2021全日本選手権TT インタビュー それぞれの思惑
目次
女子エリートTT優勝、樫木の不安点
2年半ぶりの開催となる全日本選手権ロード。
初日の10月22日(金)は、朝8時から男子U23、10時から女子エリート+U23、12時半から男子エリートのTTが行われた。
場所は国内レースではお馴染みの広島県中央森林公園。しかし、TTのコースはいつもとは逆回りで設定された。
選手たちに話を聞いたなかでは、全員が逆回りは初めてと話した。それと同時に、下りの勢いのまま突っ込むと危険なコーナーがあると注意を向けていた。
女子エリート+U23では、第一出走者の樫木祥子(チームイルミネート)が各計測ポイントで全て1位のラップタイムを出し、そのまま優勝を果たした。
いつもの正回りのコースは走ったことがあるという樫木だったが、逆回りのコースの印象について、「インターバルが続く感じで、いつものTTとはちょっと雰囲気が違って、私的には良かったです」と話した。
樫木は、TTバイクではなくロードバイクにDHバーをつけた状態で出走。ものすごく迷った末の結論だった。TTバイクを乗りこなせるのであればそちらの方が絶対に速いと感じていたが、「(TTバイクで)びびって攻められないぐらいだったら、ロードバイクでいったほうが速い」と考えた。
最もネックとなったのは海外から帰国後の自粛期間だった。10月6日に南米でのレース参戦から戻った樫木の自粛期間がようやく明けたのは一昨日の20日。丸々2週間、外で練習することもできず、メインの練習はローラー台でだった。それでも「そんなにローラーは嫌いじゃない」と話す樫木は、トレーニングでの追い込みに関しては問題なく行ったが、やはり距離と時間をローラーでこなすのは難しかった。
「明日のほうが心配ですけど……」と翌日のロードレースに向けて不安をこぼした樫木だったが、「とりあえず全部出し切ります」。力強く言い放った。
女子U23TT優勝、石上が張り合う相手
女子エリート+U23で2位に入った石上夢乃(鹿屋体育大学)は、U23カテゴリーでは全日本チャンピオンジャージに袖を通した。
石上はU23での優勝には狙いを定めていたが、全体での2位は予想外だった。目標タイムの40分切りというところには届かなかったものの、予想外の順位に驚きが上回った。
TTでU23の優勝をさらった石上だったが、翌日のロードレース優勝に向けても強い意欲を示す。一つの理由として、兄・石上優大(NIPPO・プロヴァンス・PTSコンチ)が残した結果を挙げた。
「インカレが終わってから、TTよりもロードの方に力を入れていた部分があったので、ロードは確実に狙って2冠取りたいなっていうのがあって。もう一つ理由としては、兄がロードでU23を取ってるので(2018年)自分も取らなきゃいけないなっていう思いがあって。優大がU17で先にTTとロードの2冠を取って、自分はジュニアのときに2冠取っていて。それで、U23で今自分が一つ(今回のTTを)取ったんですけど、やっぱロード取らないと意味ないかなと思って。そこは取りたいなっていうのはあります。負けず嫌いなんです、兄弟の中では」と言って笑った。
兄の方は今回の全日本にこそ出場していないが、兄の戦績に負けじと密かに張り合う妹は、脚が試される明日の正回りのコースで頂点を目指す。
男子エリート、ロードレースへの布石
男子エリートカテゴリーは、第1ウェーブと第2ウェーブのふたつに分けられて全18人が出走した。第1ウェーブの第一出走者は、全日本TTで表彰台常連の佐野淳哉(レバンテフジ静岡)。多くの選手たちが出走前、今回のコースの動画をチェックしながらアップを行う入念ぶりを見せていた。
第1ウェーブで、1分前を走っていた前走者をパスしながら51分台前半のタイムを出した阿部嵩之(宇都宮ブリッツェン)の暫定1位が決まると、第2ウェーブの選手たちがスタートし始めた。
第2ウェーブの第一走者は、2019年の前回大会の王者である増田成幸(宇都宮ブリッツェン)だった。増田はいきなり中間計測地点での最速タイムを叩き出すと、その後ろを走った岡篤志(NIPPO・プロヴァンス・PTSコンチ)が1秒差に迫る。さらに岡の4分後にスタートを切った今大会で唯一ワールドチームからの参戦となる中根英登(EFエデュケーション・NIPPO)は抑えめで1周目をこなしていった。
中根の全日本選手権への参戦はじつに4年ぶり。全日本TTに至っては初参加。ロードに向けてのペース作りのためにエントリーしたTTだったが、まさにぶっつけ本番だった。新しいTTバイクは一昨日受け取ったばかり。昨日の試走が初めての練習となっていた。
チームのコーチや監督からは、ナショナル選手権に関しては特にオーダーもなく、気負わずに楽しんでこいと言われた程度で、中根自身もリラックスしていたようだった。
第2ヒートの最後から2番目の出走となった山本大喜(キナンサイクリングチーム)は、1周目は落ち着いて入ったが、2周目から3周目にかけてどんどんペースを上げていく。いつもと逆回りのコースに対して恐怖感も持ったが、しっかりと集中し切った。
「試走を何周か回ったイメージで、かなり怖いなっていう感覚があったんですけど、レース始まってスイッチが入ってしまえば、集中もしっかりできていたので、オーバーペースで突っ込んでるときもありましたけど基本的にはベストを尽くせたかなって感じでした」
山本は振り返る。
今シーズン、ジャパンサイクルリーグ(JCL)やツアー・オブ・ジャパンなどでも大きな存在感を見せる山本だが、練習量をかなり増やしたと話す。
「家族ができたりいろんな要因があって、今まで以上に頑張りたいっていう気持ちがすごく強くなったので」と、気持ちの変化を語る。
その活躍ぶりは、同じリーグを走る増田にも刺激を与えていた。最大の目標であった東京オリンピックが終わり、モチベーションを探していた増田には良いきっかけとなった。
「やっぱりオリンピックを超えるレースというのはないですし、新しく自分にモチベーションを湧き起こさせてくれるレースっていうのはなかなかないですよね。だけど、最近JCLで戦っている山本大喜選手だったりとか、小石祐馬選手、自分より若い選手たちが今年すごく成長してきているのが分かるので、敵ながらちょっとうれしい気持ちもありつつ、よし、やられっぱなしじゃいられないぞ!みたいな気持ちで、また頑張りたいなと思わせてくれたりもしてます。この時期に全日本選手権があるのもょっと不思議な気持ちですけど、今年、今シーズン最後のレースだと思って、もう1回体に鞭打って頑張りたいなという感じでした。オリンピック終わってからずっと右肩下がりでしたけど、ちょっと持ち直したかと思いますね」
コンディションは万全とは言えず、満足のいくトレーニングを積むことはできていなかったと話す増田だったが、アップダウンのインターバルのかかるこのコースは自身にとってプラスに働いたという。
「上りでしっかり踏んで、下りはそこまで踏まなくてもという感じで、オンとオフのレースだったんじゃないかなと思ってます」
また、第2ウェーブの第一走者という出走順も最初は戸惑いもあったが、逆に吹っ切ることができた。
「失うものは何もないというか、最初からプッシュして、自分のベストでいこうと思って走りました。3周で自分の出し切れるギリギリのところでいこうみたいな感じで」
結局増田は、各計測地点のラップタイムでも誰にも首位の座を破られることなくフィニッシュラインへと飛び込んだ。
1周目完了時には増田に次ぐタイムで通過した岡だったが、中盤でタイムを落とし順位を下げた。
その後ろを走った中根は、事前にチームのコーチとペーシングの話をしたが、1~2周目に提示されたペースに対して思ったよりも余裕があったと話す。
「もうちょっといけるなって。1カ月レースが空いて、(帰国してから)2週間の隔離もあったんですが、思ったよりいい感じでコンディションが戻ってきてくれたから、3周目はしっかり限界まで追い込もうと走ってました」
最終周で一気にペースを上げ、暫定3位に滑り込んだ。
一方、中根の後ろを走った小石祐馬(チーム右京)が、暫定3位を上回る好タイムで走り切ったが、終了後のバイクチェックで違反があり、降格となってしまった。
暫定4位だった中根が一つ順位を上げて、表彰台を射止めた。
「まさか表彰台に登れるとは思わなかったので。思ったより良い結果が出たから結果オーライということで」と中根は話した。
また、明後日のロードに関しては、EFエデュケーション・NIPPOのデベロップメントチームに所属する岡や織田聖をアシストに使うようなことはしないと中根は言う。
「彼らは彼らのレースをしなきゃいけないから、僕は別に、彼らはデベロップメントチームだから僕のアシストしろとかは一切言わないし。だって、若い子が勝った方がいいじゃないですか。当然そこは。そういうとこで彼らが結果出して、今僕がいるここのチームまで来られたら、すごくそれはいいことだし、やっぱそうやっていかないといけないと思うので。僕は僕のレースをするし、彼らは彼らのレースをする。
もちろん協調できるところがあれば、それはやっぱり気が知れてる特に岡は去年もチームメイトだったので、うまくやれればいいんですけど」
優勝は増田、2位には山本、3位が中根という結果となった2021年の全日本TT男子エリート。
翌10月23日は、朝8時より男子U23のロードレース、そして11時30分から女子エリート+U23のロードレースが行われる。
そして10月24日の11時からは、男子エリートのロードレースが予定されている。
個人TT 男子U23 リザルト
1位 松田祥位(エカーズ) 33分39秒57
2位 留目夕陽(中央大学) +20秒
3位 宮崎泰史(スパークル大分レーシングチーム) +29秒98
個人TT 女子エリート+U23 リザルト
1位 樫木祥子(チームイルミネート) 38分55秒30
2位 石上夢乃(鹿屋体育大学) +1分39秒21(U23優勝)
3位 石田 唯(早稲田大学) +2分16秒50
4位 米田和美(MOPS) +2分34秒88
5位 古山稀絵(日本体育大学大学院) +2分57秒69
個人TT 男子エリート リザルト
1位 増田成幸(宇都宮ブリッツェン) 49分25秒40
2位 山本大喜(キナンサイクリングチーム) +47秒37
3位 中根英登(EFエデュケーション・NIPPO) +1分0秒31
4位 岡 篤志(NIPPO・プロヴァンス・PTSコンチ) +1分34秒75
5位 阿部嵩之(宇都宮ブリッツェン) +1分47秒49
全日本パラサイクリング選手権 男子自転車競技クラス C1-3
(名前[クラス](所属))
(名前[クラス](所属))
1位 藤田征樹[MC3](藤建設) 18分50秒42
2位 川本翔大[MC2](大和産業) 19分11秒79
3位 多田尚史[MC3](ace-power Racing Team) 25分51秒87
全日本パラサイクリング選手権 男子ハンドサイクルクラス H1-3
(名前[クラス](所属))
(名前[クラス](所属))
1位 田中祥隆[MH3](アイ工務店) 31分7秒27
2位 村田成謙[MH3](ベリサーブ) 43分32秒68
全日本パラサイクリング選手権 男子トライシクルクラス T2
(名前[クラス](所属))
(名前[クラス](所属))
1位 福井万葉[MT2](バタフライ・エフェクト) 29分12秒21
全日本パラサイクリング選手権 女子自転車競技クラス C2-3
(名前[クラス](所属))
(名前[クラス](所属))
1位 杉浦佳子[WC3](VC福岡エリート) 21分37秒61
2位 藤井美穂[WC2](楽天ソシオビジネス) 26分46秒44
全日本パラサイクリング選手権 男子自転車競技クラス C5
(名前[クラス](所属))
(名前[クラス](所属))
1位 梶 鉄輝[MC5](JPF) 18分58秒02
2位 吉井常浩[MC5](大和産業) 22分1秒53
3位 沼野康仁[MC5](usplab. VC SPLENDOR) 29分13秒80