フルサスとハードテールそれぞれのメリット・デメリットとは?【MTBはじめよう! Vol.7】

目次

フルサスとハードテール それぞれのメリット・デメリット

特別協力:スペシャライズド・ジャパン 撮影場所協力:フォレストバイク

マウンテンバイク(MTB)にはいろいろな種類があるが、大きなカテゴリーとしてフルサスペンションバイク(フルサス)とハードテールバイクの2つがある。フルサスが主流? ハードテールにも良さがある? MTB初心者が疑問に思いやすい、それぞれのメリット・デメリットについてまとめてみた。

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フルサスとハードテールの違いとは?

トレイル系MTBの基本を学べる「MTBはじめよう!」も今回で7回目。以前の「MTBの種類解説&はじめての一台選び編」の記事では、最初の一台としてハードテールバイクをおすすめした。しかし一方でフルサスペンションバイクもあり、こっちに乗っている人が多いように思える。そもそもこの2つ、どう違うのか?

シリーズ通してのアドバイザー、板垣奏男さんに聞いてみよう。

 

板垣奏男さん

板垣奏男(いたがき かなお)さん。東京サイクルデザイン専門学校を卒業後に本場カナダへ渡り、高度なライディングスキルからトレイルビルディングに至るまでを習得。現在はプロライダー/インストラクターとして活躍している。Instagram:kanao_i_into_the_ride  YouTube:kanao itagaki

 

「まず、超基本的なことから説明すると、バイクの後ろ側にサスペンションがついているかどうか、つまりリヤサスペンションがついているかどうかの違いです。

フルサスペンションバイクは、前側(フロントフォーク)と後ろ側のどちらにもサスペンションが搭載されています。これによって、前側のサスペンションだけでなく、後ろ側のサスペンションも走行状況に合わせて稼働してくれます。

なお、フルサスのバイクは単にリヤサスペンションを搭載しているというわけではなく、フロント側のサスペンションとリヤサスペンションが相乗効果を出せるように、自転車全体として総合的に設計されています」。

フルサスペンションバイクのリヤサスペンションの一例

フルサスペンションバイクのリヤサスペンションの一例

 

「ハードテール(直訳すると“硬いしっぽ”)は、その名のとおり前側のサスペンションしかついていません」。

ハードテールバイクのリヤ側の様子の一例

ハードテールバイクのリヤ側の様子の一例

 

最初の一台としてハードテールはおすすめということは既に学んだしその理由も分かったが、やっぱり買えるのならフルサスペンションを買ってしまった方がいいのだろうか?

「私自身、予算が許すのならばフルサスをおすすめはしています。しかし、だからといってハードテールがだめだということではなく、ハードテールにもハードテールなりの良さがあります。一方、フルサスにもデメリットとなる点もあります。

つまり、それぞれにメリット・デメリットがあり、どちらの方が良い・悪いということではないんです」。

詳しく教えてもらおう。

フルサスのメリット・デメリット

フルサスペンションバイクの一例

フルサスペンションバイクの一例。写真はスペシャライズドの「スタンプジャンパー」(※写真は2021年モデル。2022年モデルのフルカーボンモデルは58万8500円〜。アルミモデルは32万4500円〜)。トレイル系のフルサスバイクで、1981年に世界初の量産型MTBとして発売されてから連綿と受け継がれる歴史あるモデルだ。フロント140mm/リヤ130mmトラベルのフルカーボンバイクで、非常に軽量で上りも楽で、かつ下りも安心して走れる

 

リヤサスペンションがトラクションをコントロールしてくれる

「フルサスペンションバイクは、リヤサスペンションがあることによってトラクションをかけやすくなります。バイク側がトラクションをかける仕事をしてくれる、あるいはアシストをしてくれると言うべきでしょう。

分かりやすく言うと、岩や石で荒れた路面や、木の根や大きなギャップがある路面での衝撃を吸収してくれて、楽に・安定して下ることができる、といったメリットがあります。

実は下りだけではなくて、難しい上り坂の場合は、フルサスの方が安定して上れるというメリットもあります。急勾配だったり岩や木の根があるようなハードな上り坂の場合もリヤサスがうまくトラクションをかけてくれるので、車輪がスリップしてしまうことなく、“ただこいでいるだけで”安定して上れるのです。

上りでも下りでも、どちらでも走りに余裕ができる。これが最大のメリットですね」。

ハードテールに比較して重くなる傾向

「リヤサスペンションがあり、それに付随するリンケージ部分などが搭載されているので、もし同等のグレードでフレーム素材が同じ、かつホイールもタイヤも同じであれば、どうしてもハードテールに比較して重量が重くなる傾向にあります。これがデメリットの一つと言えるでしょう。

リヤサスがあって重量が増えている分、取り回しにはフルサスなりのコツが必要となります。例えば山の中でバイクを押し歩きしたり、担ぎ歩きするような場面ではつらくなります」。

価格が高い

「これが一番大きなデメリットというか、所有するに当たっての壁になると言えるでしょう。リヤサスペンションが搭載され、バイク全体として構造が複雑になっている分、価格はハードテールに比べて高くなります」。

確かに、ブランドやグレードにもよるが、ハードテールのバイクに比較してフルサスのバイクは5〜10万円ほど高い価格になっているようだ。

メンテナンスがハードテールより大変

「もう一つのデメリットは、リヤサスペンションが搭載されて複雑な構造となり、パーツ点数も多くなる分メンテナンスがより大変になるということです。ショップで調整やメンテナンスしてもらうべき頻度や項目が増えるので、その分費用もお店に持っていく労力も上がってしまいます」。

ハードテールのメリット・デメリット

ハードテールバイクの一例

ハードテールバイクの一例。写真はスペシャライズドの「フューズ」(※写真は2020年モデル。2022年モデルは28万500円〜)。フロント130mmトラベルで29インチホイールを搭載したハードテールのトレイルバイク。ドロップアウトの調整が可能でライダーのスタイルに合わせて乗り味を変えられ、難しい下りもこなせる一台に仕上がっている。初めてのMTBにもおすすめのモデルだ。ちなみに、筆者もこれに乗っている

 

フルサスに比較して軽い

「リヤサスペンションがない分構造がシンプルになり、同じフレーム素材のフルサスに比べて軽くなる傾向があります。これは一つのメリットです。(路面のきれいな)上り坂では強みになることはもちろん、下り坂で自転車を操るうえでも強みともなることもあります」。

ダイレクトな走りができ、舗装路やきれいな路面に強い

「リヤ側が稼働しないということは、それがメリットになることもあります。ダイレクトな走りができる、と言えるでしょうか。例えば舗装路や比較的きれいな未舗装路なら上りが楽になります。トレイルまでアスファルトの路面を自走していくような人なら、大きなメリットとなります。平地も当然フルサスより楽でしょう。

また、最近主流となっている“フロートレイル”と呼ばれる、MTBパーク等で走りやすいようにきれいに成型されたトレイルなら、路面をダイレクトに感じ、より楽しい走りができるというメリットもあります」。

フルサスに比較して価格が安い

「リヤサスペンションがない分、フルサスのバイクに比較して安いです。以前の記事でも説明したように、最初の一台として手に入れやすいですし、安い分あとからパーツをアップグレードしたり、交換して楽しむといったことがしやすいのは大きなメリットです」。

厳しい路面ではテクニックが必要になり、セッティングもよりシビア

「リヤサスがないことがメリットになる反面、その裏返し的なデメリットも当然あります。

例えば岩やガレ場、激しい木の根やギャップがある厳しい路面では、それを自分で処理しないといけなくなるので、フルサスよりもテクニックが求められます。

また、タイヤの空気圧とサスペンションの空気圧の管理はよりシビアになります。ここをしっかりと調整しないと、難しい路面への対応もやりにくくなります」。

テクニックが必要ということは楽しいということでもある

「再びメリットの話に戻りますが、フルサスよりもテクニックが求められるということは、それが逆に楽しさにもなるのです。“操作感を楽しむ”と言えるでしょうか。

リヤサスがない分、自分でやらないといけないことが多くなるのが逆に楽しいのです。車に例えると、マニュアル車に乗っているような感じです。ハードテールを愛してやまない人々は一定層います。また、フルサスに乗っていたけど、やはりハードテールに戻ってきた、というツウな人も割といます。ハードテールには奥深い楽しさがあるんですよ」。

でもやっぱりフルサスの方がいい!?

ここまで、フルサスもハードテールも公平な観点でメリット・デメリットを解説してもらった。がしかし、話を蒸し返してしまうが、予算が取れる/きちんとお店にメンテナンスに持っていける人であれば、やっぱりフルサスを選んだ方がいいのだろうか!?

「そうですね……。確かにそうです。最初に説明したようにどっちが良い・悪いということではないのですが、やはりフルサスの方がいろいろなレベルのライダーと一緒に遊べたり、さまざまなコースを安心して楽しむことができる、ということは言えるでしょう。

フルサスに乗っていれば、“速いハードテールの人”と同等に遊べる可能性がありますし、もちろんフルサスに乗っている人とも同等に遊べる可能性が高くなります。ハードテールでは走破不能というわけではないんですが、フルサスの方が“幅を広げやすい”ということが言えるでしょう」。