2021年ツール・ド・ラヴニール 日本アンダー23代表をどう評価すべきか 後編

目次

ツール・ド・ラヴニール2021

photo:jeep.vidon

8月13日〜22日の10日間で争われたツール・ド・ラヴニール2021年大会に、U23日本代表は6人出場し、完走は1人。新型コロナウイルスと東京五輪の渦の中で、ほぼ2年間ぶりとなったヨーロッパ遠征を、振り返り、考える。

前編はこちら

なにもせずに負けるか、なにかをやって負けるか

体力強化でラヴニールに乗り込んだU23日本代表の選手たちは、現地でただぼんやりと落車に巻き込まれたわけではない。監督の浅田は、高い成績目標の他に、試みるべき課題も出していた。それが「位置取り」だった。

「集団の後ろでひらひらしていても、なにも得るものはありません。日本で技術的なトレーニングができなかったからこそ、今大会では、位置取りを心がけさせました。チームみんなで動いて位置取りをしよう、と」

選手たちは「プロトンが怖かった」(平井)、「正直ビビりました」(小出)と素直な反応を示した。それでもスプリントに強い蠣崎や総合上位を狙う留目のために、第1ステージから日本代表は意識的に走った。本当の意味でチームとして動けたのは、第4ステージだった。同区間の集団落車でオートバイに突っ込み、左手を骨折した平井はこう振り返る。

「横風の中で、イギリスやオランダという巨躯の選手たちに挟まれつつ、ポジション争いに混ざりました。今年初めて欧州プロトンの中を走って、序盤はなかなか思い通りに割り込ませてもらえなくて、正直、怖いとも思いました。身長差を感じましたし、日本で知っているレースとはまるで違った。でも、4日目は、ほんのわずかな時間でしたが、上手くできたという実感を得たんです」

そんな最中に発生した集団落車。日本チームも4日目に3人が地面に転がり落ちた。大会5日目の朝までに全174人中24選手が大会を去ったほど、2021年ラヴニールには落車が多発した。

「皮肉な話ですが、位置取りを試みていなかったら、集団最後尾に留まって……落車しなかったのかもしれません。ただ位置取りしたからこそ、攻めたからこその落車です。技術的な面で足りなかった。もしも事前に他のレースで位置取りの練習ができていれば、回避できた落車もあったはずです。体力的にはまだまだみんな元気で、第5ステージ以降はほぼ落車がなかったからこそ、残念ですね」

ラヴニールに出る意義はあったのか

ツール・ド・ラヴニール2021

photo:jeep.vidon

「日本が、レベル不相応であることは、初めから分かっています」

幾度となく投げかけられてきたであろう問いに、日本代表監督の浅田顕はこう言い切る。2016年以降、U23日本代表はツール・ド・ラヴニールに通算4度出場しているが、ネイションズカップポイント取得による正式な出場枠を得られたのは、2017年大会の1度だけ。それでも浅田は、毎年、オーガナイザーと出場交渉を行ってきた。

「世界最高峰の中で、今の日本の位置やレベルを知るためには、年に10日くらいはこういう機会も必要だと考えています。1日限りの世界選手権だけでは分からないことも、たくさんありますからね。それに、たとえば石上(優大)は3回出場しています。1年目は途中棄権でも、自分の位置を知ることで、1年、1年、レベルを向上させていきました。そういう形に導くことができれば、ベストなんです」

この浅田の意見に頷きつつ、スタッフとして初めてラヴニールに帯同した橋川は、異なる観点からも出場の意義を説く。

「衝撃的なほどラヴニールはレベルが高い。もはや上位の選手は、実力も、走り方も、プロです。だからといって、日本の選手たちだって、自分たちに可能な限りの素晴らしい走りをした。タイムトライアルでは、脚力勝負だけなら、悪くない走りができるところも示した。特にアンダー1年目の留目は、たった4日半の走りでも、この先、2年目、3年目、4年目……と成長していってくれるだろうとの期待を抱かせてくれました。だから日本が今すぐラヴニールのレベルにないからといって、出場権を自分から手放すべきではないと思うんです。来年、いや、もしかしたら5年後かもしれないですけれど、有望な日本選手が育ってきた時のために、そんな彼らに最高峰の舞台を用意してあげるために、今の僕らにはラヴニール出場権を守り続ける義務があるんです」

実際にレースを走った選手たちの口からは、時には弱音や不平も聞こえてきた。それでも、大きなフラストレーションを抱えると共に、各々がなにかを感じ取り、なにかを持ち帰った。

「僕らが後ろ向きな言葉を吐いたのだとしたら、それは、この結果が悔しくて腹立たしくてたまらないからなんです。だって僕にとっては『空白の10日間』でしたから。でも同世代の世界のトップがどんな走りをするのか、宿泊先でどんな風に過ごしているのかを、自分の目で見ることができたのは収穫でした。もちろん成績に関しても、自分がこの先も走り続けていくための、具体的で直接的な『指標』ができました」(蠣崎)

「僕は大学3年生で、進路を悩む時期に差し掛かってました。だから、ラヴニールでぼろぼろだったら選手をやめよう、そんな思いで大会に来たんです。で、実際にぼろぼろでしたし、落車でリタイアもしてしまった。でも、自分の『伸びしろ』も発見してしまった。日本で先輩たちから聞かされてきた本物のヨーロッパのレースを、こうして知ることで、もっともっと走りたいと感じてしまいました」(平井)

「合宿で調子が上がっていたので、その調子を試す間もなく終わってしまったのは残念でした。ただ初めてラヴニールに来て、レースの裏側で、選手たちの後ろで、たくさんの人が働いている姿を見ました。将来は自転車で食べていきたい。だから、こういった人たちのおかげで僕らは走っているのだ、と知ることができたのは大きかったです」(山田)

大会最終盤の難関山岳ステージ3連戦。山頂フィニッシュへたどり着くやいなや、小出樹は必ずと言っていいほど、同集団で走り終えた他国の選手に声をかけにいった。互いに拳を合わせたり、肩を組んだり。「彼がずっと引いてくれたから」、「励ましの言葉をたくさんかけてくれたから」、感謝を伝えていたのだという。だからこそ、小出の完走後の第一声は、「もっと英語を勉強したい!!」だった。

世界選手権のない秋

ツール・ド・ラヴニールと、直後のスペインでのアマチュアレース2大会で、U23日本代表の2021年海外遠征はすべて終了した。世界選手権には2年連続で参戦しない。昨大会はU23カテゴリーレース自体が中止された。今大会は、日本U23代表に、正当な出場権利がなかった。

世界選手権の出場枠は、過去1年間のUCIポイントで計算される。そして日本U23選手にとって、UCIポイント収集機会は、2クラスに下げて行われたツアー・オブ・ジャパンだけだった(注:当初のUCI発表では留目のエリートアジア個人ランキングに基づき1枠と記されたが、これはツアー・オブ・ジャパンのポイントを従来の1クラスで計算したことによるミスであり、正しい集計では0枠)。

アジア選手権はもちろん、その他すべての国内UCIレースは中止された。少なくとも上位10選手にUCIポイントが付く国内選手権さえ、延期に追い込まれた。ちなみにアジアU23ランキングで5位から7位の国には、U23世界選に3枠が与えられた。その5位から7位の国が手にしたすべてのポイントは、それぞれの国内選手権によるものだった。日本は8位だった。

9月上旬、男女ジュニア以下の年代別カテゴリーで、2021年全日本選手権が開催されないことが発表された。また欧州への入境制限が再び強化された影響で、男女ジュニアの世界選手権派遣も見送られた。今はただ、10月末の男女エリート・U23の全日本選手権が無事に執り行われるよう、そして2022年は全カテゴリーの選手が国内ナンバーワンの座を競い合い、そして欧州や将来への正当なステップが踏めるよう、願ってやまない。