2021全日本選手権ロード 男子U23&女子 レースの内側

目次

2021全日本選手権ロード 2日目

完走者半分以下の男子U23

2021全日本選手権ロード 2日目

序盤は大きな逃げは生まれず、集団一塊の時間が続いた

2021全日本選手権ロード 2日目

河野が6周目で飛び出す

前日に引き続き行われた全日本選手権。10月23日は男子U23のロードレースと女子エリート+U23のロードレースが行われた。

気温がまだ低い朝8時、男子U23のロードレースからスタートした。序盤からアタック合戦が行われたものの、逃げらしい逃げはできずに後半に突入。10周の総距離123kmで争われ、半分に突入した頃、河野翔輝(チームブリヂストンサイクリング)が単独アタックを繰り出し、集団とのタイム差数十秒ほどを得たがそれも8周目には吸収された。

集団は人数を大きく減らしつつも、振り出しに戻ったラスト1周に今度は兒島直樹(チームブリヂストンサイクリング)が抜け出す。
集団からは同チームの山本哲央が自身の勝利のために兒島を追ったが、上りを終えた時点での兒島と山本らの追走とのタイム差は20秒。そのまま踏み切った兒島が全日本の初タイトルを獲得した。自身キャリアの中でもロードレース2勝目を手にした。

131人という大人数でスタートを切ったが、さまざまなふるいおとしにより、完走者は半分以下の56人だった。

マークされた留目

2021全日本選手権ロード 2日目

序盤から集団前方でアタックを仕掛けた留目(前から2番目)

今シーズン序盤、同じ中央森林公園のコースで行われた西日本チャレンジロードレースでは、逃げ切り勝利を収めている留目夕陽(中央大学)もマークされる対象の一人だった。留目はレース序盤から集団前方に位置し、積極的に逃げを打ったが全て吸収されてしまった。そして、兒島同様ラスト1周での抜け出しを考えたが、出し抜かれた。

夏にツール・ド・ラヴニールに出場してからレースが空き、およそ2カ月ぶりのレース参戦となった留目だったが、ラブニールが終わってからほぼ1カ月自転車に乗らなかったという。その後、10月に開催が延期された全日本のために1カ月前から練習し始め、前日でのTTでは2位という結果。「あそこまで持ってこれたんで十分かなと思います」と感触を話す。

しかし、やはりシーズンを通してのピークはだいぶ過ぎており、今回のロードに関しては「めちゃくちゃキツかったですね」と話した。しかし留目はまだU23カテゴリーに上がったばかり。チャンスは「あと3回あるんで」と自身に言い聞かせるように言った。

 

レースの展開を作った小出

2021全日本選手権ロード 2日目

逃げや追走に積極的に出た小出

今回のレースで多くの逃げや追走に出た小出樹(京都産業大学)は、スプリント勝負での勝ち目はないと踏み、自ら逃げを作ってメンバーを絞っていく形をとった。マークしていた人物として挙げたのは、留目、山本哲央、平井光介(エカーズ)。

ナショナルチームのメンバーとして、今夏に留目らと一緒にツール・ド・ラヴニールに出場した小出は日本人のなかで唯一完走を果たしていた。帰国後一度調子は下がったものの、この全日本までのコンディションの上げ方には問題はなかったと話す。

「(ラヴニールから)帰ってきて、2週間自主隔離で、ちょっと落ちちゃった感じなんですけど、また上げつつ、ここに持ってこれたので調子は別に悪くはなかったかなと思います。本当にだからもう、実力不足です。(山本など)同期に強い選手が多いので、ジャパン(ナショナルチーム)で走っていて、みんな脚も知ってるし、強いのも知ってるので、結構マークしてたんですけど、ここまで完膚なきにやられるとは思ってなかったですね」
U23最後の年となった小出はこう振り返った。

 

TT向けの脚作りを行なった松田

2021全日本選手権ロード 2日目

前日のTTで勝利し、ロードはDNFとなった松田

前日のTTで優勝した松田祥位(エカーズ)は、ロードレースでは途中でバイクを降りた。もともと、全日本トラックに向けて練習を再開していた松田は、このロードTTにも出ることが決まり、突貫でTTに特化した練習をすることになったという。そのため、長距離のロードレースのための脚は作れておらず、DNFとなった。

そもそも松田はヨーロッパで活動をしていたが、コロナの影響でレースもなくなり、外にも出られず、ローラーばかりの時期が続いた。久しぶりにレース再開となったとき、全く走れなくなってしまい、ショックもあり一時モチベーションを失った。何事もネガティブに捉えてしまうような悪いサイクルに入ってしまったため、半年ほど休んでみることにしたと話す。

「客観的に競技を見つめ直したら、もうそこちょっとこうした方がいいかなとか、意外と前向きになって。乗り始める前までは、結構乗りたくないなって感じだったんですけど。乗り始めたらやっぱ楽しいじゃんって。昨日のTTでいうと、昔はコーナーとかすごい苦手だったんです。でも、今回はこのときにこうすれば簡単じゃんみたいな(ことに気づいた)。だからそういう面ではすごく良いお休みだったんじゃないかなと思いますね」

次戦はトラックでの個人パシュートでの記録を目指す。

 

終盤の展開に絡んだ3人

2021全日本選手権ロード 2日目

最終周回手前で集団先頭に出た兒島

チームブリヂストンサイクリングからは山本哲央、河野翔輝、兒島直樹の3人が出場したが、もともとチームでの作戦も特にはなく、「潰し合いだけはしない」ことだけを決め、同じジャージを着用すれどもそれぞれが個人戦の様相を呈した。

奇しくも、今回のレースは3人それぞれが見せ場を作っての展開となった。6周目に河野が単独で飛び出し、タイム差をつけた一方で、山本は集団内で脚を温存した。
山本と同じく集団内に残った兒島は、広島の今回のコースでは集団前方にいなければ展開に反応できないことを理解していたため、集団前方から中団までで脚を休めつつ位置取りを行っていた。

兒島は冷静に周りの選手たちの脚の残り具合を確認しつつ、最終盤に飛び出すことを決心していた。
最初は最終周回のフィニッシュラインまでの若干の上りで仕掛けることを考えたが、それでは捕まってしまうと思い直し、最終周回の下りに入ったところで単独のアタックを仕掛けた。

トラックをメインとしている兒島は9月末に行われたJBCFのレースでロードレース初勝利を挙げたばかり。今シーズンでロードでの走り方も身に付けてきた。
「今まで小さい大会でも優勝できてなかったんで、JBCFで優勝したことによって、ロードの勝ち方というか、走り方というかそういうのも分かってきたというのもあって、今回のレースは、周りの選手の脚の残り具合とかも見ながら走っていたら、みんな結構カツカツな走りをしてたんで、自分の方が脚は残ってるかなって思ったので、本当に最後、気持ちを決めてアタックしました」と兒島は話した。

2021全日本選手権ロード 2日目

集団中ほどに位置した山本

集団で脚を溜めていた山本は、最終周に入ったところで兒島がアタックしていったことに気付かなかった。上りの中盤ほどでやっと気が付き、三段坂の終盤の勾配が緩んだところでアタックをかけ、全開で追った。山本とともに追走グループを形成したのは、寺田吉騎(Asia Cycling Academy)と大河内将泰(鹿屋体育大学)の2人だった。

「潰し合いはしないようにということでしたが、1人で追う分にはOKみたいな感じだったので。でも3人引き連れてってしまったので、若干さぼり気味になるぐらいで追ったんですけど、駄目でしたね」
山本は振り返る。

2021全日本選手権ロード 2日目

兒島には追いつけず、2位争いとなった山本と寺田

短くて勾配のきつい上りのパンチ力に自信を持った寺田は、集団スプリントになる展開を嫌い、三段坂での抜け出しを考えた。すると、先に山本が前に抜け出しており、それに合流する形となった。

兒島が一足先にフィニッシュラインを切った後、追走3人でのスプリント勝負は山本に軍配が上がった。3位は寺田となった。

寺田は今シーズン、フランスのアマチュアカテゴリーでレース経験を積んでいたが、入賞は一度もできなかった。しかし、U23カテゴリーに上がってから初めての全日本での表彰台を手にした。
「今年最後のレースで、表彰台に乗れて素直に嬉しいです」と寺田は話した。

一方で、3人のスプリントでは先着した山本だったが、「めっちゃ悔しいです。全然もうロードもTTもふがいないって感じです」と悔しさをあらわにした。

2021全日本選手権ロード 2日目

個人戦という形となったが実力を示したチームブリヂストンサイクリングのメンバー(左:兒島、中央左:河野、中央右:山本)

優勝した兒島は、今回のロードレースは狙って準備をしてきたと話す。前日のTTでは6位という結果だったが、あくまでこの日のロードに向けて刺激を入れるために走っていた。

「今日の方が僕的には本番だったので。ロードTTに関しても、そんな得意なわけではなくて、トラックレースだったら独走力も若干あるんですけど、ロードに関してはそこまでないので。今日のために、刺激入れる感じで走って、順位はそんな良くはなかったんですけど、自分の中ではいい感じに走れたかなと思ってます。
ロードは、120kmぐらいだったら、まだ勝機はあるかなぐらいという距離で、150kmが微妙なラインですけど、180kmとか200km超えてきたりとかしたらもう結構きついかなって感じで。120kmという距離であれば、結構狙えるかなと思ってて準備はしてきてました。今年はトラックを狙ってたんですけど、その前にロードの全日本ジャージが取れてうれしかったです」

 

女子エリートの戦い

2021全日本選手権ロード 2日目

序盤はしばらく集団のまま周回をこなしていった

男子U23のロードレース終了後すぐ、11時30分から女子エリート+U23のロードレースがスタート。総勢24人がスタートラインに立った。女子は12.3kmのコースを8周、総距離98.4kmで行われた。

3周目完了時点で既に半分の選手が落ち、集団に残るのは10人に。4周目に入るとさらに集団が割れ始めた。
東京オリンピックの女子ロードレースに出場し、完走した金子広美(イナーメ信濃山形)、JBCFのレースで勝利をいくつも攫った植竹海貴(ワイズロード)、そしてMTBの世界選手権代表にも選ばれている川口うらら(日本体育大学)の実力者3人が抜け出す形となった。

追走をかけるのは、樫木祥子(Team illuminate)、石上夢乃(鹿屋体育大学)、牧瀬翼(WINGS PLUS)の3人。古山稀絵(日本体育大学大学院)と米田和美(MOPS)の2人もその後ろから追う。
しかし、5周目に入ると先頭3人と追走との差は徐々に広がっていった。

2021全日本選手権ロード 2日目

レース中盤で3人の逃げグループが形成される

ラスト2周で先頭の3人から川口がドロップ。先頭での優勝争いは植竹と金子の2人に絞られた。金子は、三段坂などの上り区間で再三アタックを仕掛けた。しかし、植竹は食らいついた。

「おそらく、女子の中ではスプリントが強いのかなという感じなので、上りで離されなければ最後で勝てる可能性があると思ってたので、とりあえず上りで離されないようにするっていう作戦で頑張りました」
植竹はこう振り返る。金子のアグレッシブなアタックに対して、植竹は千切れそうになりながらも耐えた。

2021全日本選手権ロード 2日目

一番にフィニッシュラインへ飛び込み、拳を掲げた植竹

2人のまま、最後のフィニッシュラインに現れると、ラスト数十mのところで金子の後ろから植竹がスプリントを開始。スプリントで伸びを見せた植竹は金子を差し切り、全日本初勝利を飾った。

植竹は、2年前の全日本は完走できておらず、今回の全日本の完走を目標とした。
「今年、JBCFですごい勝てたんで、入賞はできるかもしれない、できれば表彰台に乗りたいなっていう感じで走っていて、まさか優勝できるとは思ってなかったので、すごい驚いてると同時にすごいうれしいですね」と植竹は話した。

2021全日本選手権ロード 2日目

フィニッシュ後、両親と抱き合う植竹

自転車店のワイズロードにてフルタイムで働く植竹は、練習時間も限られる。
「練習は仕事が週休2日なので休みの2日間と、週1回パーソナルトレーニングに通っていて。そこで筋トレとかはローラーとか練習をしてるのと、あと週1回ワイズロードズイフターズっていうズイフトのチームがあるので、そこで週1回トレーニングライドみたいなのをミートアップで開催していて、それで練習してます」

通勤でしか乗らない日もあると話した植竹は今回の勝利について「信じられない」という言葉を繰り返した。
「プロとして自転車に専念しているわけではないので信じられないですね。サポートしてくださる方みんなに感謝したいです」

2021全日本選手権ロード 2日目

アグレッシブに攻撃し続けた金子

積極的に攻撃し続けた金子は、「積極的に行ってたので、ついてこられたらもうしょうがないと思って、最後まで攻めて行きました。出し切ったので十分です。悔いはないです」と、レース後、晴れやかな表情を見せた。

東京オリンピックを目標に掲げてトレーニングを積んできた金子だったが、この全日本に向けてさらにトレーニングを継続させた。
「全日本があると思って、5日間だけ休んで、ちょっと無理矢理やってましたね。オリンピック前もオリンピックのためにずっとトレーニングしていたので。もう疲れてきて。でも調整して何とか」
日本代表の一人としてこの全日本でもしっかりと強い姿を見せた。

2021全日本選手権ロード 2日目

ピースサインでレースを終えた川口

金子の攻撃にもしっかりと対応し続けた川口は自らも攻撃を仕掛けていった。
「前半の3人の逃げができるまでのアタックとかはギリギリではなかったです。むしろ、自分もそれに乗っかってかけたりとか、その後ペース上げたりとかしていたので。逃げてる間も結構ペースを上げたんで、最終的に私が千切れちゃったんですけど、すごい体力的に全然敵わないという感じはなかったので、そこは自分の中でもプラスに捉えたいなと思ってます」

先頭3人から溢れる形となった川口だったが、U23の優勝だけは何がなんでも取りに行った。
「もうそれだけは最低限はクリアしないと駄目だって思ってたんで。最後の1周、本当に死ぬ気で走りました。今、全力出しても死なないって言い聞かせて。絶対死なんからと言い聞かせてずっと踏んでました。もう意識飛びそうで(笑)」

前日のTTでU23を優勝した石上夢乃(鹿屋体育大学)が懸命に追ったが、川口が逃げ切り、U23のロードタイトルを獲得した。
ピースサインでフィニッシュラインに飛び込んだ川口は、「周りがどれだけ走れているかもあんまりわかってなかった。MTBでは絶対優勝しないと駄目っていうのがあるけど、ロードは、楽しんで走るっていうのをモットーに走りました」と笑顔を見せた。

 

2021全日本選手権ロード 男子U23リザルト

2021全日本選手権ロード 2日目

個人ロードレース 男子U23 リザルト
1位 兒島直樹(チームブリヂストンサイクリング) 3時間3分44秒
2位 山本哲央(チームブリヂストンサイクリング) +7秒
3位 寺田吉騎(Asia Cycling Academy) +7秒
4位 大河内将泰(鹿屋体育大学) +7秒
5位 谷内健太(京都産業大学) +17秒

 

2021全日本選手権ロード エリート+U23リザルト

2021全日本選手権ロード 2日目

2021全日本選手権ロード 2日目

個人ロードレース 女子エリート+U23 リザルト
1位 植竹海貴(Y`s Road) 2時間48分23秒
2位 金子広美(イナーメ信濃山形) +0秒
3位 川口うらら(日本体育大学) +1分18秒 ※女子U23優勝
4位 石上夢乃(鹿屋体育大学) +2分16秒
5位 樫木祥子(Team illuminate) +2分50秒