
デュラエースR9200シリーズをインプレッション
R9200シリーズのプレゼンテーションを聞き終えてことさらの驚きはなかった。確かに12段のワイヤレスは良いだろうし、格段に速くなったという変速性能もさすがシマノだと思わせる。でも、あっと驚くような機構や構造はなく、ある程度想定内のモデルチェンジに思えた。そしてルックスもドラステックな変化を感じない。正直なところ今使っているR9170のコンポに十分満足している筆者としては、一目惚れすることはなかった。
日を改め奥武蔵の山々を100km以上走ってみると、やっぱりR9200の性能には驚かされる。変速はふれこみどおり驚くほど速く滑らかで、スプロケットをなめるかのようにチェーンがロー側へと移動して行く。フロント側に至っては、インナーからアウターに上がる瞬間、チェーンは滑ることもなく瞬時に正確にギヤとかみ合う。前後ともに変速時に脚にかかるショックは圧倒的に低減されており、もはや“脚の力を抜く”(特にリヤ)という変速テクニックは過去のものかもしれない。
舌を巻くほど優れた変速性能自体もそうだが、評価したいのはシフト操作を含めた変速フィーリングの気持ち良さ。恐らく短縮された変速スピードとシフトスイッチを押す両者の時間がよりシンクロするようになったのだろう。シマノがそこを目指したか否かは分からないが、単にチェーンが歯を移動するという性能だけでなく、総合的に変速という作業の気持ち良さを実現してきたのは、これまでのDI2にはなかった点だろう。
ブレーキ性能については狙いどおりコントロール性が圧倒的に上がっている。レバーを握り込んでも、そこから握りしろがあるような印象で安心感に優れ制動をコントロールしやすい。基本構造は大きく変えていないのに味付けを見直しただけで、ここまで性能が良くなるとは、ロード用ディスクブレーキの解釈がシマノで進んでいることの現れと言えよう。
さらに驚かされたのがホイールだ。チューブレス仕様の全ハイトを試乗したが、走りの軽快さ、力強いトルク感など全体のバランスに優れている。しかも感心させられるのは、変速やブレーキが持つシャープで滑らかな性能にホイールの走りがとてもマッチしているのだ。これまでのデュラエースのホイールといえば、どこかコンポに見合わない部分があって魅力は薄かったのだが、R9200シリーズを使うのなら、コンポからホイールまでトータルで取り入れるのが面白そうだ。
冒頭にも記したようにR9200シリーズは、個人的にスペックや機能に驚くようなものはなかったが、その性能に疑うべき点は何一つない。しかも単に性能だけでなく、変速の気持ち良さをはじめ、これまでのデュラエースには希薄だったライダーのフィールに訴えかける要素があると感じた。試乗の前はときめかなかったのだが、疲れた脚をクールダウンさせながら金策を考えている自分がいた。
アルテグラR8100シリーズも発表
アルテグラの発表はデュラエースの翌年というのがシマノの慣例だったが、今回は同時に行われた。それ自体も驚きなのだが、さらに衝撃的なのは機械式変速が消えDI2のラインナップのみとなったことだろう。
基本となる構造や機能はデュラエースに準ずるものでワイヤレス変速を採用。速く滑らかになった変速、コントロール性が増したブレーキシステム、握りやすくなったデュアルコントロールレバーなど、デュラエースの特徴がしっかりと反映されている。
さらにパワーメーター付きクランクも投入され、カーボンホイールもデュラエース同様のリム高をそろえるなど、ラインナップはより強固なものになった。素材や細部の形状が異なり上位モデルと差別化が図られているとはいえ、プライスパフォーマンスは圧倒的であり、多くのロードバイカーにとって実利に富んで魅力的なコンポだ。
※詳細な情報を得られ次第、より詳しい記事を後日公開予定。
速報動画もチェック
シマノ開発スタッフが解説「DURA-ACE R9200シリーズ 発表記念生配信トークライブ@シマノスクエア」
シマノ公式インプレッション動画も公開中
シマノは日本国内向けの公式YouTubeチャンネル「SHIMANO Bicycle」を開設するとともに、国内プロ選手と主要メディアジャーナリスト陣によるデュラエースR9200シリーズのインプレッション動画を公開している。本記事を執筆する自転車ジャーナリストの吉本司さんがCycle Sportsのジャーナリストとして出演しているので、こちらもぜひチェックしてみよう。