CYCLE SPORTS.jpが選ぶ 2021年プロダクト10大ニュース
目次
- 1. シマノ・デュラエースとアルテグラが同時にモデルチェンジ
- 2. フックレスホイール対応のタイヤが増加。チューブレスレディの主流になるか?
- 3. ズイフトにルービー、バーチャルサイクリングの人気継続
- 4. スラム・ライバルeタップの登場でワイヤレス変速がより身近に
- 5. ロード用ディスクブレーキ対応ホイールの軽量化が加速
- 6. リムのワイド化に伴い、ロードバイク用タイヤもワイド化がいっそう進むか
- 7. 新コンポーネントにサスペンション搭載、グラベルロードバイクの進化が止まらない
- 8. ソックス構造を採用した斬新なシューズ・Sワークス アーレス登場
- 9. 新興勢力の台頭でGPSサイクルコンピューター戦国時代へ
- 10. ペダル型パワーメーターのSPD-SL対応モデルが増える
新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、密になりにくい交通手段・アクティビティとして自転車が注目を集め、世界的に自転車が品薄になった2021年。日本では1年延期になっていた東京五輪が開催され、サイクルスポーツシーンにも注目が集まった。スポーツバイク系のパーツでもさまざまな新製品や注目製品が発表されている。そこで2021年の新製品やトレンドに注目し、10大ニュースとして1年間を振り返ってみよう。
シマノ・デュラエースとアルテグラが同時にモデルチェンジ
2021年のプロダクト10大ニュースのトップを飾るニュースは、シマノのロードバイク用コンポーネントの最上位モデル・デュラエースがR9200シリーズへとモデルチェンジしたことだろう。さらにセカンドグレードのアルテグラもR8100シリーズへと同時モデルチェンジを果たし、自転車界に衝撃が走った。
新型デュラエースR9200登場! 新型アルテグラR8100も同時発表
デュラエースR9200シリーズとアルテグラR8100シリーズは、大枠でのアップデート内容は同じ。進化のポイントは大きく分けてリヤの変速段数が12速化されたことと変速機構がセミワイヤレス化されたDI2一本になって機械式変速が廃止されたことだ。
これでシマノ、カンパニョーロ、スラムの3大ブランドのロードバイク用コンポーネントの上位モデルはすべて12速化されたことになる。シマノのロードバイク用12速スプロケットは、従来の11速対応フリーボディにも装着可能なのも特徴で、これまで使ってきたホイールも使えることからユーザーには歓迎された。
セミワイヤレス化されたDI2は、デュアルコントロールレバーとリヤディレーラーとの間で無線通信を行い、バッテリーと前後ディレーラーは有線接続される。
ブレーキシステムはディスクブレーキ仕様があるのはもちろん、加えてリムブレーキ仕様も残された。しかし、バイクメーカーのハイエンドモデルはディスクブレーキモデルがほとんどという状況で、もしかしたらデュラエースとしては最後のリムブレーキ仕様になる可能性もあるかもしれない。時代の流れを感じさせる。
フックレスホイール対応のタイヤが増加。チューブレスレディの主流になるか?
ロード用ホイールでも一般的になりつつあるフックレスリム。ジップやエンヴィ、カデックス、ジャイアントがチューブレスレディのフックレスリムのカーボンホイールを出している。
カデックス「42ディスクチューブレス」〜ディスクブレーキホイールインプレッション2020 Pick Up!〜
フックレスリムとはリムサイドにタイヤのビードを引っかけるためのフックがないリムのことで、従来のフック式リムと比べてかなり低い空気圧での運用が可能なのが特徴。さらにリムの構造がシンプルになるぶん耐久性が上がり、タイヤの変形を抑えてコーナーリング中の安定感を高める。さらにリムとタイヤサイドの段差が小さくなることにより空力性能を高め、リム内幅が広くなることでタイヤ装着時の実際の幅が広くなり、かつタイヤとリム内側の接触面積が増えることでタイヤの変形量が抑えられることで転がり抵抗の軽減につながるなどのメリットがある。
一方で、フックレスリムに対応するタイヤでないと使えないというデメリットもあるが、フックレス対応のタイヤも次第に増えてきている。2021年に発売されたコンチネンタル・グランプリ5000S TR(チューブレスレディ仕様)は、フック式リムだけでなくフックレスリム対応をうたっている。また、マキシスのハイロードシリーズなど、通常のフック式リム対応のチューブレスレディタイヤでもフックレスリムに対応するモデルも増えている。
メリットの多いフックレスリムは、今後対応するタイヤが増えてチューブレスレディホイールの主流になっていくのか、注目しよう。
ズイフトにルービー、バーチャルサイクリングの人気継続
コロナ禍をきっかけに世界的に人気が高まったインドアサイクリング。2022年も人気が続いている。
インドアサイクリングシーンの牽引役と言えるのがズイフトだろう。2021年は日本をモチーフにした新ワールド・マクリ島が加わったことが大きなトピックだ。これまで世界選手権が開かれたリッチモンドやオリンピックの舞台となったロンドンなど、実在の町並みが再現されたことはあるが、架空とはいえ日本をモチーフにしたワールドが加わったのは初めて。富士山や桜並木、お城、神社仏閣、古い木造住宅が建ち並ぶ住宅街が描かれ、郊外には日本の里山や田園風景を思わせる自然もあり、どこか懐かしさを感じさせる。11月にはマクリ島の新しいコースという形でネオ京も追加された。こちらは「ネオンが輝く眠らない町」という設定。林立するビルにネオンサインが輝く東京を思わせるサイバーパンクな都市を、高速道路っぽい道や一般道、商店街を思わせる路地をつなぎながら走る新コースが複数用意された。
ZwiftのMakuri Islandsに光り輝く大都市「NEOKYO」が登場
ズイフトとは違うアプローチでインドアサイクリングシーンを盛り上げたのがルービー。こちらはチェコに本社を置くVirtualTraining s.r.o.社が展開するAR(仮想現実)を駆使したサイクリングサービスで、実写をベースにしたコース映像を使っているのが特徴だ。30か国以上の数百にも及ぶリアルなコースがアップされており、中には赤城山ヒルクライムなどレースで実際に使われるコースある。デジタルジャパンカップや台湾KOMのバーチャルイベントも開催されるなど、AR画像の強みを生かしてリアルイベントのバーチャル版の舞台にもなった。
バーチャルスポーツアプリ ROUVY(ルービー)が日本国内サービスを本格化
リアルなサイクリングとともに、バーチャルサイクリングシーンも今後ますます熱くなりそうだ。
スラム・ライバルeタップの登場でワイヤレス変速がより身近に
3大コンポーネントブランドの一角を担うスラムは、ワイヤレス変速とリア12スピードをロード用コンポーネントのハイエンドモデル・レッドeタップAXSとセカンドグレードのフォースeタップAXSに採用している。2021年にはこれらのコンポーネントと同じワイヤレス変速とリア12スピードを採用するミドルグレードのライバルeタップAXSを発売した。
スラム・ライバルeタップAXS リヤ12速無線電動コンポがミドルグレードに
ライバルeタップAXSは、レッドやフォースと比べるとダブルタップレバーの形状が変更されて一部機能が省略されているほか、ドライブトレインを構成するリアディレイラーやクランクセットの仕様など細かい部分ではレッドやフォースと異なる。しかし、おおむね上位モデルのテクノロジーが継承されているといってよい。
ロード用で一般的なフロントダブル仕様のフルセット同士で価格を比較すると、ライバルeタップAXSはレッドより30万円以上安く、フォースのおよそ半額とかなりお値打ちになっている。重量を比べると、ライバルはレッドより500g程度重く、フォースより約250g重いが、無線式変速コンポーネントを手の届きやすい価格で手に入れられるのは魅力だ。
ミドルグレードも12スピード×ワイヤレス変速化したスラムに対し、シマノやカンパニョーロは2022年以降どのような製品を用意するのだろうか? 今後の展開に注目しよう。
ロード用ディスクブレーキ対応ホイールの軽量化が加速
ここ数年でロードバイクのハイエンドモデルが軒並みディスクブレーキ化されている。これに伴ってホイールのハイエンドモデルもディスクブレーキ対応モデルが続々と登場。リムブレーキモデルと遜色ない軽量モデルも続々登場した。
ライトウェイトが最軽量ディスクブレーキ対応フルカーボンホイール「オーバーマイヤー EVO」発表
その代表格とも言えるモデルがライトウェイト・
マスプロブランドではないものの、
ジップ・353NSWにも注目だ。
ボルテックス・N4ディスクなど中国の新興ブランドも台頭し、
レーシングモデルだけでなく、
ホイールの軽量化に伴い、
リムのワイド化に伴い、ロードバイク用タイヤもワイド化がいっそう進むか
ロードバイクでディスクブレーキがスタンダードになったことで、リムやタイヤのワイド化が進んでいる。リムブレーキではシューでリムを直接はさんでブレーキをかけるというキャリパーの構造上、タイヤやリムのサイズに制約が生まれるため、リムサイズは内幅15〜17mmが一般的で、広くても内幅19mmぐらいまでということが多かった。さらにタイヤサイズもレース系モデルは700×23Cが一般的で、ロングライド系モデルでも25mm幅、太いタイヤをはけたとしても28mm幅ぐらいまでだった。
しかし、ディスクブレーキは、ハブに装着されたディスクローターをはさんでブレーキをかけるため、キャリパーによるリム幅やタイヤ幅の制限がなくなり、装着できる最大のタイヤサイズはほぼフレームやフォーク側のクリアランスに依存することになった。その結果、リム幅も内幅19mm以上が標準的になり、タイヤサイズもレース系モデルで700×25C、リム幅がさらに広いモデルだと700×28Cが標準装備されるようになってきている。対応する最大タイヤ幅が30mmというレーシングロードも珍しくなくなってきた。
グラベルロードバイクでは40mm幅のタイヤが装着できることはもはや珍しくなく、オフロード志向の強いモデルだと700Cホイールでも50mm幅のタイヤが装着できるものもある。
タイヤが太くなることのメリットは、接地面の縦幅が狭くなって横幅が広くなるために転がり抵抗が少なくなることやコーナーや荒れた路面での安定感が向上すること、エアボリュームが増えて乗り心地がよくなることなどが挙げられる。デメリットとしては重量が重くなることが考えられるが、ディスクブレーキ用ホイールの軽量化も進んでおり、メリットの占めるウェイトが大きくなってきているのもロードバイクのタイヤのワイド化が進む一因と考えられる。
新コンポーネントにサスペンション搭載、グラベルロードバイクの進化が止まらない
ここ数年、ロードバイクから派生して一大勢力となっているのがグラベルロードバイク。一口にグラベルロードバイクといっても、エンデュランス系のロードバイクに近いモデルからツーリングバイクに近いモデル、ハードテールのMTBに近いモデルまでさまざまだ。そんなグラベルロードバイク界の盛り上がりを象徴するような新しいプロダクトが登場したのも2021年のトピックだ。
3大コンポーネントブランドの一角を担うスラムは、グラベル用コンポーネントXPLR(エクスプロア)シリーズを発表した。スラムは元々12スピードのワイヤレスコンポーネントeタップAXSシリーズでロードバイクとMTBの垣根を感じさせない製品ラインナップを展開していたが、グラベルに最適化したカセットスプロケットやそれに対応するリアディレイラーを追加した形だ。
スラム、ロックショックス、ジップからグラベル用の「XPLR」コレクションが登場
XPLRシリーズは、ロード用コンポーネントと同じくレッド、フォース、ライバルのグレードを展開。スラムのドライブトレインに加え、ロックショックスのフォークやドロッパーシートポスト、ジップのホイールなどグループブランドの製品もXPLRの名を冠したグラベルロードバイク向けモデルを用意。グループセットとしてのラインナップを整えたのも特徴だ。
バイクの進化も止まらない。キャノンデール・トップストーンカーボンレフティのレフティオリバー+キングピンやスペシャライズド・ディヴァージュのフューチャーショック2.0など、グラベルロードバイクにサスペンションを搭載する動きは2020年からも見られたが、キャニオンのグラベルロードバイク・グリズルシリーズにもフロントサスペンションを搭載するモデルが登場した。本格的なオフロード走行に対応するグラベルロードバイクは今後も増えそうだ。
キャニオンがグラベルロードバイク「グリズル・サスペンション」3モデルを発表
ソックス構造を採用した斬新なシューズ・Sワークス アーレス登場
サイクリングシューズはペダルとライダーをつなぐ重要な装備だ。ライダーが生み出す踏力を確実にペダルに伝えるため、足をしっかりとホールドすることは重要だが、履き心地が快適であることも同じぐらい重要だ。快適性にはアッパーのフィット感や通気性などといった要素のほか、縫い目や靴の特定の部分が足に当たることによる不快さの解消も欠かせない。近年さまざまなブランドから発表されているアッパーにニット構造のメッシュ生地を採用したモデルは、通気性やフィットのしなやかさという面において一段階履き心地をランクアップさせたと言える。
スペシャライズドの最新ロードシューズ「S-ワークス アーレス」発売
しかし、スペシャライズドが2021年はじめに発表したSワークス アーレスは、ソックス状にしたメッシュ生地をアッパーに使うことで、足の甲の部分のタンをなくし、快適性をさらにワンランク高めた。ソックス状のアッパーの外側にダイニーマによって補強された合成皮革とBOAダイヤルの層をレイヤリングしたような独特の構造で、優しい足あたりを実現しつつ、履いたときの圧力を分散させてシューズ全体が足にフィットすることで、快適性やパワー伝達性能にも好影響を与えている。スペシャライズドによると、このシューズを使うことで同社の過去のシューズより1%速く走れるようになるという。これは300mのスプリントで考えると僅差での勝利がバイク1台分の差が付くほどの違いとのことだ。
バイクの進化が止まらないが、自転車を進ませるのが人間であるという大原則は今後も変わることはない。そういう意味ではシューズをはじめ、ライダーとバイクのコンタクトポイントの進化は今後も続くだろう。
新興勢力の台頭でGPSサイクルコンピューター戦国時代へ
GPSサイクルコンピューターといえば、かつてはガーミンの1強時代もあったが、最近はワフーをはじめとする新興勢力も台頭してきた。
ワフーはエレメントボルトの最新バージョンを2021年に発表。専用アウトフロントマウントと組み合わせることで優れた空力性能を発揮するエアロ形状など旧モデルの良さを継承しながらディスプレイがカラー化されて視認性が向上するなどのアップデートが施された。
2012年に中国で設立されたサイクルコンピューターブランドiGPSORTも2021年に本格的に日本に上陸した。カラー液晶搭載のハイエンドモデルiGS620でも2万円台前半、ANT+規格のパワーメーターに対応するiGS520でも1万円台前半、最安のGPSサイクルコンピューターなら5000円台と、GPSサイクルコンピューターの価格破壊といっても過言ではないレベルだ。
iGPSPORTの初心者向けサイクルコンピューター「iGS10S」発売
ブライトンは1万円以下で買えるGPSサイクルコンピューターライダー15ネオを発売。エントリーモデルでありながら、スピードやケイデンス、心拍数など21種類ものデータを計測可能と、GPSサイクルコンピューターをより手の届きやすいものにした。
一方、絶対王者ガーミンは、独自の解析サービス・ガーミンコネクトを展開し、スマートウォッチと連携させてライフログとトレーニング記録を一元管理できるシステムを構築している先行者としての強みもある。また、トレーニングや体の状態に関する情報を通知するなどの高度な機能や、ペダル型パワーメーター・ラリーと連携させて高度な解析ができるなど、ガーミンのGPSサイクルコンピューターにしかない高度な機能もある。
GPSサイクルコンピューター選びの選択肢が増えたことは、サイクリストとして歓迎すべきことではある。自分に何が必要で、何が必要でないかを見極め、賢く買い物しよう。
ペダル型パワーメーターのSPD-SL対応モデルが増える
パワーメーターの低価格化が進み、さまざまなタイプのパワーメーターが流通している。パワーメーターの搭載位置によってさまざまなメリットやデメリットがあるが、2021年はペダル型のパワーメーターの新製品がいくつか登場した。
ペダル型のパワーメーターは、複数のバイクで使い回ししやすく、クランク型やスパイダー型のパワーメーターのようにコンポーネントを載せ替えても互換性の問題で使えなくなるということはなく、ハブ型のように練習用と決戦用のホイールで別々にパワーメーターを用意する必要がない、というメリットがある。スマートトレーナーを活用したインドアトレーニングと屋外での実走用のバイクでも使い分けが容易で、日ごろのトレーニングからレースまで手軽に使えるのも魅力だ。
ガーミン新ペダル型パワーメーター「ラリー」をインプレッション
ペダル型のパワーメーターではガーミンのベクターシリーズが有名だが、そのガーミンは今年ラリーシリーズをリリース。片側計測のシングルセンサー、両側計測のダブルセンサーから選べ、シングルセンサーモデルなら8万円台で購入可能。ダブルセンサーモデルはペダリングのどの局面でトルクを発生させているかが分かるパワーフェーズや、ペダル軸のどの位置を踏んでいるかがわかるプラットフォームセンターオフセットなどの高度な機能を利用できる。クリートはルック・ケオのほか、シマノのSPD-SL対応のモデルが初めて登場した。
さらにイタリアのファベロのペダル型パワーメーター・アシオマシリーズにも注目が集まっている。こちらはルック・ケオ対応モデルの片脚計測モデル、両脚計測モデルに加え、2021年にシマノ・SPD-SL対応の両脚計測モデルが追加になった。
日本のマーケットで多いシマノのSPD-SLペダルユーザーにとって、ペダル型パワーメーターの選択肢が増えるのは好ましいことと言えそうだ。