オリンピック出場レーサー 金子広美の強さに迫る〜私のトレーニング履歴書〜

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金子広美さん

プロ選手、ホビーレーサー、ショップ店長を問わず、自転車レースのトップカテゴリーで活躍する有名レーサーたちは一体どんなトレーニングをしているのか?それは多くのサイクリストが気になるところ。そんな有名レーサーたちの“トレーニング履歴書”に迫る特集をお届けしよう。今回は東京2020オリンピック・女子自転車ロードレース出場を果たした金子広美さんだ。

金子広美さんプロフィール〜国内女子自転車レース界の第一人者

金子広美さん

金子広美さん

10年以上にわたり、国内ロード系レースにおけるトップ選手の一人として活躍し続ける金子広美さん。彼女の戦績は枚挙にいとまがない。「Mt.富士ヒルクライム」では優勝6回、「乗鞍ヒルクライム」でも優勝6回。「ツール・ド・おきなわ」女子国際ロードレース優勝1回。ロード世界選手権出場2回……などなど。そして、2020東京オリンピックでは、見事女子自転車ロードレースへの出場を果たした。

金子さんが自転車スポーツを始めたのは25歳のとき。もともとスポーツバイクを愛好していた夫の影響でMTBに乗り始めたのがきっかけだった。その後ロードバイクに乗り始め、レースで優秀な成績を収めるようになり、トップ選手へと成長した。特にヒルクライムレースに強く“ヒルクライムの女王”と呼ばれ活躍してきたが、ここ数年はロードレースに重点を置いている。

金子さんの身体的スペック〜日本人離れした手脚の長さとクライマー体型

ヨーロッパのロード選手のようにすらりとした体型の金子さん。この長い手脚と細身で長身な体が彼女の強さの一つの要因か。また柔軟性も高い。パワーウエイトレシオは体重の約5.1倍と、男子選手顔負けの数値だ。

身長:170cm
体重:50kg〜51kg
FTP:約255W
脚質:クライマー

金子さんの体型

金子さんの体型。前屈すると地面にぺたりと手のひらがつくほど体は柔らかい。

金子さんのフォーム〜深く美しい前傾フォーム

柔軟性が高いことから、深い前傾フォームをとって走ることができる。手脚が長いことと相まって、美しくダイナミックなフォームに見える。「平地で巡航するときはブラケットの部分を持ち、肘を深く曲げたエアロフォームを取ることが多いです」と金子さん。下ハンドル部分を持つとさらに前傾は深くなり、上半身は地面に対して水平に近いくらいだ。

ブラケットリラックスフォーム

ブラケットリラックスフォーム

ブラケットエアロフォーム

ブラケットエアロフォーム

下ハンドルフォーム

下ハンドルフォーム

一方、得意の上りでは? 「シッティングで行くのが基本ですが、ダンシングは多用する方です」。ダンシングを拝見すると、やや体を左右に揺らし気味でリズムをとっていくのが特徴的だった。

上りシッティングフォーム

上りシッティングフォーム

上りダンシングフォーム

上りダンシングフォーム

金子さんのバイク〜長年愛用のパーツは変えない

カーボネックス

金子さんを象徴する愛機、ヨネックス・カーボネックス

日本代表マークと名前

フレームには日本代表マークと名前が刻み込まれている

金子さんといえばヨネックス・カーボネックスだ。このバイクで数々の勝利をつかんできた。オリンピックにもこのバイクで出場した。一見オーソドックスにまとまったバイクに見えるが、細かいところを見ると彼女のこだわりが散見される。「特にこだわっているのはサドルとパワーメーターですね。このサドルはもう廃盤なのですが、お尻が痛くならないし座りやすいので、もう手放せません。廃盤になる前にたくさん買い占めました(笑)」。

プログレスSLアナトミック

サドルはハープ・プログレスSLアナトミック(廃盤)。あと3個ほどストックしているそうだ。

やや前下がりにしているサドル

サドルはやや前下がりにしている。前傾姿勢での局部圧迫を軽減する目的だ。

SRMのパワーメーター

愛用のSRMのパワーメーター。クランクは7800系デュラエースだ。2011年からこのパワーメーターでパワートレーニングを行っているという。

クライムバー

ハンドルバーはグラファイトデザイン・クライムバー。これも廃盤だ。慣れ親しんでいて特に変える必要がないから愛用しているそうだ。

「パワーメーターはSRMをずっと使い続けています。私はパワートレーニングのときの数値の正確性を大切にしていて、過去のデータと比較するためにはこの数値が正確であることが重要なんです」。

パワーメーターを装着したクランクアームに刻み込まれた無数の細かい傷が、これまでの彼女の努力を物語っていた。

金子さんのトレーニング〜実走とインドアトレーニングをセットで

金子広美さん

 

金子さんはフルタイムで選手活動に専念している。2021年11月までは住まいのある三重県を離れ、単身アパートを借りて長野県富士見町に拠点を置いてトレーニングしていた。「高地トレーニングの意味合いと、夏でも涼しい環境を求めてここに拠点を置いていました」と金子さん。

そんな金子さんのトレーニングは、綿密にスケジュールが組まれたものだった。「現在のトレーニング方法は、かつてヒルクライムレースに没頭していたときとは全然違います。ロードレースのためのパワートレーニングをしています。ですから、またヒルクライムレースで勝てと言われても、難しいかも知れませんね。

基本的なスケジュールは下のとおりです」。

日曜:長距離ライド
月曜:回復走
火曜:FTPより上の強度で5分走
水曜:FTP近くの強度
木曜:回復走
金曜:VO2マックス
土曜:回復走

高強度なトレーングをこなしていることが分かる。

「昔はロードバイクトレーニングの本を参考にしてみたりしたんですが、全然自分に合わなくて、自分なりに試行錯誤しながら方法を確立していきました。今では“もう高強度しかやならい”くらいに、高強度をメインでこなしています。

以前はFPTを上げるためにその下の領域でひたすら走っていたんですが全然だめで、それより上の強度で走るようになってから、どんどんFTPが上がっていったんです」。

特徴的なのは、1日に外での実走トレーニングとインドアトレーニングを両方取り入れた2部構成のトレーニングを行っていることだ。

「午前と午後で1日に2回に分けて乗っています。というのも、きちんと課せられたメニューをこなすためなんです。メニューはかなりきつくて、まともにこなすのが結構大変で。例えば1日に4本こなすとして、午前の実走トレーニングで3本でいっぱいいっぱいになってしまったら、一旦帰宅して体制を整え、インドアトレーナーで残りの1本をこなす、という具合です」。

決めたメニューをしっかりとこなすための工夫だった。

金子さんのコンディショニング〜とにかくよく寝ること。サプリメントも活用

コンディショニングとして睡眠を重視する、と答える選手は多いが、彼女も同様だった。

「年齢を重ねてきて、回復がだんだん追いつかなくなってきているので、コンディショニングには今までよりさらに気をつけるようになりました。特に気をつけているのは睡眠ですね。これを削るとパワーも出ないし集中力も出ません。最重要項目として確保するようにしています。

まずお昼寝です。午前のトレーニングが終わったら必ずお昼寝を入れます。そのあとでインドアトレーニングを行います。そして夜もしっかりと寝ます。1日合計10時間は寝ていると思います。

次に気をつけているのは食事です。しっかり食事から栄養が摂れるように注意して、好き嫌いなく何でも食べるようにしていますね。でもシビアになりすぎているわけではありません。唐揚げとかマヨネーズとか、油ものは普通に食べてます。甘いものも、頑張った自分へのごほうび的に食べちゃいます。

一方で体重管理には注意していて、毎朝体重を測り、データをとっています。これ以上体重が増えたら戻すのが厄介になるとか、この時期だったらこのくらいの体重まで増えても大丈夫とか、その管理は適切に行なっています。

食事で必要な栄養をまかなえるようにするのが基本なんですが、それでも不足する部分をサプリメントで補うようにもしています。毎日必ず飲むのは鉄とミネラルです。貧血がひどいので、特に鉄は欠かせません」。

アミノバイタルゴールドを飲む金子さん

「アミノバイタル®GOLD」を飲む金子さん

「スポーツサプリメントとしては『アミノバイタル®GOLD』を愛飲しています。私の場合はトレーニングに出る前の朝に飲みます。また、合宿で毎日高強度なトレーニングするときにも必ず飲んでいますね。毎シーズン4月頃にトレーニングのピークがくるのですが、その時期は特に頼っています」。

アミノバイタル®GOLD

アミノバイタルゴールド

ロイシン高配合BCAAなど、必須アミノ酸4000mg配合の最先端スポーツサプリメント。顆粒タイプで携行に便利で、トレーニング時やレース時サッと取り出して飲みやすい。詳細や購入についてはこちらから

金子さんの強さのもう一つの秘密は夫の献身的サポート

日々ハードなトレーニングを続け結果を出してきた金子さんだが、彼女の強さの裏側には、実は夫の哲史さんの存在が大きい。哲史さんは会社員でありフルタイムで仕事をしながらも、妻の選手活動を長年支えてきた。メカニック作業も哲史さんがこなしている。

「長野でアパートを借りて一人で集中してトレーニングしている時期、土日に自宅のある三重から夫が毎週やってきてくれて、料理を作ってくれたりしていました。私は実は料理が苦手で、シンプルなものしか作れないんです。しかも、一度それを作っちゃうとずっと食べ続けられてしまうので、食事内容が単調になりがちで……。アスリートに適した料理を考えて、夫が作ってくれるんです。トレーニングして疲れている状態で食事の用意をするのはかなりしんどいので、そこは本当に助かっていました。

夫の支えがなければ、今までの結果も出せていなかっただろうし、当然オリンピックにも出られていなかったと思います」。

全日本選手権での優勝と自転車の楽しさを伝え広める活動が次の目標

金子広美さん

2021シーズンを最後に引退を考えていたが、2022シーズンも選手を続けることにしたという金子さん。来シーズンの目標を聞いた。

「レース活動としては全日本選手権での優勝です。実は万年2位で優勝したことがないんですよ。

もう一つは、自転車の楽しさを伝え広める活動をしていくことです。オリンピックへの出場も果たし、選手としてもベテランの年齢になった自分にできることは何だろうって、考え始めたんです。それは、やはり自転車の楽しさを伝え広める活動だなって。

特に、女性サイクリストの数をもっと増やしたいです。日本ではまだまだ女性サイクリストの数が少ないので。また、自分の後に続く女性選手の発掘につながる活動もしたいですね。だから、2022シーズンはレースだけじゃなくて、サイクリングイベントへの出演等もしていきたいと思います」。

今後も金子広美さんの活躍から目が離せない。