【コラム】ケルビム・今野真一「自転車、真実の探求」第3回 Save the rim brake!

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ケルビム・今野真一「自転車、真実の探求」第3回

昨今の自転車事情では非常に多くの新種が出ている。
まさに自転車史のカンブリア紀だ。

ジャンルは、MTBに始まりグラベルやファットバイク、ピストクロスなど多岐にわたり、ロードレーサーというジャンルの中にもカーボン、アルミ、クロモリ、ハイブリット、ディスクブレーキ、キャリパーブレーキにチューブラーにチューブレス、電動ワイヤレスにワイヤーコンポ等など、、、同じ競技の中にこれだけの「種」が混在しているのは、我々にとっても初めての体験で、ある意味幸せな時代なのかも知れない。

中でも大きな変革と言える技術がいくつかある。「ディスクブレーキ化」と「タイヤのエアボリューム増」が最も新しくもあり変わった事ではないであろうか。

ディスクブレーキ化はともかく、タイヤが太くなるという現象は正直一般的な理論では理解に苦しむ内容ではないだろうか。例えば、トラック世界競技やオリンピック等では今でも19Cタイヤに10気圧前後のエアーを入れて走っており、30年近くタイヤの変革は起きていない。なぜなら速度が出るからに他ならないが、なぜ我々ローディーだけがなぜ28Cのタイヤとなるのだろうか。以前に比べれば舗装道路が格段に質も上がり抵抗も少なくなっているにも関わらず。

トラック競技場は舗装道路より抵抗が少ないなんて声も聞くが、なんなら板張りの250mバンクの方が路面は荒れている場合もあるのだが、、、

今回のコラムでは、そんな疑問を一つずつ掘り下げられれば幸いだ。

ケルビム・今野真一「自転車、真実の探求」第3回

 

ブレーキはディスクかリムか?

私もショップに立ちユーザー達と会話を交わすが、昨今オーダーされる方の悩みはもっぱら「リムブレーキにするかディスクブレーキにするか」という選択だ。世間のフラッグシップモデルはディスクブレーキ押し一択というイメージもあるが果たしてどうなのか?

我々はどちらもラインナップにあり、ライダーに合わせて製作するという性質上こちら側も大いに悩む。

結論から言ってしまえば「レース志向の方はリムブレーキ」「ホビー志向の方はディスク」といった意外なオーダー結果が見えてきた。えっ!?と思う方もいるかもしれないが、レース現場、ホビーとどちらも得意とする我々のショップでは一つの真実だ。

ケルビム・今野真一「自転車、真実の探求」第3回

Piuma Disc

Piuma Disc

 

簡単にそれぞれの利点を比べてみよう

「ディスクブレーキ利点」

・晴天時 雨天時と天候に左右されない

・タッチが軽く長い下り坂等ストレスが少ない。

・タッチの調整不可

・制動距離が短い(よく効く)

・リムが減らない

 

「ディスクブレーキ欠点」

・調整がシビア (輪行等には不向き)

・メンテナンスが容易ではない(プロに任せた方が無難)

・セッティング出しに時間がかかる(エア抜き、当たり出しなど)

・今までの機材が使えない(新規格となるので)

・重い

 

「リムブレーキ利点」

・調整が容易(輪行などでも安心)

・今までの機材が使える

・タッチの調整が可能

・軽い

 

「リムブレーキ欠点」

・今後の供給が心配。

・リムが減る(汚れる)

・ディスクと比べればあまり効かない。

ケルビム・今野真一「自転車、真実の探求」第3回
ケルビム・今野真一「自転車、真実の探求」第3回

 

フレームとホイール等との相性を挙げればキリがないので、このあたりにしておこう。上記の理由をそれぞれの用途に当てはめてみると前出のような意外な結果が見えてくるのではないだろうか。

初心者や女性にロングライドを楽しむライダー達は、やはり軽いタッチでの制動距離は非常にアドバンテージは高く、天候で左右されないブレーキングは安全性にも一役かっている。メンテナンス性の悪さも、自転車整備はショップさん任せという方は初心者には多くあまり弊害とはならないかも知れないし、どちらかというとそちらの方が安心だ。

また、これから始める方や用途によって自転車を使い分けるライダーも多くは居ないので、今までの規格に引っ張られる理由も皆無だろう。

彼らの唯一の欠点は輪行や移動の際の故障やトラブルの対応が不向きとい事くらいであろうか。

我々も頻繁に輪行を楽しむ方には、ディスクを勧めていない状況がある。

 

・競技志向の方はどうだろう。

彼らはメンテナンスも自身で行うしセッティング出しを現地で行う事もある。会場でトラブルがあればトッププロでない限り、直ちに自分の責任で行わなければならない。また、所有している機材等の互換性も考えなければならない。

最も大事と思われるブレーキング性能についてはどうだろう。正直リムブレーキに不満を感じていたライダーはいなかったのではないだろうか。

彼らは長い下り坂や雨天晴天に限らず全てテクニックでカバーして走っているし、そのくらいのテクニックは競技をやる人間としては当然だ。

またそのテクニックを実現するにはブレーキングの繊細な微調整がマスト。レバーの位置ではなくレバーの「引きしろ」だ。これが発売当初、ほとんどのコンポが調整できなかった。これは明らかにプロライダーの意見を無視していたのではないだろうか。調整機構が装備される様になってきたのはここ数年のことだ。

もちろん、それでも多少のストレスから開放されるのも事実だ。

リムを使い続ける欠点といえば、周りがディスク化し機材の供給が減ったり仲間との機材の互換性が少なくなっていくくらいだろうか。やはりディスクに移行していく理由はあまりなかったのではないか。

トッププロなどの現場では、メンテはメカニックが担当するが、やはりディスクブレーキはメカニック泣かせとしか言いようがない。用意するホイールは莫大な本数になりホイールやディスクを変えてOKではなく、当たりを出すのは至難の技だ。

昨年の東京オリンピックでも、プロトンからディスクの音鳴りが聞こえてくる有様だったのを覚えている。

以前変速のインデックスにコンポーネントが移行する時の調査では、ほとんどの選手が必要性を感じていなかったという話を聞く。今では100%がインデックスシステムなので、まぁ必要ではないけど、時代がそうなれば従うしかないというのが本音なのかもしれない。

レース用ディスクブレーキが正式に発売されてから完全にツール等に採用される様になったのは実に7年近くかかり、今でも全てのプロチームが使用していない状況からも実情が垣間見れる。

 

プロスポーツの現状

現在では車の世界では量産車の方が技術が高かったり、F1のテクノロジーを量産車に導入するなんて事はもはや昔の話。

現在の量産車は18〜20インチの大径のホイールがもてはやされ、開発の中心となっている為に、F1では13インチをやめ、性能的にはイマイチな18インチを採用するという事態が起きている。

「一般ユーザーに売るためにプロが新モデルが使う」これはプロスポーツでは避けて通れない図式だろう。プロが使っているのだから!性能は間違いない!こんな思考回路は致し方ないだろうが、今はその構図は成立しない状況をこれからは理解しなければならない。

「先ずはプロ選手にディスク化を進めていく」これが今回は見事にうまくいかなかったと言わざるを得ないだろう。

また、欧州の自転車のISO規格等がより厳しくなった事も、今回の規格変更に拍車を掛けている事も事実。端的に言えば、リムブレーキ&23Cではクリアできず販売できないという事だ。

クリアする為には太いタイヤとディスクがマストになり、往来のロードレーサーで事故があれば製造メーカーの責任が問われるという事。安全面は別として、決してレースで勝つ為の機材という基準は一切ない。

しかし私は全く悪い傾向とは思わない。
むしろ、プロとアマチュアが同じ機材を求めるということ自体そもそもおかしな話だ。

やっと色眼鏡なく、その事が理解されプロもアマも良い自転車を選べる時代なのではないか。むしろ現在はプロが一番のリスクを背負っているようにさえ見える。一般に受け入れて欲しい機材をプロに無理やり使わせているという事。

ディスクも乗り心地の良い太タイヤも、ホビーサイクリストや初心者には大きなメリットをもたらす。そろそろプロにも機材を選べる選択肢を与えてあげて欲しいものだ。

 

ディスクもリムもどちらも用途を見極めれば最高の自転車となるだろう。それぞれのユーザーに向け、良い自転車を勧める。ディスクブレーキもリムブレーキもどちらも。開発していく姿勢が必要である。

心配しなくてもリムブレーキは決して無くならない。シマノ社もデュラエース、アルテグラとどちらもしっかりとリムブレーキをニューモデルとしてラインナップしている。

そう自転車史のカンブリア紀、多くの「種」がいることが生命一番のアドバンテージだ。ロードレーサーもレースに行けば色々な「種」がいる。それが今後自転車界を盛り上げて行く秘訣ではないだろうか?