“Zwift世界選手権”出場選手に学ぶスマートトレーナー選び
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近年ますます盛り上がりを見せるZwift(ズイフト)をはじめとしたオンラインサイクリングサービスだが、そのためのスマートトレーナー選びも重要だ。2022年2月26日開催の「UCIサイクリングeスポーツ世界選手権」に出場する、池田隆人さん/高杉知彰さんの日本代表選手2人から、機材選びのポイントやトレーニング法について聞いた。
「UCIサイクリングeスポーツ世界選手権」がZwiftで開催される
UCIが主催する“ロードレースのeスポーツ版世界選手権”が「UCIサイクリングeスポーツ世界選手権」だ。2022年は世界的オンラインサイクリングサービスのZwiftがレースのプラットフォームとして使われる。言うなれば“Zwift世界選手権”だ(分かりやすく言うとこうだが、正確にはZwiftの世界選手権ではなく、UCIによるeスポーツの世界選手権がZwiftで開催されるということ)。
エリート男子とエリート女子の2つのレースが開催され、世界中から選りすぐられた100人がそれぞれのレースに出走する。アジア圏からは選考レースを勝ち抜いた5人が出場し、何と全員が日本人だ。中でも注目は2021年の「Mt.富士ヒルクライム」で勝利した若きZwiftレーサーの池田隆人さん、2019年のZwiftナショナル選手権優勝者でイナーメ信濃山形所属のJプロツアーレーサー・高杉知彰さんの2人だ。
2021“フジヒル”優勝 池田隆人さんの場合
池田隆人さんは東京都在住で1995年生まれの26歳。会社員。普段はほとんどZwiftしかしないという新世代のレーサーで、2019年に“フジヒル”で総合優勝したうえにコースレコードを塗り替えて多くの人々の注目を集めた。身長168cmで体重は52kg、FTPは何と310Wと、体重の6倍近い驚異のフィジカルを有する。Zwiftでは世界の強豪レーサーが集まる多国籍チームの「ワールドエリートズイフターズ(WEZ)」に所属し、リアルレースの舞台では「リオモ ベルマーレ レーシングチーム」に2022年から加入が決定。Jプロツアーのヒルクライムレースを中心に走る予定だ。
普段のZwift環境は?
「スマートトレーナーはワフー(Wahoo)のキッカー(KICKR)を使っています。前輪には勾配が変化するマシンのキッカークライム(KICKR CLIMB)を装着しています。ZwiftはPCを大画面ディスプレイにつないでプレイしていて、すぐマウス・タブレット・ワイヤレスコントローラーが手で取れる位置に置いてあります。Zwiftだとアイテムをすばやく使用できるよう、このワイヤレスコントローラーが結構重要です。あとは普通の扇風機を2台置いています」と池田さん。
池田さんの考えるスマートトレーナー選びとは?
「重視しているのは、Zwift世界の地形変化に合わせて自然に負荷変動してくれることです。たまに外で実走したときに違和感が少ないという理由もあるのですが、リアルな走行感を再現してくれ踏み心地の良いスマートトレーナーだと、よりパワーが出しやすいと感じるからです。
逆に再現性の低いスマートトレーナーを使っていると、上り勾配になっても負荷が妙に軽くてスカスカしたり、下り坂に入っているのに平地を走っているような違和感を覚えて、うまく走りにくくなるんです」。
それで選んだのがワフーのキッカー?
「そうですね。何台かスマートトレーナーは買い替えて使ってきましたが、どうもイマイチでした。そしてたどり着いたのがキッカーです。実走感の再現力はすごく良いと感じています」。
他に重視している点は?
「物理的にバイクの勾配を変化させる点ですね。Zwiftをプレイするうえでこれがパフォーマンスを上げることに結びつくわけじゃないんですが、長時間走りやすくなるという点でプラスになります。どうしてもバイクが同じ角度のままだと、使う筋肉やペダルのこぎ方が固定されてしまいがちです。しかし、物理的に勾配が変化することでそれが分散されて、結果として疲労も分散されます。お尻への荷重も変わりますから、お尻への負担も分散できますね。
そういう意味でキッカークライムを併用しています。リアルな走行感をより良く再現してくれるものとして気に入っています」。
普段どんなトレーニングをしている?
「基本的な乗り方としては、週に1〜2回Zwiftレースに出場して強度を上げた走りをします。それ以外は低強度でゆっくりとZwiftをプレイします。というのも、トレーニングの質と回復を重視していて、高強度な乗り方ばかりしているとそれが崩れると考えているからです。私の場合は、高強度な乗り方は週に2〜3回までと決めて取り組んでいます。週に1日は回復日として完全に乗らない日を設けています」。
外で実走することもある?
「数週間に1回程度です。交通量も信号も多い地域に住んでいて走行環境があまりよくないので、トレーニングにならないからですね。外で走る目的としては、スマートトレーナーだけでは磨かれない実走の感覚を取り戻す“感覚合わせ”の意味合いが大きいです」。
“世界選手権”に向けて
「現在は本番直前ということで、普段よりも強度を上げたトレーニングをしていて、その頻度も上げています。
大会への意気込みですが、本番ではできるかぎり上位を目指して頑張りたいと思います」。
2019“Zwiftナショナル選手権”優勝 高杉知彰さんの場合
続いて紹介するのは高杉知彰さんだ。1986年生まれの35歳。会社員だ。就職してから本格的にロードバイクに乗り始め、仕事でアメリカ勤務をしていた時期に現地でアマチュアロードレースに出始める。めきめきとクラス昇格を続け、最終的にはプロ選手と一緒に走れるカテゴリーまで上る。アメリカのコンチネンタルチーム選手に混じり、15位ゴールしたレースもあったという。帰国後はそうした実績が認められ、一挙にJプロツアーカテゴリー登録の実業団選手に。
Zwiftでは2019年のナショナル選手権で優勝し、2021年に見事“世界選手権”への出場権を獲得した。池田さんと同じく、「ワールドエリートズイフターズ」に所属している。
身長は173cmで体重は57kg前後。FTPは310Wと高いフィジカルを誇る。リアルなロードレースでも活躍している点で池田さんとはタイプが異なるZwiftレーサーと言える。
普段のZwift環境は?
「スマートトレーナーはキッカーで、ZwiftはシンプルにノートPCでプレイしています。あとは普通の家庭用の扇風機ですね。汗対策としてコンビニのビニール袋をハンドルまわりに巻いたりしています笑」と高杉さん。
高杉さんの考えるスマートトレーナー選びとは?
「これは池田くんと同じですが、やはり実走感に近いことがかなり大事です。特に、これは私のようにZwiftオンリーではなくて、通常のロードレースなどにも出ている選手にとっては大切なポイントです。そういう方は多いと思います。トレーナー上で実走に近い感覚で走ることができていれば、インドアでのトレーニングと外でのレースやトレーニングで違和感を覚えることがありません。
もう一つは計測精度の高さですね。私はパワーメーターも併用していますが、精度の高いトレーニング・Zwift上での走りを実現するためにも、これも重要なポイントです」。
そこで選んだのがキッカー?
「そうですね。最初に買って使っていたのは別のブランドのモデルだったのですが、池田くんにも相談してキッカーに乗り換えました。
やはり、リアルな実走感に近い点が非常に優れていると思います。勾配に応じた負荷の変化の自然さも良いのですが、土台の部分が微妙に揺らいでくれるのも自然な乗り味につながっているのではと感じています。実走しているときって、ペダリングに合わせてバイクが微妙に揺らいでますからね」。
「実走感が高いので、私は踏み方や乗り方をインドアと実走でまったく変えていませんし、実走のトレーニングのときは“実走感を取り戻す”という意味合いは特段自分にとってはありません。Zwiftレースでの成績が良いと、現実のレースでも実際成績が良いんです。
出力の数値もすごく正確だと思います。パワーメーターを併用して数値を比較すると、公称値だと±1%としているんですが、実際はパワーメーターの数値からコンマ数%のずれで収まっています。
面白い話があります。チェーンリングとチェーンが汚れていると、パワーメーターで出る数値よりも微妙にトレーナー側の数値がいつもより低くなるんですよ。それだけ駆動部の汚れで駆動効率が落ちるんだなっていうことが判明するし、その違いが計測で出てしまうくらいキッカーって正確なんだなと分かるんですよ」。
「あと、これは直接性能には関係ないですが、取っ手が付いていて動かすときに便利なのと、脚が折り畳めるのも良い点かな。基本的に据え置きという人も多いと思いますが、いざ動かしたり収納するとき、私もそうですが、集合住宅住まいの方にはメリットがあるでしょう」。
普段のトレーニング方法は?
「Zwiftで狙ったレースに近い強度のレースに出場し、本番に近い負荷をかけることを基本としています。本当はメニューを組んでインターバルをやれればいんですが、一人だとモチベーションが上がらないので。月曜日は完全レストで、それ以外は毎日乗ります。
現在は世界選前で乗り込んでいる時期ということもありますが、平日は朝と夜の2部構成でZwiftでトレーニングです。時間にすると2時間半〜3時間。土日はどちらかを実走で長距離練習、もう片方をZwiftレースに当てます」。
世界選手権への意気込みは?
「実は前回大会のときは、JCFがプロ選手の中から出場選手を決めていて、選考会は開かれていなかったんです。ですが、今回は2021年にきちんとZwiftで選考会をしてもらって、実力を認められた選手が代表となりました。これ自体が非常に喜ばしいことです。
ですから、それに恥じることのないよう、本番では全力を尽くしたい。逃げやアタックなど動きのある走りをしたいし、エース的なポジションの池田くんをできるだけ上位でゴールさせられるよう、アシストする動きも見せたいです。日本人のZwiftレーサーはちゃんとチームでの動きができるんだって、世界に見せたい。私自身もゴールでしっかりもがいて、30位以内には食い込みたいと思います!」
2人の日本代表選手が使うワフー・キッカー(wahoo KICKR)
ワフーのスマートトレーナー最上位モデル。最大対応出力は2000Wにも及び、かつ高い出力計測精度と圧倒的実走感を誇る。一度に3デバイスをBluetooth接続可能で、キッカークライムといった関連マシンへの拡張性も抜群だ。初期装備でシマノ11速対応カセットスプロケットが付属している点もうれしい。もちろん、リムブレーキでもディスクブレーキでも装着可能で、ディスクブレーキにおけるブレーキキャリパーとの干渉を起こしにくい設計も光る。
SPEC
●価格:17万8805円(税抜・シマノ11速対応カセットスプロケット付属)
●寸法(脚を開いた状態):長さ540mm×幅710mm×高さ470mm ※高さは700Cセット時
●重量:21kg
●対応エンド:130-135mmクイックリリース、12×142mmスルーアクスル、12×148mmスルーアクスル
●最大シミュレーション勾配:20%
●出力計測精度:誤差±1%
Brand Info〜wahoo(ワフー)について
アメリカのフィットネス関連機器ブランド。スマートトレーナーをはじめ、GPS機能付きサイクルコンピューターやスポーツウォッチ、計測センサー等のサイクリング向けアイテムを中心に展開している。大きな強みはその「エコシステム」にあり、例えばスマートトレーナーのキッカーに物理的にバイクの勾配を変化させるキッカークライム+風量を自動調整するキッカーヘッドウィンドを組み合わせて使うなど、1つのブランドであらゆるインドアサイクリングへのニーズを満たしてくれる。